ICT活用切り札に利用者から選ばれる法人経営を進める柏崎刈羽福祉事業協会(新潟県)
2022年10月06日 06:00
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マンパワーが主流の福祉業界のなかで、社会福祉法人柏崎刈羽福祉事業協会は、積極的にICT化を進めている。管理機能を本部事務局に集中させ、手書きだった内部書類を電子化し、グループウエア導入で対面や電話しかなかった施設間の情報共有を迅速化した。介護記録の電子化にも取り組んでいる。作業効率を上げて現場職員の負担を減らし、利用者に選ばれる法人をめざすためだ。
(TOP写真:「なごみ荘」の前で。左が西川伸作事務局長、右がの若月大樹主任介護員)
設立60年あまり。地域に必要不可欠な福祉・介護施設
社会福祉法人柏崎刈羽福祉事業協会は、新潟県柏崎市で60年を超える歴史を誇る。1959年7月に生活保護が必要な人の救護施設をつくったのが始まりで、今も新潟県下では5施設しかない救護施設のうち2つを経営している。
加えて高齢者を対象にした特別養護老人ホームを3施設、養護老人ホーム、軽費老人ホ-ム、グループホーム、ショートステイ、デイサービスを経営。地域にとってなくてはならない法人でもある。
在職20年、30年も珍しくない経験豊富で高スキルの職員たち
利用者を介護する職員は法人全体で440人。経験豊富でスキルの高い職員が多く、平均年齢は約44歳。定期昇給や諸手当の改善で賃金アップに取り組み、福利厚生の充実にも努めてきたためか、離職率が低いのも自慢だ。在職20年、30年の職員が多いが、40年選手も数人いるし、夜勤をこなす70代もいる。
職員は女性が多く、男性は全体の25%。女性職員の育児休業取得率は100%で、男性職員の取得実績もある。フルタイム勤務の人は1日8時間、早番、遅番、準夜勤、深夜勤の4シフト体制を組み、1年365日、24時間を通して、ケアを行っている。起きる時間と寝る時間が不規則な体力の要る仕事だ。
はじまりはパソコン導入から、年々ICTを拡充
同法人のICT推進役は、本部事務局長の西川(さいかわ)伸作さん、55歳だ。一般企業の事務職を経て2002年に入職したが、「当時配属された施設の事務所にはパソコンが2台しかなく、会計伝票も手書きで処理していた」と振り返る。1人に1台パソコンが貸与されていた前職との落差に驚き、上司に働きかけて翌2003年、施設内にパソコンを14台入れ、事務作業の効率は格段に向上。次第に導入台数を増やし、いまでは法人全体で130台を超すパソコンが使われている。
続いて西川事務局長は2011年、インターネット上で情報共有ができグループウェアを導入した。法人の事業所は、2つの市を跨いでいることもあり、施設間の意思の疎通に苦労していた。導入後は会議録を関係者にすばやく回せるなど連絡が密になり、「交代勤務の多い職員同士のコミュニケーションが取りやすくなった」と話す。コロナ禍で対面の会議ができなくても資料を配付できるため、重宝しているという。
ほかにも2011年にケアプラン作成システムを、2015年に会計・給与・人事管理を一元化できる法人サーバーを、2017年には給与システムと連動した就業管理システムと、西川事務局長は次々にICTを拡充していった。
事務作業を本部に一元化して業務を効率化
2000年に介護保険制度が導入され、従来の「措置制度」から「契約制度」に移行した。「措置制度では、お客さん(利用者)を自治体が探してくれたが、契約制度では、自分たちでお客さんを探さないといけない。利用者から選ばれる施設になるためには、法人経営を強化する必要があった」と西川事務局長は話す。
そこで各施設に散らばっていた事務員を本部事務局に集中し、4人だった本部人員を9人に増やし、施設ごとに行っていた事務作業を本部に一元化した。介護報酬の請求事務や利用者からの利用料回収は本部職員2人で一括処理できるようになり、以前は時間外勤務を余儀なくされていた決算関係書類の作成時間が短くなった。新規職員の採用業務や職員研修も集中してできるようになったという。
介護記録システムの運用もスタート、
いま取り組んでいるのは2022年4月に運用を始めた介護記録システムの拡充だ。摂取した食事量や水分量などの介護記録を電子化し、利用者10人分の記録を入力して次のシフトに入るスタッフに回す。主任介護員の若月大樹さん(42歳)は「タブレットの画面に表示される選択肢に従ってデータを入力するだけなので、手書きだったころに比べて効率が上がった」と感じている。
職員の中には「めんどうくさい。書いた方が楽」とタブレット入力などICT導入に抵抗感を持つ人も少なくない。だが、日常的にICTに触れている若い世代には、手書きの多い職場は懸念されがちである。「書類が手書きのままの社会福祉法人は少なくないし、私たちもまだまだ遅れている」と西川事務局長。
課題は介護人材確保、ICT活用が切り札に
同法人の売上は年に約24億円。収入は介護報酬が約半分で、残りが生活保護費収入、老人保護費収入など。支出の70%は人件費だ。言い換えれば、まだ人の手がないと成り立たない事業である。
一方、介護職をめざす人は減少傾向にある。厚労省は2021年7月、介護職員数は2025年度に約32万人、2040年度には約69万人不足するという試算を発表。識者は「福祉・介護には、きつい、汚いなどの悪いイメージがある」と指摘している。
だが西川事務局長は「人々が生活していく上で必要不可欠な仕事で、多くの人や地域から感謝される仕事だ」と胸を張る。その上で「時代が変わっても決してなくなることはないし、なくしてはならない仕事。地域福祉の担い手として事業を継続していくことが何よりも重要」と強調する。更に「今後は、法人のサーバー管理をクラウド化し、災害時の事業継続に備え、事務作業もテレワークができるようにしたい。また、夜勤職員の負担を軽減するため、見守りセンサー付き機器の導入も検討する」と話す。
ICTは介護人材の確保が難しい中、今より少ない人員配置で事業を継続する体制を確立するためにも、なくてはならない切り札になりそうだ。
事業概要
法人名
社会福祉法人 柏崎刈羽福祉事業協会
住所
新潟県柏崎市大字畔屋194-1
電話
0257-24-4100
設立
1959年7月
従業員数
約440人
事業内容
第1種社会福祉事業(救護施設、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム、軽費老人ホ-ム)、第2種社会福祉事業(老人デイサービス、老人短期入所、小規模多機能型居宅介護、認知症対応型共同生活介護)
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