勤怠管理と工事台帳システム導入で建設業界の残業規制に対応する地元の「花やさん」 裕花園(滋賀県)

From: 中小企業応援サイト

2023年02月06日 06:00

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働き方改革の一環で、建設業界にも2024年度から残業規制が導入される。業界の長時間労働体質を是正するのが狙いだが、戸惑う事業者も少なくない。そんな中、いち早く対応策を講じた会社がある(TOP写真:社名を染め抜いたのれんを掲げる同社入り口前で西村裕史代表取締役)。

地元の「花やさん」は住宅の外構工事が得意技

滋賀県東近江市五個荘は「売手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」で知られる近江商人発祥の地だ。この地で造園業を営んでいるのは有限会社裕花園。琵琶湖の東側エリアで新築住宅の庭や駐車場など外構工事をメインに展開している。

「このあたりでは造園業のことを『花やさん』と呼ぶのです」と、社名の由来を説明するのは西村裕史代表取締役(50歳)。会社員の家庭に生まれた3人姉弟の末っ子で、工業高校の機械科に進んだが、進路を決める際「造園業なら親方になれる」と隣町の造園業者に弟子入りし、27歳で役員になった。造園など建設業者の許可を得るには5年以上の役員経験が要る。「そこまで辛抱しよう」と、500万円を超す資金を蓄え、32歳になった2004年に満を持して独立した。

土日も個人客へ売り込みや打ち合わせに出向き、40代になるまで完全な休日は毎年数えるほどしかなかったが、営業から設計、施工まですべてを自社でまかなうフットワークの良さと、工賃の安さを強みに受注を獲得。19年目の今は、15人の従業員を抱え、約4億5000万円の売り上げを誇る。コロナ禍でも「外に出られないから自宅の庭にお金を使おう、というお客様がいて、意外に影響はなかった」そうだ。

同社の施工事例

同社の施工事例

タイムカードなし、日報も出退時間も手書き

そんな同社に降りかかってきたのが、働き方改革の一環で建設業に2024年4月から導入される時間外労働上限規制だ。時間外労働(残業)の上限が原則として月45時間、年360時間になり、違反すると罰則が科せられる。

しかし、建設作業員は出退時にタイムカードを押したら終わりの工場や事務所勤務の仕事とは異なる。午前8時半から現場で作業しようと思ったら、自宅が遠ければ午前7時前に家を出て帰りも午後7時を過ぎてしまう。すると拘束時間は12時間以上。休憩時間を除いても8時間労働に収まらない。識者は「困惑する建設事業者が大半」と指摘する。

同社も創業当初からタイムカードがない。従業員が日報や勤怠の出退時間を手書きしていた。現場からいったん本社に帰ってきて、工事の日報のほかに「今日はこことあそこに行って何時何分に帰りました」と自己申告するやり方だった。西村社長は「ちゃんと書けよと言っても残業時間を一切書かない人がいたり、逆に適当に書く人もいて」と苦笑まじりに振り返る。

IT導入補助金を申請し、工事台帳と勤怠情報連動システムを導入

システム支援会社の提案で、工事現場の材料費、労務費、外注費、経費などお金の動きを記載する工事台帳と勤怠管理ができるシステムを導入したのは2022年8月のことだ。導入費用は数百万円。国のIT導入補助金を活用したため、自社負担は半額になった。

勤怠システムで残業時間をリアルタイムに確認できるので上限を超えそうな人をチェック

システムの導入で、工事台帳や勤怠のデータは手書きではなく、パソコンやスマートフォンから簡単に入力や管理ができるようになった。入力を間違えてもすぐに修正できるし、現場からも入力可能なので、現場作業員がわざわざ会社に戻って作成する必要がない。

勤怠管理システムでは、従業員の勤務状況を一覧で把握できるため、残業時間が上限を超えそうな人がいるかどうかチェックできるし、西村社長が自ら行っていた従業員への有給休暇や給与の計算も「かなり楽になった」という。

工事台帳システムで経理の負担も大幅減

以前は、手書き書類をエクセルに入力していたが、その作業が全くなくなった

以前は、手書き書類をエクセルに入力していたが、その作業が全くなくなった

工事台帳システムでは、経理の労力が激減した。これまで工事関係費の管理は、内勤の従業員が一人で手書き書類をエクセルに打ち直し、請求書が来たらその都度金額を手作業で入れていた。「それはもう大変な仕事。煩雑な工事台帳の作成作業がほとんど自動でできてしまうのは大きなメリット」と西村社長。手作業で行っていた業務の自動化で、担当者は仕事が楽になるだけでなく、労務計算に割いていた時間を別の業務に充てることもできる。

工事原価がリアルタイムでわかるのですぐに様々な手が打てる

工事原価がリアルタイムで確認できるのもメリットだ。「途中経過が見えるから、『あれ、ここでこんなに費用がかかっていてはあかんぞ』とわかるし、『この部分は無駄が多いからカットしよう』と途中でテコ入れもできる」と西村社長。「業務改善や効率化を図ることができるから、おそらく工事の利益率も変わってくると思う」と期待を隠さない。

設計はCADで行って顧客とのコミュニケーションに役立てている

設計はCADで行って顧客とのコミュニケーションに役立てている

資材高騰に人手不足 課題は尽きないが……

もちろん、経営上の課題はなお山積している。燃料費高騰や円安進行による輸入価格上昇などを背景にした建築資材の値上がりも悩ましい。同社の受注案件の工事平均単価はかつて約100万円だったが、今は約200万円と2倍になっている。「アルミ製のカーポートはこの1年で2回値上げしたし、生コンクリートのミキサー車の代金も2022年10月から従来の3割増しになった」と西村社長。「値上がり分を当社が吸収していたら利益がなくなってしまう」と対応策に頭を悩ませている。しかし、これらの課題にも、ICTを活用した仕事の見える化による無駄の排除に取り組んだり、CADを使った提案力を持つ裕花園なら、今後十分に突破口を見出すのではないかという印象を受けた。

もう一つは建設業が直面している慢性的な人手不足。こちらは「売上を5億に増やしたいなあ、とずっと思い続けていますけど、今の陣容では難しい。あと5人増やせたら近づくのではないか」と、今後は外国人従業員の採用も視野に入れている。

将来展望を語る西村社長

将来展望を語る西村社長

一番大切なのは現場で働く従業員

もちろん従業員の働き方改革も待ったなしだ。「スマートフォンやパソコンで完結できる便利なものがたくさんあるし、ICTツールの導入を迷っている事業者はチャレンジした方がいい」と西村社長。「経営者としては残業代を出さない方が楽ですよ。でも、従業員が仕事をがんばった分を払わない会社はダメです。これから人を増やそうとした時に、ずさんな労務管理がまかり通っていたら、誰も働きに来ない」と強調。「今回、勤怠管理システムを導入したことで、当社の従業員の作業効率化に向ける意識も次第に変わっていくのではないか」と考えている。

最後に西村社長は「仕事で一番大事なのは、人間対人間のコミュケーションです。これからも現場で働く従業員を一番に考えていきたい」と話した。

事業概要

会社名

有限会社裕花園

本社

滋賀県東近江市五個荘竜田町577-1

HP

http://www.yu-kaen.com/

電話

0748-48-8401

設立

2004年7月

従業員数

15人

事業内容

造園、土木、とび土工、石工事、舗装

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https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/casestudy/001210/

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