建設業(設備)

データの安全保管・共有システム導入でセキュリティ向上と仕事の質を変えた、あと施工アンカーコンクリート切断工事のプロ集団 エフ・ティー工業(香川県)

From: 中小企業応援サイト

2022年12月20日 06:00

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耐震補強などに必須となる、あと施工アンカー工事のプロフェッショナル集団として、香川県丸亀市を拠点に活躍している有限会社エフ・ティー工業。瀬戸大橋の耐震補強工事にも関わるなど存在感を発揮しているが、ICTは不得意だった。今夏、ビジネスデータを安全に保管・共有できるシステムと複合機を導入し、仕事の効率が格段にアップしている(TOP写真:技術力で事業を拡大した創業者の藤井博文代表取締役)。

退職後の仕事依頼がきっかけで創業

有限会社エフ・ティー工業の藤井博文代表取締役はもともと、あと施工アンカーコンクリート切断工事などを行う会社で働いていた。あと施工アンカー工事とはコンクリートに穴を開け、ボルトや鉄筋を止め付けする工事で、ガードレールの設置や壁に排水穴を開けるのに必要になる。30代半ばでアンカー工事会社を退職した時は独立を考えておらず、公共職業安定所に通って次の仕事を探していた。「さて、どこに就職するか」。そんな気構えでいた時、知り合いから工事を頼まれた。

あと施工アンカー工事

あと施工アンカー工事

受けるかどうか迷ったが、コンクリートなどに穴を開ける道具の購入費が10万円ほどで済んだことから、受託した。受託してわかったことがあった。「見積りや営業、工事や集金など、独立に必要なことを前の会社ですべて経験していた」(藤井社長)ことだ。

2001年2月、1人であと施工アンカー工事の仕事を始めた。軽トラにダイヤモンドドリルや発電機など最低限の道具を積み込んで1人で工事を行った。営業も当然1人だったが、徐々に仲間が増え、4人になった2004年に会社を立ち上げた。

技術重視の姿勢で仕事も社員も増加

社名にあるエフ・ティーは藤井社長のFと科学技術(Tech)のT。技術重視の姿勢は評価され、仕事は次々と舞い込んだ。最初は道具を買いそろえる資金がなく、あと施工アンカー工事だけだったが、徐々に種類を増やし、油圧ワイヤーソー、ウォールソーといったコンクリート切断をするための道具もそろえることができた。

多様な道具がそろっているエフ・ティー工業の倉庫

多様な道具がそろっているエフ・ティー工業の倉庫

もともと技術は持っていたため、道具を買いそろえたことで、解体工事や出入口を大きくするための工事など仕事の幅が広がり、量も増えて社員も増えた。

瀬戸大橋の耐震補強に加え、四国内の高速道路も支えている

瀬戸大橋の耐震補強に加え、四国内の高速道路も支えている

会社として最も自慢できる仕事の一つが、瀬戸大橋の耐震補強工事だ。瀬戸大橋や高速道路は橋脚や柱脚で支えられている。橋脚などの上には道路の継ぎ目が来るようになっているが、大きな地震があるとその継ぎ目が橋脚から外れてしまう。1995年の阪神・淡路大震災の際、一部の高速道路が地面まで落ちてしまったのは、継ぎ目部分が柱脚から外れてしまったためだ。この事態を受けた耐震補強工事では、継ぎ目が大きくずれても橋脚などで支えられるよう、道路を支える橋脚などの幅を広くする。

橋脚などのコンクリートに穴を開けて鉄筋を何本も差し込み、型枠にコンクリートを流し込む。エフ・ティー工業はこの「穴を開けて鉄筋を差し込む」作業をゼネコンからの一次下請けで受注。橋脚の穴を開けて鉄筋を差し込んでは、次の橋脚のコンクリートに穴を開けて鉄筋を差し込む工事を1脚につき2、3週間ペースで続けた。昨年10月頃までの3年間で、岡山県側に最も近い櫃石(ひついし)島から香川県宇多津町までの工事をすべて終えた。今は四国内の高速道路で同じような耐震補強工事を担っている。

2017年に徳島営業所開設するも、ICTは苦手だった

瀬戸大橋の耐震補強工事を受注する少し前の2017年、徳島営業所を開設した。藤井社長が以前勤めていた会社の同僚が独立して徳島で仕事をしていたが、エフ・ティー工業の仲間に加わったのだ。
ただ、ICTは苦手だった。データ共有システムは使っていたが、徳島営業所の社員は日報を見る程度だった。本社内でも問題があった。データ共有システムのアカウント管理ができていなかったのだ。

今年入社した2人の社員が気づいたデータセキュリティの問題点

今年入社した香川孝之営業部長や秘書係の石橋奈美さんが入社してすぐに気づいたのは、ドロップボックスのアカウント管理の甘さ。「1人の社員が何個もアカウントを持っていたり、辞めた社員のアカウントがそのままになったりしていた」のだ。データのセキュリティ管理もできておらず、個々人の給与明細なども見ようと思えば誰もが見られる状況だった。

藤井社長を支える香川孝之営業部長

藤井社長を支える香川孝之営業部長

セキュリティ管理ができる共有システム導入。データ管理を強化し、更に停電時にも対応できるようにした

ICTで作業効率が高まったエフ・ティー工業のオフィス

ICTで作業効率が高まったエフ・ティー工業のオフィス

そこで今夏導入したのが、ビジネスデータを安全に保管・共有できるシステム。データごとにアクセス権限を設けるなど、「社内の人間だけで行うとちゃんとできているか不安だが、専門家に相談しながら安心して行うことができた」(石橋さん)。

また、落雷などで停電した際のバックアップ電源が確保され、データが消失しない安心感もある。本社の社員は対面でシステムの使い方を教えることで慣れたが、徳島営業所の社員はまだ不十分。この10月にパソコンを渡したばかりで、習熟はこれからだという。

複合機のOCR機能で紙文書を自動でテキストデータ化、手入力が不要になった

写真・複合機の使い方を共有する石橋奈美さん(左)ら

写真・複合機の使い方を共有する石橋奈美さん(左)ら

共有システムと同時に導入した複合機も事務作業の効率化に効果を発揮した。就業規則を変更する際、文書データが紙ベースしかないことに気づいた石橋さんは「スキャンした文字データをテキストデータに自動変換しワードに落とし込むOCR機能がある」と聞いたことを思い出した。試してみると、ほとんどのデータが間違いなく変換された。石橋さんは「すべて手入力しなければならないとなると、確実に一日仕事。誤字脱字チェックにも神経を使うことになっていたが、読み込んだ就業規則を修文しながら誤字脱字チェックをするだけで済んだので、労力を大幅に軽減できた」という。今後は共有フォルダに入った就業規則の変更部分を直すだけで仕事が済む。必要な過去の紙情報をOCRによってテキストデータ化することで、探す手間や作成する手間が大幅に低減され、今後の仕事の効率化が期待される。

人材不足に工期不安定化の危機感。ただし、事務作業のICT化成功は、ICT施工へのステップにつながる

翌日の作業に向けて、必要な工具を積み込む社員

翌日の作業に向けて、必要な工具を積み込む社員

ICTによる事務作業の効率化が進み、仕事も順調だが、事業を拡大していけるかとなると「簡単ではない」(藤井社長)。建設現場に来る人材が少ないためで、このまま人手不足が続くと、「工期を守る」という日本の美徳が保てなくなる可能性があるという。

「現場仕事の給料を引き上げるだけでなく、専門学校を作って人材を養成しなければ、人が集まらないのではないか」。藤井社長は、人手不足への懸念をにじませた。ただ、ICTによって建設業の現場は大きく変わりつつある。まずは事務作業のICT化で効果を実感した藤井社長は、これから徐々に現場のICT施工に取り組み、3Kからの脱却を図るに違いない。

事業概要

法人名

有限会社エフ・ティー工業

本社

香川県丸亀市飯山町東坂元3633-2

HP

https://ftkogyo.com/index.html

電話

0877-59-7770

創業

2001年2月

従業員数

16名(2022年10月現在)

事業内容

総合建設業・建築設計及び監理業・上記に附帯する一切の業務

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