タブレット活用で切削工具再研磨の作業スピードアップ、ツールセンター株式会社(群馬県)
2022年09月27日 06:00
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ツールセンター株式会社は、工作機械のドリルの刃先を研ぎ直す切削工具再研磨を中心に展開している会社だ。1987年に現会長の若林篤氏が創業。2014年5月に長男の若林哲也氏(46歳:上記写真)が代表取締役を引き継いだ。
たったひとりの営業マン、のべ1000社を歩く
東京都内で金融関係の営業マンだった若林社長が父の会社に入社したのは2000年。当時の従業員は研ぎ職7人で、営業担当がいなかった。平社員の営業担当として、とにかく新規の仕事を取ってくる仕事に専心した。アポイントの電話をかけては断られ、飛び込み訪問をしては門前払いされた。気が付けば社長になるまでの14年間で、「群馬県、栃木県の中堅企業は開拓し尽くした」という。歩いた企業はのべ約1000社。取引口座を開いた会社は町工場から上場企業まで約500社にのぼる。
親子で同じ道を歩むと反目し合うことも少なくないが、父は職人、息子は営業と異なる職種だったため、喧嘩することもなくスムーズに事業承継ができた。「営業で新規開拓の実績を出していたことも評価されたのでは」と自負している。
タブレットで図面を確認する。片手で持ち運びできる軽さだ
図面を電子化、タブレットで確認し、生産性向上
同社がICT化に着手したのは、社長就任前の2010年頃だ。口下手な職人がほとんどの社内では、若林営業担当が同社を訪問するシステム支援会社の窓口のような役割を担った。
当時は「紙の図面がとにかくすごい数だった」ため、スキャンしてサーバーに登録できる複合機を導入した。顧客数は300社くらいで発注図面が全て異なっていた。図面をスキャンしてパソコンに取り込み、発注先や日付別に系統立ててファイリングしたいと思った。ところが、パート従業員に空いている時間に取り込み作業をしてもらったものの、システム自体が古い上に手作業のため、時間がかかり過ぎた。若林社長は「3年かけても終わらず、全然使いこなせなかった」と苦笑する。
2015年頃、古いシステムを一新した。「データを取り込むスピードが上がり、ようやくパソコン上でファイリングした図面をきちんと見ることができるようになった。社内の紙が本当に電子化できたのはこの頃ですね」と振り返る。
2022年5月にはタブレットを15台導入しサーバーと連動させ、従業員が工場でタブレットに映し出された図面を見ながら作業できるようになった。若林社長は「同業他社でタブレットの図面を見ながら仕事をしているのは、たぶんうちだけ。図面を探す手間が省け、作業効率や生産性が上がる。ものすごい武器です」。
図面の電子化を始め、電話機、ホームページ等システム導入で社内ICTが進んだ
2010年以来、同社のICT化は同じシステム支援会社に一任している。「最初は複合機だけでしたが、当社の状況に精通しているので、電話の切り替えや電力契約、ホームページ作成システムの導入など、アドバイスのあった通りにやっている」と話す。「サーバーってどういうものかなど、こちらの素朴な疑問に親身になって答えてくれるし、業務効率化の相談にも乗ってくれる。機器に不具合が生じたときも安心」と満足そうだ。
再研磨された同社の製品群
心がけているのは、若い世代の感覚を無視しないこと
若林社長が常に心がけているのは、自分より若い社員の感覚だ。年上の従業員は新しいICT機器を導入しても「ああ、そういう時代がきたのか」と淡々としているが、20代の社員は事務所の壁に作業の進捗状況を映すディスプレイを付けただけで「うちの会社イケてますよね」と正直に口に出す。物心ついたときから携帯端末があった世代にとって、ディスプレイが設置されている会社がスタンダードで、設置されていない会社は「イケてない」のだ。「若い従業員ほど見た目のちょっとした変化に敏感。若い世代に支持される会社はこれから強くなると思う。無視することなく取り入れるようにしています」と話す。
社長になってからは意識的に若い人を雇用している。35人の同社従業員のうち、パートを除いた社員の平均年齢は35歳だ。なぜかというと、取引先で同社を担当する人の年齢が平均35歳だからだ。「調べてみたらだいたい35歳で、45歳くらいまでに別の担当に変わっていく。商談相手が35歳なら、うちも年齢を意識しないと。年齢が近い方が顧客の感覚に合わせられる」とみている。
将来ビジョンを語る若林社長
最終目標はドリル再研磨で日本一、ICTが不可欠
社長になったとき、「業界日本一を目指す」というスローガンを掲げた。以来、今日までずっと言い続けている。
同社と同じ切削工具を営むのは全国に約5000社。残念ながら売上高順でみるとまだ低い。他社はドリルそのものをつくる切削工具の製造にシフトしているが、同社はドリルの刃先を研ぐ再研磨を中心にしているからだ。例えばドリル1本をつくれば約1万円の売上になるところを、研ぎの仕事は1本約1000円の売上にしかならない。「うちは切削工具の製造もできる技術も持っていて、実際製造もしている。だが、ドリル製造の比率を増やして売上高を増やしてもうれしくない」と若林社長。「1本1000円のドリル研ぎ直しの仕事だけで日本一になりたい。めちゃくちゃニッチな、ドリルの研ぎ直しだけで日本一というのは、同業5000社のなかで唯一にして無二。そこを目指している」と力を込める。そのためにはICTで作業効率を上げ、研ぎの売上高を増やしていかねばならない。
ミドルマンの育成が重要
この「若林イズム」をどうやって社内に浸透させるのか。課題はトップの意図を代弁する中間世代の育成だ。「僕の真意を理解して下に伝えてくれるミドルマンが欲しい。たぶん社長が言っているのはこういうことだよ、と本質が伝わればいい」と考えている。本人たちには言っていないが、ミドルマン候補はいま、社内に数人いるそうだ。
2022年9月には本社に隣接する土地に新工場が着工する。「これから10年で、機械設備も従業員も売上高も、現状の3倍を目指す」のが当面の目標だ。当然、ICTも同社の3倍ビジョンに含まれている。若林社長は「作業者がタブレットで図面を見て加工したり、作業履歴をとるという、いまうちが活用しているICT技術は10年前には想像もできなかった。10年後はもっと進歩した新しい技術が出ているはず。いいな、と思ったら躊躇なく取り入れて社業に役立てていきたいですね」と締めくくった。
事業概要
会社名
ツールセンター株式会社
住所
群馬県太田市下浜田町36-35
電話
0276-30-2411
創業
1987年4月
従業員数
35人
事業内容
切削工具再研磨・再コーティング、切削工具製造・販売、市販品切削工具への追加工
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