土木工事施工管理システム、工事現場用デジカメ、図面管理デジタル化でゆとり創出 玉名建設(愛知県)
2023年01月05日 06:00
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愛知県春日井市で水道管の布設工事などを行っている株式会社玉名建設の工事課で働く上土井敦氏は、父親で代表取締役の上土井秀秋氏が創業した会社に入社するまで、首都圏で造園の仕事をしていた。「公園の造成や登山道の整備などを行っていました」(TOP写真:株式会社玉名建設の工事課で働く上土井敦氏)。
寸分違わない作業を求められる水道工事は、多数の書類作成が必要
数年前に地元に戻ってきて、玉名建設の仕事を始めた時に感じたのが、造園の仕事とは違った水道工事の仕事が持つ厳密さだ。もちろん造園でも依頼主の要望にしっかりと応える必要があるが、手掛ける人の創造性が求められる部分も少なくない。対して水道工事は、「決まった場所を掘って、図面と寸分違わない場所に水道管を布設して、しっかりと埋め戻す必要があります」。社会インフラの一翼を担い、住人たちが安心して暮らせる環境を作り出す水道工事の仕事には、造園とは別のやり甲斐があるようだ。
これは造園でも同じだが、土木や建設といった工事には、現場での作業と同時に多くの書類の作成が求められる。受注すれば施工計画書を作り、工程や工法などを書き込んでいく必要があるが、これが非常に大変なのだ。「自分が入社した時は、Excelのテンプレートに記入していましたが、現場の状況によって書く内容も変わってくるため、テンプレートどおりには入力できず、作成に手間取っていました」。「実際の工事がスムーズに進んでも、書類の作成に手間取っていては従業員の負担は減りません。皆さん頑張ってくれていて業績も上がっているのに、そうした部分でストレスをかけては申し訳ないと思いました」。
Excel利用に限界感じ土木工事施工管理システムを導入
誰が使っても簡単に施工計画書が作れるシステムを導入する必要がある。そう考えて、「建設業向けのシステムを作っている会社が開発した土木工事施工管理システムを導入することにしました」。今はまだ試行段階で、具体的な効果を実感するところまでは使い込んでいないが、「このシステムである程度まで作業を平準化できればと期待しています」。
写真管理ソフトと工事用デジカメ利用で画像処理作業の効率化を実現
もう一つの効果が、工事中に撮影する膨大な画像の管理だ。「水道施設の工事では、施工している写真を、それこそ工事を始める前から、実際に穴を掘っているところ、水道管を入れているところ、埋め戻しているところまで幾つも撮るんです」。工事ごとに何十ヶ所かのポイントがあって、それぞれのポイントで100枚以上を撮影するとのこと。「自分が現在手掛けている工事は36ポイントありますから、3,000枚以上の写真を撮ることになりますね」。
水が多く湧き出る場所では、そうした状況も含めて写真を撮るため、さらに枚数が増える。これらを工事現場ごと、ポイントごとに仕分けして、どのような作業をしているかも含めて1枚1枚に情報を入れ、写真帳を作って保管していく作業は考えるだけでも気が遠くなる。これまでは画像管理ソフトを使い行っていた作業を、土木工事施工管理システムの写真管理ソフトを使うことで効率化できる。
建設 CALS 対応デジカメの導入により、電子納品に適した画質・サイズでの撮影が可能に
工事現場用に製造されたデジタルカメラも4台導入して使い始めた。ハードな使用に耐えられるよう防水・防塵仕様になっているが、便利なところはそれだけではない。「利点の一つはCALSモードに対応していることです」。高画質化が進んだ今のデジタルカメラは、画像のデータ容量が大きくなってしまいがち。これをそのまま保管していたらHDDがすぐにいっぱいになってしまう。だからといって1枚1枚サイズ変換していては手間がかかって仕方がない。「CALSモード※を使えば、画質を維持しながら電子納品に対応したサイズの写真を撮れます」。
※建設 CALS に対応する電子納品に適した画質・サイズで撮影できるモード。CALS モードにするには、モードダイヤルを [CALS] に合わせることで、即座に切り替えることができる。https://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/dc/support/faq/g700/g07026.html
工事用デジカメの電子小黒板機能をフル活用
工事現場用のデジカメにはまた、「工事用電子小黒板に対応した機能もついています」。工事現場で撮る写真には、工事名や工種、位置、設計寸法、実測寸法、立会者、そして略図などをチョークで書き込んだ緑色の小黒板を一緒に写し込む必要がある。この小黒板をデジタルデータとして作成し、撮影した画像に入れ込む機能が工事用電子小黒板機能だ。「誰かが小黒板を持つ必要がなくなるため、現場の作業員の手間を減らせます」。
足場が悪い場所、暗い場所、逆に光が反射して文字が読みづらい場所でも、「しっかりと小黒板のデータを入れ込めるようになります」。画像には工事名や工種、位置といった情報が添付されていて、後から仕分けして管理したり帳票を作成したりしやすくなる。「何千枚もの写真をデジカメから取り出して、1枚1枚仕分けしていた時と比べて、大幅に作業を短縮できますね」。効果が目に見えて出てくれば、同じ機能を持ったデジタルカメラを順次増やしていく考えだ。
スマホで施工図面を見る上土井さん
工事の現場へ持っていく図面についても、電子化してタブレットなどから見られるようにしたいところだが、前に試行してみて「土埃が舞って雨も降る工事の現場で、落としたら壊れてしまうタブレットは使いづらいところがありました」。今は静観の構えだが、自身は手帳のように開いて大画面になるスマートフォンに図面を入れて持ち歩き、現場で見ているという。「造園業の時から、スマートフォンにデータを入れて持ち歩いていました」というから、世代的にデジタル機器との親和性が高かったとも言える。いずれ若い世代が増えてきたら、スマートフォンやタブレットを現場で使うケースも多くなりそうだ。
水道施設工事は新規布設から、入替、耐震工事へ。過去の図面のデジタルデータを持つことが強みに
そのような状況が来ることも見越して、過去の施工図や工程表といった書類はサーバーに保管し、権限さえあれば誰でもどこからでも見られるような環境を整えている。新しい案件を受注した際には、こうした過去の事例を参考にして効率的に書類を作成したり、現場で作業状況と工程を照らし合わせて確認したりといった作業が楽になる。減った負担はそのまま、従業員たちのゆとりに繋がる。
「水道工事も、以前は新しく住宅地が造成された場所への布設が多かったですが、今は過去に埋められたものが老朽化したから入れ替えてほしいといった要望に変わってきています。あとは耐震化の工事ですね」。そうした案件の場合、過去に手掛けた工事の記録があれば正確に水道管の位置を把握し、効率的に工事を行える。過去の資産を効果的に生かせる状況を作っておけば、受注にも有利に働きそうだ。
社員の安全と働き方改革のためアルコールチェック導入と残業減らし、休日出勤もなくす
玉名建設に設置されたアルコール検知器
工事現場には車で向かうことになるため、アルコールチェッカーを導入して法令に対応した。「チェックシートがレシートのように打ち出されるのを貼り付けていく方法のため、いずれはクラウドで管理できるようにしたいです」と、ここでも作業の手間を省く方策を考えている。それもこれも「土木建設業を楽しい仕事にしたい」という思いから。依然としてきつくて厳しい仕事と思われがちな業種だが、実際には休日はしっかりと休めて残業も少ない。ICTで作業自体も効率的に行えるようになるなら、若い人にもっと入って来てもらえるだろうと見ている。
社内の人材育成とICTによるコミュニケーションで組織の若返りと業績の向上が期待される
玉名建設では従業員が資格を取得すると認定証を掲出する
「自分がメインとなって、ビジネスチャット(LINE WORKS)で社員をつないで情報のやりとりをしています。こうしたDX改革に、「社長も含めた年配の人たちも入って来てもらえれば良いいんですが……」と世代によるばらつきがあることを明かすが、「古いやり方にもいいところはあるので大事にしつつ、組織の若返りをしていく中で広がっていってくれたら」と前向きだ。
水道施設工事にとって、デジタル化の威力は大きい。過去の図面や仕様をデジタルで蓄積しいつでも使える状態にすることで、仕事がスムーズに進み、コミュニケーションの質が大幅に向上する。ただし、データ活用の効果はまだまだある。その活用方法は人が決める。データ活用のための人の質の向上とコミュニケーションの向上に力を入れている玉名建設に期待したい。
事業概要
会社名
株式会社玉名建設
本社
愛知県春日井市神領町三丁目1番地22
電話
0568-52-9511
設立
1988年6月10日
従業員数
12人
事業内容
土木工事業/水道施設工事業/管工事業/とび・土工事業/鋼構造物工事業/ほ装工事業/石工事業
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