障害者が取り組む芸術活動をYouTubeで発信 ICTの活用で一人ひとりと向き合う時間を生み出す 仁栄会(徳島県)
2022年12月07日 06:00
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46年にわたって自治体や地域の様々な団体と連携して障害者福祉の拠点となっている徳島県松茂町の社会福祉法人仁栄会は、利用者が取り組む絵画・音楽活動の情報発信や子どもたちを対象にした動画コンテンツの発信にYouTubeを活用している。また、会計、勤怠管理、支援サービスの記録といった必要不可欠な業務でもICTを積極活用することで時間を生み出し、利用者とじっくり向き合うことを心掛けている。
地域の障害者福祉の拠点として大きな役割
社会福祉法人仁栄会は、知的障害児の福祉向上に取り組んでいた医師の中西仁智雄・初代理事長が1976年に設立し、1977年に現在の障害児通所支援事業所「ねむのき」の前身となる「ねむのき療育園」、翌年に障害者の入所施設「春叢園(しゅんそうえん)」をそれぞれ開園した。自治体、地域との連携を積極的に進め、地域の障害者福祉の拠点として大きな役割を果たしている。現在、ねむのきでは40人の小学校に上がるまでの子どもたち、春叢園では59人の成人が日々様々な活動に取り組み、約70人のスタッフがサポートにあたっている。
障害者支援施設「春叢園」のロビー
一人ひとりの利用者と向き合う時間を作るためにICTを活用
法人本部で取材に応じた総括施設長兼事務局長を務める平島誠司さんは、仁栄会の運営方針についてこう話した。「利用者の皆さんの個性を尊重して、一人ひとりの能力や要望に合わせた接し方をするよう心掛けています。利用者の皆さんはもちろんご家族や地域社会に信頼され愛される施設を目指して、質の高いサービスを提供できるようこれからも頑張りたいと思っています」。平島さんは、一人ひとりの利用者とじっくりと向き合う時間を増やすために業務の効率化を進めようと就任してからの4年間、積極的にICTを活用することを心掛けてきたという。
総括施設長兼事務局長を務める仁栄会の平島誠司さん
芸術、スポーツなど様々な活動の拠点となっている「わいわい村」
仁栄会は利用者の自立と社会参加促進を図るために様々な取り組みを進めている。徳島県松茂町の法人本部から数キロ離れた場所に、利用者が芸術、スポーツ、農業などの様々な活動に取り組む施設「わいわい村」を設け、農園やログハウスを運営している。今年3月には地域との交流機能を強化するためのログハウスの改築工事を完了。新たに設けた2階で、徳島県美術家協会主催の放美展などで受賞歴を持ち、海外にも作品を出展している篠原稔さんの洋画をはじめ織物、書道作品など約120点を展示している。
様々な作品が展示されているわいわい村ログハウスの様子
「人生とは何だろうか、個性とは何だろうか、楽しみとは何だろうか、輝くとは何だろうか。そのように考えながら、これからもICTを活用して利用者の皆さんの日常の取り組み、スポーツ、芸術活動を支援していきたいと考えています」と平島さんは話した。
コロナ禍で開催危機に見舞われたイベントをYouTubeで発信
YouTubeで配信している阿波白鷺 わいわい芸術スポーツ祭
仁栄会は、2019年秋頃、絵画や音楽、スポーツに取り組む利用者たちに自己表現の機会を提供しようと「わいわい村」を会場とする「阿波白鷺 わいわい芸術スポーツ祭」を企画した。2020年秋の開催を目指して準備を進めていたが、新型コロナウイルスが蔓延したことで、多くの人を集めて開催することが困難に。そこで思いついたのがYouTubeの活用だった。当日の芸術スポーツ祭での利用者、スタッフたちのパフォーマンスの様子を撮影、編集した上でホームページを通じて動画配信した。動画配信の効果は大きく、日頃から交流がある地域の人たちだけでなく、地域の枠を超えて幅広く大勢の人に見てもらうことができたという。
動画は絵画作品の紹介、コンサートなど盛りだくさんの内容
動画は約1時間。仁栄会のスタッフによるねむのき、春叢園の日頃の取り組みについてのPRをはじめ、利用者が制作した絵画作品の紹介、コンサートなど盛りだくさんの内容。「リアルなイベントは参加できる人数が限られてしまいますが、動画配信であれば、より多くの人たちに都合のいい時間にホームページにアクセスして見ていただくことができます。会場は無観客でもインターネットを通じて多くの人に見てもらえるので、利用者の皆さんとスタッフのモチベーション向上にも繋がりました」と平島さんはYouTube活用の効果について話した。
2021年秋に開催した2回目の「わいわい芸術スポーツ祭」も前年同様に無観客での開催になったが、YouTubeで動画配信することで対応した。前年の経験でスタッフ、利用者とも撮影に慣れていたこともありパフォーマンスにも一層の磨きがかかったという。今年10月21日に開催した3回目もYouTubeで配信しており、今後も「わいわい芸術スポーツ祭」を恒例行事として続けていきたいという。
子どもたちのために保育士が、手遊びや歌の動画を制作
動画配信のノウハウを蓄積したことは様々な波及効果を生んでいる。ほかにも仁栄会では、ねむのきの保育士が「おおきなたいこ」「こんこんくしゃん」「鬼のパンツ」「ことりのうた」など療育の時間に行っている様々な歌や手遊びの動画を作成し、ホームページで公開している。
子どもたちのために制作した手遊びの動画
コロナ禍で外出が難しくなっていた時期に、日頃通所している子どもたちが自宅で楽しめるコンテンツを提供したいとの思いから 制作したという。ねむのきの主任で徳島県発達障害児支援専門員を務める有井有里さんは「同じような動画コンテンツはたくさんあるのですが、子どもたちがよく知っている私たちが出演している動画の方が関心を持って見てもらえるのではないかと思ったんです」と説明した。
「 保護者の皆さんから私たちが作った動画を楽しみにしています、と言ってもらえた時は本当に取り組んでよかったと思いました」と有井さん。制作する動画は現在のところ手遊びが中心だが、今後粘土遊びや簡単な折り紙作り、保護者向けのアドバイスなどの動画も企画していきたいという。
法人本部と施設で異なっていたシステムを統一して情報を共有
会計、勤怠管理、業務支援などのシステムについて仁栄会は以前、法人本部、ねむのき、春叢園でそれぞれ独立したシステムを使っていたが、2016年に一本化した上で、1年半前から順次クラウドサービスを導入している。
システムを一本化する前は、法人本部とねむのき、春叢園の間でのデータの受け渡しは、USBメモリを使って行っていた。そのため、情報共有に手間と時間がかかっていたという。システムを一本化したことで情報共有が容易になり、業務が効率化されただけでなく、コンピューターウイルス感染の原因になるUSBメモリを使う必要もなくなり、セキュリティ強化にも繋がった。
仁栄会の本部オフィス
わいわい村でも法人本部と同じようにシステムを活用できるように
また、クラウドサービスの導入によって、わいわい村のログハウスからいつでも法人本部のファイルにアクセスできるようになったので、わいわい村で利用者をサポートするスタッフが 業務の合間に、日報などの文書を作成できるようになった。以前のように本部に戻ってからまとめて作成する必要がなくなったので、スタッフからは非常に喜ばれているという。
NASとクラウドを併用して情報のバックアップ機能を強化
NAS(ネットワーク接続型ストレージ)とクラウドを併用することで、地震などの災害発生時に備えた情報のバックアップ機能も強化している。個人情報や財務情報といったNASに保存したデータは自動的にクラウドにも保存されるようになっている。「手間をかけることなく情報をバックアップすることができるので非常に助かっています」と平島さんは話した。
仁栄会の本部の外観
「利用者の皆さんの活動の機会と場を広げ、働くスタッフの負担を軽減するためにこれからも積極的にICTを活用していきたい」と抱負を語る平島さん。スポーツや芸術を通じて障害者の可能性を広げることに力を入れる仁栄会のこれからの取り組みに引き続き注目したい。
事業概要
法人名
社会福祉法人仁栄会
HP
https://jineikai.or.jp/
本社
徳島県板野郡松茂町広島字鍬ノ先23番地1
電話
088-699-5310
設立
1976年9月
従業員数
68人
事業内容
障害児通所支援(児童発達支援センター、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援)、障害者支援(生活介護、施設入所支援、短期入所)、相談支援
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