文書のデジタル化、印刷関連技術を活かした緻密な対応 ダイサン(栃木県)
2022年09月20日 06:00
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デジタル技術を活用し、紙で保存している文書を電子化するデジタルアーカイブ(デジタルデータの書庫)。総合印刷メーカーの株式会社ダイサン(栃木県さくら市)は、デジタルアーカイブを効率よく実施できる環境を構築し、スキャンからデータの編集・保管まで、他社にまねができない緻密なサービスを展開する。紙の印刷物への需要が減少する中、デジタルアーカイブを商機とみて積極的な展開を図っている(TOP写真は最新のスキャナーマシンで文書をスキャンしているところ)。
印刷業のノウハウが活きる。高度なスキャニングとOCR、対応できない旧字体の新字体への修正も手作業で行う
デジタルアーカイブに取り組んだ経緯などについて説明するダイサンの齋藤慎一社長(右)と、事業の責任者を務めた総務経理部の荻原康友部長
ダイサンは2021年の年末、ある一般社団法人から広報紙のデジタルアーカイブ事業を受注した。1953年から毎月発行されている広報紙、約800冊分(旧かな遣いの冊子を含む。冊子スキャン約600冊、indesignデータ約200冊、平均100頁/冊)をデータベース化(PDF)。従来のオフィシャルサイトとは別に専用サーバーを構築し、ユーザー(約2200団体)に対してそれぞれIDを発行、ユーザーの利便性向上のため、パソコン及びスマートフォン等により、バックナンバー全巻を閲覧・検索できるシステムを構築した。冊子内での検索だけでなく、全巻縦覧検索を可能とし、旧字体を含めた全文検索にも対応。ダイサンでは、古い広報紙を1ページずつめくってスキャンし、PDFにしたものをOCR(光学的文字認識:コンピュータが利用できるデジタルの文字コードに変換する技術)を使用したが、印刷業として培ってきた文書のスキャン作業と校正作業が大いに役立った。
スキャン作業では、本来はプリントされた写真やポジフィルムなどをデータ化、画像分解を行っている部署の社員が活躍。広報紙を1ページずつめくってスキャンするのだが、約100ページの冊子で早くて約60分と手間のかかる作業を根気強く続けた。
読み込みデータの検索を円滑にするため、出版物で磨いてきた校正技術も活かされた。1950年代はまだ旧字体が使用されており、検索の際に「表記揺れ」を起こし、旧字体を認識できない可能性がある。そこで、名前などの固有名詞は旧字のままとし、そのほかは目視による手作業で新字体に修正した。しかも、OCRの認識技術では5%から10%の誤変換の可能性があり、1文字でも間違っていれば検索に悪影響を及ぼすため、制作部門の社員により慎重に作業が進められた。また、文書をスキャン、データ編集したものをサーバーに直接送信するまでの流れを自動化することで、他社にはできないスピードを実現した。複数のPDFをまたいで検索ができる高度な機能も備えた。
新規事業の一環としてデジタルアーカイブを強化
もともとダイサンでは、社員からの提案もあって新規事業の一環としてデジタルアーカイブを強化しようと考えていた。2021年7月に中小企業などの新事業や業態転換などを支援する国の事業再構築補助金にコンサルタントに頼らず自社で申請し、8月末に採択された。近年、地方自治体などが過去の広報紙をPDFに変換し、ホームページで公開するケースが増えており、当初は「何かできないかな」という程度だったという。今回の広報紙のデジタルアーカイブのように、文章中の単語を検索できる機能があるケースは珍しいという。ダイサンの齋藤慎一社長は「今回の仕事を受注するまでは、本当にビジネスになるのかなと半信半疑だった」と振り返る。
齋藤社長は東京都内の印刷専門学校、印刷会社で経験を積んだ後、1993年に父親が創業したダイサンに就職した。従来の印刷業に加え、パソコン上で印刷物のデータを制作するDTPデザイン、広告制作、ホームページ作成など、さまざまな事業を開拓してきた。依頼主の意図・目的を常に意識しながら仕事に取り組むことで、サービス領域を広げていった。DTP時代に入り、デザイナーの比率を社員の約半分まで増やした。こうした積極的な経営のかじ取りには、父親の「お客様の都合に合わせて印刷物を提供したい」という考えに共感しているからだという。
齋藤社長は「印刷にコンピューターが浸透してくる、というのが先代の親父の考えで、私が中学生になるかならないかの時にパソコンを買い与えられ、『よく覚えておけ』と言われた。結局、ゲームをするだけで終わりましたが……」と笑う。
制作(DTPデザイン、広告制作、ホームページ作成)部門が充実している
強みは紙や電子、動画をワンストップで受注すること
先代社長が予想した通り、デジタル化による印刷需要の減少、カーボンニュートラル、ESGへの対応などにより紙媒体の衰退が進んだ。さらに、新型コロナウイルス感染症の悪影響で事業環境が大きく変わってきた。ダイサンでも、新聞発行部数の減少で折り込み広告の受注が減少するなど厳しい状況にある。印刷業界全体が、従来の受注生産型のビジネスモデルから脱却し、デザイン制作や、EC支援などの付加価値の高いサービスを模索している。
ダイサンの強みは、紙、電子、動画、それぞれの特性を活かし、企画・制作から納品、配送まで販売促進に関わる様々な業務を一貫して受注するワンストップサービスだ。齋藤社長は「ダイサンに入社した時から、宣伝の一手段としての印刷業は限界が訪れるかもしれないと思っていた。ではどうするか、という答えが出ないうちにここまできた」と自らを戒める。そのうえで、「印刷物とは単に紙に印刷したものではなく、“情報伝達の手段”」と考える齋藤社長。「これからは広告、宣伝を統括できる会社になっていくべきじゃないかな」と将来を見通す。
梱包作業をロボットで自動化し、労働量の軽減や工場の効率化を実現している
地方自治体のデジタルアーカイブ機能も広がりをみせる
デジタルアーカイブをめぐっては、博物館、図書館、文書館などの収蔵資料だけでなく、地方自治体、企業などの文書、映像資料など、有形無形の文化・産業資源に広がりを見せている。国もデジタルアーカイブを推進しており、2020年8月には、国立国会図書館が運営する日本の分野横断型文献検索「サイトジャパンサーチ」が開設された。デジタルアーカイブによって、日々生み出されるさまざまなデータが共有され、誰でも簡単にアクセスができ、二次利用が整備されれば、誰もが新しいコンテンツを生み出せる社会になる。
ダイサンもこうした動きに注目している。今後は、地方自治体の過去の広報紙のアーカイブ化、検索機能を充実させたり、掛け軸などの文化財をデジタルカメラで撮影してデータベース化したりするなど技術に磨きをかける考えだ。
あああああああ
事業概要
会社名
株式会社ダイサン
所在地
栃木県さくら市押上755-1
電話
028-682-1311
創業
1974年9月1日
社員数
125人(グループ全体)
事業内容
印刷物の製造・加工、各種商業印刷物の制作、Webサイト制作、動画制作
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