建設業(設備)

御用聞きビジネスでニーズをキャッチ、いち早く新事業へ。ICTを武器に喜ばれるサービスを提供 金井田電業(栃木県)

From: 中小企業応援サイト

2022年11月07日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

われわれの暮らしに欠くことのできない電気エネルギー。その依存度は時代を追うごとに増し、家電からスマートフォンまで、今や暮らしのほとんどのツールが電気なくしては成り立たない。1950年に設立した株式会社金井田電業は、そんな変遷を目の当たりにしてきた。一軒の家におおむねただ一つの電球を灯す配線工事から始まった金井田電業の歩みは、太陽光発電やオール電化、電気自動車など、時代の最先端とともにあり、まさに日本の電気エネルギー史を物語る。

一方で、変わらないこともあった。それは、電気工事に携わってきた金井田電業の地域との根強い関係性だ。家庭や企業、店舗の電気工事を通して築いた信頼関係は、いつしか御用聞きビジネスへと発展し、現在も新しいニーズを確実に捉えている。そして、これを側面から支えているのがICTの活用だ。そこには、高齢化と人口減少の進む日本の各都市が抱える課題解消のヒントが垣間見えた(TOP写真は、金井田電業が建築部門として設立した株式会社ジェイ・ハウス・ビルダーズで手がけたモデルハウス。空き家を再生し、貸家とする取り組みを進めている)。

終戦の5年後に会社を設立。建築物の電気工事業で地域に欠かせない存在に

1998年に建て替えた金井田電業本社社屋。屋根に乗る太陽光パネルはその時に設置し、今でも現役だ。

1998年に建て替えた金井田電業本社社屋。屋根に乗る太陽光パネルはその時に設置し、今でも現役だ。

栃木県南部、佐野市田沼町に本社を置く金井田電業は、建物の電気工事をはじめ、太陽光発電やオール電化、電気自動車の充電設備といった電気設備の販売と工事業などを営む。また、2015年からは3代目の現社長が始めた住宅リフォーム業も順調だ。

金井田電業の歴史は、東京電力で技術者として勤めていた金井田貴社長の祖父が定年退職後に独立し、電気工事業の会社を興したことにさかのぼる。会社設立(1950年)当時、一般的な家庭で所有できた電球の数はおおむね一つ。今のように部屋ごとに照明がつく家庭など、ほとんどなかった。そんな時代に金井田社長の祖父は電柱から住宅に電気を引く配線工事と、当時配給制だった電球の販売も行っていた。金井田電業が電化製品を販売する「町の電気店」ではなく、「電気設備工事業」なのはここにルーツがある。そして、これこそが現在事業の柱として注力している住宅リフォーム事業へとつながっていく発端だった。

ほどなく迎えた高度成長期には住宅需要が急増し、電気工事の仕事も多忙を極めた。そして、1963年には金井田社長の父親も金井田電業に入社した。
「今はできませんが、私が子どもの頃にはよく、父に住宅の建設現場に連れていかれて、建て前なんかを見ていましたね。父はそこで電気工事をしていたので、『そのへんで遊んでいろ』っていう感じでしたから」と金井田社長は少年時代を振り返る。

手堅い経営を貫いた父。ただし、設備投資には躊躇なく決断

中学卒業の頃、父の病を契機に将来会社を継ぐことを決意した金井田貴社長。新しいソリューションに常に関心を寄せている。

中学卒業の頃、父の病を契機に将来会社を継ぐことを決意した金井田貴社長。新しいソリューションに常に関心を寄せている。

金井田社長が家業に入る決意をしたのは、高校に進学する頃だった。
「父が病に倒れ、余命半年と宣告されたので、これはもう自分が継ぐしかないと決意しました。ここが人生の分岐点だったと思います」。その時点から「将来自分が継いだ時に会社をどのようにやっていこう」と、そのことばかり考え続けてきたという。
そして、金井田社長は工業高校の電気科を経て専門学校へ入学、卒業後は会社規模の異なる3つの会社で電気工事士として6年間修行し、24歳の時に金井田電業に入社した。折しも、世間ではバブル崩壊の様相を呈していた。
「うちはバブル期に、工場など規模の大きい仕事も受注していましたが、抱えきれない仕事は下請けに委託していました。社員を増やして会社を派手に大きくしなかった父に、今は感謝しています」と、父親の経営判断に敬意を示す金井田社長。ただし、父親はこの先必要だと思われる設備への投資は惜しまなかった。
「父は地域ではいち早く高所作業車を導入しました。高額でしたが、結果的に作業の安全性が確保されたうえ、高所作業車があるということで月の半数は稼働するほど工事の受注数も増えました」。

幸運なことに、余命半年と宣告された父親は今もご健在だ。そして、金井田社長は自分が社長を継ぐ時に備え、市場の新しいニーズや活用できるソリューションを求めて業界のセミナーや展示会に足繁く通っていた。

最初に着目した太陽光発電。20年は持つ商品でないとおすすめできないと、安価な外国産には手を出さなかった

実演用に製作した移動式IHクッキングヒーター。200ボルトの発電機を車に搭載して各地に赴き、コーヒーをふるまったという。

実演用に製作した移動式IHクッキングヒーター。200ボルトの発電機を車に搭載して各地に赴き、コーヒーをふるまったという。

「最初に目をつけたのは太陽光発電です。うちは1998年に社屋を建て替え、その時に太陽光パネルを設置しました。いわば、実証実験ですね。今もパネルは問題なく稼働していますよ」。
金井田社長が参入した頃は、すでに外国産の安価なパネルが出回っていた。しかし「20年は持つ商品でないと地域のお客様にはすすめられない」と判断した金井田社長は国産の太陽光パネルにこだわったという。
「地域のお客様とは長いお付き合いになりますから、自分が良いと思うものでないとおすすめできません」と話す金井田社長。太陽光固定価格買取制度が始まった2011年には数多くの企業が太陽光発電事業に参入したが、今やそのほとんどが撤退しているという。
「いずれは太陽光パネルをつけないと家が建てられない、という時期が来ると思います。だから、儲け話に乗ろうという気持ちはありません」と冷静に状況を見定めていた。

お客様に喜ばれるなら電気工事だけにこだわらないとオール電化にも力を入れた

そして、次に金井田電業が力を入れたのがIHクッキングヒーターとエコキュートだった。
IHクッキングヒーターとエコキュートはリフォームで導入する家庭が多く、キッチン交換時に撤去したガスコンロまわりの清掃を行っていた。すると、普段手の届かないところがきれいになることからとても感謝された。加えて、女性スタッフも一緒に出向くため、掃除をしながら奥さんと世間話をしていた。それは、数多くのニーズを拾うチャンスでもあった。

「お客様が喜んでくださる仕事ができるなら、電気工事だけにこだわることはないと思いました」。御用聞きのようなビジネススタイルが自然に確立していき、この頃から、金井田社長は建築方面に目を向けるようになっていった。

「見えるものを形にして残したい」建築事業をスタート。「家のお掃除屋さん」で新たな顧客獲得を開始

骨組みにして、耐震補強と断熱工事を施し、住宅性能を高める工事を実施。内装には漆喰(しっくい)や無垢の木材などの自然素材にこだわったリフォーム工事を得意とする

骨組みにして、耐震補強と断熱工事を施し、住宅性能を高める工事を実施。内装には漆喰(しっくい)や無垢の木材などの自然素材にこだわったリフォーム工事を得意とする

2015年9月、金井田社長は株式会社ジェイ・ハウス・ビルダーズを設立、建築事業をスタートさせた。これまで電気工事を通じて数多くの建築現場を見てきた金井田社長には、ずっと心の内に抱えていた思いがあった。
「私たちの手がける電気工事の仕事は、常に床下や壁の中に隠れてしまいます。だから、私は『見えるもの』を形にして残したいと思ったのです」と話す金井田社長。さらに、もう一つの願いがあった。
「建築現場では、電気工事は工程の最初から最後まで現場で必要とされます。けれど、現場は複数箇所ありますから、私たちが行ける日と、大工さんに呼ばれる日が合わないこともある。ですが、建築現場は大工さんのペースで進むので、私たちが合わせないといけないのです。だから、自分で現場を仕切る立場になれば、好きなように工程を組めると思いました」。

電気工事以外の施工箇所は、これまで建築現場で共に働いた専業の仲間たちとチームを組んで作業を行っている。「この業界は全国どこにでも仲間がいますから、商圏の違う仲間や工務店さんに頼んだり頼まれたり、という関係が可能なのです」

顧客獲得にもユニークな策を講じた。IHクッキングヒーター導入時の清掃で喜ばれた経験から、清掃業を介せばスムーズに家に入れると考えた金井田社長は、清掃業のフランチャイズに加入した。また、タイミング的に地元工務店の多くが店を畳んでいたことも味方した。それらの工務店で家を建てた住人からリフォームや修繕を頼まれたのだ。こうして、御用聞きや口コミによって徐々に顧客が増えていった。

平面図から立体図に自動変換。ICT(CG)の導入で設計の打ち合わせがスムーズに

手書きの平面図から立体図に変換できるソフトウエア。平面図からのイメージがつかみにくい施主との打ち合わせに効果を発揮している。

手書きの平面図から立体図に変換できるソフトウエア。平面図からのイメージがつかみにくい施主との打ち合わせに効果を発揮している。

建築設計においては、ICTの導入が功を奏した。金井田社長はたびたび足を運んだセミナーで出会った建築用シミュレーションソフト(CG)に惚れ込み、補助金を利用して5年前に導入した。このソフトは平面図を立体図へと変換できるため、打ち合わせ時に顧客が間取りのイメージをつかみやすく、打ち合わせをしながらの変更も容易だ。金井田電業では、金井田社長のほか事務員2人で操作を習得し、出先からの変更指示にも対応できる体制をとっている。
「建築の知識を補えて、お客様に『こういうものができますよ』と示せるものが欲しかったんです。このソフトを入れて5年がたちますが、お客様が実際のイメージをしやすいので打ち合わせがスムーズですね」と金井田社長は手応えを感じている。

せっかくの家を20〜30年で建替えるのではなく、住み継いでいただくためのリフォームを提案。CG効果もあり業績は大幅に上昇

「ヨーロッパでは100年間は家族が家を受け継いで暮らしています。でも、日本は20〜30年で壊して新築する人が多い。もったいないと思って」と語る同社はリフォーム工事を得意とする。民家をほぼ構造材のみのスケルトンにして耐震性・断熱性を高める工事を行い、水まわりは最新の設備に入れ替えるとまるで新築のような家によみがえった。内壁には漆喰(しっくい)、床材には天然の無垢材を使用するなど、自然素材にこだわっている。そして、CG導入初年度の2015年は年間26棟だった実績は、翌年には50棟、2年後には100棟となり、この2年間はコロナ禍で目標着工数には届かなかったものの、補助金申請時に立てた数値目標は難なくクリアした。

電気自動車の普及を念頭に、家庭用充電コンセント工事をいち早く手がける

充電気自動車・プラグインハイブリッド車用の家庭用充電コンセント工事を10年前から手がけている。停電時には家電製品への充電も可能だ

充電気自動車・プラグインハイブリッド車用の家庭用充電コンセント工事を10年前から手がけている。停電時には家電製品への充電も可能だ

金井田社長が今後注目するのは、電気自動車の普及だ。
「うちでは12〜13年前に電気自動車を購入しました。今はガソリンが高値ですからいいタイミングですが、当時は電気で車が走るなら!と思って導入したんです。でも、高価でしたよ。いつもちょっと導入が早すぎるんですよね」。
しかし、いち早く電気自動車を導入したことが功を奏し、自動車メーカーから充電ステーションの設置工事を請け負うようになった。さらに、最近戸建てを対象とした家庭用充電コンセント工事のPRも早々に始めている。
「今後EVスタンドが増えなければ電気自動車は増えません。国が普及の方針を掲げている以上、われわれはこの波に乗るしかない」と先を見据える。一方で、電気自動車は災害時に家庭へ電気を供給する蓄電池としての役割も果たすと指摘する。

電気工事を担う人材が不足、AIに技術継承をする日がきっと訪れる

金井田社長に、電気をめぐる気になるトピックスを尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「AIに関してはこれからすごいことになると思います。いずれほとんどの商品にAIは搭載されるでしょう。電気工事業界においては人材が減っていますし、技術の継承が課題になります。でAIがあれば、人がやらなきゃいけない部分とそうでない分を分担することができる。AIからの指示があれば、技術者でなくても電気工事が可能でしょうし、遠隔でも作業はできますよね。近い将来、AIに技術継承する時代が来るんじゃないでしょうか」。

地域との関係づくりにも力を入れ、ホームページでも関係づくりのために発信を続ける

一方で、対面でなければできないこともある。金井田電業の店頭には、コロナワクチン接種申込をするために地域の高齢者が続々と集まってきたという。コールセンターへの電話がつながらず、Webでの申込も困難な高齢者の申請を手伝ったという金井田社長は、前述のように「お客様に喜ばれることなら、電気工事でなくてもいい。売るものやサービスが変わってもいいと思っているんです」と柔軟に構えている。

そんな金井田電業は、ブログ作成ソフトを活用してホームページを作り、多岐にわたる事業内容を詳しく伝えている。社員数6人の電気工事店でありながら、ホームページの内容の充実ぶりには驚くが、それも自らの手でお客さまとの関係を築きたいというサービス精神の賜物と感じられる。ICTとアナログのハイブリッドともいうべき御用聞きビジネスは、これからも同社と地域をつなぐ太いパイプとなるだろう。

事業概要

法人名

株式会社金井田電業

所在地

栃木県佐野市田沼町621-1

電話

0283-62-7373

設立

1950年4月1日

従業員数

6名(2022年8月現在)

事業内容

電気設備工事、全電化リフォーム工事、太陽光発電システム販売・工事、住宅リフォーム工事、電気自動車推進事業、コインランドリー事業

記事タイトルとURLをコピーしました!

業種別で探す

テーマ別で探す

お問い合わせ

中小企業応援サイトに関連するご質問・お問い合わせは
こちらから受け付けています。お気軽にご相談ください。

お問い合わせ

中小企業応援サイト

https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/

「中小企業応援サイト」は、全国の経営者の方々に向け、事例やコラムなどのお役立ち情報を発信するメディアサイトです。"

新着情報をお届けします

メールマガジンを登録する

リコージャパン株式会社

東京都港区芝3-8-2 芝公園ファーストビル

お問い合わせ先:中小企業応援サイト 編集部 zjc_smb@jp.ricoh.com