若手リーダーを中心に、目詰まりしていた組織を一気にICT改革、手探り経営からデータ主義経営へ 奥友建設(兵庫県)
2022年10月19日 06:00
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奥村組の協力会社として前身を含め50年以上の歴史を持つ奥友建設株式会社は『現場ごとのアナログ的な管理からICTを活用した誰もが見える施工管理』という全工事現場の見える化と効率化に着手した。けん引役となったのが、現場の責任者として活躍中の若手所長たちだった。(TOP写真:高速道路建設現場)
奥村組の施工専門チームを源流に協力会社3社が合併して創業。鉄道関連工事など多彩な事業に携わる
奥村組はかつて社内に直庸(ちょくよう)班と呼ばれる施工専門チームをいくつか持っていた。協力会社に業務委託するのに比べると、本社の意向が通じやすくきめ細かな施工が可能で、それが奥村組の強味でもあった。しかし、業務の効率化を進める中で見直され、1970年代初めに直庸班はそれぞれ工務店として独立、事業ごとに協力会社として契約するようになった。
奥友建設はそんな工務店3社が合併して、1998年9月に設立された。その後も奥村組との協力関係は堅持され、鉄道関連工事や道路関連工事など奥村組の多彩な事業を1次協力会社として受注してきた。
奥友建設の川口武志社長は、大学土木科を卒業後、奥村組に入社。主に施工管理などを手掛け、2020年春、60歳で西日本支社原価管理部長から奥友建設社長に転身した。奥友建設としては3代目の社長にあたる。
「会社の価値を高めなければ生き残れない」と語る川口武志社長
「奥村組に比べ、ICT環境は10年以上遅れている」と危機感を抱いた
社長になって奥友建設の業務環境に驚いた。「ICT環境は奥村組に比べると10年以上遅れている感じでした」。毎朝、各現場に電話し「今日は何人出ている?」と聞いてその日の出勤者数を確認、日報など文書の書式も現場ごとにバラバラ。社員は現場から直帰するので現場が異なれば話す機会もなく、社員同士のつながりも希薄で、社長自身も各現場へ出向かなければ何もわからない。「現場の監視カメラを見て、人が動いていたら、とりあえずケガはしていないかと……」。こんな状態に危機感を抱いた。
中堅社員に、ICTによる業務改善の提案を要請。プロジェクトチームが始動、様々な無駄や非効率が指摘された
「今は奥村組の仕事を受注できているが、これからは自社の価値を向上させないと、生き残れない」。川口社長は3つの基本方針を打ち出した。
(1)会社の価値(ブランド力)の向上(2)持続的な(サステナブル)成長(3)人を大切にする、社員が誇れる会社へ―
この方針の下、現場所長の30歳代の中堅社員5人を集めてプロジェクトチームを組み、「業務改善をしたい。意見を出してもらいたい」と求め、「費用対効果でプラスが見込めるなら何でも採用する」と促した。社員の発案をベースにトップが決断する仕組みが功を奏し、自分たちで改善していこう、という前向きな意識が社内に生まれた。「工事の日報や出面報告など本社への提出書類の書式が現場ごとに違っている」、「現場所長が個人的に社員に教えている」、「組織として新人教育できるように社内書類を統一すべきだ」、「現場で使う資機材を現場ごとに見積を行い使用している」。様々な無駄や非効率さが指摘された。
こうした意見が出され、検討する中で、プロジェクトチームはグループウェアによるスケジュール管理や統一フォーマットによる書類の共有等の導入を提案。川口社長も了承した。
奥友建設の工事現場
工事データの共有、Web会議で情報の共有やコミュニケーションが急速に進んだ
導入したグループウェアは、ファイル共有、チャット、Web会議などができるソフトだ。「これまで各現場のデータはUSBやパソコンに入れて現場へ持って行っていたが、クラウド上のグループウェアの中でファイルを作ることで、どこでも見られるようになった。パソコンだけでなく、スマートフォンでも見ることが可能になって仕事の効率がぐんと上がった」と川口社長。離れたところにある資材置き場の状況もいちいち電話で確認しなくてもよくなった。
工事日報や原価管理、点検表、工程表、元請会社への提出書類など、工事では膨大な情報を処理する必要があり、これらがデータとして共有されることで業務効率は格段に上がった。
今までは、ばらばらの現場で直行直帰のため、社員同士が顔を合わせることも話をすることもめったになかったが、Web会議やチャットのおかげで定期的に打ち合わせすることが可能になった。プロジェクトチームのメンバーの中村慎太朗さんは「Web会議やチャットで社員同士がやり取りできるようになり、社内の風通しがぐんとよくなった」と手ごたえを話す。
定期的なミーティングでコミュニケーションが円滑に
ホームページも就職活動を意識して大幅に改善
プロジェクトチームでは「今の若い人の就職活動はホームページを見ることから始まる」との指摘もあり、ホームページも刷新した。最近の求人情勢は大手建設会社でも定員割れが出るほどで、中小企業の慢性的な求人難が続いているが、中村さんは「ホームページの刷新後、ホームページを見たという新卒者の問い合わせが増え、毎年入社してくるようになった。われわれの次の世代の育成に希望が持てるようになった」と意欲を燃やしている。
奥友建設のホームページ
兵庫県、尼崎市の公共事業の入札にチャレンジ。自らが考え判断し、責任を持つ人を育成する
「元請もできる会社へ」と、奥友建設がチャレンジしようとしているのは、独自に兵庫県や尼崎市の公共事業を受注し元請会社として工事全体を管理すること。そうすると今までのように元請に相談することはできない。自らが考え判断し責任を持つことが求められる。すでに特定建設業の許可を取り、県・市の公共事業の入札参加資格も取っており、入札に参加し受注する態勢は整っている。「奥友建設は、奥村組の協力会社として大きな工事に携わってきており、社員のスキル・ノウハウは他の中小企業にはないものを持っている」と川口社長。こうした挑戦を支える上でもICT化が不可欠と考えている。
社内風景 総務部のスタッフもICTによる事務効率化に期待している
5D時代に対応できる建設会社が目標
建設・土木工事のICT施工は、トンネルなどのシールド工事をはじめ、熟練工の減少を背景に重機分野で先行している。川口社長自身、奥村組時代に新名神高速道路の建設現場でドローンを飛ばして三次元モデルを作り、そのデータを掘削機にインプットして自動で地面を切り取っていく工事を経験した。
「その3Dに時間と経費のデータを加え、工事の経過とコストもリアルタイムで把握できる5Dデータの時代が、やがて主流になると思う」。川口社長は「ICT化は生産性の向上こそが目的」として、そんな時代に対応できる奥友建設を心に描いている。
社員全員が助け合ってレベルアップを図る会社にしたい
直近の目標は遠隔臨場システムの構築だ。今年入社した若手社員も5年後には現場所長を経験することになる。彼らが現場で課題に直面し、相談したい時には、例えばヘルメットにつけたカメラで現場を映し、本社にいるベテランがその映像を見ながら助言できるようにしたいという。社員全員が助け合ってレベルアップを図る。そんな一人ひとりを大切にする会社に。その意味でも今回のICT化の取り組みの中で社内に生まれた活気、一緒に改善していこうというムードは大きな原動力になる。
同社は来年にも社屋の建て替えを予定している。システムのICT化を推進しやすいチャンスだ。新社屋にふさわしい新しい奥友建設が誕生するに違いない。
奥友建設社屋玄関。近く建て替えられ、ICT化も一段と推進される
事業概要
会社名
奥友建設株式会社
本社
兵庫県尼崎市南武庫之荘9丁目11番地48号
電話
06-6436-0171
創業
1998年9月1日
従業員数
36人
事業内容
建設業(土木・建築工事)大型造成、鉄道工事、下水処理場築造工事、高速道路建設工事、耐震補強工事など
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