流通業(小売)

クラウド型新会計システムで収支、資金繰りの見える化実現、業績向上へ 煥乎堂(群馬県)

From: 中小企業応援サイト

2022年10月03日 06:00

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明治初期創業の老舗書店の危機に登板

株式会社煥乎堂(かんこどう)は群馬県前橋市で100年以上続く書店だ。明治初期に高崎藩士だった高橋家が創業し、社名は孔子の「煥乎として其れ文章あり」(光明なる文化がある)という論語の一節から取った。その言葉通り地域の文化の中心になろうと、書籍販売のほか出版事業を行い、地元の学校に楽器や教材、体育用品を納めるなど外商にも力を入れてきた。

1921年2月に会社組織にして、創業家が代々社長を務めてきたが、現代表取締役は小林卓郎氏(63歳)だ。祖父も父も創業家出身の社長を支える番頭役を担っていた。玉川大学農学部を卒業後に米国に出ていた小林氏は、帰国後、27歳で入社。同社の事業と関わりのある出版取次会社の日本出版販売やヤマハに出向した後、楽器販売や音楽教室などの営業を担当していた。社長就任は2005年、同社が債務超過の危機に陥り、メインバンクから支援の条件として社長交代を要求されたためだ。
(TOP写真は、明治時代の『大福帳』を手にする小林社長)

楽器販売は同社の収益の柱のひとつだ

楽器販売は同社の収益の柱のひとつだ

危機の要因は会社の部門損益が把握できなかったこと

楽器販売の最前線にいた小林氏には「稼いでいた」という自覚があったから、会社が左前だと聞いた当初は「なんで資金が足りないのだ」といぶかった。やがて、もともと芸術家肌の創業者一族は、店頭売り・外商売りなど同社の部門別損益を区別しておらず、全社の仕入れをすべて入れて総売上を出していたため、どこが足を引っ張っているのか見えなかったのだと理解した。

同社の取引先には教材を納める学校関係が多く、「今月は予算があるからこの分だけ払う」「生徒から代金がまだ集まらないからもう少し待って」などと回収作業が雑多なため、学校売上は1件1件潰していかないと実態がわからない。また単価の安い書籍販売は顧客台帳に載る口座も多く、のべ約4万件、常時動いている口座だけでも1万件ある。

日本の書店の特殊事情もある。他業界に比べ取扱商品が多い書店は、雑誌などが売れ残った場合の損失リスクを回避するため、配本・返品管理、代金回収などを取次会社に依頼する委託販売制度を取っている。中小出版社や書店の多い業界で安定した流通を維持するための制度だが、お金の動きは途中経過が見えづらく、決算を締めてみないとわからない。

会計システム一新への経緯を説明する小林社長

会計システム一新への経緯を説明する小林社長

収支全体の「見える化」の必要性を痛感

会社再建のため同社は2005年、借入金の組み換えや借り換え(リファイナンス)を行い、翌2006年5月の決算は好転した。銀行からは褒められたが、「ここが伸びた」、「こういうことが利益に貢献した」といった原因がよくわからなかった。逆に言えば、赤字だった場合でも原因がわからないことになる。小林社長は「会社全体の収支状況を把握し、部門別収益がタイムリーにみられる、さらに資金がどこに寝ているかわかるようにしないと、期の途中で業績をてこ入れできない」と考えた。

古い会計システムを一新、クラウド化を決断

頼りにしたのが、齊藤義則取締役だ。元銀行員で民間会社を経て2008年に入社した齊藤氏は管理部長として同社の会計状況の「見える化」に取り組んだ。

同社は2008年当時、開発に約1億円をかけた自前の会計システムを導入していたが、「OSはWindows2000で、容量は少ないし、メーカーの部品も欠品になっていていつ壊れてもおかしくない状態だった」と齊藤取締役。様子を見ながら5年ほど使っていたが、本社に出社しないと作業ができないうえ、顧問会計士との情報共有でもタイムラグが発生する。「使いづらいし、時代に合わない」と、システムを一新することにした。

書店は他の業界と仕入れや売掛金回収が異なるし、売れ残った本の返品もある。本来なら自社の実情に100%対応できるシステムを自前で作らなくてはならないが、「1から構築するのはコスト的に無理」なので、汎用の販売管理システムを同社の実情に近い内容に修正してもらえる会社を見つけた。「ICTの進化速度は速い。もう10年ごとにシステム投資をする時代ではない。世の中に出回っている既存商品で構成したほうが、後でバージョンアップもできるだろう」と判断した。

店頭のレジにあるパソコンで売上状況を確認する。手前は齊藤取締役

店頭のレジにあるパソコンで売上状況を確認する。手前は齊藤取締役

インターネット環境があれば、どこでも作業可能、会計士とリアルタイムで情報共有も

新会計システムは2013年の夏頃キックオフし、1年近く準備した上で2014年6月からスタートした。新会計システムはクラウドなので、インターネット環境さえあれば場所を選ばず作業ができるし、会計士とリアルタイムで意思の疎通が可能になった。

齊藤取締役は「ノウハウを持った会社が作ったパッケージソフトはそれなりに優秀で、使い勝手も悪くない」と話す。小林社長も「出費の状況をリアルで把握できるから、教科書販売が集中する新学期に雇うアルバイト代が100万円単位でかかるので、これ多いだろう、と整理できる」と語る。同社の2022年5月決算の売り上げは約13億円。小林社長の就任以来、コロナ禍の影響をものともせずずっと黒字だが、部門別の収支状況が見える新会計システムも業績向上に寄与している。

店頭の新刊コーナーで。書籍販売は同社創業時からの生業だ

店頭の新刊コーナーで。書籍販売は同社創業時からの生業だ

先行き不透明な時代だが、ICT活用を進めてデータの裏にあるものを読み取るのが経営者の大事な仕事

小林社長の悩みは「先が読めない」ことだ。同社は小中高など学校の教科書取扱書店で、群馬県教科書販売会社から教科書の供給を受け、学校に納入している。だが、政府は子ども1人に1台の端末を配り、高速で大容量の通信ネットワークを整備して教育ICT環境を実現する「GIGA(ギガ)スクール構想」を打ち出し、段階的に教科書をすべてデジタルにする計画だ。小林社長は「実現すれば、我々のように紙の教科書を扱っている会社は仕事がなくなる可能性がある」と懸念を隠さない。小林社長は「当面は余計なことをしないで様子を見たい」と静観の構えだが、音楽や英語教室、楽器販売を強化する必要があるかもしれない。

齊藤取締役は「管理会計による現状把握やホームページによる情報発信などICT活用はあたりまえ。人材に限りがある中小企業は、自分たちだけで解決が難しい時は外部の知恵を借りるべきだ」とパートナーの重要性を説く。小林社長も「決済結果を残しておきたい時も、内容別にフォルダーを作って入れておけば、すぐ見つけられるからICTは便利」と話す。その上で「トップの仕事は出てきたデータを確認すること。なぜそういう結果になったのか、プロセスなどデータの裏にあるものを読み取ることが経営者の大事な役目だ」と付け加えた。

事業概要

会社名

株式会社煥乎堂

本社

群馬県前橋市本町1-2-13

電話

027-235-8111

設立

1921年2月15日

従業員数

約100人

事業内容

書籍・古書・楽器の販売、音楽・英語教室、出版事業

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