製造業(機械)

日本のものづくり支える「フォグエンジニア」。RPAやFAXドキュメント配信システムで業務を大幅改善 いけうち(大阪府)

From: 中小企業応援サイト

2022年10月11日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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真夏の暑さを軽減してくれる「いけうちの涼霧システム」。その霧は専用に設計されたノズルを採用することによって女性の化粧が落ちないように設計されている(TOP写真)。
10年以上前からよく見かけるようになった、街中で噴き出す霧。ひとときの清涼感は、まさに都会のオアシスだが、霧の粒子の中には、化粧落ちなどのトラブルが起きないよう精緻に設計されているものがある。その精緻な設計を可能にしているのが、大阪市西区阿波座に本社を置く株式会社いけうちのスプレーノズルだ。

繊維商社からフォグエンジニアとしてメーカーに転進

1954年、現取締役名誉会長の池内博氏が輸出商社として創業。繊維産業全盛期に、取扱品の一つにレイヨン用のセラミック製(磁製)紡糸口金があった。耐摩耗性などがあり品質はよかったが、米国からナイロンの輸入が開始されるとレイヨンは作られなくなり、磁製口金も市場から姿を消した。

その際、池内名誉会長はセラミックの可能性を追求。セラミック製のスプレーノズル生産に世界で初めて成功し1961年、出身地の広島県呉市に工場を建設した。需要はあった。当時の農業用防除剤に使われていたスプレーノズルはすぐに摩耗して噴孔が広がり、効果的な散布ができなくなっていたからだ。耐摩耗性の高いセラミックノズルは大手農薬散布機メーカーに採用され、「フォグエンジニア」としての道を歩み出すことになる。

現在はセラミック以外の製品も製造し、さまざまな業界で採用されているいけうちのノズル

現在はセラミック以外の製品も製造し、さまざまな業界で採用されているいけうちのノズル

セラミック スプレーノズルの開発は困難を極めたが、精度保証付きで浸透

セラミックスプレーノズルの開発は一筋縄ではいかなかった。セラミック素材を焼成する際に収縮してしまうからだ。設計段階で噴霧時の霧の広がり具合や量などを計算しても、計算通りには噴霧してくれない。

その収縮問題を乗り越えることができたのは、素材や焼き温度などを変えて幾度も試行錯誤した末のことだった。1961年にようやく商品化されたが、その際あえて当時海外でもほとんど行われていなかった精度保証※を付けて販売した。困難の末に完成したスプレーノズルに対する自信の現れだった。

流体ノズルの精度保証
霧の分級法

※精度保証…
噴霧流量については±5%、噴霧角度について±5°以内、射角では3°以内を保証するもの。また当時、同時に霧の大きさについても分級を行っており、もやレベルの超微霧(10μm未満)、霧レベルの微霧(10~100μm)、霧雨レベルの細霧(100~300μm)、しとしと雨程度の中霧(300~1,000μm)、並みの雨からスコールまでの範囲の粗霧(1,000μm以上)と世界で初めて定義し、ユーザーが工業資材として霧を利用しやすいようにしている。
この精度保証のおかげで顧客に安心して購入してもらえるようになった。

繊維工場の静電気防止用の加湿器や殺菌消毒にも活用。ゴミ焼却場の排ガスの急速冷却等、スプレーノズルの活用の場は急速に増えた

世界初のセラミックノズルを生み出した18年後、1979年には兵庫県に西脇工場を建設。同年は超微霧発生ノズルも開発していた。これは海外特許を取得した画期的な商品で、現在では同社のコア技術となっている。しかし発表当時は世間から余り注目されなかった。1981年入社の村上慎悟上席執行役員は「入社当時は、革新的な技術よりも堅実な技術の方が受けが良かった」と話す。

「超微霧」は時代の先を行き過ぎていたのだろう。しかし、精度保証された超微霧ノズルは、ノズルの使途を徐々に確実に広げていった。繊維工場の静電気防止用の加湿器に使われ、エレクトロニクス産業の製造工程にも採用された。

1994年には薬液をドライフォグ(触っても濡れないほど小さな霧)化することで、殺菌消毒にも活用の場が広がった。ダイオキシンを発生させないために、ゴミ焼却場の排ガスを急速冷却するのにも使われ始めた。

乾燥や静電気を防ぎ、製品不良や作業環境のトラブルを防ぐ産業空調加湿システム

乾燥や静電気を防ぎ、製品不良や作業環境のトラブルを防ぐ産業空調加湿システム

今では、セラミック製以外の各種金属製やプラスチック製のノズルも加え、鉄鋼・自動車・運輸車輌・エレクトロニクス・製紙・印刷・繊維・食品・農業・水産・畜産・エネルギー・医療・福祉・景観・公害防止などあらゆる業界で幅広く使われている。

冷房、加湿、防除の3つの役割を果たす画期的な自動栽培支援システム

冷房、加湿、防除の3つの役割を果たす画期的な自動栽培支援システム

火力発電所の冷却装置等に幅広く使用され、海外にも積極的に進出した

その革新性の高さは公的にも評価されている。独創的かつ市場性のあるビジネス展開と事業成果が認められてNBK大賞を、静電気学会からは進歩賞を受賞。節水・省エネ技術、環境問題への貢献が認められて、大阪市環境表彰も受賞している。

霧の気化熱を用いて空気を冷却する発電所用のシステム

霧の気化熱を用いて空気を冷却する発電所用のシステム

また現在ではLNGの火力発電所へ、ガスタービンに取り込む空気を冷却する大規模な噴霧システムの提供なども行う。噴霧システムで空気の膨張を防ぐことで、夏場にタービンの出力減少が防げるようになる。発電効率を高めることが海外政府からも評価され、イランとイラクの発電所にも展開している。海外展開は1987年の台湾への販売拠点開設を皮切りにし、現在は9か所に販売拠点、ベトナムと中国に製造拠点を置く。

創業以来、一度も赤字がない堅実経営。売上は堅調だが、比較的安価なスプレーノズル販売だけに留まらず、発電所のプラントのような大型案件を増やし、さらなる飛躍を目指している。

RPAで5000万円のコスト削減の効果

「コストダウンや業務効率の向上は企業の永遠のテーマ」。こう話す村上上席執行役員が2019年に導入して効果に感嘆しているのが、事務作業などの決められた操作を自動化できるRPA(Robotic Process Automation)だ。すでにパソコン業務を自動的に行うロボットソフトは100を超え、年間の削減時間は6000時間。約5000万円のコスト削減につながった。

RPAの効果を説明する村上慎悟上席執行役員

RPAの効果を説明する村上慎悟上席執行役員

具体例の一つが、納期設定間違いを指摘するメール送信。営業担当が伝票処理する際に、休日納期の伝票が混ざることがある。休日納期はほぼ記入ミスのため、担当者に休日納期になっていることを指摘するのはミス解消の重要なポイントだが、事務担当がチェックし、伝票処理者に注意喚起メールを送るとなると、非常に注意深い作業が必要だ。そのような作業をRPAのロボットは迅速、確実に終えてしまう。

RPAだからこそ、始めた作業もある。何十もある発注先に対し、1週間の発注業務をまとめて送る確認メールだ。受注先の担当者も人間なので、時に受注対応を忘れてしまう。そのような時にこの確認メールが役立つ。このロボットを開発した購買部の角田真吾係長は「この3年で『受注忘れ』を防げたことが何件かある。件数が少なくても、1件の防止効果がとても大きいので助かっている」と話す。

ロボットコンテストで社内に浸透、開発コアメンバーは25人に増えた。開発はシステム部門から現場へ移行

RPAで開発するロボットは、さほど複雑なものではない。いけうちには情報システム部もあり、基幹システムは情報システム部が担当。RPAで開発しているのは、「簡単すぎて情報システム部に任せられない」(村上上席執行役員)ような作業を行うロボットだ。しかし、慣れれば簡単に開発できるロボットでも、慣れるまでが大変な上、何ができるかがわからなければ開発しようという気にも使おうという気にもならない。

本社オフィスの天井にも自社製ノズルを活用した加湿システムを設置。快適な湿度が保たれる

本社オフィスの天井にも自社製ノズルを活用した加湿システムを設置。快適な湿度が保たれる

この問題を解決したのがロボットコンテストだ。いけうちではRPA導入に際し、角田係長ら5人のメンバーがシステムサポート会社から集中教育を受け、メンバーが自らパソコン業務自動化ロボットを開発。約100人が勤める本社の広い部屋で開かれたロボコンで、自らのロボットを「人間だと1時間かかっていた作業が5分でできた」などとアピールした。投票したのは社員。自らの事務ワークが軽減される可能性があるとあって、参加した全社員は真剣に考えて投票した。このロボコンは工場も含めてすでに3回開催。ロボットを開発できるコアメンバーも25人に増えている。

RPAのロボット開発で活躍している購買部の角田真吾係長

RPAのロボット開発で活躍している購買部の角田真吾係長

全社員がRPAで何ができるかがわかっているため、コアメンバーだけが開発に携わるのではない。一般社員も自らの業務量削減のため、「こんなことができないか」と提案している。
さらには、一般社員自身が開発に携わることもある。角田係長は「給与明細取り込みや、健康診断フォローメールのロボット化なら、10時間教えれば事務員でも作れるようになる。レクチャーの際に基礎部分ができているので、さらに数時間かければ事務員の手によってロボットが完成する」と、こともなげに話した。

受信FAXはデジタル化され、それぞれの担当者に自動でお知らせ。作業が激減。もう元に戻れません

RPA開始から1年後の2020年に導入したドキュメント配信システムも大きな効果を発揮した。それまでは複合機で受信したFAXが紙で排出され、気づいた事務員が取りにいって、送信元を確認。担当者の席に運び、担当者はFAXの内容に基づいてシステムで処理し、処理が終わるとFAX用紙をファイリングしていた。それが新システムの導入により、FAXで受信したデータが担当者に自動送信され、人間の関わる作業が劇的に減った。

ノズル事業部の事務担当、南幸恵主任は「紙の時代を振り返ると、『何やってたんやろう』って思う。もう戻れません」とほほ笑む。

FAX用紙を取りに行く必要がなくなり、デスクワークに集中できるようになった本社オフィス

FAX用紙を取りに行く必要がなくなり、デスクワークに集中できるようになった本社オフィス

FAXの件数は多い部署だと1日80件。それを南主任らがオフィス内を行ったり来たりして対応していたが、それがなくなったのだから当然だろう。また、FAXだと紛失などのリスクもあるが、データ化されているため、万が一保管場所がわからなくなっても検索すればすぐに探し出すことができる。残業は15~20%減少し、出力代や移動時間など含め年間940万円のコスト削減につながった。
「コストダウンや業務効率の向上は企業の永遠のテーマ」と話した村上上席執行役員は「ICTによる業務効率化はまだまだできる」と話す。当面の検討対象は企業間で受発注情報などの電子データをやりとりするEDI(Electronic Data Interchange)など。業務効率化の可能性は、いけうちのような先進的な会社でもまだまだあるようだ。

事業概要

会社名

株式会社いけうち

本社

大阪市西区阿波座1-15-15第一協業ビル

電話

06-6538-1075

設立

1954年11月8日

従業員数

600名(グループ全体)

事業内容

産業用スプレーノズル・工業用加湿器ならびに応用機器・システムの製造販売および輸出入

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