介護データを共有化し余裕を持ってサービスを提供するTKMプラス(群馬県)
2023年01月25日 06:00
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利用者一人ひとりに向き合い、心がこもった介護サービスを提供したいと開業したデイサービス施設がある。運営するのは、株式会社TKMプラス(森田冷子代表取締役)。社長や職員の志を下支えしているのは、最新ICT機器だ。(TOP写真:「輪投げ」のレクリエーションを楽しむ利用者と職員)
2022年9月に開業したデイサービス専門施設
前橋市郊外の幹線道路沿い。ガラス窓から明るい光が差し込む広々とした平屋の建物がある。昼下がり、中ではお年寄りたちが「輪投げゲーム」に興じていた。「それっ」「惜しいっ」などと、互いに声をかけあいながら楽しそうだ。
2022年9月1日に開業した「デイサービスなな色前橋」である。介護や支援が必要な人に日帰りで健康チェック、入浴・排泄の介助、食事などを提供する施設で、要介護1~5で、介護度が高い人も通える。午前9時から午後4時まで、心身機能の維持回復を図るための機能訓練を受けられるほか、ゲームなどのレクリエーションで他の利用者や職員と交流する。入浴は他の利用者と一緒にならない個浴で、食事やおやつは栄養バランスを考えた手作りだ。利用者がデイサービスに出かけている間、家族は身体的・精神的負担を軽減できる。
現在の利用者は約20人で女性が7割、平均年齢はおよそ85歳。自宅から片道15分くらいで送迎できる近隣の人が多い。職員はパートを含めた10人で、経験の長い50代のベテランスタッフが多く、シフトを組んで365日、介護を行っている。
開業への経緯を語る森田冷子代表取締役
病気の父の世話をきっかけに介護の道へ
代表取締役は森田冷子(きよこ)さん、54歳。30代後半で実父を病気で亡くしたことが、この道へ踏み出すきっかけになった。「病院と自宅、入退院を繰り返す父の世話をしながら介護の仕事に興味を持った。もともと人と接する仕事が好きなので、やってみると楽しかった」と語る。はじめに群馬県内の病院で看護助手として実務経験を積み、介護福祉士の受験資格を得た。国家試験合格後は県内の有料老人ホームを経て、デイサービス併用の高齢者専用住宅で約10年間勤務した。
ところが、3つ目の職場に慣れてくるにつれ、森田社長は壁に突き当たる。「自分が利用者様にやってあげたい、提供したいサービスと施設の方針が違っていた。上司からの指示に従うと、職員は心のこもらない流れ作業的な仕事しかできなくてすごく苦しかった」と打ち明ける。「介護職として、このやり方はどうなのだろう」と忸怩(じくじ)たる思いに駆られる日々が続いた。
施設内は日当たりがよく広々としている
自分が納得できる介護サービスを提供したいと独立を決意
雲間から光が差してきたのは2021年の夏前だった。「そうだ、自分でやろう、という考えが、急にパンと降ってきて」と森田社長。まず家族に相談したら、会社員の夫も近所に住む3人の子供たち、そして実家の母も「いいんじゃないの」と言ってくれた。「家族が背中を押してくれた。誰か一人でも反対していたら独立は無理だったかもしれない」と話す。
そこからはトントン拍子だった。2021年8月、地元の信用金庫へ開業の相談に行った。群馬県内の女性起業家を応援している群馬県保証協会を紹介してもらい、保証を受けられることになった。金融機関を何ヶ所か回ったところ、桐生信用金庫と縁ができた。自己資金は500万円。信用金庫から融資を受け、信用保証協会が保証し、施設開設費を借りた。
2021年11月、資本金100万円で自宅を本社所在地にして株式会社を登記。社名をTKMプラスとした。TKMは森田社長の志に賛同して参加してくれた創業職員たちのイニシャルに、「前向き思考で行く」という意味で「プラス」を加えた。
栄養バランスに配慮した手作りの昼食は利用者の楽しみだ
以前の経験を反面教師に開業準備を進める
施設開業にあたっては、これまで経験してきたことを反面教師にした。「以前働いていた施設はとても狭かったので、広いところがいい」と広いスペースの物件を探し、バリアフリーに適した平屋にした。時間をかけてリフォームし、必要な設備を整えた。
介護に伴う事務作業も効率化しようと思った。「前の職場は紙の書類だけだったので、事務作業に職員一人が丸ごととられる感じだった。記録も介護用と看護用と別々に取っていたので無駄も多かった」という。「作業書類の管理・保管もペーパーレスにしたい」と、介護記録や介護請求ができる介護システムと「科学的介護情報システム(LIFE)」を導入し、「入力がパソコンのみだと効率が悪い」とタブレットも購入した。
システムの操作方法の習得はサポートサービスを活用
介護システムの操作を会得するため、オプションでサポートサービスを受けられるようにした。スピーカーとイヤホンマイクを通し、日時を指定してオンラインで操作説明を受けることができるため、都合の良い時間に周囲に気を遣うことなくストレスフリーで効率よく受講できる。「わからないことがあれば、何回でもやり方を手取り足取り教えてくれる。オンラインの指定日時でない時はフリーダイヤルでも対応してくれる」と森田社長は話す。
タブレットから簡単に介護記録の入力ができる
書類管理をペーパーレス化、職員にも余裕が生まれる
介護システムの導入効果は予想以上だった。パソコンだけでなくタブレットからも入力可能なので、パソコンが置いてある場所に移動しなくてもその場で入力ができる。タブレットとパソコンは同期しているので、入力した業務日誌や介護記録、連絡帳などのデータが共有化され、無駄な転記が要らない。転記作業から解放された職員は時間や気持ちに余裕が生まれるので、その分、同社が目指している「利用者一人ひとりに向き合う心のこもったサービス」を提供できる。事務作業のための残業はないし、家に持ち帰って作業をする必要もない。
最新ICTの力を実感している森田社長は「介護事業所の職員は年齢が高めなので、パソコンやタブレットに慣れていない人には最初のハードルが高いかもしれない。でも、使い方を教えてくれる人は必ずいるし、書類管理や業務効率化を考えれば導入しない理由はない」と強調する。
施設入り口前で笑顔の森田社長
利用者と職員がずっと笑顔でいられるように
以前の勤務先は24時間稼働だったので勤務時間が長く、夜勤もあった。「シフトが不規則で身体も結構大変だったが、いまは日中だけの仕事なので生活リズムが整っている」と森田社長。「だから働いている人たちがいきいきしている。それがいちばん。利用者様と職員がずっと笑顔でいられるよう心がけていきたい」と語る。
2022年10月下旬には自社ホームページも開設した。今後の経営目標は「利用者数をもっと増やす」ことだ。森田社長は質の高い介護サービスを提供することで利用者の満足度を向上させ、職員一人ひとりが働きがいをもてる職場にしたいと考えている。
事業概要
会社名
株式会社TKMプラス
住所
群馬県前橋市亀里町591-3
電話
027-289-8889
設立
2022年9月1日
従業員数
10人
事業内容
「デイサービスなな色前橋」の運営
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