統合型グループウェアでペーパーレス化を推進、経営改革との相乗効果で堅実路線に復帰 田村工機(神奈川県)
2023年01月26日 06:00
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段ボール・紙器用抜型メーカーの大手、株式会社田村工機は十数年前、大赤字に苦しんでいた。売上至上主義の下、製造部門も営業部門も業務改善を怠り、利益を軽視する状態に陥っていたためだ。どん底で経営を任された現社長の佐藤代表取締役は、業務の一つひとつを改善するとともに、統合型グループウェアを導入するなどICT化への投資を積極化。堅実経営路線への復帰に成功し、働きやすい職場づくりが進められている。(TOP写真=田村工機の入口に立つ佐藤代表取締役(左)と田村統括部長)
全国で約350社がひしめく業界で、十指に入る抜型メーカーの大手
段ボール箱や化粧箱を広げると1枚の紙になる。この折り重ねると箱になる紙を量産するための型として、1枚の紙を一定の形に切断したり折り目となる罫線を入れたりする刃物をベニヤ板に打ち込んだものを「抜型」という。もともとはプレス加工機のように上下動する自動機械に取り付ける平らな抜型から始まったが、より量産に向いた技術として、高速で回転するロータリーに取り付ける円筒形の抜型も登場。現在は用途に応じて使い分けられている。
抜型メーカーは、かつては全国に約500社あったとされるが、いわゆる三ちゃん企業が大半で、後継者不足などから年々減少、現在は約350社がしのぎを削っている。そんな中で、1969年に神奈川県川崎市で創業した株式会社田村工機は平抜き、円筒抜きの両方の抜型を設計から生産まで一貫して手掛ける専業メーカーとして、十指に入る売上規模を誇る。
製紙メーカーの大手、準大手から中小に至るまで幅広い取引先を持ち、納入先工場数は約200ヶ所にも上る。納期が2~3日と短く、とりわけ、円筒抜型のパイオニアなので、業界では「ロータリーなら田村工機」との定評がある。
工場の壁に立てかけられた抜型。手前が平抜型で奥が円筒抜型
抜型の設計部門
設計図通りにべニヤ板に刃物を入れる溝を描くレーザー加工機
べニヤ板の溝に刃物を入れる作業
十数年前、「当たり前のことができずに」経営難に陥る
そんな田村工機にも苦しい時代があった。
「リーマン・ショック(2008年)の頃からだんだん経営が傾いてきたのです。決してお客様がいなくなったわけではなく、仕事は安定してありました。売上は今よりむしろ多かったかもしれません」。佐藤社長は当時をこう振り返る。
創業から40年ほど経つ間に、営業部門でも製造部門でも熟練のベテラン社員が育ったのはいいが、彼らの仕事のやり方が既得権益化していったのだ。つまり、彼らの持つノウハウや技術を若い社員に伝えようとしないばかりか、一人で仕事を抱え込み、月に100時間も200時間も残業をして手厚い手当を受け取っていた。その一方で、当時の創業社長は「売上を増やせ」の一点張りだったので、採算無視の安売りが横行していたという。
赤字続きで次第に首が回らなくなり、中小企業を支援する公的機関から経営指導の専門家を派遣してもらい、その指導に従って業務改善に取り組んだ。指導員は借入先銀行を集めて返済猶予の交渉をする場も設けてくれた。そうこうするうちに、役員として経営立て直しに奔走していた佐藤氏に2代目社長としての白羽の矢が立った。「メインバンクから『このままにしていたらあと半年でつぶれますよ』と言われ、好むと好まざるとにかかわらず、引き受けざるを得ないという気持ちでした」(佐藤社長)。
経営の苦しかった時代を振り返る佐藤社長
佐藤氏が2014年4月に社長に就任すると同時に、その年から黒字転換することができた。「私が何かすごいことをしたわけではなくて、当たり前のことができていない会社だったので、当たり前のことを一つひとつ実践していくことで少しずつ良くなっていきました」。その過程で、特定の社員に偏った残業はなくなり、既得権益に固執していたベテラン社員も去っていった。
黒字転換し、ICT化で業務改善に拍車
黒字転換した後の田村工機の業務改善に拍車をかけたのがICT化だ。佐藤社長に請われ、佐藤社長の社長就任と相前後して同社に入社した田村氏がその立役者となった。田村氏は現在、「営業部・業務部・製造部・システム管理室統括部長」という長い肩書を持つ。
IT業界でエンジニアとして働いていた田村部長は当初、設計部に配属され、抜型の設計を学んだ。その一方、それまでに導入していた全社的な生産管理システムについて、社内から「もっと使いやすいシステムにしてほしい」という声が上がったため、生産管理システムの作り直しも手掛けるという「二足のわらじ」(田村部長)から始めた。
統合型グループウェアを導入、各種システムの窓口に
続いて、2016年6月に統合型グループウェアを導入した。「私が入社した時は、すでに営業スタッフ全員がタブレットを持っていました。ところがメールの送受信にしか使われていなくて、お客様の工場で当社の抜型が取り付けられた機械の写真を撮影して送ってくるだけ。タブレットを持っている必要があるのかという状態でした」と田村部長。そこにシステム支援会社から統合型グループウェアを提案され、「ピンと来た」のだそうだ。
「社内に何々システム、何々システムなどといろんなシステムがあると混乱します。グループウェアのポータル画面を窓口にして、さまざまなシステムを使えるようにすればいい」。田村部長はこう考えた。
自ら各種システムの開発を手掛ける田村部長
まず統合型グループウェアがもともと備えている「コミュニケーション」「ドキュメント管理」「ワークフロー」「スケジューラ」の4つの機能を活用することから始めた。そのために、全社共有のオンプレミス型サーバーを立ち上げるとともに、部署ごとのアクセス権を設定して、利便性とセキュリティーを両立。VPN(仮想私設網)を構築して、社員全員にタブレットを配布し、パソコンでもタブレットでも、時にはスマートフォンでも社内外からアクセスできる環境を作った。
4つの機能のうち「コミュニケーション」では、取引先からの発注メールに対し、対応済みのメールを色表示することで営業スタッフと営業事務スタッフが二重に返信するミスを回避できるようにした。これにより、一つの案件に対し複数のスタッフから内容が異なる見積書を送るようなミスがなくなった。また、社内の伝達事項は画面上のお知らせ機能に限定し、紙での掲示を禁止した。
「ドキュメント管理」では、設計図面の版管理の情報共有で威力を発揮した。それまでファイルサーバーで管理していた図面は、変更や修正の都度、ファイル名の末尾にアルファベットや数字を追加して運用していたが、統一したルールがなかったため、営業部門と製造部門がそれぞれ最新版と思い込んで見ていた図面が実は異なるものだったというケースがたびたびあった。電話に頼らざるを得ない本社と大阪事業所との間ともなると、そもそも図面の版の違いを確認するのが困難だった。それが、大阪からもダイレクトにサーバーにアクセスして直接確認できるようになった。
「ワークフロー」は、まず有給休暇申請と稟議書の回覧に利用。「スケジューラ」も、手書きのホワイトボードに頼っていた同社のスケジュール管理を省力化するとともに、閲覧性や正確性を高めた。
その後、田村部長が作り直した生産管理システムを統合型グループウェアに連携。生産管理システムのデータを統合型グループウェアの画面から確認できるようにした。経理部で使っている納品書の作成システムも連携することで、日々の売り上げの数字やグラフも統合型グループウェアの画面に表示できるようにした。さらに「好きな弁当を画面上の写真で選び、注文することもできます」(田村部長)。
グループウェア導入の効果について話す佐藤社長(左)と田村部長
膨大な量の紙による仕様書と設計図面を電子データ化へ
そして今、取り組んでいるのが仕様書と設計図面の電子データ化である。仕様書というのは、抜型を納入先の機械に合わせて作製するための寸法などを記入した資料だ。A製紙のB工場のCという機械に取り付ける抜型のべニヤのサイズは、縦が最大〇〇〇mm、最小〇〇〇mmなどと細かく記入されている。「これを紙で大量に持っているので、それを電子データに落とし込もうとしています」(田村部長)。
仕様書が大量にあるのは、同じ機械でも段ボールメーカーによって使い方が微妙に異なるためだ。佐藤社長は「C重工製のD型という機械に対して仕様書は1枚あれば良いと思うかもしれませんが、段ボールメーカーによって好みも色々あったりして、作り方が違ったりします。ですから同じ機械であっても、お客様ごとに仕様書を作成する必要があるのです」と、つけ加える。
仕様書に基づいて設計・製造し、抜型が完成し納品となるが、そこで「はいおわり」とはならない。「立ち合い」と言って、営業スタッフが納入先の工場で問題がないかを確認し、必要に応じて微調整や作り直しをする。同社が社内に備えている顧客先と同じ機械で試作して欠陥がないことを確認したとしても、実際に顧客先の機械に取り付けると正確な “抜き”ができないこともあるので、現場での最終的な確認が必要になるのだ。それだけ取り付ける機械との相性の良さを求められる製品であるとも言える。
円筒抜型の作業現場
円筒抜型を取り付けるローラー。必要に応じて納入先で微調整を行う。
図面も創業当時から蓄積してきた膨大な量の紙を順にデータ化しつつある。これまでは、営業スタッフが外出先で図面を確認したい時は、事務スタッフにスキャンしたものをメールで送ってもらうしかなかった。中には、図面を勝手に持ち出したり、そのあげくに紛失してしまったりする営業スタッフもいたという。タブレット一つあれば、どこからでもアクセスして図面を確認できるため利便性は計り知れない。
段ボールと抜型がくっつかないように刃物の周りにゴムをつける作業。タブレットで図面を確認しながら作業をしている
大量の仕様書と図面を電子データ化できれば、やがてAI(人口知能)技術を使って、中に入れる品物に最も適した段ボール箱や化粧箱を自動的に設計できるようになりそうだ。
勤怠管理システムも導入、部門長が部下の勤務時間をリアルタイムで管理
ICT化投資の一環として、2020年頃には勤怠管理システムも導入した。これはクラウドを使っているが、やはり統合型グループウェアに連携。それまでは社員の出退勤時間は経理部門しか把握できなかったが、入口でカードをピッとすれば自動的に記録され、パソコンなどの画面上で確認できるため、各部門長が部下の勤務時間を管理できるようになり、時間外労働の上限規制も遵守しやすくなった。
特筆すべきは、業績回復途上にあった田村工機にとって、システム開発費をほとんどかけずにこれらのICT化を達成できたとことである。言うまでもなく、田村部長が中心になって自主開発してきたからだ。
本社の入口に設置されている勤怠管理システムの入力端末
職場環境の改善も進み、女性の入社、活躍場面が増える
業績回復に伴い、本社建物の内装を一新するなど、職場環境の改善も進めた。すると製造部門も含めて、女性社員が急に増え、全社員の23%を占めるようになった。2022年8月には川崎市の「かわさきSDGsゴールドパートナー」の認証を取得。
①女性の活躍を推進
②従業員の能力開発・教育訓練の機会づくり
③地域社会とのコミュニケーション機会を設ける
――ことなどを謳った。
佐藤社長は「社員が『本当にこの会社で働いていて良かった』と思えるような会社にしていかなければいけないと思います」と締めくくった。
事業概要
法人名
株式会社田村工機
所在地
神奈川県川崎市高津区下作延5丁目38-8
電話
044-822-1293
設立
1969年10月
従業員数
56人(2022年9月末時点)
事業内容
段ボール・紙器用抜型の設計・製造・販売
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