梅干しづくりの創業120年老舗企業がDX推進チームを結成。デジタル時代に対応した新しい体制をつくる 中田食品(和歌山県)
2022年11月11日 06:00
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日本を代表する健康食品、梅干しを生産・販売する和歌山県の中田食品株式会社が、デジタル時代に対応するため社内横断型のDX推進チームを結成し、実効性の高いICT活用を進めている。(TOP写真は、人気商品のしらら)
明治時代に創業 伝統の技術と独自の製法で梅干しを生産
明治時代創業で120年を超える歴史を持つ中田食品株式会社は、梅の産出量が全国1位を誇る和歌山県で、伝統の梅干しづくりの技術と独自の製法を組み合わせて梅干しの商品づくりに携わってきた。1967年以来の看板商品「梅ぼし田舎漬」をはじめ、ヒット商品の「しらら」、蜂蜜完熟梅といった主力商品のほか、梅酒や、梅干しを素材にした加工食品も生産・販売している。近年ではフランスのチョコレートメーカー、DOMORI(ドモーリ)社の創業者、ジャンルーカ・フランゾーニ氏監修の梅酒を発売するといった新しい取り組みにも挑戦している。
工場では梅干しづくりの様子を見学できる 商品の直売所も
梅干しを生産している中田食品の工場
梅干しを生産している様子
和歌山県田辺市内に広がる本社・工場には直売所が併設され、中田食品の商品を直接買い求められることから連日大勢の人が訪れる。工場の一角には見学コースが設けられ、梅干しを生産する様子をガラス越しに見ることができる。
様々な商品が並ぶ中田食品の直売所
機械と人間の作業をバランスよく組み合わせる。従業員の9割以上を正社員として雇用
生産農家から仕入れた梅干しは等級、サイズごとに分けて倉庫で保管され、工場で食べやすい調味梅干しに加工される。工場では200人近い社員が洗浄・選別、漬け込み、品質検査、包装・出荷の作業に従事している。地域の雇用促進を重視し、工場では地元を中心に人材を採用。働いている人の生活の安定を考え、従業員の9割以上を正社員として採用している。
パック詰めの工程では商品ごとの製造ラインが設けられ、コンピューター制御による自動計量充填(じゅうてん)機やベルトコンベアー、自動包装機など最新の生産設備が導入されている。その一方で、南高梅のように果皮がやわらかい品種は人間の手で一粒ずつ丁寧に箱詰めするようにしている。「機械と人間の作業をバランスよく組み合わせることで、市場のニーズに柔軟に対応できる少量多品種の生産体制を作り上げています」と営業本部企画開発課の小串慎一広報課長は話した。
社内でDX推進チームを結成。数値管理をしていく上でデジタルに対する知識は必要不可欠、デジタルなくして成長はありえない
年によって増減はあるものの、日本を代表する健康食品として安定した需要が見込める梅干し。だが、生産農家の高齢化や人手不足、原材料価格の高騰など業界を巡る環境は楽観できるものではない。先を見据え余裕があるうちに会社組織をデジタル時代に対応できるように変えていく必要がある。中田食品はそういった観点から今年5月、社内でDX推進チームを結成した。
DX推進チームは総務課、経理課、本社営業課、受発注を担当する業務課、本社工場などの各部署から選抜された30代から50代の社員7人で構成している。「数値管理をしていく上でデジタルに対する知識は必要不可欠です。DX推進チームには現場のことをしっかりと熟知した上でデジタルに関する知識を持った社員が集まっています。これからはデジタルなくして企業としての成長はありえません。推進チームが中心となってDXを推進できる人材を育成していきたいと考えています」と小串課長はDX推進チームについて説明した。
営業本部企画開発課の小串慎一広報課長
各部署からの選抜チームで、全社の情報を共有しながら全体最適化のDXを目指す
推進チームの会議は月あたり2回から3回開催している。電子帳簿保存法の法改正への対応やペーパーレスの推進、業務プロセスを自動化するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)の導入検討など、様々なテーマについて話し合っている。すぐに取り組むべきテーマ、将来取り組むテーマ、改善項目などを決めて次の会議で進捗状況を報告し合うようにしている。
中田食品は総務管理、営業・販売、梅干し製造、梅酒製造の各部門を持ち、営業本部の傘下には札幌、東京、大阪、福岡の営業所を置くなど部署や業務内容が多岐にわたっている。特定の部署がデジタル化を推進したとしても、それ以外の部署で対応が遅れた場合、会社全体での整合性がとりにくくなってしまう。推進チームという枠組みを設けることで、情報を共有しながら会社全体でバランスよくDXを推進していくことを目指している。そこにあるのは、部分最適化ではなく、全体最適化によって会社そのものを新たな時代に適合させようとする意欲だ。
サポートサービスのアドバイスを有効活用
DXの推進にあたってはマイクロソフトと提携している企業を通じて業務アプリケーション、Microsoft365のクラウドサービスを導入している。クラウドサービスの選定にあたっては、しっかりしたサポート体制があることを重視したという。「社内のデジタルに関する様々なシステムやアプリケーションは、外部発注せずにできる限り社内で構築していきたいと思っています。壁にぶつかった時、すぐに具体的なアドバイスをもらえる相談先があれば安心できますし、試行錯誤する手間を省いて効率的に作業を進めることができます」と小串課長。
中田食品のオフィスの様子
情報共有化のために社内ポータルサイトを開設、情報共有による効果が出始めている
DX推進チームが発足してから中田食品のデジタル改革は加速している。管理部門と生産部門などの垣根を超えて情報共有を進めるために社内ポータルサイトを立ち上げ、これまでは紙文書やメールで伝達していた社内イベントや、テレビや雑誌の取材を受けた際の報告といったニュースを掲載している。
ポータルサイトには各自のパソコンやスマートフォン、社内の各所に置いているモニターを通じてアクセスすることができる。社員たちは和歌山県の本社と工場だけでなく全国の様々な場所で業務に従事しているので、ポータルサイトを通じて情報を共有できる効果は大きい。「今後、社員の反応を見ながら少しずつ掲載情報を充実させ、将来的にはポータルサイトを通じて、社内規定の変更といった重要なお知らせを含む全ての情報を、迅速かつ確実に伝達できるようにしたい」と小串課長は話した。
中田食品の社内ポータルサイト
営業本部で進めた社有車使用時のアルコールチェックのデジタル対応ノウハウを全社共有へ
営業本部は2022年4月から営業活動などで使用する白ナンバーの社有車にも適用されることになったアルコールチェック義務化へのデジタル対応を進めている。以前は社有車を使用する際の運転日報は紙文書に記入した上で保管していたが、日報の記録や提出、保管をアプリケーションで完結できる社内システムを完成させた。今後義務化されるアルコール検知器の使用にも対応できるようにしている。営業本部で蓄積したノウハウはDX推進チームを通じて社内全体で共有していく予定だ。
Web会議について、事前に主要メンバーのスケジュールを確認できるので短時間で開催決定ができる
また、Web会議システムを積極的に活用することで、社内会議を必要に応じて機動的に開催するようにしている。「以前出席者全員のスケジュール調整をした上で開催日を決めていたため時間がかかっていましたが、今はグループウェアのスケジュールで主要メンバーの予定を確認して候補日を固めてから日程を通知するので短時間で開けるようになりました」と小串課長。
個人情報保護のため、自社でオンデマンド印刷機を活用して短時間で顧客の宛名作成
「梅ぼし田舎漬」のヒットを受けて1973年から通信販売を開始し、長年にわたる愛好家が多い中田食品は、顧客向けに商品やカタログ、広告を送る際、宛名ラベルを外部委託せず自社で作成している。手間はかかるが個人情報の保護を徹底したいと考えているからだ。短時間で大量のラベルを印刷する上で活躍しているのが2台のオンデマンド印刷機だ。データベースに基づいて住所や名前など一部を変更して印刷できるバリアブル印刷機能や、短時間での印刷能力を重視して機種を選定している。オンデマンド印刷機は今後、自社で運営するECサイトを通じた販売を強化していく上でも効果を発揮してくれそうだという。
看板商品の「梅ぼし田舎漬」
全社横断プロジェクトによる、情報の見える化での改革推進と省力化が生み出す時間の有効活用は、DXに関心を持つ中小企業のロールモデルとなる
「管理部門、生産部門の両方でこれからもICTの活用を積極的に進めていきたい。自動化できる部分は自動化して、生み出した時間を人間だからこそ取り組める付加価値の高い仕事に向け、お客様により満足していただける商品開発につなげていきたい」と小串課長は今後の抱負を語った。
中田食品の本社の外観
ICTを活用することで、より多くの人に愛される梅干しを世に送り出そうとしている中田食品。企業活動を円滑にする中田食品のDX推進チームの取り組み方は、DXに関心を持つ中小企業にとってのロールモデルの一つになるはずだ。
事業概要
会社名
中田食品株式会社
本社
和歌山県田辺市下三栖1475-130
電話
0739-22-2486
設立
1962年4月(創業1897年)
従業員数
280人
事業内容
梅干し・梅酒・梅加工食品の製造、販売
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