スマートなICT活用が生み出す温かいサービス 社会福祉事業の新しいモデルをつくる 有限会社なでしこ垂水(香川県)
2022年09月26日 06:00
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香川県の有限会社なでしこ垂水が、商社出身の社長の下、ICTを活用して業務を効率化することで、利用者とのコミュニケーションの時間を増やしながら、世の中に求められる社会福祉事業を拡大している。
高齢者福祉と障害者福祉に取り組む
なでしこ垂水は、香川県丸亀市で、二つの住宅型有料老人ホーム「なでしこ垂水」と「なでしこまるがめ」の運営と障害者向けサービスの提供に取り組んでいる。
住宅型有料老人ホームは高齢者が生活しやすいように、食事、介護、家事、健康管理などのサービスを提供する施設。2020年1月に開所した11室を擁する「なでしこまるがめ」は、一室あたりの面積を15平方メートル以上と広めに設計し、看護師2人、ベテランの介護士3人を配属している。調理器具がそろった厨房を備え、調理の専門スタッフが手作りで食事を作っている。浴室には入浴介護リフターを備えるなど様々な設備を取り入れている。地域の医療機関と連携し、日頃の健康管理から緊急時の対応まで適切に行える体制や終末期ケアにも対応できる体制を整えている。
住宅型有料老人ホーム「なでしこまるがめ」の外観
浴室に設置された入浴介護リフター
自分が受けたい介護の提供を心掛ける
「なでしこ垂水は、利用者の立場になって考えることを理念として掲げています。スタッフには自分の親にしてあげたい介護、自分が受けたい介護を提供することを心掛けてもらっています。スタッフと利用者が、お互いを尊敬しあう仲間同士のような関係を築くことを大事にしています」。リビングで、高齢者が会話を楽しむ様子を見ながら青木博道社長は話した。
青木博道社長
62歳で商社マンから介護業界へ
2016年12月、青木博道社長は62歳で、なでしこ垂水の社長に就任した。前職は米国での勤務経験を持つ商社マン。なでしこ垂水の知人から「経営を担ってほしい」と依頼を受け、国際ビジネスの世界で培った経験と知識を、社会福祉の分野で役立てることに魅力を感じ、経験ゼロだった介護業界に飛び込んだという。
社長就任後、積極的に事業を拡大 売上高は14倍に
青木社長の就任以来、なでしこ垂水は、事業規模を拡大。地域の要望を受けて、高齢者向けだけでなく障害者向けの福祉サービスも担うようになった。現在、高齢者向けサービスとして住宅型有料老人ホーム、訪問介護、居宅介護の3事業、障害者向けサービスとして重度障害者等包括支援、重度訪問介護、放課後等デイサービス、短期入所、就労継続支援B型などの8事業を手掛け、売上高は6年で約14倍に拡大した。事業の拡大に伴ってスタッフの人数も6人から4倍に増えたが、売上高の伸びが大幅に上回っている。来年度には37室を擁する新しい住宅型有料老人ホームを開所する予定だ。「これまでのビジネス経験が活きました。外部の視点で社会福祉に取り組んでいるのが奏功しているように思います」と青木社長。
事業拡大を可能にしたのはICTだった
事業の拡大と利益率の向上に大きな効果を発揮しているのがICTだ。「ICTを活用して事務作業を効率化し、時間を生み出せば、事業を拡大しても一人ひとりが無理をすることなく十分対応していけるという自信がありました」と青木社長は話す。事業を拡大して売上高を伸ばし、外部委託していた事務作業や訪問介護などのサービスの内製化を進めることで利益率を高めた。サービスの内製化にあたっては、青木社長も含めた従業員全員がヘルパーの資格を取って対応した。
デジタルファーストで事務作業
事務作業はデジタルファーストで行っている。6年前に、介護ケアの記録から請求までの一連の作業を連動させた介護専用の業務支援システムを導入した。スタッフ全員にタブレット端末を支給して仕事をしてもらうことで、業務のデジタル化とペーパーレス化を徹底している。システム導入前、書類は手書きで作成した上でエクセルに入力していたため、毎月の介護報酬の請求業務に1週間程度かかっていたが、導入後は半日程度で終えることができるようになったという。
業務支援システムを使ってパソコンで事務仕事に取り組む様子
勤怠管理もICカードをカードリーダーにかざすだけで、出勤時間、退勤時間が自動的に記録されるシステムを導入し、勤務実績の集計や給与計算も簡単に済ませることができるようにしている。損益計算書や貸借対照表といった財務諸表などの作成を含めた事務作業は月当たり30時~40時間程度で完了できるという。
「なでしこ垂水では、事務の専任担当者を置いていません。事業の拡大に従って事務作業も増えているのですが、ICTのおかげで迅速な処理が可能になっています。社会福祉に携わる企業として、何より大事なのは、サービス利用者とのコミュニケーションと思っています。間接業務にかかる時間を減らすことで、より多くの時間を利用者のために使うことができます。お役に立つことで結果として事業が拡大し、会社が成長すれば、従業員への還元も行いやすくなります」
シート状の高感度ベッドセンサーで夜勤の負担を軽減
また、「なでしこまるがめ」では、プリンテッドエレクトロニクス技術を活用したシート状の高感度ベッドセンサーを2021年の年末に3台導入した。ベッドセンサーは薄くて軽く、布団などの下に敷くだけで、寝ている人の心拍や呼吸、睡眠の状況を計測できる機能を備えている。センサーからの情報はWi-Fiを通じてクラウドに送られるので、スタッフはセンサーを使っている高齢者の状態をパソコンやスマートフォンで常時確認することができる。異常があった際には警報が鳴るよう設定もできるので、状況に応じて適切なケアをすることができる。
シート状ベッドセンサー
「夜間に勤務するスタッフの負担が大きく減りました。センサーのおかげで夜間の高齢者の体調を常にデータで確認できるので、四六時中心配をしなくて済んでいます。睡眠の状態もわかるので、熟睡している時に見回りをして起こしてしまうこともありません。逆に夜中にベッドから離れたこともわかるので、そういった時は何かあったのではないかと判断してすぐに駆け付けることができます」と青木社長はその効果を説明した。
ブログの更新にも積極的
ブログの更新にも積極的に取り組んでいる。利用者の家族にどのような生活を送っているのかを知ってもらうとともに、利用者たちの日々の様子を記録としてしっかり残していきたいとの思いがあるという。
ICTで障害者の活躍の場を拡大したい
香川県と連携して、障害者の就労の場づくりにも力を注いでいる。「介護業界の労働人口は減少する一方です。将来的には運営している老人ホームで、食事を運ぶなど施設内の様々な仕事をこなす介護助手としての仕事を障害者に任せたいと思っています。運営する農園での農作業に従事してもらうことも考えています」と青木社長。
住宅型有料老人ホーム「なでしこ垂水」の外観
「ICTを活用すれば、障害者が活躍するフィールドを増やすことが可能です。高齢者向け施設と障害者向け施設の連携を強化して一つのネットワークとして運営し、互いに支え合ってみんなが楽しんで毎日を過ごしていけるようにしたいですね。これからのICTの進化が楽しみです」と青木社長は柔らかな笑みを浮かべた。その視線の先には、ICTを活用することで、多くの人が幸せになる社会の姿が浮かんでいるように思えた。
事業概要
会社名
有限会社なでしこ垂水
本社
香川県丸亀市新田町233番地5
電話
0877-24-0176
設立
1964年10月
従業員数
24人
事業内容
高齢者向けサービス(住宅型有料老人ホーム、訪問介護、居宅介護)、障害者向けサービス(同行援護、行動援護、重度障害者等包括支援、重度訪問介護、児童発達支援、放課後等デイサービス、短期入所、就労継続支援B型)
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