製造業(医薬品)

生薬一筋90年。次の一手に、情報整備とセキュリティ強化 栃本天海堂(大阪府)

From: 中小企業応援サイト

2022年11月02日 06:00

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「安定供給の危機は阪神・淡路大震災の時にもありました。がれきが散乱する被災地エリアの得意先にうちの製品を届けるために、急きょ4台の原付バイクを用意して、防じんマスクにサングラスという出で立ちで搬送したんです」。こう話すのは、創業90年を迎えた漢方薬総合卸メーカー、株式会社栃本天海堂の三代目栃本大輔社長だ。栃本天海堂の薬を待っている人のためにどのような状況でも届ける使命がある。

コロナ禍を乗り切ろうとする老舗企業は、天産物の安定供給一筋に

1932年に大阪で漢方薬店として産声をあげた栃本天海堂は、自然の恵みから生まれた「天産物」のみを扱う漢方薬総合卸メーカーとして、生薬を中心に、健康茶・健康食品素材、ハーブなど幅広い分野の製品を全国約3000軒の医療機関、薬局、薬店、メーカーへ納入している。

国内はもとより中国やラオスにも原料調達拠点を持ち、厳選された天然素材=「天産物」を製造・販売している大阪でも老舗と言える企業は、コロナ禍による環境激変を機にテレワークやリモート会議を採り入れた。身近に起こった通信企業大手による通信障害をきっかけに、まさかの時にも安定供給が滞らない方法を模索中だ。モバイルアシスト電話やテレワーク機器の導入を図りつつ、2025年の大阪万博やその先に来るであろうDX時代に適応していこうとしている。

会議室ケース内の生薬

会議室ケース内の生薬

福知山に工場を新設。周辺でも圃場(ほじょう)を作り、栽培農家の協力も得て

良質の生薬の原点は天産物である原材料をいかに安定的に確保するかにかかっているため、生薬の栽培や商品開発に力を入れている。創業からわずか10年で中国からの本格的な輸入を手がけ始めた栃本天海堂は、それから4年後の1963年には中国からの生薬買い付けを独占できる日中友好商社の指定を受けるまでになっている。やがて中国が市場経済へ移行し、国内他社が中国市場への参入を始めると、それまで安定していた生薬の品質が徐々に低下し供給への不安も露呈してきた。幸いにも栃本天海堂は、1989年の天安門事件の際にも優先的な供給先として影響をほぼ受けずに済んだ。しかし事業環境が大きく変化していく中、2012年には中国以外にも供給拠点を持つため、東南アジア生薬原料基地としてラオスに現地法人を設立した。

2010年には京都、福知山の林業家や農家の協力を得て休耕農地や林間の適地を借り受け、2ヘクタールの自社圃場(ほじょう)を創設。生薬は品種改良ができず原種に近いものを選別し、最も適した土地で栽培する必要のある難しい作物だ。生薬の栽培をやってみたいと声をあげてきた現地農家の協力も得て、国産生薬の回帰に向けて本格的な栽培に取り組んでいる。
その福知山の地に2022年2月、最大保管数量1500トンを誇る倉庫を持つ福知山工場を新設した。この工場新設の背景にはやはりコロナ禍の影響があった。中国から生薬を運ぶ海運が滞る状態が発生したのだ。十分な安定供給責任を果たすためには通常取扱量の1.5年分を在庫しておく必要がある。そこで現主力の柏原工場にも近く流通利便性も高いこの地に倉庫を集約した。将来的には福知山工場内に、医薬品や健康食品を作る製造棟の建設も計画している。

福知山工場

福知山工場

通信障害等の緊急時も得意先との連絡ができ、業務が遂行できる環境が重要

前述した通信大手の通信障害は、阪神・淡路大震災時を思い出すほどの安定供給への危機であった。
※2022年7月2日に起きたKDDI(au)の通信障害は、3日間に及び約4000万回線に影響を及ぼす大規模な事故に発展した。音声通話だけでなく、インターネットサービス、や社会インフラ(運送、交通機関、金融、電力)に大きな影響を与えた。
「品質の栃本」と言われる信頼の背景には、得意先へ安定した価格で滞りなく届けるという確固とした裏付けがなければならない。しかし突然発生した通信障害は思いもよらない混乱を引き起こし、栃本天海堂も大きな影響を受けた。
ルート営業部隊にモバイルWi-Fiを持たせ、スマートフォンの4Gと複数の通信回線を持つことで、何とか客先に迷惑をかけずに納めることができた。しかしこの経験から、いつ起こるとも知れない障害は何の予告もなくやって来るものだと再認識した。今後は専用線の整備なども視野に入れた緊急時対策を検討している。

コロナ対策から、密を避けるためのWEB会議を実施、部署間の効率的な会議の実現と費用の削減につながった

各部署を繋いだオンライン会議

各部署を繋いだオンライン会議

コロナ禍の影響はこの会社にも否応なくテレワークやWeb会議への対応を余儀なくさせたが、予想以上にプラスの効果をもたらしたのはWeb会議だった。
もともとテレワークに適した業種ではないため、密を避けるために社内にワークスペースや打合せ室を作り感染対策を行ってきた。その中でも月2回の業務システム会議は、本社のモニターを通じて製造部、工場、各物流センター、開発業者等をつなぎ、オンラインで実施した。Web会議にすることで効率的な討議が行われ、延べ移動120時間/月、経費10万円/月の削減につながった。

また、栃本天海堂の要とも言える部員15名の原料部では、プロジェクターとスクリーンを使った部内会議で紙の資料を減らすことから始め、さらにはパソコンと連動させることで、年間3600枚のペーパーレス化を実現することができたという。まだまだプリンターをフル回転させることの多い中小企業の会議で、コツコツとICTの効率的な活用を積み重ねている原料部の大岸幸辰課長の努力は、3年後には大きな差となっているに違いない。

大岸幸辰課長

大岸幸辰課長

アウトソーシングによる情報管理と、ネットワーク構築・保守・廃棄まで見通したICT推進で、漢方薬総合卸メーカーの未来を創る

取り扱う天産物の良し悪しを見分ける五感品質(触感、匂い、色味、音、味)というアナログな目利きも重要なノウハウの一つと言う栃本社長は、「デジタルとアナログを今後どうすみ分けていくかが重要」と考えている。

霊芝の実物

霊芝の実物

機密情報の管理やセキュリティ対策のため、ネット接続を監視し、管理下のコンピュータを管理できるシステムを導入。監視システムに対応するパソコンへの入れ替えを順次実施。2年前からはアウトソーシングも積極的に利用することで、デジタル機器の採用からライフサイクル計画、ネットワーク構築、そしてデータイレース&廃棄までのコスト効果も考慮したICT化を進めている。

『生薬』の歴史は1500年。その『生薬』を扱う企業として、現在まで情報が漏洩したことはないが、より進化したソフトやハードの装備とネットワーク構築を図ることで、社内の小さなトラブルも激減したという。言うまでもなく、個人パソコンの持ち込みや会社パソコンの持ち出しは厳禁であり、経理や在庫管理のシステムは他のシステムとつながらないように設定されている。今後はサーバーのバックアップも含め、全社的な仕組みづくりが進むだろう。

「情報管理は、何の情報をどう守るかが重要」と語る栃本社長は、「ICT化は薬局が一番進んでいる。こういう客先に対応する部門は流れに乗り遅れてはならない」と、情報の共有と保護という大きなテーマを、明快な思考で見極めている。2025年に開催される大阪万博はリモート万博になると言われている。その玄関口で創業100年に向かう栃本天海堂は、自然災害や食糧危機、資源破壊や環境汚染に対峙しながら、天産物の調達から販売までの安心と安全を厳しくウォッチし、必要な所に効果的なICT技術を投入していく企業として、独自の未来型経営を実現していくことだろう。

栃本天海堂事務所

栃本天海堂事務所

時代の要請を受けながら変化しつつ100年企業へと成長する鍵は、頑なに守ってきた創業の魂を受け継いでいくことにある

初代の頃からの顧客でもあった聖光園創設者・細野史郎院長(東洋医学の振興に一生を託した)からは「最高の生薬を使って治療しなければ、もし効果がなかった時に薬が悪いのか自分の診断が間違っているのか判断できなくなる」と、常に良質の生薬を求められたという。「良質の漢方の実践を支えるのは、良質な生薬の安定供給が必須」と言われるゆえんである。この想いこそが、人々の健康と自然に感謝する感性の創造を目指す「活人創志」という理念に込めた、栃本天海堂創業の意志と言っていい。

100年続く企業は、創業当時からの家訓や理念が頑なに受け継がれてきた賜物だと言われる。創業時から語り継がれてきた、「創意工夫第一、悪い品は扱わない、時間があれば読書、そろばん、習字」という教えと創業の理念は、今もこの会社の精神そのものであり、ICT化推進の明快なガイドラインでもあると言えるのではないか。

栃本天海堂本社

栃本天海堂本社

事業概要

会社名

株式会社栃本天海堂

本社

大阪府大阪市北区末広町3番21号

電話

06-6312-8455

設立

1949年12月23日

従業員数

130人

事業内容

医薬品、医薬部外品、化粧品、健康食品の輸入・製造・販売、生薬・民間薬・ハーブ・健康食品などの輸入・製造・販売、機能性植物素材、健康茶素材、健康食品素材の原料の輸入・製造・販売、漢方エキス製剤等の総合卸売販売、漢方相談薬局

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