印刷工場をオフィス、宿泊機能を備えた交流施設にリノベーション　ICT活用で人的ネットワークに新しい価値を生む　ナカガワ・アド（徳島県）　

歴史的な町並みや豊かな自然に恵まれた徳島県美馬市で、コワーキングオフィス、宿泊、カフェといった様々な機能を備えた複合施設「ADLIV（アドリブ）」が全国から多くのクリエイターや起業家を集め、地域発の新しい企画やビジネスを生み出している。印刷工場をオフィスや宿泊所としてリノベーションしたユニークな施設で、内部では印刷機や活字を展示している。アドリブを運営して地域に新しい流れを生み出しているのが、1960年創業の同市内の広告・印刷会社、ナカガワ・アド株式会社だ。アドリブの交流機能を高める上でICTを効果的に活用している。（TOP写真：印刷工場だったアドリブのオープンスペース）

印刷業から広告業へ、更に交流施設の運営に乗り出した

2002年に就任した3代目の中川和也代表取締役社長は、印刷から広告へとナカガワ・アドの事業領域を拡大し、広告を主力事業として成長させた。その中で更に先を見据え、地域活性化にも貢献できる新しい取り組みとして交流施設の運営に乗り出した。首都圏や関西圏の企業のサテライトオフィス誘致に力を入れる徳島県に協力して、2017年に東京都のIT企業数十社を受け入れたところ、参加者からの反応が非常によく、交流施設として運営していく手ごたえを得たという。

知識、経験、アイデアを持った人同士をつなぐ

「ICTの急速な進化のおかげで場所にとらわれない働き方や生き方が可能になり、多種多様なコミュニケーションが取れるようになりました。ICTの進化がなければアドリブを立ち上げるのは難しかったと思います。リアルとデジタルの両面で、知識、経験、アイデアを持った人たちをつないで新しい発想を生み出す拠点として、アドリブを育てていきたいと思っています」と中川社長は話した。

2018年6月に新装オープンしたアドリブは鉄骨2階建て延床面積約1080平方メートル。1階にはカフェや7人が宿泊できるドミトリー、2階にはナカガワ・アドの本社のほか、セミナー会場や仕事場として使用できるコワーキングスペース、宿泊用の部屋、キッチンなどを配している。以前印刷機や製版機を置いていた吹き抜けの空間は、施設の利用者が交流できるオープンスペースにしている。

人と人のネットワークの中から「無限の価値」が生まれている

「アドリブを舞台にリアルとデジタルの両面で生まれる人と人とのネットワークには、無限の価値があると思っています。わくわくしながら仕事に取り組むことができる環境を作っていきたい」と話す中川社長。アドリブを訪れる全国のクリエイターや起業家たちとの交流は広告制作に取り組む社員に刺激を与え、創造力を向上させる上で目に見えない大きな効果をもたらしているという。「ICTの活用を重視していますが、それはあくまでも創作のための手段です。広告は見る人の感性に訴えて喜びと感動を生み出さなくてはなりません。基本は人と人とが向かい合ってコミュニケーションを取りながら創り上げていくものと考えています」と中川社長は話した。

リノベーションで重視したのは充実した通信ネットワーク

印刷工場を交流施設としてリノベーションする上で最も重視したのが充実した通信ネットワークの構築だ。高速大容量の専用回線を敷設し、施設内のどこからでもWi-Fiに接続できるようにしている。「都市部のオフィスで働いている人たちにアドリブを利用してもらうには、通信環境が整っていることがなにより重要です。接続の速さ、セキュリティの安全性を確保することに気を配りました」と中川社長。

リアルとオンラインを組み合わせたセミナーを企画

月に1回、地域活性化、地域ブランディング、農業、ICTスキルなどをテーマに専門家を招いて実施しているセミナー「アドリブ大学」を開催する上でも、通信ネットワークは大きな役割を果たしている。新型コロナウイルスが蔓延し、アドリブに集まってセミナーを開催することが難しかった時期は、Web会議システムを使ってセミナーを継続した。その取り組みによって、オンラインでセミナーを開催するノウハウを蓄積することができたという。コロナ禍が落ち着いた現在は対面でのコミュニケーションが可能なリアルと、どこからでも参加できるオンラインを組み合わせて実施することでセミナーを進化させている。

全国の農家向けのEC活用や自治体の企業誘致Webセミナーの開催も

ナカガワ・アドは農業や食品分野の広告制作やイベントの企画立案に強みを持っている。事業の一環として取り組んでいる農家向けEC活用の勉強会も、オンラインを活用することで徳島県内だけでなく全国に参加者を広げることが可能になった。また、アドリブを運営していることで、企業誘致に関連した様々な事業を自治体から請け負うことにつながるなど、一連の新しい取り組みは広告事業の拡大に効果をもたらしている。

テイクアウトとシェアリングを組み合わせた新サービス「テイクシェア」を考案

ICTを活用した地域支援にも関心を持っている。コロナ禍の最中、飲食物のテイクアウトと宿泊施設などの場所のシェアリングをICTで組み合わせた新サービス「テイクシェア」を考案した。「テイクシェア」では美馬市で行われているタクシー会社による配送サービスを活用。貸し切りの広い場所で感染防止対策を徹底しながら身近な人同士でリアルな交流を楽しんでもらうとともに、人々の行動自粛に伴って打撃を受けた飲食業、観光業を支援できるサービスとして注目を集めた。

VPN導入により、どこで仕事をしていてもデータの利活用が可能に

継続的なICTへの投資も行っている。過去のデザインなど会社で保存している情報にすべての社員が迅速にアクセスできるように、5年前からNAS（ネットワーク接続型ストレージ）を導入。2021年12月には、セキュリティ機能を強化した新しいNASに更新した。出張などの際に社外からでも情報にアクセスできるようにVPN（仮想専用回線）も導入している。どこでも仕事ができる環境は、コロナ禍において社員の大半が在宅で勤務しなければならない時期に役に立った。今後も時間と場所にとらわれない新しい働き方を追求していきたいという。

キッチンカーを活用した飲食事業の本格展開を検討

ナカガワ・アドは飲食物の移動販売に適したキッチンカーも所有している。今後、キッチンカーを使った飲食事業の本格的な展開も検討中だ。2021年12月に設立された徳島県キッチンカー協会でも中川社長が代表理事を務めるなど中心的な役割を果たしている。協会には31台のキッチンカーが所属し、地域のイベントに参加してにぎわいづくりに一役買っている。地域貢献にも力を入れ、徳島県沿岸部の自治体と地震などの災害発生時に炊き出しなどの支援活動に従事する協定を結んでいる。

テントサウナを利用したワーケーション等、交流人口の拡大に尽力

交流人口の拡大もナカガワ・アドが力を入れている分野だ。日本有数の清流として知られる地元の穴吹川周辺で、テントサウナを使ってリラックスしながら仕事をしてもらうワ―ケーションイベントなどを企画している。また、アドリブを舞台に、徳島県の伝統工芸品である阿波和紙を使った活版印刷体験など印刷工場をリノベーションした施設ならではのイベントも考えていきたいという。「アナログとデジタルを連携して様々な事業の相乗効果を発揮していきたい」と中川社長は意欲的に話した。

「情報産業でもある印刷業は文化の重要な担い手だと思っています。デジタル技術を活用して全国の印刷業者のネットワークを作るなど、印刷業の復権にも力を注いで行きたい。DXを推進するには、どのように活用するかという視点が重要です。広告業だからこそできるICTやデジタル機器の活用をこれからも進めていきたい」と中川社長は先を見据えている。

広告・印刷事業を通じた地域活性化に大きな役割を果たしているナカガワ・アド。ICTを活用することでこれからもその事業領域を拡大し、業界の枠を超えた新しい企画を生み出していくに違いない。