ドローンで屋根の点検・修理を効率化 新規ビジネスの可能性も開いた タニグチ(愛媛県)
2022年09月15日 06:00
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積極的にICTの活用に取り組む愛媛県今治市の総合建築会社、株式会社タニグチが、無線で遠隔操作できる無人機、ドローンの活用に乗り出している。屋根の点検作業からスタートし、ノウハウを積み重ねて新しい事業につなげることを目指している。
鉄工所から出発し、総合建築会社に
造船業やタオル生産が盛んな愛媛県今治市で鉄工所として創業したタニグチは、70年近い歴史の中で、住宅・店舗などを幅広く手掛ける総合建築会社として成長してきた。鉄骨で躯体を構成し、内装に自然素材を使う「タニグチ式」の家づくりを掲げ、デザイン性、機能性、耐久性を兼ね備えた住宅は高い評価を得ている。施工事例を掲載しているホームページを見た県外の設計事務所から施工のオファーが寄せられることも多いという。
「心、技、和の3つを経営理念にしています。お客様の視点に立った優れたデザインを生み出すには独創性とバランス感覚、こだわりが大切です。社員には、いい仕事をするために、ワークライフバランスを重視して、幅広い視野を持って仕事に取り組んでほしいと思っています」。タニグチの経営方針を谷口賢直(まさなお)専務は、そのように語った。
タニグチの谷口賢直専務
チームタニグチとして設計から施工まで取り組む
正社員の年齢構成は30代から40代が中心。工務、鉄工、大工、鉄筋、左官、土木などの各部署を設け、一級建築士、一級建築施工管理技士、一級土木施工管理技士、一級造園施工管理技士など資格を取得している社員も多い。「設計から施工まで、電気設備などの協力会社を含めてチームタニグチとして取り組むことを大事にしています。お客様に満足していただける仕事をした上で、その後も末永くおつきあいいただくことが何より大切と考えています」
3D-CADやVRを積極的に活用
タニグチは10年以上前から、設計に3D-CADを使用している。谷口専務は父親が社長を務めるタニグチに入社する以前、設計事務所で3D-CADを扱っていた。2D-CADと比較して建築物の構造を把握しやすくデジタル環境での試作も容易にできるといった様々な優位性を理解していたこともあり、タニグチに入社後、一気に導入を進めたという。「3D-CADによって、持ち前の設計力を更に高めることができただけでなく、お客様の視点から見て3Dモデルは2Dの図面よりも格段にわかりやすいので、提案力の強化にもつながりました」(谷口専務)
3D-CADを使用して設計する様子
また、3Dの設計データを活用して、実際に建てる前の住宅の内装を原寸大のバーチャル空間で体験できるお客様向けのサービスを3年前から開始している。本社内に設けているプロジェクターやパソコンを備えた専用の部屋で、お客様はヘッドマウントディスプレイをつけて操作することで、バーチャル空間の家の中を自由に歩き回り、奥行きや広がり、段差などを確認することができる。
「VR(バーチャルリアリティ)は、これから建てる家をモデルルームのように見学できるので、お客様に非常に好評です。季節や時間ごとの日光の入り方や外側からの視点も確認できるので、実際に建てる前に細かく要望を聞いて設計の修正を行い、お客様が心から満足する家づくりを実現することができます。契約いただく前のプロモーションにも使用することができます」
先を見据えてドローンに注目
新しい技術を積極的に取り入れる中で、事業の新しい可能性を開く技術として目下注目しているのが、ドローンだ。「ドローンの技術に詳しい知り合いを通じて、以前から関心を持っていました。情報を集めて研究し、機が熟してきたので、お客様の役に立てながら活用のノウハウを蓄積しようと第一歩を踏み出すことにしました」と谷口専務。
屋根の点検に特化したドローンを昨年導入
ドローンが屋根の点検のため飛行する様子
ドローンを準備する様子
最初の取り組みとして、年間30件程度の依頼がある屋根の点検業務に導入することを決め、昨年9月に高解像度カメラを搭載したドローンの機体と操縦用のタブレット端末、屋根点検用のアプリ、使用サポートがセットになったサービスを導入した。
使用するドローンは使いやすさを重視して設計されており、タブレット端末のタッチパネルに映ったドローンからの映像を見ながら、移動したい場所をタッチするだけで移動させることができる。タブレット端末以外にドローン用コントローラーを使って操縦することもできる。
ドローンを操作するタブレット端末
アプリが修理面積を自動計算 点検してから即日で見積が完了
ドローンと連動したアプリには屋根の点検に特化した様々な機能が備わっている。その中の一つが、お客様への報告書の作成機能。撮影した写真の貼付、コメント記入のほか、映像を基に修理箇所が必要な屋根の面積計算や修理費の見積計算を簡単に行うことができる。
「以前は屋根の点検を行う際、実際に屋根に登り点検を終えてから見積を出すまで2日から3日はかかっていましたが、ドローンを使うようになってから早ければ即日で出すことが可能になりました。はしごで屋根に登って点検する際は、点検の担当者に加え、安全のため、はしごをしっかり固定する担当者がもう一人必要ですが、ドローンを使うことによって一人で点検できるようになりました」と谷口専務はその効果を説明した。屋根の点検にかかる手間は以前の4分の1程度になったという。
1ヶ月に1回、メーカー主催のセミナーで情報を収集
1ヶ月に1回、ドローンのメーカーが利用者を対象にしたセミナーを開催し、具体的な活用方法を指導してもらえるなどサポート体制が充実していることにも満足している。
現在、タニグチでは谷口専務を含めて4人がドローンパイロットとして活躍している。ドローンは分解、組み立てがしやすく、専用のケースに入れて簡単に持ち運びできる。「屋根の点検の依頼を受けた時以外でもお客様を訪問する時は、いつでも使えるようにドローンを持参するようにしています。お客様へのサービス向上につながっただけでなく、手間がかからないので、社員に負担をかけないのもありがたいですね」。
分解したドローンのパーツ
新築住宅の写真を上空から撮影するサービスも
導入したドローンは百数十メートルの高さまで飛行することが可能。ドローンで撮影した新築住宅の完成写真をカレンダーにしてお客様にプレゼントするといった試みも始めている。「古い家屋で図面がなくなっている場合に、ドローンを使って計測して新たに図面を作成するといったサービスにも活用できます」と谷口専務。今のところ、ドローンは月あたり10回程度使っているが、使用頻度はますます増えそうだという。「ドローンには大きな可能性を感じています。ドローンを活用した様々な新規ビジネスを検討していくつもりです」と谷口専務は力強く語った。
仲間と共に地域貢献にも力を入れる
谷口専務は、今治市で福祉やサービス、飲食など様々な分野で活躍している同年代の仲間と共に、地域のために活動するNPOを結成している。「コロナ禍が落ち着いてきたら活動を拡大していくつもりです。ドローンを使えば災害が発生した時に、空から被害の状況を確認することも可能です。ドローンを活用してどのような地域貢献ができるかも考えていきたい」と幅広くドローンを活用していく意欲を示した。
工程の自動化を通じて内製化を推進

タニグチのオフィスの様子
ドローン導入以外の今後の取り組みとして、現在、外部に委託している木材プレカットなどの工程を自動化した上で内製化したいと考えている。「労働人口の減少に備えて技術を活用した自動化は避けて通れないと思っています。業務効率化や情報発信などICTを活用できる余地は他にもありますので、引き続き導入を進めていきたい」と谷口専務は抱負を述べた。
タニグチの本社の外観
ドローンをはじめ、ICTなど新しい技術の導入に前向きなタニグチ。その姿勢が、会社の成長に不可欠なデザイン力やお客様のニーズを把握して対応する力の源泉になっていると強く感じた。
事業概要
会社名
株式会社タニグチ
本社
愛媛県今治市延喜甲303-8
電話
0898-22-4016
設立
1964年10月
従業員数
60人
事業内容
企画、設計、構造計算、耐震診断、耐震設計、耐震補強、公共建築工事、一般建築工事、増改築工事、鉄構造物製作・施工、土木工事・施工、解体工事、不動産業
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