在宅復帰率55%。ICTによる効率化で残業は月7時間に 医療法人 明成会 介護老人保健施設 紀伊の里(和歌山県)
2023年01月06日 06:00
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リハビリ重視で自宅に戻れる入所者の割合が多い超強化型介護老人保健施設(老健)の認定を受けている「紀伊の里」。県内に4つしかない超強化型老健の一つとして、地域になくてはならない施設であり続ける一方で、ICTを取り入れて職場を「かっこよく、スマートに」変えている(TOP写真:入所者の検温をする職員。検温データはそのままタブレットなどに記録され、事務処理を「スマート」にしている)。
伯父に見込まれて併設の院長兼施設長となり、27年
紀伊の里は1995年12月、特別養護老人ホームなどを経営していた向井高明さん(故人)が設立。施設長の山野雅弘さんは関西医科大学で内科、外科を学んだ後、約10年間にわたって病院勤務などをしていたが、伯父の向井さんに見込まれて当初から施設長として勤務。併設する紀伊クリニックの院長としても働き始めた。
当初からリハビリ専門職を3人置き、リハビリを重視
開設当初、多くの老健施設はリハビリを重視せず、一度入所すれば特別養護老人ホームや病院に移ることが多かった。多くの入所者は自宅へ戻る「在宅復帰」がかなわなかったのだ。
1日20分のリハビリを行う職員。生活リハビリとともに、在宅復帰率を高めている
しかし、紀伊の里では多くの入所者の在宅復帰を目指し、当初からリハビリ専門職を3職種雇い、在宅復帰を目指してきた。
理学療法士や作業療法士が歩行練習や体力向上練習、稼働域練習等を行うだけではなく、介護スタッフによる生活リハビリにも取り組み、日常生活動作の向上を行うと共に職員の介護負担軽減にも繋がっている。
創設当初から「在宅強化型老健」認定、2018年には「超強化型老健」に認定された
紀伊の里では、入所時にご利用者のご家族様と十分に話し合って在宅復帰に向けてのゴールを決めている。支援相談員の藤井彰彦さんによると、「重要なポイントは日常的な生活動作が向上できるかどうか」。その中でも歩行や排泄が自分で行えるようになれば在宅復帰の可能性は格段に上がる。環境への配慮も大切で、手摺の取り付けやポータブルトイレの設置等を検討し、在宅復帰する例も多い。
リラックスした雰囲気の紀伊の里
その結果、紀伊の里は50%以上の在宅復帰率を維持。厚生労働省が2012年の介護報酬改定で新設した「在宅強化型老健」に当初から認定され、2018年には新しくできた「超強化型老健」に認定された。平均在所日数は10ヶ月。病院や特養に移る人もいるが、現在の在宅復帰率はつねに55%前後を維持。「在宅復帰に3ヶ月以上かかる人もいるが、早い人だと1ヶ月で在宅復帰する」(藤井さん)という。
約10年前から認知症対策も強化、多くの職員に認知症研修。在宅復帰者が多く出た
在宅強化型の認定前後から紀伊の里が力を入れ始めたのが、認知症対策。山野施設長は認知症サポート医の資格を取得し、多くの職員に認知症の研修を受けてもらった。結果、利用者本人の意向に沿った対応・話を傾聴する等、職員の認知症への考え方が変わってきた。同時に医師と看護師との連携により適切な薬の処方を行い、認知面や精神面の改善にも繋げている。また、在宅復帰に向けご家族への十分な説明を行い、理解・実践して頂くことにより在宅復帰後に利用者の気持ちが安定する例もあった。
支援相談員の藤井彰彦さん
看護職員と介護職人のチームワークづくりを重視。「多職種平等」という方針のもと、看護職員もオムツ交換
施設開設当初、山野施設長が直面したのが、看護職員と介護職員との連携やチームワークづくりの難しさ。介護職員の知識やスキルの習得度によっては、看護職員の立場が上になる場合があり、紀伊の里でも両職員間の意識のずれから退職者が出たことがあった。その課題を克服し、連携やチームワークを醸成させられたのは、「多職種平等」という方針だった。常に忙しい現場において、互いの仕事を理解した上で、一緒に協働するための仕組みづくりを心がけた。夜勤3名体制には、看護師を1名配置。一般的には看護職員がしない「オムツ交換」などの業務も担当してもらい、精神的な「協働」や「平等」という感覚、風土を培っている。
職員の自主性重視で離職者は、他施設に比較して少ない
また、「職員を縛ると現場が疲弊する」と考え、職員に主体性と責任を持たせることで、新しい取り組みが生まれ、さまざまなことを自発的にやってくれるようになったという。山野施設長は挙がってきた提案に対し、「やってみてダメだったら修正すればいい」とゴーサインを出している。
結果、職員の中にやりがいが生まれ、2017年当時、看護職員は2年間退職者ゼロ、介護職員にいたっては3年間退職者ゼロだった。この1年は5人が離職したが、コロナ禍の影響もある中で離職率は低いといえる。
3K職場の脱出のためICTで「かっこよく、スマートに」を目指した
看護・介護現場はよく「3K(きつい、汚い、危険)」と言われるが、山野施設長はこの点にも気を配った。そのための手段がICTだ。「看護・介護現場をかっこよく、スマートに」と、早い段階から「介護の電子カルテ」を導入。スタッフ全員が習得でき、記録事務が効率化された。
いつでもどこでも入力できる小型タブレット導入で残業ゼロを目指す
次に導入したのは、小型タブレット。当初は検温や血圧などの数値を手入力する必要があったが、今は自動的に小型タブレットに記録され、サーバー上にも自動的に記録。その後の書類作成などの手間が大幅に減った。このため、職員が利用者と関わる時間が増え、職員の残業時間を削減することにも繋がった。2017年段階では、職員の残業時間は看護職、介護職とも月3~4時間程度。その残業も「イベントの出し物の練習をする時だけ」だった。
今は産休・育休取得者が多いため、実働人員が不足気味で残業が増えがちだが、それでも月7時間前後の残業で済んでいるのは、ICTのおかげ。山野施設長は「ICT化できていなければ、今の人員では回らなかったかも」と話す。
ベッド周りのセンサーマットとセンサーで事故を未然に防ぎ、職員の負担軽減
職員の負担軽減に繋がっているのが、ベッド脇に敷かれたセンサーマットと、ベッド上の動きを感知するセンサー。入所者が起き上ったり、立ち上がったりすると、センサーが感知して、職員に知らせる。支援相談員の藤井さんは「頻繁に巡回する必要がなくなる上、効率よく事故防止対策を行うことができる」と、高く評価している。
無線LANの設置で職員同士のコミュニケーションが増え、問題発生時の対応も速やかに
また、施設内に無線LANを設置したことで、フロアの違う職員同士が端末のビデオ通話ソフトを使って通話ができるようになったことも、職員の対応力を大幅に向上させた。サービスステーションからの呼び出しではサービスステーションに行ったり、伝えたりするまでの時間がかかるが、担当者と直接ビデオ通話で話せるようになったことで、問題発生時に即応できるようになったのだ。
今後も職員とのコミュニケーションを強化するICT導入を続ける
先進的にICTを取り入れている紀伊の里でも、勤怠管理はタイムカードで行っている。勤務シフトも職員とコミュニケーションを取りながら作る必要があるためだ。ただ、個々の職員の事情は、勤務シフト作成システムを導入したとしても反映することが可能だ。勤怠管理をカードで行うシステムもあるため、今後も効率化が進む可能性がありそうだ。
クリニックが併設された紀伊の里
事業概要
法人名
医療法人明成会 介護老人保健施設 紀伊の里
所在地
和歌山県和歌山市宇田森275-10
電話
073-461-8888
設立
1995年12月15日
従業員数
総勢100名
事業内容
介護老人保健施設、居宅介護支援、訪問リハビリ、通所リハビリ(デイケア)、ショートステイ、併設有床診療所
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