コロナ禍を機に「Project DX」を立ち上げテレワーク、発電データの解析へ 風力発電の青山高原ウインドファーム(三重県)
2022年12月26日 06:00
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中部電力グループの総合設備企業と地元自治体が出資して津市に設立された株式会社青山高原ウインドファーム。本州屈指の好風況地域である三重県青山高原に風力発電所を設置して、一般家庭約55000世帯分の電力を供給している。コロナ禍前は、メールやスケジュール管理は社内ネットワークに接続したデスクトップパソコンでしか行えなかったため出社必須だったが、モバイル端末とセキュリティ強化で、社員や取引先とのコミュニケーションや打ち合わせの利便性が格段に上がった。次なる一手は発電データ解析による維持管理コストの大幅削減だ。(TOP写真:今後のDXの可能性について話す吉田社長、長谷専務(兼技術部長)、岸本取締役(兼総務部長)(左から))
地元自治体建設の風力発電所が設立のきっかけ
株式会社青山高原ウインドファーム設立のきっかけは、1999年に旧久居市(現・津市)が青山高原に建設した3,000キロワット(750キロワット4基)の風力発電所。その運転実績から青山高原が風力発電に適した地域であることが明らかになり、旧久居市、隣接する旧大山田村(現・伊賀市)と民間企業による第三セクターとして設立された。
「風の通り道」青山高原
青山高原は、伊勢の国と伊賀の国を分ける布引山地に属し、標高は600~800メートル。南北約15キロメートルの大草原で、展望台からは伊勢湾、知多半島、伊賀盆地などが手に取るように見渡せる。
その主峰「笠取山」(標高842メートル)は、若狭湾から琵琶湖を経て、伊勢湾へ抜ける"風の通り道"。地名の由来は「笠が取れるほど強い風が吹く」ところから来ており、年間平均風速7.6メートル/秒と本州屈指の好風況地域になっている。
「風の通り道」とされるだけあって、どこまでも遠く見渡せる青山高原からの眺望
青山高原に2ヶ所の風力発電所、風力では日本有数の発電能力
2000年12月の会社設立から半年余りの2001年9月、地元の理解も得て風力発電所の建設工事に着手。2003年3月に運転を始めた風力発電所は高さ50メートル、発電能力750キロワットの風力発電設備が20基、計1.5万キロワットの発電能力を有する堂々とした設備となった。
発電所が順調に稼働する中、会社の目は更なる地域資源の活用を目指して新たな建設地域の確保に向かった。ただ、風力発電は地域住民や周辺自治体の理解を得ることが大切。建設着手は2013年で、工期は4年。2017年2月に完成した新青山高原風力発電所は高さ65.4メートル。既存施設を大きく上回る8万キロワット(2,000キロワット40基)となり、つい数年前まで風力発電所として全国一の発電能力を誇った。
青山高原に建つ風力発電設備
コロナ禍前は出社しないと業務ができない状況だった
風力発電設備が順調に稼働し続ける中、会社の経営は順調だった。だが、経営が順調なだけにDXに対しての危機感はなかった。そこに襲ったのが、コロナ禍。社長以下20人弱の社員は全員、親会社のシーテックのビルの一室に勤務しているため、だれか1人でも感染すれば全員が出勤できなくなり、業務が停止する可能性があった。
しかも社員に貸与された会社の携帯電話はガラケー。パソコンはデスクトップ。決裁は紙ベースで行われ、ハンコも必要。メールでさえ出社してデスクトップパソコンを立ち上げなければ見られない状況で、出社しなければ仕事にならなかったのだ。
若手中心に危機感、立ち上がった「Project DX」
「このままではまずい!」
技術部の今井担当部長が中心となって2020年7月、4人のチーム「Project DX」を立ち上げた。総務部、設備部の係長ら若手も加わった。従来のICT関係の導入は総務部中心だったが、総務部中心では会社全体のニーズを踏まえたDXになりにくい。チーム「Project DX」の立ち上げは「会社全体で取り組む姿勢を作るため」(今井担当部長)だった。
「何をゴールとするか」「目標や目的は?」。メンバーの中にDXに詳しい社員はおらず手探り状態だったが、熱意はあった。自主的に勉強してセミナーも受講し、情報処理技術者向け国家試験の一つ、ITパスポートを全メンバーが取得した。以前から取引のあったシステム支援会社のアドバイスも受けながら、PDCAサイクルでリスクを減らしながら取り組み、パソコンにデータをダウンロードできないようにすることなど細部を決めていった。
電子黒板を前にDXについて話し合うプロジェクトチームの今井担当部長(技術部)、長谷川係長(設備部)、五藤係長(総務部)、三上係長(設備部・リモート参加)(奥から)
ハイスペックのスマホやノートパソコンを支給 運用ルールも決めテレワーク体制づくり
最初に劇的な改善をもたらしたのが、スマートフォンやノートパソコン。セキュリティ面のリスクには二重三重の対策を施して社員に支給し、メールはもちろん様々なデータをいつでもどこでも安全にやりとりすることができるようになった。
その際に大事だったのが、経営陣の理解。「当時の小西社長の判断で、求めるDXに対応できるパソコンにした」(岸本取締役)。結果、ハイスペックのパソコンが導入され、その後のDXにもストレスなく使えている。
テレワークに必要なハード面の環境を整える一方で、テレワーク実施時には所属長に申請する」といったルールも策定。全社員がそのメリットとデメリットを肌で感じられるよう、必ず月1回はテレワークを実施することも決めた。
2度目の緊急事態宣言、同一ビルの感染者にも動じず。コミュニケーションはコロナ以前より活発になった
2021年の2度目の緊急事態宣言。オフィスがあるビル内では感染者が出た。多くの会社が経験した災難が青山高原ウインドファームにも襲ったが、すでにリモート決裁もできるようになっており、BCP対策が機能した。
電子黒板を使ったスタンディングミーティング。すぐに行えるのが魅力だ
この頃に取り入れたのが、社長室をスタンディングミーティングのスペースに変更することだった。社長室は別途設け、元社長室の広いスペースには電子黒板が置かれ、ちょっと確認したいことがあれば誰もが誘い合い、5分、10分の打ち合わせを行うことができる。
電子黒板があるので、図面やデータを見ながらの打ち合わせが可能で、社員間の風通しも格段によくなったという。
リアルタイムで、現場やメーカーとのやり取りやWeb会議の定例化等、設備保守のためのDXは着実に進んだ
チーム「Project DX」が次に取り組んだのが、設備保守へのDX活用。Web会議システムやチャットシステムを使い、保守関係者やメーカーとの情報共有などを始めたところ、社外の関係者も抵抗なく使いこなすことができた。
風力発電設備巡視の委託先とはチャットを使って現場の状況を報告。風力発電メーカーとは不具合情報を共有するシステムを作ったほか、Web会議を定例化させた。
メーカーとの会議はそれまで移動に時間がかかる対面で行ってきたため、日程調整が大変だった。しかし、移動不要のWeb会議は会議時間のみが互いの制約時間となるため、定例化できたというわけだ。
経営者の理解とチーム「Project DX」の活躍で、システム武装は支援会社も驚くスピード
コロナ禍からの3年で劇的に深化を遂げている青山高原ウインドファームのDXは、システム支援会社の担当者が「スピードがすごい」と驚くほどだ。その背景には「経営者の理解」(今井担当部長)とともに、チーム「Project DX」メンバーの意欲もある。
そのリーダーの今井担当部長が「システム支援会社に目いっぱい力を借りた」と話すのが、セキュリティ面。端末にIDとパスワード、デジタル証明書を盛り込んだり、全体の防御システムを構築したりしたが、これらはシステム支援会社の専門家の助言を得て決めた。また、端末の紛失・盗難などにも気を配っている。端末に盛り込まれた検索システムでも端末の場所がわからない場合は、すべてのデータを消去できるようにしているのだ。
ディープラーニングで大幅なコスト削減を目指す
取引先も巻き込んで進む青山高原ウインドファームのDXで、次の一手が目指すのは大きな獲物だ。風力発電設備のデータを解析することで、維持管理費の大幅削減を目指しているのだ。各発電設備の発電状況などはリアルタイムで本社に送られ、視覚化されているが、各発電設備には細かなデータが日々蓄積され、死蔵されている状態だ。
その「宝の山」を生かすことができれば、「よく発電している設備がどれで、故障が多い設備はどれかといった、今は直感的にしかわからないことが見える化できる。より効率的な修繕計画も立てられる」(吉田社長)。そのために必要なのがAIによるディープラーニング。人間では把握できないすべてのデータから解を導き出す。実際、設備に使われているベアリングでは、メーカーがその振動などのデータを取得、解析することで交換時期を見極めているという。
「毎年1回行っている部品の定期交換がムダだったということがわかるかもしれない。次の故障はいつどこの設備で起こるかがわかれば、大幅なコスト削減につながる」(長谷専務)。
小所帯だからできる先駆的な取り組み
青山高原ウインドファームは2022年11月現在、社員16人の小所帯の会社だが、吉田社長らは中部電力からシーテックを経てやってきた。今井担当部長らはシーテックから出向しており、全員が大所帯の身動きの悪さを知っている。小所帯ならではの小回りの良さを生かしてシステム支援会社の担当者が驚くスピードでDX化を推進できているが、そこには経営者側の「大きな会社でできないことを経験させてやりたい」(岸本取締役)との思いもある。
一方、劇的なスピードで変革させている今井担当部長は「DX化の経験をさまざまな会社の参考にしてほしい」と話し、シーテックの社員とDXの勉強会も自主的に行っている。日本全体で推進が求められるDX。その推進役は、青山高原ウインドファームのような意欲ある小所帯の会社なのかもしれない。
事業概要
会社名
株式会社青山高原ウインドファーム
所在地
三重県津市大倉12番19号(本店事務所)
電話
059-228-7773
設立
2000年12月
従業員数
16名
事業内容
風力発電事業及び電力の供給
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