不動産業

オンデマンド印刷機で配布資料の内製化、ホームページで団地の意思疎通、地域再生を目指す武里住宅団地管理組合法人(埼玉県)

From: 中小企業応援サイト

2022年12月22日 06:00

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埼玉県春日部市にある大型分譲団地の管理組合「武里住宅団地管理組合法人」は、6年ほど前からICTを積極的に取り入れて業務の効率化を実現している。中でもオンデマンド印刷機(POD)による各種資料の内製化は印刷・製本コストの大幅ダウンに加え、組合の役員ら作業に従事する人たちに時間的余裕をもたらした。老朽化した団地の再生という喫緊の課題に対しては、ホームページを開設し、住民への広報力アップや住民同士の意思疎通の円滑化に役立てようとしている(TOP写真:中層集合住宅が建ち並ぶ武里団地の5街区)。

5街区の敷地内に立てられた案内板

5街区の敷地内に立てられた案内板

5街区にある分譲団地560戸の区分所有者が組合員

広大な敷地に何棟もの中層集合住宅が建ち並ぶ「武里団地」は9つの街区6,119戸で構成される。旧日本住宅公団が1963年に竣工した当時は「東洋一の団地」と呼ばれた。中心部に公民館、図書館、幼稚園、小学校をはじめ、スーパーや銀行、市役所出張所、病院などが集まる。最寄り駅は東武伊勢崎線(スカイツリーライン)の「せんげん台」または「武里」。都心までドアツードアで1時間半もあれば通勤できる、緑豊かな住みやすい団地だ。

1から9まである街区のうち5街区だけが分譲住宅で、あとはUR都市機構の賃貸住宅となっている。5街区は最南端にあり、せんげん台駅から徒歩8~10分の場所。平屋の管理事務所棟も含めて23棟あり、総戸数は560戸にのぼる。この560戸の区分所有者を組合員とするのが武里住宅団地管理組合だ。住宅の使用を開始した1967年に設立され、2014年に法人化した。築55年を経過した現在、建物の老朽化と住民の高齢化が進む中、5街区全体の再生という大きな課題に直面している。

元無線技術者が事務長に就任し、一気にICT化が進む

武里住宅団地管理組合法人がICTの導入に踏み出したのは、2015年に理事に就任した飯田洸(いいだ・ひかる)さんが翌2016年から事務長も兼務するようになったことが大きい。事務長は他の事務職員と同様に組合との雇用契約関係にあり、報酬を支払われるが、飯田さんは理事でもあることから報酬を辞退している。そこまでして事務長の職を引き受けたのは、「団地の再生を何とかやり遂げたい」との思いからだという。飯田さんは、もともと無線通信を専門とするエンジニアで、定年退職後も週に1回、かつての勤務先に請われて後輩たちに技術指導するなど、ICTに明るい。事務長として管理事務所に詰めるようになってからは、当然のようにICT環境の改善に努めた。

管理事務所の前に立つ理事兼事務長の飯田洸さん

管理事務所の前に立つ理事兼事務長の飯田洸さん

飯田さんが事務長に就任した当初、管理事務所にパソコンは1台しかなかった。月1回の理事会と年1回の総会に使う資料や住所録などの各種データはUSBメモリーに保存していた。資料ごとに分類して保存するので、USBメモリーの数は30個にものぼったという。

パソコン導入へ組合幹部に根気よく必要性を説明

団地やマンションの管理組合といえば、どこも幹部は現役の職場を引退した人が大半。団塊の世代より上の人は、現役時代に職場でパソコンを1人に1台支給されたケースが少ない。そのためパソコンが苦手で、必要性も感じない。武里団地も例にもれず、それまでの組合幹部の中には、「たかが560戸の組合にパソコンを使うような仕事はない。資料は手書きで十分」と言い放つ人もいたという。実際に総会資料は前年のものを元に、数字など前年と異なる部分だけを手書きで修正して印刷に出していた。

飯田さんは、毎月の理事会などの場を利用してパソコンの必要性を根気よく説き、徐々にパソコン台数を増やしていった。飯田さんと管理事務所に常駐する2人の職員の分はもちろん、役員らが作業する際に使うものも含めて、今は7、8台が稼働している。管理事務所内にWi-FiとLANケーブルによるイントラネットも構築。各種データはNAS(ネットワークで接続したHDD)に保存するようにした。

「私はICT機器を1台だけで使うのはあまり好きじゃないんです。よりみんなの役に立てるようにと、常に利便性を向上させようと考える。だからパソコン同士を繋いで情報を共有化するというのは当然のことなんです。そのために事務所内にネットワークを作り、外からの侵入を防ぐためにファイアウォールを置いています」(飯田さん)。

同管理組合では、パソコンをはじめとする各種ICT機器の導入や設定、システムの構築や更新、ホームページの制作、さらには新しい機器やシステムの導入提案まで、すべて一つのシステム支援会社にまかせている。セキュリティー対策についても同様で、ファイアウォールや不正侵入検知(IPS)、アンチウイルス、アンチスパム、Webフィルタリングなどの機能が一つにまとめられたUTM(統合型脅威管理)機器を導入するとともに、24時間365日のフルタイム保守契約を結んでいる。

管理事務所内のパソコン配置状況

管理事務所内のパソコン配置状況

飯田さんの執務場所。机の左下に黒いNASと白いUTM機器が見える。左端に見えるのは駐車場監視カメラのモニター

飯田さんの執務場所。机の左下に黒いNASと白いUTM機器が見える。左端に見えるのは駐車場監視カメラのモニター

オンデマンド印刷機で印刷・製本を内製化、コストを年間100~200万円削減

ICT機器の中でも、大きな導入効果を上げているのが「オンデマンド印刷機」とも呼ばれるPODだ。飯田さんが事務長に就任したときに、従来のコピー機を置き換えるとともに、それまで外部の印刷業者に委託していた各種配布物や資料の印刷・製本をPODで行うようにした。毎年、カラーで約60ページの総会資料を戸数分だけ印刷するほか、毎月発行する「組合ニュース」、町内会「五街区町会」の配布物などがあり、さらに最近は5街区再生事業に関する住民説明会に使う資料も増えていることから、1年間にモノクロで約15万枚、カラーで約7,000枚を印刷しているという。特殊な紙を除いて、そのすべてを内製化しているので、「外注単価が1枚10円としても、ざっと年間100~200万円程度のコスト削減にはなっているのではないでしょうか」と飯田さんは見積もる。

各種印刷・製本に使うPOD

各種印刷・製本に使うPOD

加えて、コスト削減よりもメリットが大きいと飯田さんが強調するのが「時間的余裕」だ。「外部に印刷を頼めば、どうしたって原稿を期日までに渡せるように早めに準備しなくちゃいけないし、完成品を受け取るまでに時間もかかります。ところが自分で印刷すれば、前日に原稿を書き上げてもいいわけです。我々の時間の配分がずいぶんと違ってきて、精神的にも余裕が持てます」。

5年契約のリースなので、この半年前に最新鋭機に代替したばかり。印刷スピードが一段と速くなり、1枚当たりの印刷単価も下がった。ただ、「そのぶん、(PODが発する音が)うるさい」とも。

2020年に新型コロナウイルス感染症が発生してからは、9月の総会を公民館と集会所の2会場に分けて同時開催することにした。“3密”状態を避けるため、それぞれの収容人数を従来の半分に制限したためだ。そのためにプロジェクターとスクリーンを導入。Zoomを利用して公民館での議案説明の様子を集会所のスクリーンに映し出すようにした。プロジェクターは毎月の理事会でも資料データの共有用に利用するなど重宝している。

ホームページを開設、外住者との連絡にも活用

昨年2月にはホームページを開設した。組合のお知らせや「組合ニュース」「五街区町会」などの広報資料、各種規則や申請資料などを閲覧・ダウンロードできる。町会会員だけが閲覧できる情報はIDとパスワードでアクセスする仕組みだ。

パソコンなどの導入と同様、ホームページ開設についても組合幹部のコンセンサスを得るのにかなりの時間と根気を要した。だが、いざ始めてみると、「すべての情報はホームページで住民に伝達すればいいのではないか」「みんなが楽しめるような作り方にしよう」など、若い組合員さんを中心に前向きな意見が聞かれるようになったという。ホームページの管理や編集も若い組合員さんに担当させるようにしている。

昨年2月にホームページを開設した

昨年2月にホームページを開設した

分譲住宅の区分所有者560人のうち、140人は外住者。すなわち人に貸したり、親戚を住まわせたりして、本人は別のところに住んでいる。飯田さんは、将来的にこうした外住者への連絡はすべてホームページで行えるようにしたいと考えている。そのために、情報を双方向でやりとりできる機能を充実させたい考えだ。

「ホームページの双方向の機能を充実させたい」と話す飯田事務長

「ホームページの双方向の機能を充実させたい」と話す飯田事務長

SDGs宣言で「“誰一人取り残さず”地域再生に取り組む」と謳う

ホームページを通じて、外住者も含めた住民同士のコミュニケーションが活発になれば、喫緊の課題である5街区再生に向けての意見集約にも役立てられる。

「5街区再生」というのは、5街区で進む建物の老朽化、区分所有者の高齢化、人口減少と少子化に対応、次の世代へ住み繋いでいけるように、多世代ミックスの持続可能な新しい“街・共同体”を実現することだ。具体的には①建物の全面的な建て替え、②大規模修繕・改修---、の大きく2つの道が検討されている。飯田さんは個人的見解と断った上で、「5街区の住民の46.6%が65歳以上で、そのうち80歳以上が116人います。年金だけで暮らしている人に貯金をはたけというのは酷。自己資金負担は限りなくゼロに近づけたい」と話す。

武里住宅団地管理組合法人は昨年1月、春日部市の「かすかべSDGsパートナーズ」会員になった。そのSDGs宣言の一節には「“誰一人取り残さない”で持続可能な街をつくることを目標に地域再生に取り組む」とある。

今年7月、SDGs活動の一環として5街区に4台設置された災害救援型自動販売機。停電時には予備電源に切り替わり、災害時は無償で飲料水を提供する。飲料を1本買うごとに3円を寄付する仕組み

今年7月、SDGs活動の一環として5街区に4台設置された災害救援型自動販売機。停電時には予備電源に切り替わり、災害時は無償で飲料水を提供する。飲料を1本買うごとに3円を寄付する仕組み

事業概要

法人名

武里住宅団地管理組合法人

所在地

埼玉県春日部市大枝89-3 武里団地5街区7号棟

電話

048-737-6210

設立

1967年7月

構成員数

560人

事務職員数

3人

事業内容

武里団地5街区の区分所有者を構成員とし、同団地内の土地、付属施設、建物の所有者の共有部分を管理

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