まずはクラウド出退勤管理から スモールスタートで戦略的にICT導入を進めた 古志建設運輸(富山県)
2022年10月18日 06:00
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夏場は海水浴客やキャンプの客で賑わう富山湾の浜黒崎海岸を背にして、有限会社古志(こし)建設運輸の本社は建っている。5年ほど前まで、ここに従業員が毎朝集まっては、富山市内を中心とした土木工事や解体工事の現場へと向かっていた。帰りも「残業は行わない方針なので、午後5時までに事務所に引き上げてきて終業にしていました」と、石田浩一代表取締役は振り返る。
古志建設運輸の石田浩一代表取締役
スマホアプリで出退勤管理し直行直帰を実現
今は、現場への直行直帰が原則だ。「移動の時間がもったいないですから」。その実現のために同社では、従業員一人ひとりがスマートフォンで出退勤を入力するシステムを導入した。家を出て工事現場に到着した従業員は、「スマホでアプリを開いてボタンを押すだけで出勤を記録できます。退勤の記録も同じようにスマホから行えます」
働く人にとっては本社に行ってから現場へと移動する手間がなくなった。結果的に現場で作業する時間が増えて業務効率がアップした。事務の面でもクラウド上に入力されたデータから勤務状況を集計できるため、時間や人出を減らすことができた。
クラウド出退勤管理で余裕作り、まずは情報共有化を推進
ここで重要なのは、同社が勤怠管理関連の効率化だけを目指していたのではないということだ。「目に見えて結果が出やすい分野だから、まず手をつけました」。そして、デジタルへの移行によって生まれる時間的・心理的な余裕を石田代表取締役は、全社的な情報の共有化を実現することに振り向けた。「以前は本社に集まってから現場に出ていたので、従業員から話を聞いたり、従業員同士でお互いの現場の話をしたりして情報を共有していました。直行直帰にしたことで、自分の現場しか分からなくなってしまったんです」
最初から想定していたことだったので、まずは時間を作り出すことに注力し、軌道に乗ったのを見てから次の施策に踏み切った。すべてを一度にやろうとしてもうまくいかないことが多い中で、段階を踏んで改善していく同社のやり方は、これからICTの導入を考えている中小企業にとって参考になりそうだ。
情報の共有化においては、業務アプリ構築用のクラウドサービスを導入し、現場の進捗状況などを従業員に入力してもらうようにした。土木工事など作業期間が長くなる現場が多いため、日報のように毎日記録することは求めていないが、それでも週末までに記録するように言ってあるという。これによって数週間単位という精度を持った情報が集まるようになった。
現場の状況を全従業員が把握可能になり、本社や現場同士の調整が進む
どのようなメリットがあるのか。「他の現場の進捗状況が分かるようになって、全体の効率が上がることですね」と石田代表取締役は指摘する。土木工事でも解体工事でも、ある現場でそのまま作業を進めていけば、いずれ資材が不足する可能性が出ていたが、現場の作業員は気づけなかった。「2週間後に資材が必要になるにもかかわらず、放っておいて直前に言っても、明日届くことは絶対にありません。何ヶ月も前から押さえておいて、近くなったら確定させることをしなければ間に合いません」
情報が共有化されていれば、マネジメント担当者が状況を把握して、早い段階で手を打つこともできる。「自分の現場だけでなく、他の現場の状況も分かるようになったことで、他の現場がこの工程で進めると、自分の現場の作業とバッティングする可能性が出ると見て、自社ではなく外の事業者を使うといった調整をするようになりました」。コロナ禍の影響もあって世界的な資材不足が続いているだけに、高い精度で状況を把握し臨機応変に手を打つ上でも、情報の共有化は効果を発揮している。
運輸という言葉が社名にあるように、もともとは工事現場を行き来するダンプカーを使う運輸業務を手掛けていた。ほどなく道路の改良や橋梁の建設といった土木工事、小学校の取り壊しのような解体工事へと進出。解体工事については「富山で解体工事なら古志建設運輸」といった触れこみでPR活動を行うほどで、企業サイトとは別に専用サイトも作って情報発信を行っている。
時間あたりトップの処理能力を持つ産廃処理。資材高でリサイクルニーズが増え受注が何倍にも増えた
特徴は、建設から解体、そして産廃処理までワンストップで対応できる体制。とりわけ産廃処理は、富山市内にリサイクルプラントを持ってがれき類の処理に当たっている。「施設の時間あたりの処理能力は富山県でも一番だと思います」。事業を始めるにあたり、県内の同業者のやり方には合わせず、全国の産廃処理業者が行っている方法を取り入れたことが差別化につながったとのこと。処理したものは道路などに敷く砕石用などに出荷され、1%も残らないというからリサイクル率も極めて高い。
「今は新品の資材が高くなっています。リサイクルされた資材を使うことを求める工事も増えています。その意味で当社の事業もまだまだ需要はあると思っています」。従来の土木工事や解体工事も含めて顧客の数も増えるばかり。「10件あるかないかくらいだったものが、今は7、80件くらい抱えています。その請求業務を以前はExcelに記録して自分で作っていました」
請求書作成・発行業務をクラウドシステムで効率化
夜中まで作業を行うこともあったが、忙しいからといって他の人に任せようとしても、「自分でExcelを作ったため教えても分かりづらかったようです」。これでは時間ばかりがとられてしまうと、同社では請求管理クラウドシステムを導入した。「これなら取引ごとに現場で入力していけば、打ち間違いに注意する必要はありますが、自分が取りまとめなくても請求書が作れてしまいます。発送も代わりに行ってくれますしメールでの送信も可能です」
トラックスケールの計量データを請求書へ反映にチャレンジ
こうして生まれた余裕を生かし、同社では次の施策に着手している。「計量システムと請求書作成システムを連係させて、計量の結果を自動的に請求書へと流し込むようなシステムを開発している最中です」。トラックスケールという、トラックごと載せる形で積載物の重さを量る装置がある。今は表示される計量結果を担当者が打ち込んでいるが、「トラックスケールに載せてボタンを押すだけで済むようになります」
いくらミスが出ないように気をつけても、「人間がやっていることなので、ヒューマンエラーが起こる可能性はゼロにはできません。そのため出てきたデータをチェックする必要がありましたが、やはり作業としてはムダなんです」。そこを減らすために、計量から記録までを一気通貫して自動化する必要があった。
課題はある。「トラックスケールは計量証明を発行する機械なので、そのままでは計量データを抜き取りづらい仕様になっています。アウトプットしたデータを請求書作成アプリへと移す連係をうまく取る必要があるんです」。当初は9月の導入を目指していたが、データを通信する仕組みのチェックを重ねた上で、年内の稼働を目指すという。
時間を作って対面でのリクルート活動を推進
効率化に取り組む一方で、石田代表取締役は生まれた時間を人材の確保に使うようになった。「無料の広告をいくら出しても、人はなかなか来てくれません。直接会って話をする必要がありました」。以前はそうした時間がなかなかとれなかったが、今はセミナーなどにも参加して直接声をかけるようにしているという。
土木工事や解体工事、産廃処理といった事業は外から見ると泥臭さが感じられ、敬遠されがちだが、残業がなく休日も確実にとれる職場であること、ICTの導入によって業務効率が格段に上がっていることなどを知れば、興味を持つ人も出てくるだろう。そうした活動が可能になったのも、最初に「どうすれば時間を作れるか」に取り組んだから。ロードマップを描き、着実に変えていこうとする意識を持ち、実行していく意思の大切さを感じさせる経営だ。
事業概要
会社名
有限会社古志建設運輸
本社
富山県富山市浜黒崎3195-7
電話
076-438-4170
設立
1986年8月
従業員数
16人
事業内容
貨物自動車運送事業/建築工事業/土木工事業/建物解体業/建設残土の処理/土石採集販売業/宅地建物取引業/産業廃棄物の収集・運搬・処理など
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