DXが目的ではない。生産性の向上を目指してデジタルを最善活用できたら、結果的にDXとなる ベンカン(群馬県)
2022年10月21日 06:00
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人が生活するための施設には、必ず給水や給湯、空調などの配管が通っている。その配管に欠かせないジョイント(継手)を製造・販売しているのが株式会社ベンカンだ。創業は1947年で当時はプラント向けの溶接式管継手を製造していた。1975年に新規事業として立ち上げたのが一般施設向けのステンレス配管に対応するメカニカルジョイントだった。従来、プラント向けにしか使われていなかったステンレス配管を一般配管にも使用できる提案は受け入れられ業容が拡大した。対応するために東京都大田区大森から群馬県の藪塚本町(現在の太田市)に工場を建てて、本社も移転した。
分社化をきっかけにCOBOLを使用した基幹システムの見直しに着手
その後、溶接式継手事業とメカニカルジョイント事業は、互いに異なる理念の元で発展した。
また、それに伴い2016年に溶接式継手事業を株式会社ベンカン機工として分社化し、ベンカンはメカニカルジョイント事業単体の企業となった。その際にまず、持ち上がったのが経営理念の変更だった。事業単独になったことで、それに見合った経営理念に変更した。実務においても課題となったのが基幹システムの再構築だ。
ベンカンの我妻武彦社長
ベンカン機工が分社化されると、従来の基幹システムではベンカンの業務に合わない部分が出てきた。「社内でシステム開発を手掛けた人たちが退職してしまっていました。新しい機能を載せようにも中身が複雑すぎて、対応が難しくなっていました」(管理部担当課長の塚田和之氏)。ちょうどその頃、ベンカンでは株式の上場を視野に入れて業務全般の見直しに取りかかろうとしていた。「従来の基幹システムでは無理だということで、製造業向けの基幹システムを導入することにしました」(我妻社長)。2016年頃のことだ。
ステンレスパイプを素材としたプレス加工技術が強み
ベンカンのコア技術は、塑性加工(プレス加工)と呼ばれる素材金属に高い圧力をかけて形状加工するものだ。
特にパイプを素材とした塑性加工技術は、70年を超える実績がある。
尚、塑性加工であるが、馴染みのない専門用語のため社外にはプレス加工と表現していることから、以降は、プレス加工とする。
プレス加工工程
そのプレス加工ですが、複雑な形状を出すために、複数の工程が必要となる。
しかし、従来のベンカンでは、工程の進捗状況や作業の実績を、現場の作業者が紙に記入して提出していた。「それらを事務所に集めてからデータとして打ち込んでいました」(塚田課長)。現在どれくらいの生産実績があるのか、在庫がどれくらいまで積み上がっているかを確認したくても、データが打ち込まれるまでは確定した数字を出せなかった。「たとえ現場から1時間なり2時間ごとに集計用紙を集めるようにしても、やはりタイムラグが出てしまいます」(我妻社長)。結果として、「在庫はあるのかと問い合わせを受けて、口ではあると答えても、実際に調べるとないということも起こっていました」(塚田課長)。
ロボット化も進むベンカンの工場
溶接工程
工場の現場で作業実績を入力
これでは販売の機会を逸失するだけでなく、会社の信用も揺らぎかねない。そこで、新しく導入した基幹システムでは、「現場の作業者がリアルタイムで作業実績を入力できるようにしました」(塚田課長)。工場の現場にパソコンを置き、作業のたびに数字を入れていくようにしたことで「データがリアルタイムのものになりました」(塚田課長)。これなら営業所からでも自信を持って注文を受けることができる。
受注管理システムで営業拠点を集約し効率化
生産管理の効率化とともに効果があったのが、受注管理の効率化だ。「営業所からの注文を把握して、生産へと繋げることができるようになりました」(塚田課長)。この効果を生かしてベンカンでは、全国の営業拠点で行っている注文書の入力作業を在宅化したり、営業拠点そのものを集約したりすることを考えている。「名古屋で打ち込んでいたものを、別の場所で行うようにするといったようなことです」(我妻社長)。
現在は、問屋からの注文がFAXによって送信されてくることが多い。「メールでのやりとりも行っているのですが、言った言わないといった行き違いが起こる可能性もあって、FAXに頼っているところがあります」(塚田課長)。ただ、将来のペーパーレス化を考えるなら、いずれは切り替えが必要な部分。そこで、「大口の取引先を対象に、EDI(電子データ交換)を導入できないか打診しています」(塚田課長)。段階を踏んで拠点の統廃合やEDIを進めることで、より身軽かつ先進的な体制へと変えていく。
将来という意味では、生産管理の方でも「キーボードで数字を打ち込まなくてもバーコードの読み込みで入力できるような仕組みにしていきたいですね」(我妻社長)と見通しを話す。「生産したものを入れたかごにICタグを付けて、指定の場所を通過すれば自動的に読み取る仕組みも考えています」(我妻社長)。ベンカン機工と分かれて小回りが利く体制となったことで、次々と新しい取り組みにチャレンジできるようになった。
コロナ直撃で初めて単月赤字に、しかし基幹システム入れ替え効果で即黒字化、コロナのおかげで3年かかる改革を半年で実現
2020年の春に発生したコロナ禍は経済界の先行きを不透明にした。その結果、売上は激減した。特に、2020月5月は、過去に記憶がない単月赤字となった。「正直、需要の先行きが見えず、会社の存続を含めて危機感が高まりました。」(我妻社長)もっとも、「次の月からは黒字に復活しました。それは、分社化前から取り組んでいた独自の管理会計体制と、それをタイムリーに可視化できた基幹システムがあったからです。」(我妻社長)この管理会計体制と基幹システムのおかげで、コロナ禍においてもすべきことを可視化し、社内で共有することができたという。「元々、生産性向上は重要課題であり、3年計画で改善する予定でした。しかし、コロナ禍という目前の危機が社員を改革に向けて一丸にしてくれました。」結局、3年計画だった生産性向上の課題は、社員たちの正に死にものぐるいの改革で半年でほぼ目処が立った。ピンチをチャンスに変えた好例と言えそうだ。
ウェビナーを開催して製品紹介や工場見学を実施。
コロナ禍は、プロモーションの面でも改革をもたらした。以前から公式Facebookを開設しての情報発信は業界内で知られた存在だった。加えて、営業部主催のオンラインセミナー「ベンカンウェビナー」を月1回のペースで開催することが定着した。「当初は新しい取り組みに否定的な社員も少なくありませんでした。しかし、コロナ禍で思うようにお客様と接する機会をつくれない中で意識が変わったのだと思います。」そもそも、コロナ禍の前からオンラインによるベトナムの工場見学会を構想していた我妻社長にとっては絶好の機会となった。「群馬のMJ工場には、月に2、3社の工場見学があったのですがコロナでできなくなりました。製造業の強みはやはり工場にあります。実際に見てもらうことができないなら映像で見ていただくべきだと提案しました。」(我妻社長)結果、ウェビナーによる工場見学会には予想を上回るお客様が参加することとなる。その後、構想にあったベトナムの工場見学会も開催でき業界新聞にも取り上げられるほどの盛況だったという。これらの一部は、YouTubeに開設している「ベンカンチャンネル」で一般の人も見ることができる。
YouTubeで配信している工場見学のウェビナー映像
定期的な勉強会を通じて未来への取り組みやCSRを学ぶ
定期的に勉強会を実施している
現在のベンカンは、給水や給湯、空調などの一般配管向けにステンレス配管を提案したビジネスがコア事業となっている。しかし、この需要が未来永劫に続く保証はどこにもない。その意味でも、新しい価値の創造に取り組んでいる。加えて、新しい価値は簡単に創造できないことから既存の価値を高めるための取り組みも怠るつもりはないという。その意味でも、社内では定期的に我妻社長も講師を務めるなどして「マケ学」を開催するなど、積極的にマーケティング活動を推進している。「マケ学」とは、「マーケティングを学ぶ」の社内愛称だという。
もちろん、マーケティングの先には将来のための新しい価値の創造、つまり、イノベーションの創造も期待していることも他ならない。
また、マーケティングは業績だけを追ってのものではない。ベンカンでは、CSR(企業の社会的責任)の一環で社会や地域貢献にも力を入れている。「地元の太田市や群馬県の皆さんにベンカンの存在を知っていただくことで、企業とのマッチングなど地域発展に役立てられたらと考えています。また、そのような情報を通じて、ベンカンで働いてみたいと思っていただける人材の確保にもつなげたいと考えています。そして、このような活動も長い目で見たらビジョンであるサステナブル企業になるための礎になると考えています。」(我妻社長)
入れ替えた基幹システムだがまだまだ満足できるところまで進んでいないという。
「これは、全てに言えますが、例えば、DXは決して目的とは考えておりません。目的を達成するためにデジタルが効果的なら、積極的に取り入れますし、その結果としてDXを実現できることが大切であると考えています。」(我妻社長)
ベンカンフィロソフィにこの会社の全てが記されている
人は一人では成すことには限界があるため、
共通の目的を待った人たちと組織を作ります。
企業も組織であり、その共通の目的が
-経営理念-となります。
SLOGAN
知恵と勇気を持って変化にチャレンジしよう!
私たちは おかれた環境の変化を意識して それに立ち向かうために自らも変化します。
ビジョン
社会における存在意義を高め〝サステナブル 企業〟を目指します
ミッション
現在だけでなく未来を考えた配管の開発と供給を通して信頼あるライフラインの構築をご提案します
行動指針
私たちは ビジョンの実現に向けて 誠実にミッション遂行に取り組みます。
お客様を迎え入れるプレゼンルームに掲げられたフィロソフィ
従業員の方々の表情から良い会社の雰囲気が伝わってくる
事業概要
会社名
株式会社ベンカン
本社
群馬県太田市六千石町5-1
電話
0277-78-4111
設立
1947年
従業員数
121人
事業内容
ステンレス配管に特化したメカニカルジョイント等の管工機材製品の開発・製造・販売
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