ものづくりの匠の技をデジタル技術で解析。ベテランから若手への技術伝承を効率的に進める 八尾金網製作所(大阪府)
2022年11月01日 06:00
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創業100年超の歴史を持つ大阪府八尾市の株式会社八尾金網製作所が、デジタル技術を活用することで金属製網に携わるベテランの技を効率的に伝承するシステムづくりに取り組んでいる。(TOP写真は、OTRS®で作業を分析する様子。※OTRS®〈Operation Time Research Software〉とは、映像から作業を分析する機能を持ったソフトウェア)
創業は大正時代 産業用の高性能金網やフィルターを製造
大正時代の1917年に創業した八尾金網製作所は、全国屈指のものづくり産業の集積地、大阪府八尾市のJR久宝寺駅から徒歩数分の場所に本社を構える。新社屋の建設が着々と進み、工場では日々金網を製造する自動織機がリズミカルな機械音をたてて稼働している。
生産しているのは毛髪の半分以下の細さの金属線を素材にしたミクロン単位の網目を持つ高機能金網やフィルターだ。通常の金網製品に使用されるステンレス素材と比較して難易度が高いチタン素材を製網する、世界でも有数の技術力を誇る。近年、今後普及が期待される燃料電池車向けフィルターの受注が伸びており、それ以外でもバスケットやストレーナーといった金属製品、液晶デバイスなどの電子部品の製造工程で使われるステンレススクリーンといった製品が社会の様々な場所で使用されている。
素材から製品までの一貫生産に強み
「現在のように生産設備の整っていない100年前からものづくりを続けてきました。厳しい品質基準を設けて素材から製品までを一貫生産できる強みをこれからも磨き続け、社会の求める製品を世に送り出していきたいと思っています」と山上昌宏社長は穏やかな表情で話した。
事業拡大を見据え、若い人材を積極的に採用
八尾金網製作所の高い品質の製品づくりを支えているのが、長い歴史の中で職人たちが伝承してきた「匠の技」だ。極細の金属線を織機のドラムに巻き替える作業や、製造する金網の密度や配列に合わせて縦線と横線をセッティングする作業など、様々な場面で熟練の技が発揮される。高い品質が求められる製品ほど、人間でなければこなせない作業が多いという。
先端技術分野でのフィルター需要拡大への対応や加工部門・品質管理部門の強化を見据え、近年若い人材の確保に力を入れており、15人の社員のうち20代・30代が3分の2近くを占めている。若い人材の成長がこれからの会社の成長を大きく左右するといっても過言ではない。
「アナログが主流だった時代は、若手は先輩の背中を見ながら実際に作業をして経験を積み、時間をかけて技術を習得していくことが許されましたが、変化のスピードが激しいデジタル社会ではこれまでと同じやり方では通用しません。会社として、若手に無理をさせることなくこれまで以上のスピードで技術を習得できる環境を整えなければならないと考えています」と山上社長は話す。
映像から作業を分析するOTRS®を導入
人材育成についての課題を解決するために八尾金網製作所が決断したのがICTの活用だ。「OTRS®(Operation Time Research Software)」と呼ばれる映像から作業を分析する機能を持ったソフトウェアを導入し、ベテラン・中堅の技術を若手に効率よく伝えるシステムを確立しようとしている。
「文章が中心になったマニュアルでは人によって理解に差が出やすいので、写真や動画を活用した誰にでもわかりやすいマニュアルを作成したいと以前から思っていました。これまで技術は実践を通じて現場で身につけていくしかありませんでしたが、デジタル技術が進化したことで新しい技術伝承の方法を考えることができるようになりました」とOTRS®を活用したマニュアル作成を担当する営業部の山上俊輔さんは話した。
編集機能を活用して動画付き作業マニュアルを作成
OTRS®は、実際に作業している様子を撮影した動画をソフトウェアに取り込めば、パソコン上で一連の動作を「正味作業」「無駄」「付随作業」「準備・後始末」といった単位にわかりやすく区切って編集することができる。
ベテランの作業動画と新人の作業動画を比較再生することで、動作のどの部分に無駄があり、どのように改善すればベテランの動作に近づけることができるのかを検証するといった使い方もできる。同じ人物の改善前と改善後の動作を記録しておくことで、成長するために必要な改善ポイントを把握し、後進の人物を教育する際の教材として活用することも可能だ。動画付きの作業手順書やマニュアルを作成する機能も備えている。
「操作はシンプルで動画編集の特別な知識がなくても直感的に使うことができます。教える側も経験に基づいて指導するだけでは限界がありますが、教える側、教わる側が共に納得しながら作業を改善していくことができます。作業分析の結果を基に動作を客観的な視点から検証し、最適な動作をシミュレーションすることで社員全員の作業を高いレベルで平準化していくことも考えていきたい」と山上さん。
動画と文章で細かな手順や作業のコツをわかりやすく伝える
OTRS®を活用することで、言葉や文章、写真だけでは伝えにくい細かな手順や作業のコツをわかりやすく伝えられるように、作業マニュアルを随時バージョンアップしていきたいという。現在、業務の空いた時間を使って動画の撮影と分析を進めており、来年初めには第1弾のマニュアルを現場で使えるようにしたいという。
「普段取り組んでいる作業を動画で撮影してマニュアル化することは、当初、ベテラン・中堅の間ではあまり歓迎されませんでしたが、若手社員が積極的に導入を希望してくれました。自分たちの成長に必要なものであることを実感してくれているのだと思います。これまでは一人前になるのに10年近くかかるのは当たり前でしたが、ICTを活用することで2倍、3倍のスピードで育成できるのではないかと期待しています」と山上さんは話した。
若手への技術伝承に高い効果を見込む
OTRS®の導入は若手のモチベーションを高める効果も発揮している。
入社2年目の製造部の髙田優芽さんは「作業の際の力のかけ方や細かい動作は文章だけのマニュアルではわかりにくい面もあったので、編集された動画で適切な動きを具体的に確認できるのは非常に心強いです。これから習得していかなくてはならない技術は多いので、分析された動画を見てから覚えるのと、見ないで覚えるのとでは大きな差がつくと思います。動画と文章を併用した素晴らしいマニュアルができあがることを今から楽しみにしています」と期待を寄せた。
今年4月に入社した製造部の小田琉登さんは「自分自身と比較して2倍以上の速度で作業を終わらせることができる上司や先輩に1日でも早く追いつくために、しっかりと自分の作業の内容を分析していきたい。一定期間ごとに撮影した自分自身の動画を比較することによって、どのように進歩したのか客観的に知ることができますし、将来指導する立場になった時に役立てることができそうです」と意欲的に話した。
筑波大学との産学連携でシミュレーションソフトを開発
八尾金網製作所は産学連携にも積極的だ。2018年、仮想空間で金網やフィルターの濾過(ろか)精度を測定するシミュレーションソフトを筑波大学と共同開発、毎年改良を加えている。以前は新しい金網やフィルターを開発した際、試作品を公営の工業試験所に持ち込んで測定しなければ精度を確認できなかったため、その分時間とコストがかかっていた。シミュレーションソフトを開発してからは、試作品を製作しなくても濾過精度を短時間で確認することが可能になったので、開発のスピードアップとコスト削減に加え、新製品を取引先に提案する際の商談が進めやすくなったという。
品質向上や生産性アップにICTを積極的に活用する
「これからもお客様のためのさらなる品質の向上や生産性アップにICTを積極的に活用していくつもりです。社員に成長してもらうために何ができるかを考えて実行し、社員に十分報いることができる会社にしていきたい」と山上社長はこれからの抱負を語った。新しい技術を積極的に導入し続ける八尾金網製作所。新しい世代に匠の技を効果的に伝承し続けることでその歴史を200年、300年と伸ばしていくに違いない。
※OTRSは株式会社ブロードリーフの日本における登録商標です。
事業概要
会社名
株式会社八尾金網製作所
本社
大阪府八尾市跡部北の町3-3-15
電話
072-992-2001
設立
1947年7月(創業1917年5月)
従業員数
15人
事業内容
一般工業用金網、フィルター用金網、線材加工品、スクリーン印刷用金網、特殊金属線金網、試験篩用金網の開発、製造
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