Facebookで代表自ら情報発信、電子帳簿保存法への対応進め作った時間で木製品の新展開考える 八木(岐阜県)
2022年12月13日 06:00
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11月1日にオープンして、国民的な話題となっている「ジブリパーク」は、愛知県長久手市にある「愛・地球博記念公園」の中に作られた。この場所では、2005年に公園名の由来となった「愛・地球博(2005年日本国際博覧会)」が開かれたが、そこで最も注目を集めた展示が、シベリアで発掘された冷凍マンモスだった。
愛知万博のマンモス運ぶ木箱を手がける
愛・地球博入場者の3分の1にあたる700万人もの人が見て、17年が経った今も強い印象を残しているマンモス。このマンモスがシベリアから日本へ無事に運ばれ会場に展示された裏に、多治見市で木箱を作っている株式会社八木の技術が大きく関わっていた。2メートルはあるマンモスを運ぶには巨大な木箱が必要だった。そこで白羽の矢が当たったのが、祖父の頃から3代にわたって木箱の製造を手掛けてきた八木だったのだ。
八木の八木勇達代表取締役
マンモスの輸送に木製の箱が使われたのには理由がある。「日本に到着したマンモスを、研究のため箱に入れたままCTスキャンにかける必要があったからです」と、八木の代表取締役を務める八木勇達氏は説明する。1948年に名古屋市で創業し、春日井市を経て多治見に拠点を構えるようになった八木は、陶磁器を収める木箱や、おせち料理を詰める木製の重箱、熱田神宮で頒布される干支の置物を収める木箱などを製造していた。
干支の置物を入れる箱を見る八木代表取締役
美術品や冷凍おせち向け木箱を作る技術を動員
そうした技術を買われ、「名古屋市の美術館で作品を収納する箱や、美術品を運ぶ箱の製作にも関わっていました」(八木氏)。マンモスを入れる箱も、美術品や貴重品を運ぶ箱を作る仕事の延長で頼まれた。ただ、「2メートルを超えるマンモスが入るサイズの箱を手掛けたことがありませんでした。マイナス20℃という環境にも耐えなくてはなりません。金属製の釘も使えませんでした」(八木氏)。
氷点下でも剥がれない接着技術については、冷凍おせちを手掛けてきた経験が活きた。組み立てでは、伝統的な木組みの技術を取り入れつつプラスチック製の釘を使った。こうして、課題を一つひとつクリアして完成させた箱によってマンモスは日本へと運ばれ、無事に展示の運びとなった。
おせち料理を入れる木箱を手に取る八木代表取締役
その後も、赤ちゃんマンモスを運ぶ木箱を手掛けるなど特別な注文に応えてきた八木だが、そうした裏方のような仕事以外にも、八木が手掛けた木箱には容易に触れることができる。年末年始に大量に取引される、おせち料理を詰めた箱だ。年末を控えた10月は生産が本格化し始める時期で、工場では作業員が高く積まれた木の板を手早く接着し、箱の形にして積み上げていた。「1人で1日に1,000個くらい作ります」(八木氏)
代表自らFacebookで情報発信
別の場所では、料理を種類ごとに分ける仕切りが作られ、木の箱に収められていく。そうやってでき上がったおせち用の木箱がトラックに積まれて出荷されていく。八木代表取締役自らハンドルを握って各地の取引先まで納めに行くことも少なくない。60代の半ばに差しかかっても衰えないフットワークの軽さは、10年以上続けているFacebookの充実ぶりにも現れている。
友達の人数は11月の時点で2,260人。「すべてがリアルな友人たちです」(八木氏)。発信する内容は様々で、身辺雑記的なこともあれば、新聞などに掲載された仕事の話もあって、投稿を追っていくうちに八木氏の人となりが見えてくる。同時に、八木という会社に何ができるのかということもわかってくる。
Facebookを通してトップ自らが積極的に交流し、情報発信も行う。会社のホームページでは、「愛・地球博」でのマンモスに関するエピソードを詳細に紹介する。こうしたインターネットを介したアピールによって、多治見市という地方にありながらも、八木という会社の実力が全国に伝わっていく。
電子帳簿保存法に対応したシステム導入進める
外向けにはネットワークを活用する一方、内側でもICTへの対応を進めて、業務効率の改善に取り組んでいる。2022年1月に施行された電子帳簿保存法の改正に、どこの企業も対応する必要が出てきた。請求書や納品書、領収書、見積書、注文書といった証憑(しょうひょう)書類を紙だけでなく、電子書類としても保存しなくてはならなくなった。どうすればいいかをシステム支援会社とともに検討し、証憑をクラウドに電子保存するサービスを導入。使い方を一から教わりながら、対応を進めていった。
ベトナムから来た実習生によって、おせち料理を入れる木箱が次々に作られていく
「すべての機能を使い切れてはいませんが、一つひとつ勉強しながら電子化を進めている最中です」と八木で事務作業を手掛ける平田孝子さんは話す。「おかげでモノ作りに集中できるようになりました。ペーパーレスにもなるので、SDGsにも貢献できると考えています」(八木氏)。おせちの木箱のように、食べ終わったら捨てられるだけの製品を手掛けながら、環境問題を語れるのかという問いには、「間伐材を使うことで山林の育成に貢献していると言えます」(八木)と、自分たちの仕事が持つ意義を話して反論する。
SDGsには、働きがいと経済成長の両立という項目もある。ここに関しても、従業員に残業は極力しないように言い、休みもしっかりと取らせているとのこと。「ベトナムから技能実習生を受け入れてきましたが、言葉がわかってこそ日本での生活を楽しめると考えて、日本語をしっかりと学ばせました」(八木氏)。すでに任期を終えた2人を含め4人の実習生を、家族も同然といった扱いで受け入れ、生活の相談にも乗ってきた。安心して働ける場所だという評判が広がれば、これからも若い人材が来てくれると期待する。
デザインの感覚取り入れ製品やサイト構築に反映
早くに製造して冷凍保存し、需要期に出荷する冷凍おせちの普及もあって、「6月くらいからおせち用の木箱の受注が来るようになりました」(八木氏)というくらい、仕事はひっきりなしに舞い込んでいる。最先端のレーザー加工機を使ってコースターやかんざし、小物なども製造して細かなニーズにも応えている。コロナ禍やウクライナ紛争の勃発、そして急激な円安で外国産の木材が値上がりし、製品価格の引き上げを検討しなくてはならない状況にあるが、長い歴史の中で何度も起こった変化と割り切り、その都度必要な対応をとって乗り切る構えだ。
今後については、「もっとデザインの考えを取り入れたい」(八木氏)とのこと。今もデザイン担当者がいて、グラフィックソフトを使い設計などを行っているが、外に向けてアピールするためには、デザイン面でも勝負できるアイテムを独自に作って提供したり、ホームページを見やすくして手掛けている仕事を知ってもらう必要があると考えている。そのために、持ち前のネットワークとフットワークを生かしてアイデアを募ったり、パワーが足りないパソコンを入れ替えたりしていくという。
工場と事務所が入る八木の社屋
中部圏で目下最大のイベントとも言える「ジブリパーク」の仕事はまだ手掛けていないが、過去の実績から何かの機会で舞い込むこともありそうだ。すでに直接ではないものの、「ジブリパークの開園記念切手を入れる木製フレームを手掛けました」(八木社長)。間伐材を使いナチュラルな木肌が見えるフレームが、ジブリ作品の雰囲気とマッチして記念品としての価値を高めている。
こうした新しい需要を発掘し獲得していくために効率化によって時間を作り、今まで以上にネットワークを広げて八木の存在をアピールしていく。
事業概要
会社名
株式会社八木
本社
岐阜県多治見市小名田町1丁目49番地
電話
0572-22-3040
設立
1948年4月1日
従業員数
26人
事業内容
木箱及び木製品の製造販売/食品用ギフトBOX・お節料理用白木重箱・白木割烹食器/美術品輸送用コンテナBOX・機械工具用BOX/木製名刺入れを始めとするデザイン商品/木製雑貨・小物の製造販売
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