障害者就労支援事業の新しい可能性、オンデマンド印刷機がもたらした製本作業の効率化と受注の多様化 東雲会(香川県)
2022年11月22日 06:00
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障害者に就労や生産活動の機会を提供し、日々の活動を支援している香川県高松市のNPO法人東雲会(しののめかい)がオンデマンド印刷機を活用し、主力の印刷事業の新しい可能性を広げている。作業が格段に効率化されたことで新規案件の開拓や、利用者とよりきめ細かくコミュニケーションを取ることができるようになるなど、様々な効果が生まれている。
共同作業所として設立された後、2006年にNPO法人に移行
東雲会は、1997年4月に中途障害者のための共同作業所「東雲の会」として設立され、2006年11月にNPO法人に移行。2007年4月には就労継続支援B型の指定障害者福祉サービス事業を開始した。同事業以外に2015年9月に相談支援センター、2018年6月には障害を持った子どもたちを支援する「児童発達支援・放課後等デイサービスしののめ」を開所している。
印刷から軽作業、大判焼きや弁当販売まで多彩な事業を展開
「東雲」は日本の古語で、夜明け前に東の空が明るくなることを意味する。「法人の名称には、たとえ障害があっても太陽の光がみんな平等に降り注ぐことを願い、皆様と一緒に平等で豊かな社会づくりを目指すという思いを込めています。事業所の利用者とスタッフで力を合わせて仕事をして毎日楽しく過ごしていくことを心がけています」。アットホームな雰囲気の事業所で利用者が作業に取り組む様子を紹介しながら、東雲会のサービス管理責任者を務める向井文香さんはそう話した。
東雲会でサービス管理責任者を務める向井文香さん
東雲会の事業所には20代から80代までの20人が在籍し、自宅から通いながら毎日仕事に取り組んでいる。企業や自治体などから請け負った仕事は各自の能力に合わせて分担し、その仕事を8人のスタッフがサポートして仕上げている。仕事の内容は多種多様だ。冊子の製本や封筒、チラシなどの印刷、ビス類の箱詰め、シール貼り、乾燥剤の封入のほか、大判焼きや様々な種類の日替わり弁当、おにぎり、総菜、クッキーを作って地域の人や香川県内の法人に販売している。「本当にたくさんの方々に支えていただいています」と向井さんは感謝の言葉を語った。
仕事に取り組む東雲会の皆さん
事業所を拠点に地域の人たちとの交流を深める
地域の様々な年齢や職業の人たちとの交流にも積極的に取り組んでいる。事業所は近所の子どもたちにとっても憩いの場になっており、大判焼きを買いに来た際に事業所で飼っているメダカを観察したり、おやつを食べたりするなど、自由に過ごしてもらうようにしているという。
販売している大判焼きは地域でも評判
日替わり弁当の販売の窓口
冊子の製本など印刷関連が主力事業
設立当初から収入の半分以上を占めているのが、冊子の製本など印刷に関連した仕事だ。中でも東雲会の活動を支援してくれている寺院から毎年寄せられる数千冊単位の冊子作成の仕事は大きな比重を占めている。印刷が完了した一冊分の用紙を二つ折りにする作業、表紙を糊付けする作業などを利用者が担当し、用紙の寸法を整える断裁などの刃物を扱う作業は利用者の安全に配慮してスタッフが担当している。
冊子の製本に取り組む様子
印刷作業の効率UPと受注拡大を目指してオンデマンド印刷機を導入
印刷事業で大きな効果を発揮しているのが今年7月に導入したレーザーコピー式のオンデマンド印刷機だ。向井さんによると、多様で迅速な印刷に適したオンデマンド印刷機の導入を決定した背景には、主力となっている印刷事業の作業効率UPとともに受注する仕事の種類を増やしていきたいという思いがあったという。
東雲会が導入したオンデマンド印刷機
レーザーコピー式印刷機は、インクジェット式印刷機と比較して2倍ほど印刷速度が速く、1枚あたりの印刷コストも安いといった特徴を備えている。トナーと呼ばれる粉を圧着して印刷するので塗料が紙ににじみにくく、手を汚さずに作業をすることができる。
「印刷のスピードが向上したことはもちろん、事前に設定することで両面印刷できるのがありがたいですね。一冊分がそろったらそのまま二つ折りにするだけで冊子の形にすることができるので、作業効率が格段にアップしました。以前は納期が近づくと、利用者の皆さんが帰宅した後スタッフ全員が残って作業することも多かったのですが、今は定時で終わらせることができるようになりました。以前使っていた印刷機と比べて1枚当たりの印刷コストが安くなりましたし、インクで手が汚れないのも助かります。印字も以前よりはっきりして見やすくなったのでお客様も喜んでいます」と向井さんはオンデマンド印刷機の様々な導入効果について説明した。
スタッフが冊子の断裁に取り組む様子
作業の効率化で無理することなく受注を増やすことが可能に
毎年、製本の発注が大量に寄せられる時期は忙しくなるので他の仕事の受注を減らしていたが、これからは請け負うことができそうだという。
「仕事をいただいてもこなすことができなければご迷惑をかけてしまうので、以前は意識的に仕事の量を調整していました。今後、無理することなくこれまで以上の仕事を請け負うことができれば、その分、利用者の皆さんに還元することができます。作業効率が上がった分、急ぎの案件でも請け負いやすくなりました。カラー印刷もできるので、日頃支えていただいているお客様への新しい提案や新規開拓にも取り組んでいきたいと思っています」と向井さんはにこやかに話した。
コミュニケーションに使う時間が拡大 より一人ひとりに向き合えるように
オンデマンド印刷機は保守運用を効率化するため、稼働状況、両面コピーなどの利用状況、異常発生時のエラーコード、消耗部品の状況などを販売会社がリモートで確認している。オンデマンド印刷機の利用者は、蓄積したデータを元に適切なタイミングでのメンテナンスや消耗品の配送、利用状況のレポートなどを受けることができる。
「常にベストな状態で印刷ができるという安心感があります。ICTを活用することでコミュニケーションの時間を増やすことができるようになったので、スタッフがこれまで以上に利用者の皆さんに向き合ってサポートできるようになりました」と向井さんはうれしそうに話した。増収が見込めるようになったことに加え、残業時間が減ったことから経費の節減にも繋がっているという。
ICTの活用で障害を持った人も仕事の幅が広がる
東雲会は、利用者が年齢を重ねても安心して住み慣れた地域で生活し続けることができるように今後、グループホームの運営にも取り組んでいきたいと考えている。利用者に、デジタル化が進むこれからの社会に積極的に対応してもらうため、パソコンを扱うスキルも高めていけるように支援していきたいという。
東雲会の事業所の外観
「今後、手を使わなくても機器操作ができる音声認識などの技術が進化して障害を持った人が働くことができるフィールドが広がっていくことを期待しています。一人ひとりがICTやデジタル機器を使うことで仕事の幅を広げていけると思うので、情報収集に力を入れていきたいと思っています。もちろん私自身もICTや機械をもっと使いこなすことができるように頑張ります」と向井さんは意欲を示す。
オンデマンド印刷機を活用した東雲会の取り組みを通じて、幅広い年齢の人を対象にした公益性が高い事業の付加価値を高め、暮らしやすい社会を作っていく上でデジタル機器やICTが担う役割の大きさを改めて実感することができた。
事業概要
本社
香川県高松市木太町4302番地12
電話
087-867-3316
設立
2006年11月
従業員数
8人
事業内容
就労継続支援B型事業所、障害者相談支援センター、児童発達支援・放課後等デイサービス
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