福祉業(その他)

1000枚のTシャツアートの制作にガーメントプリンターをフル活用し福祉×アート×観光の視点で砂浜を美術館にする 認定NPO法人ころん(和歌山県)

From: 中小企業応援サイト

2022年11月01日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

太平洋を臨む真っ白な美しい砂浜が広がる和歌山県西牟婁郡白浜町の白良浜で、バリアフリーアートイベント、「白良浜deひらひらTシャツアート展」が11月3日から6日にかけて開催される。この官民協働のイベントで企画・運営を担う和歌山県の認定NPO法人ころんが、展示するTシャツアートの制作に衣服印刷用のガーメントプリンターをフル活用し、障害者が携わる事業の新しい可能性を切り開いている(TOP写真:昨年開催された白良浜deひらひらTシャツアート展の様子)

障害を持った子どもたちのために活動するNPO法人ころん

2012年8月に設立されたころんは、障害を持った子どもを対象にした通所支援事業、日中一時支援事業、相談支援事業に取り組んできた。近年は設立当初から施設に通う子どもたちの成長に合わせて生活介護事業を開始するなど事業の幅を広げている。ころんのサービスを利用する人は50人にのぼり、42人のスタッフが日々の活動をサポートしている。

Tシャツアート展の開催でNPO法人ころんが中心的な役割

「2019年に白浜町から障害者交流イベントの提案があり、指定管理者としてTシャツアート展の運営を受託することになりました。デザインに取り組んでいる障害者の活動を後押しするためにイベント運営のノウハウを蓄積していきたいと考えています。1回目の準備は未経験のことばかりでコロナ禍にも見舞われるなど大変でしたが、白浜町や地元に立地する数多くの企業の皆さんに支えていただいたおかげで開催することができました」と取材に応じた小川麻美理事長は振り返った。

小川麻美理事長

小川麻美理事長

砂浜を美術館に見立てて、Tシャツアートを展示 大きな反響があった

Tシャツアート展では砂浜を屋外美術館に見立てて、アート作品を印刷したTシャツを洗濯物を干すようなスタイルで展示する。福祉とアートと観光を掛け合わせたイベントとして昨年11月に初開催したところ、大きな反響があり、継続開催されることになった。車いすでも移動しやすいように車いす用のビーチマットを敷設するなどバリアフリーの視点で会場を設営するにあたり、ころんで活動する障害者のアドバイスが大きな役割を果たした。

Tシャツ アート展は車いすが動きやすいようにバリアフリー化されている

Tシャツ アート展は車いすが動きやすいようにバリアフリー化されている

イベント情報発信にドローンで撮影、YouTubeに配信、大きな効果

1回目の開催にあたり、PR動画用の撮影にドローンを使い、YouTubeで情報発信するなど最新の技術やICTを積極的に活用した。その甲斐もあって当初の想定より約3倍の919点の応募があり、開催期間を通じて約2000人が白良浜に足を運び、海水浴のオフシーズンにもかかわらず賑わいを生んだ。「Tシャツアート展を開催することで、これまでつながりがなかった大勢の方々と知り合えることができました。障害者の支援活動の輪を広げていく上で本当に大きな財産になっています」と小川理事長は話した。

昨年開催された白良浜deひらひらTシャツアート展の様子

昨年開催された白良浜deひらひらTシャツアート展の様子

Tシャツアートの制作に新型ガーメントプリンターが大活躍

展示用のTシャツはオーガニックコットン100%で、和歌山県内の企業や福祉作業所が生産。出展作品の募集と作品をTシャツに印刷する作業はころんが担当している。出展者から送られた作品のデータをTシャツに印刷する上で大活躍しているのが今年6月末に導入した衣服印刷用の新型ガーメントプリンター(衣類=Garmentに直接印刷できるプリンター)だ。

今年6月に導入した新型のガーメントプリンター

今年6月に導入した新型のガーメントプリンター

ころんでは以前から障害者がデザインしたアート作品を印刷したシャツ、カバン、ポーチを制作・販売するために別のガーメントプリンターを使っていたが、今回導入した新型のガーメントプリンターは、品質の高い仕上がりを実現する上で欠かせない白インクの印刷機能を備えるなど性能が大幅に向上している。印刷する素材によって差は出るが標準品質なら1枚あたり十数秒で印刷することが可能だ。

「衣類をセッティングする作業もこれまで使っていたガーメントプリンターと比べて簡単に行うことができます。自動化も進んでいるので手作業の数も少なくなりました。日常的なメンテナンスもしやすいのでとても助かっています」とスタッフの三木久美子さんは明るい表情で話した。

三木久美子さん

三木久美子さん

白インクの活用で素晴らしい出来栄えに

白インクが使えないガーメントプリンターだとTシャツの生地に直接印刷するしかなく、原画の色を忠実に出すことが難しかった。その点、新型のガーメントプリンターは生地に白く印刷した上に多彩な色を重ねることができるので、原画そのままの色を出すことができる。「白インクのコストはかかりますが、素晴らしい出来栄えにすることで出展者のみなさんに満足していただくことを優先しています」と三木さんは話した。

4月にころんのスタッフになった東谷吉泰さんは「今までガーメントプリンターを使った経験がなく、うまく扱えるか最初は少し不安もあったのですが、思ったよりも操作が簡単なので驚きました。モニターを見て直感的に操作できますし、使っているうちに自然な流れで扱い方を覚えることができました」と話した。

東谷吉泰さん

東谷吉泰さん

アート作品の申し込みは締め切り前の9月下旬に集中する。そこから開催までの1ヶ月で1000枚近いTシャツにデザインを印刷しなければならないが、新しいガーメントプリンターの使いやすさと高速印刷機能のおかげで作業は昨年より順調に進みそうだという。

ICT活用で障害者の仕事の幅を拡大

ころんはアート展の運営と並行して障害者のアート作品をシャツやバッグなどに印刷して販売する事業を強化していきたいと考えている。「事業を軌道に乗せることで障害者の仕事の確保や収入の安定につなげることができます。大量生産では生み出すことができない作品を作っていくことを重視しないと次の動きにつなげていくことは難しい。ICTを活用することで品質の良さを高めていきたいと思っています」と小川理事長は話した。

指定管理施設で多彩な活動を展開

それ以外でもころんは近年、社会福祉関連の事業を拡大している。2021年6月には和歌山県西牟婁郡上富田町で町の指定管理施設「ヒコゴロン」の運営を開始し、物販や子どもたちを対象におもちゃや本の貸し出し、イベント開催などを行っている。町の情報発信と交流の拠点として様々な人が思いを共有しながら楽しんでいける場所にしていきたいという。

上富田町の指定管理施設ヒコゴロンの外観

上富田町の指定管理施設ヒコゴロンの外観

今年6月に多機能型事業所coeを新たに開設

今年6月には和歌山県田辺市で多機能型事業所「coe(コ―)」を開設した。アート、ICT、リラックスといった様々なルームを設け、施設の利用者一人ひとりが、好きなことを大切にしながら様々な体験ができるようにしている。「障害を持った人たちの世界が広がるとともに、好きなことが働くことにつながればと思って取り組んでいます。『やりたいことをやっていコー、いろんなことを試して感じて見つけていコー、みんなで生きていコー』そのような思いを込めて施設の名前をcoeと名付けました」と小川理事長は顔をほころばせながら話した。

ころんが運営する多機能型事業所coeでは様々なルームが設けられている

ころんが運営する多機能型事業所coeでは様々なルームが設けられている

ICTが障害者の可能性を広げることを実感

coeで活動する木村ゆきさんは、手を思うように動かすことができないため、口でスティックを加えてパソコンやタブレット端末を操作し、イラストを加工する仕事などに取り組んでいる。デジタル機器の知識と習熟度は同い年の10代後半のスタッフにもひけを取らない。Tシャツアート展にも作品を出展する。会場設営準備でも現場を車いすで回り、地面の状況などをチェックしてバリアフリー化を進める上での貴重なアドバイスを提供している。木村さんの姿を見て小川理事長は障害者が社会参加できる領域がICTやデジタル機器によって大きく広がる可能性を実感している。

パソコンを操作する木村ゆきさん

パソコンを操作する木村ゆきさん

Web会議、勤怠管理システム、給与計算システム、アルコールチェック等ICTを活用して交流の輪を広げる

ころんは、4カ所ある施設の連携でもICTを活用している。各施設をネットワークで結び、日々の連絡はWeb会議システムを使っている。そのほかにも勤怠管理システム、給与計算システム、車両を運転する際のアルコールチェックといった様々な業務をICTで対応できるようにしている。今後、ペーパーレス化も進めていきたいという。

「これからもICTで業務の手間を省いて時間の余裕を生むことで人と人とのコミュニケーションにより多くの時間を使えるようにしていきたいですね。ICTの進化のおかげで国内だけでなく海外とも交流の輪をこれまで以上に広げやすくなっています。障害者福祉についての先進的な事例を教えていただくだけでなく、こちらで取り組んでいることでお役に立てることがあればいつでも情報提供したいと思っています」と小川理事長は話した。

ころんが運営する多機能型事業所coeの外観

ころんが運営する多機能型事業所coeの外観

ICTやデジタル機器を活用して地域や企業との連携をより深めようとしているころん。その取り組みは大きな広がりを見せようとしている。社会福祉分野でのICTやデジタル機器の活用が、すべての人に優しい街を作る上で大きな効果を発揮していることを実感した。

事業概要

法人名

認定特定非営利活動法人ころん

HP

https://www.npocolon.org/

本社

和歌山県田辺市たきない町10-34

電話

0739-33-2278

メールアドレス

info@npocolon.org

設立

2012年8月

従業員数

42人

事業内容

障害児通所支援事業及び相談支援事業、障害福祉サービス事業、地域生活支援事業、福祉に関する知識の普及事業

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