福祉業(介護)

デジタル化は希望者から順に導入していく。そのために、従来の方法も残しながら進める ケア・コスモス(群馬県)

From: 中小企業応援サイト

2022年10月17日 06:00

この記事に書いてあること

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赤城山を望む群馬県桐生市を中心に、太田市や前橋市にも事業範囲を広げて老人ホームや認知症対応型共同生活介護を行うグループホーム、デイサービスの施設を展開している株式会社ケア・コスモス。「2000年の介護保険制度創設で、民間の事業者でも介護事業に参加できるようになったことから、繊維関係や建設関係の会社が出資して、新規ビジネスとして始めたものです」と、代表取締役の金子豊氏は成り立ちを振り返る。

代表取締役の金子豊氏

代表取締役の金子豊氏

地方においても介護施設の需要が高まった

「これから高齢者が増えていくことは分かっていました。介護にも大きな需要があるということで参入しました」(金子代表)。当初は、居宅介護や訪問介護といった、利用者がいる家を訪ねて介護サービスを提供する事業を中心に手掛けていた。「2006年ごろからデイサービスや老人ホーム、グループホームといった施設を開いて、利用者に入ってもらう施設の運営を行うようになりました」(金子代表)

介護保険制度の創設を受け、新規事業として介護サービスに参入したところが多く、競争が激しかったこともあるが、それとは別に「地方でも、親を預けて面倒を見てもらう老人ホームのような施設への理解が広がったこともありました」と、常務取締役の蓮沼元宏氏は話す。「都心部と違って地方では、家族が親の面倒を見るという意識が根強くありました。それも2000年代に入って核家族化が進み、少子化も進んで子どもが親の面倒を見る時間をとれなくなっていました」(蓮沼常務)

常務取締役の蓮沼元宏氏

常務取締役の蓮沼元宏氏

利用者の様々な要望に応えて事業拡大

チャンスがあると見て、訪問サービスから施設運営へと事業スタンスを切り替え、当初から介護サービスを展開していた桐生市、太田市、前橋市に施設を開いて利用者を募っていった。現在は、老人ホーム4ヶ所、グループホーム8ヶ所、デイサービス4ヶ所を展開する規模に至った。「幅広いサービスを提供することで、利用者が自分にマッチしたサービスを選べるという点で評価を得ています」(蓮沼常務)

優れたサービスを提供していると施設側が思っていても、利用者がそう感じなければ価値は下がってしまう。「入所を希望される方についているケアマネージャーや医療担当者の方にどのようなサービスを求めているかを聞き、こちらが提供できるサービスを話して、双方が納得した上で入所していただいています」。これならミスマッチを減らせて、入所した方の好評を得られる。評判が口コミで広まれば、新たな入所者の獲得にもつながるというわけだ。

ケア・コスモス本社所在地に併設された介護付有料老人ホームコスモス相老

ケア・コスモス本社所在地に併設された介護付有料老人ホームコスモス相老

面会も利用者と家族の要望により、リモート面会とリアル面会の選択制

利用者の希望に添っていろいろと“選べる”ようにするスタンスは、ケア・コスモスのポリシーになっているようだ。コロナ禍で多くの高齢者向け施設が導入した、リモートでの面会サービスを、ケア・コスモスでも行っている。タブレットを使ってビデオ通話できるようしたもので、「アプリを入れたタブレットを貸し出して、使っていただいています」(蓮沼常務)

ただ、「実際に面会したいという方の希望には、できる限り添うようにしています」(蓮沼常務)。この夏も、コロナが拡大するぎりぎりまで、予約制にして家族との面会を実施していた。「入所されている方もご家族も、やはり直接会って話したいという思いが強くあります。そうした思いに応えられる機会を設ける努力をしています」(蓮沼常務)

タブレットやスマホでの面会は予約制でいつでも出来るが、入所者と家族の双方は直接の面会の方が満足度が高いので、可能な限り直接の面会の機会を設けるようにしている。「できることを叶えられる範囲で叶えていくことを、自分たちのポリシーにしています」。こうした姿勢を見せ続けることで、入所者にも家族にも施設への信頼を強く持ってもらえるようになる。

デジタル化も積極的に取り組む人とそうでない人がいるが、強制はしない

タブレットを使う人、使わない人がいるが職員に使う事を押し付けていない

タブレットを使う人、使わない人がいるが職員に使う事を押し付けていない

“選べる”というポリシーは、職員に対しても向けられている。ケア・コスモスでは2年ほど前からタブレットを導入し、老人ホームの職員に使ってもらっている。「目的は主に情報の共有化です。入所しておられる方の記録を紙ベースからデジタルベースに置き換えて、ペーパーレスにしました」(蓮沼常務)。何か必要があって情報を閲覧したい場合、これなら手元のタブレットから行える。「入所されている方が、急な体調不良で病院にお連れしなくてはならなくなった時、タブレットを持って行けば記録を見て説明できますから、便利です」

職員が急用で担当を別の誰かに代わって欲しい場合でも、入所者の情報を簡単に引き継げる。情報はクラウド上に保管してあるため、アクセス権限がなければ情報は引き出せない。紙の記録を持ち歩くよりセキュリティ面も安全だ。全職員に持たせれば、日々の記録もタブレットから行えるようになるが、現状は30人に1台といった割合。「大きくない施設なら、それで使い回せますから」(蓮沼常務)。たとえ全員に行き渡らせても、使うのが苦手な人がいたら稼働につながらず、意味を持たない。

だからといって、強制はしない。「新しく職員として入って来られる方の中には、パソコンやタブレットを扱って記録を取るのが苦手な方もおられます。そうした方でも、職員として有能なら採用したいですから、無理にすべてをデジタル上で行わなくても大丈夫なようにしています」(蓮沼常務)。ひとつの方式にまとめてしまえば、管理する側としては楽になるが、「職員に理想を押しつけて、ついていけないと離脱されてしまっては元も子もありません。それで今までできていたことができなくなっては本末転倒です」(蓮沼常務)

お互いが求めるものはなにかを見極め、できるところから始めて徐々に慣れてもらっていく。「段階的にステップアップして、2年後くらいに理想に近づけるというような発想で進めていければと考えています」(蓮沼常務)。急がず慌てないで改革を進めていくことが、介護や養老といった“人”それぞれの働きが重要になる事業では、必要なのかもしれない。

ケアマネージャーの業務をリモートでできる体制を準備、使うかどうかは個々のケアマネージャー次第

ケアマネージャーの業務に関しても、リモートで行えるような体制は整えた。「他の方に替えがきくポジションではありませんから、何か起こった時に業務が滞るという不安がありました。ただ、本当にリモートで全部できるのかという疑問もありました」(蓮沼常務)。ここに起こったコロナ騒動で、「いろいろな業界がテレワークを導入して、うまくいっているという実例を見せてくれました。これが後押しになって、家でも仕事ができるようなシステムを導入しました」(蓮沼常務)

親の介護などで出社ができなくなった、コロナウイルスに感染したといた状況に対応できる体制が整ったが、「実際に使うかどうかは、それぞれの判断に任せています」(蓮沼常務)。出社してこなした方が、効率が良い仕事もあるならそうしてもらう。ひとつのやり方に絞って全員が合わせるのではなく、さまざまな働き方に対応可能な仕組みを整える方が重要というスタンスだ。

「ケアマネージャーは書類の作成をすべてパソコン上で行えるようにはなっています。ただ、実際の業務となると、契約時に印鑑が必要だったり、提出のために市役所まで出かけたりといった、リモートやデジタルでは置き換えられない部分もまだ残っています」(蓮沼常務)。行政側で、書類をメールで受け取れるようにする動きは出ており、「そうなれば、移動時間が減って他の仕事に打ち込めます。そうなってくれることに期待しています」(蓮沼常務)

金子代表の話を月に1回ビデオとメールで配信。職員はどちらで見るかは選択できる

金子代表の配信ビデオを見る職員の方々

金子代表の配信ビデオを見る職員の方々

最近は、金子代表が話したことを社内向けにビデオで配信することも始めた。「朝礼のようなもので、月に1回のペースで配信しています」と金子代表。別にメールでテキストデータも配信しており、「見るのが手間なら読んでもらえれば良いと考えています」(金子代表)。ここでも職員が“選べる”ようしている。いずれは職員が個別に気付いた改善点を話してもらうなど、コミュニケーションと情報の共有を両立できるようなものに発展させていきたいそうだ。

「急がば回れ」中小企業のデジタル化の一つの道を提示

「後発だからこそ、よりよいサービスを提供できるのではないかと思います」と蓮沼常務。幾つかの高齢者向け施設で利用が始まっている、寝ている人の状況を感知するベッドセンサーをケア・コスモスではまだ導入していないが、「すでに導入された事業所から情報を聞いて、適切なものを取り入れていければと考えています」(蓮沼常務)。急いで導入するよりも、必要になった時に必要な機能を持ったものを導入できるよう、常にアンテナだけは張り巡らせておく。

義務化が予定される、自動車運転者へのアルコール検知を行うシステムについても、「先走って使い勝手が良くないものを導入すると、仕事の方をそれに合わせなくてはならなくなって、窮屈になってしまいます」(蓮沼常務)と、ここでも見極めのスタンスを崩さない。派手さはないが、必要とされることを着実に進めていく。先行した人がデジタル化の良さを認識すれば、その良さが慎重な人にも伝わり、着実に成功のストーリーを作れる。「急がば回れ」という言葉があるが、まさにその実践のような事例だ。

ケア・コスモス本社

ケア・コスモス本社

事業概要

会社名

株式会社ケア・コスモス

住所

群馬県桐生市相生町5丁目572番地1

電話番号

0277-52-8115

創業

1998年10月1日

従業員数

185人(2022年10月1日現在)

事業内容

介護保険法に基づく指定介護事業(老人ホーム、グループホーム、デイサービスなど)

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