利用者の立場に立った介護のためには、積極的なIoT、ICT活用は必須だった 越後上越福祉会(新潟県)
2022年11月30日 06:00
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収穫期を迎えた黄金色の田園を横目にトンネルを越えると、ほどなく緑豊かな丘の上に社会福祉法人越後上越福祉会の特別養護老人ホーム「あいれふ安塚」がみえてくる。「ふれあい」をアレンジして命名した「愛をもってふれあう施設」という名前が付いた施設だ。ロボットスーツや見守り介護ロボットなどICTを積極的に取り入れている。導入のねらいは何か。(TOP写真:職員とポーズを取る太田雅俊施設長=後列左から2人目)
ウイルスを持ち込まない、めざすは日本一の感染対策
取材前、新型コロナウイルスのワクチン3回以上接種と抗原検査をリクエストされた。当日、施設に到着したら、玄関先でコロナとインフルエンザ双方の感染有無をチェックできる抗原検査キットを新たに手渡された。「すみませんね。うちは日本一の感染対策を心がけているので」と、にっこり出迎えてくれたのは太田雅俊施設長、77歳。同施設を取り仕切る責任者だ。地元・上越市の出身で、医療関係の団体に38年間勤めた経験を活かし、医療・福祉施設の立ち上げや運営に係わってきた。
渡されたキットは、パートを含めた全職員に1人10個ずつ配っているという。施設の利用者は80代や90代など高齢で、ウイルスに攻撃されたらひとたまりもないからだ。「陽性反応が出た職員は否応なく自宅待機です。『持ち込まない、持ち出さない、うつさない、うつらない』を徹底している」という。
臭いのしない施設空間、横になったまま入れるバスタブなど、利用者の「安心・安全・快適・自由」を追求
右の装具が自動で動き、利用者は横になったまま入浴できる
検査キットで陰性反応を確認し、ひと安心していると、太田施設長が「ところで、何か気づきませんか」と問う。そういえば、福祉施設にありがちな施設特有の臭いがしない。「薬品をパウダー状にして噴霧しています」と部屋の一隅に置かれた超音波霧化器を指す。「福祉施設はまず清潔でないと。全室に完備して、消臭・消毒・除菌・加湿を徹底している」そうだ。
同施設の定員は100人。約8割が認知症を患っており、寝たきりの人も多い。年に15人ほどが亡くなってしまうが、空きはすぐ埋まり、常に満床状態だ。全員が個室に入っており、全室に前述の超音波噴霧器、エアコンのほか、温水便座付きのトイレや電気湯沸かし器が備えてあり、照明も人感センサーで点灯する。
「利用者の楽しみは日に3回の食事と1回のおやつ、週2回のお風呂です。シャワーで勢いよく流すのではなく、湯船に仰向けでゆっくり浸かってもらいたい」と、横になって入れるバスタブも16台ある。利用者のプライバシーを守るため、浴室は防水カーテンで仕切られているし、男性利用者には男性職員、女性利用者には女性の職員を付けるのも、この施設の鉄則だ。太田施設長は「特別養護老人ホームは食事、排泄、入浴を365日24時間提供し、看取りまでする施設です。利用者には安全・安心・快適・自由に過ごしていただきたい」と話した。
勤務時間は笑って過ごそう、仲間の悪口は厳禁
施設内のあちこちに行事の写真やスローガンが貼り出してある
職員数は120人。平均年齢は49.2歳。60歳以上の高齢者が36.52%、障害者も9.73%と、高齢者や障害者の雇用に力を入れている。自分の親が入居している職員もいるし、夫婦や親子で勤めている職員も少なくない。「もちろん入居者を世話する介護ユニットは別々にしています」と太田施設長。職員の平均給与は月19万円から22万円。夜勤も含め交代で日に8時間勤務する。
特徴的なのは、他の職員の悪口を言う事を厳禁としている事。「重要なのは仕事ができることではない。仲間の誹謗中傷をしないこと」と太田施設長。「利用者を介護するのは職員です。福祉施設は職員がいるから成り立っている。勤務時間中は『泣いても笑っても8時間、ならば笑って過ごそう8時間』を全員で共有しています」と話す。
コミュニケーションロボットと笑顔で触れ合う
介護ソフト画面を確認する職員(右)と太田施設長
この施設の特長は国や県の補助事業を使って介護関係のICTやIoTを積極活用していることだ。
2010年の法人設立時からパソコンを導入し、法人内の各施設では介護ソフトが用いられている。このソフトは医療文書や記録が簡単かつスムーズに作成できるほか、利用者一覧など様々な集計が出力できるため、煩雑な請求業務や事務作業を大幅に軽減することができる。
2016年度には経済産業省の「ロボット介護機器開発導入促進事業」の実証実験施設に選ばれた。コミュニケーションロボット「ペッパー」と「パルロ」をそれぞれ10台導入。利用者とロボットが一緒に歌ったり体操したりしながら介護状況のデータを蓄積する実験を行い、報告書を提出した。利用者は笑顔でロボットと触れ合っていたそうだ。
同じ2016年度には新潟県の「介護ロボット活用による機械化・自動化モデル事業」の実施事業所にも選定され、県の事業では職員が身に着けることで腰や背中、足の動きをアシストする介護支援用ロボットスーツ「HAL」(腰タイプ)を導入している。腰痛は介護従事者の職業病で、職員たちは「持ち上げるときに楽」「軽く感じる」と好評だ。
24時間体制の見守りシステムで利用者も職員も快適
aamus(アアムス)のモニター画面
2021年2月には新潟県の介護ロボット等導入補助金を活用し、見守り介護ロボット「aamus(アアムス)」を10台入れた。利用者のベッドにセンサーマットを敷いて、心拍や脈拍、体動、離床などの情報をサーバーを通してモニターに表示する機器で、利用者の状態を離れた場所からリアルタイムで把握できる。「睡眠の深さもわかるから、利用者が覚醒している時におむつ交換をする。すると利用者は寝ている時はいつもお尻が快適というわけです」と太田施設長。
快適なのは利用者だけではない。24時間体制で見守りシステムが稼働しているから夜勤時に頻繁に部屋を見回る必要がなくなり、職員の心理的負担が軽減される。見回り時間を別の業務に振り分けることができるから、サービス向上にも役立つ。
コロナ禍で利用者と家族が対人面会することが難しくなったため、タブレット端末を使ったオンライン面会も実施している。利用者はもちろん、離れて暮らす家族にも喜ばれているそうだ。
ICT機器導入は介護職員の心身の負担を減らし、利用者に「安全・安心・快適・自由」な日々を送ってもらうのが目的
インタビューに応じる太田施設長
ロボットを動かし、データを蓄積するには通信環境の整備も必要で、県の補助金などを活用して施設内各所にWi-Fiも整備した。太田施設長は「Wi-Fi環境がなかったらせっかくの機能が生かせない。これからは通信環境を整えている施設が優良事業所でしょう」と胸を張る。
一連のICT機器導入は介護職員の心身の負担を減らし、利用者に「安全・安心・快適・自由」な日々を送ってもらうのが目的だ。高齢化の進行には歯止めがかからず、老人福祉施設にはこれから人口構成上最も多い団塊の世代が大量に入居してくる。太田施設長は「介護現場はたいへんな人手不足になる。介護人材の確保と離職防止は喫緊の課題です」と強調。「食事、排泄、入浴など人のぬくもりが大切な業務は人間が担うべきだが、ICTが肩代わりできる業務もある。住み分けることで人手不足を乗り切らなければ」と力を込めた。
事業概要
法人名
社会福祉法人 越後上越福祉会
住所
新潟県上越市安塚区安塚2209-3
電話
025-595-1311
設立
2010年
従業員数
約120人
事業内容
特別養護老人ホーム(あいれふ安塚、あいれふ妙高)、ケアハウス(あいれふ石塚)の運営
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