雇用ではなくICT強化で成果上げる日本ハンガーボード(新潟県)
2022年09月14日 06:00
この記事に書いてあること
制作協力
産経ニュース エディトリアルチーム
産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。
輸入物干し竿販売の日本ハンガボード株式会社(新潟県)は1972年創業、今年で51年目を迎える。当初の商材は「ハンガーボード」という穴あきボードで、台所の壁に貼り、穴にフックをかけて玉杓子などのキッチン小物を吊り下げる建材だったが、システムキッチンを備えた建売住宅の普及などで廃れたため、物干し竿などをホームセンターに卸す「問屋」としてB to Bビジネスを営んできた。
親世代の足で稼ぐ営業手法に違和感
藤塚重光代表取締役(50歳)は2代目。高校卒業後、東京都内の大学へ進学。会社員として働き「継ぐつもりは1000%なかった」が、2007年にUターンした。ピーク時には3億円あった父の会社の年商が約4000万円に落ち込み、一人息子の同氏は「母親に泣きつかれた」という。35歳だった。
入社後は専務の名刺を作ってもらい、父に付いて取引先を回った。幼少時から父母が働いているのを見てきたし、父が運転するトラックの助手席に乗り配達を手伝ったりしていたので、どのような取引先があって、どういうことをやっているのかは把握していたが、営業手法に抵抗があった。「親父の世代は、営業は足を使って顔を出してというやり方だが、動けば車のガソリン代など経費がかかる。かけたお金に見合う見返りを持って帰らなければ動く意味がない」と感じた。お金をかけずにお金を生むことを考えようと思った。
自社の沿革を語る藤塚社長
ネットショップを独力で開設
当時はインターネットが定着し、商談相手に会わなくても電話やFAXなどで交渉ができる環境が整いつつあった。まず値段を提示し、お金を払ってくれれば商品を提供する、というやり方もできる。「これだ」と思った。パソコンの使い方を独力で覚え、インターネットで検索しながらWebサイトの作り方を会得していった。昼間は出社して父の補佐をし、夜中に画像アップなどの作業を行い、ネットショップを構築した。
商材はステンレス製の物干し竿で、伸縮タイプが1本500~600円。長い1本棒は約2000円。台付きのセットは3000円~5000円だ。まずECサイト大手のAmazonに登録し、Yahoo!ショッピングにも出店、さらには楽天にも加盟した。ネットショップはエンドユーザーに直接売れるB to Cビジネスで、人を雇わなくても24時間開店している。「清潔好きの日本人は誰もが必ず洗濯をする。しかも太陽の下で干した洗濯物が好き」と藤塚社長。その洗濯の必需品だが長くて重い物干し竿が、量販店に行かなくても自宅に届くネット販売は好調で、5年後の2012年ごろには、ホームセンターなどの量販店向けに加え、エンドユーザー向けのネット直販を新たな収益の柱として構築することができた。
大阪のメーカーを買収し、取引先を拡大
2018年にはつきあいのあった大阪の会社を買い取った。物干し竿を両端で固定する土台(ベース)を、プラスチックの枠にセメントを入れて作る工場だ。「当社はそこからベースを買い、先方は当社から物干し竿を買ってお客さんに提供していた。ところが跡継ぎがいなくて続けるかどうか悩んでいるという。商売として成り立っているし、もったいないと思って」と藤塚社長。
売上の約7割は物干し竿だが、残り3割は土台(ベース)だ。買収で竿と土台の両方を自社で手当てする体制ができた。藤塚社長は「全国規模でみても、両方を手当てしているのは当社だけ」と胸を張る。買収先の会社が持っていた西日本エリアの量販店も引き継ぐことができた。買収効果は十分だ。
藤塚社長はパソコン2台を駆使する
クラウドストレージで情報共有、Amazon対応の土日営業もスムーズに進んだ
事業が軌道に乗るにつれて、忙しさがやってきた。「何か手を借りないとパンクしそうな感じだった」と藤塚社長。2018年12月、新たに人を雇うかどうか考えていた時に、写真や動画など様々なデータをクラウド上に保存できるクラウドストレージを紹介された。これを導入すれば従業員同士で情報が共有できるという。
同社はネットショップ運営のため土日も営業している。土日を休むと発送は月曜日だから、前週金曜日に注文した商品は関東圏だと到着は火曜日になる。土日も営業すれば金曜日発注商品は日曜日に届く。「Amazonプライム」なら、当日の午後3時までに注文すれば当日出荷で関東圏なら翌日の午後一番に届く。これに対応するため従業員は交代で出勤するが、出勤中の人と休みの人との間で、在庫や見積もりなどの価格情報の共有や伝達がうまくいっていなかった。「クラウドストレージ導入のおかげで、在庫管理とか、いま何がある、何が減ってるかが見えるようになり、見える化できた。必要なものは事前に手当てできるので当日になってドタバタしなくてもすむので休みやすくなった。土日営業でもスムーズに進んでいる」(藤塚社長)。
クラウドストレージの導入で従業員の意識が変わり、主体的に行動し始めたのが一番うれしい
「北海道から沖縄まで顧客がいるので、僕も本社にいるのは少ない。年末年始は、うちの商材がほしいという取引先を全部回ってきたんで会社にはいないんです。出かけている間は、状況がわからない。ところがクラウドのおかげで、タイムリーに変わる在庫情報、FAXで来た見積情報を外出先から見れるので、気軽に出張に行けるし、外からも指示ができる」(藤塚社長)。
「何よりもうれしいのは、僕がいないもんだから、従業員は自分たちでちゃんと考えて、自分たちが楽をするための仕組みじゃなく、会社を上手く回して、利益を出すためにどうすればよいかを考えて行動するようになった。それが一番うれしい」((藤塚社長)。
複合機の前で書類を確認する
各地の拠点でも買収後の会社も情報一元化し、セキュリティも強化
物干し竿は国内で作るより圧倒的に安いため、中国から輸入している。毎月コンテナ船で大量に届く商材を、札幌と福岡の倉庫に委託して備蓄し、本社で注文を管理して指示を出し、倉庫から出荷してもらう。藤塚社長は「昔だったらまず紙に書いて、それをFAXで送るような作業です。ただ、人が書くと必ず間違いがある。データで取り込んでそのまま送れば、ミスもないし、時間もかからない」と話す。
売上管理も、各地の拠点がネットで繋がっているから、どこで請求書を起こしても最終的に本社でチェックして処理ができる。買収した大阪の会社も、買収後は会計システムを一元化して作業を効率化できた。2021年にはセキュリティシステムも強化した。「取引先にきちんとしたセキュリティを構築しているから安心してくださいとセールストークができるのは何より」という。
ネット注文の商材を梱包する同社従業員
人を雇うより安く、すぐに成果が得られるICT
ICTを積極的に導入して成果を上げている藤塚社長は、「ICT関連のハードやシステムの購入費は60万から70万円。トータルでは100万円以上かかった。人を雇うより安い」と断言する。
同社の従業員は正社員3人とパート従業員で計12人。新たに人を雇ったら年間いくら必要になるだろう。藤塚社長は「人を雇うのは簡単だが、辞めてもらうのは難しい。だから人を選ぶのは慎重な作業になる。無垢な人を入れて育てるのか、ある程度経験のある人を入れるのか。経験がある人はプライドもあるから自分の会社の色に染めるのは難しい」とみる。「うちのようなレベルの企業では新しい人を育てて一人前にすることにお金はかけられない。だったらICT化にお金をかけた方がすぐに成果が出る。使い方は支援会社に教えてもらえばいいのだから」と明快だ。
ずらりと並んだ商材を前に安定供給を誓う
物干し竿の安定供給めざし、日々改革を続ける
同社はいま、北海道から沖縄まで中堅ホームセンターのほとんどに商材を提供している。従来は新潟の本社にストックしておいた商材がさばけたら、次のコンテナ船で新たに商材を輸入する自転車操業だったが、取引先が増え、それに伴い輸入量も増え、港の近くに備蓄倉庫を契約して全国に出荷する仕組みが2022年までにできた。
藤塚社長は「我が社には、物干し竿を全国の取引先、最終的にはエンドユーザーさんにお届けする責任がある。安定供給のために商材の調達先を中国一本槍ではなく、ベトナムにも開拓してセーフティネットを作っておきたい」と話す。
2022年7月期の売り上げは前年比130%を上回る。藤塚社長は最後に、「これまでのICT投資の成果が出始めた。本当の勝負は今期から。わくわくします」と笑顔をみせた。
事業概要
会社名
日本ハンガーボード株式会社
住所
新潟県新潟市東区船江町1-27-43
電話
025-273-3080
設立
1972年4月
従業員数
12人
事業内容
洗濯用品の企画製造・輸入販売
記事タイトルとURLをコピーしました!