三輪素麺の生産を支える「地域HACCP」で食品の安心・安全を見える化 よし井(奈良県)
2023年02月03日 06:00
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地域HACCP(地方自治体によるHACCP認定)の認証を取得して伝統食品の三輪素麺(そうめん)の生産に取り組む奈良県磯城郡田原本町の株式会社よし井が、生産データのデジタル保存を通じてトレーサビリティを強化し、安心・安全の製品づくりに取り組んでいる。(TOP写真:よし井の素麺生産の様子)
粘りと弾力、滑らかなのどごしが持ち味のそうめん
奈良県北部に広がる奈良盆地の南東に位置する三輪山の周辺で生まれた日本を代表する伝統食、三輪素麺。株式会社よし井は、1995年の設立以来、厳選した小麦粉から作るこだわりの手延べそうめんを世に送り出し続けている。よし井のそうめんは、素麺の細さでありながらうどんのような粘りと弾力、手延べならではの滑らかなのどごしが持ち味。極細タイプや胡麻の風味を盛り込んだ味わい豊かなタイプまで多彩な商品をラインナップしている。
「感謝」「努力」「知恵」の書に込められた思い
「日々、感謝の心を忘れることなく知恵を絞って努力し、少しずつ前進し続けることをモットーにしています」。奈良盆地中央の奈良県磯城郡田原本町の本社で取材に応じた𠮷井雅之代表取締役社長は理念をこのように説明した。会社の設立時からオフィスに掲げられている「感謝」「努力」「知恵」の書は、当時、東大寺別当(住職)を務めていた清水公照師が揮毫(きごう)したものだ。
よし井のオフィスに掲げられた「感謝」「努力」「知恵」の書
寒さが厳しい冬場は、そうめんづくりに絶好の時期
よし井の前身は、手延べそうめんの卸売会社。バブル経済崩壊後の苦境を乗り越えるための新しい取り組みとして乗り出したのが、そうめんの自社生産だった。設立当時、ほかのメーカーとは一味違ったそうめんにするために小麦粉の開発からスタートしたという。
工場に並ぶそうめんを生産するための機材
コシのあるそうめんを作る上で、寒さが厳しい冬場はそうめんづくりに絶好の時期。本社と併設されたよし井の工場では、小麦粉と食塩をこねるミキサー、麺圧機、自動巻き機、掛巻機、分け機といったそうめんを製造するための様々な機材が並び、国家資格の製麺技能士として認定された4人の社員の指示の下、そうめんづくりが行われている。よし井は熟成・乾燥を含め35時間にも及ぶ時間と手間をかけて、心をこめてそうめんを製造しているという。
2日間の工程でそうめんは生産される
よし井のそうめんは、厳しい原材料、製造方法の基準を順守して生産していることを示す農林水産省のGI(地理的表示保護制度)マークの表示を許可されている。「安心、安全の商品をお客様にお届けするために創業以来、日々の管理を徹底しています。奈良の名産品づくりに携わる企業としての責任をしっかりと果たしていきたいと思っています」と𠮷井社長は話した。
よし井のそうめんの特色について説明する𠮷井雅之社長
2020年1月に地域HACCPの認証を取得
安全な食品の高度な生産体制を確立するために、よし井は、国際的に認められた食品衛生管理手法、HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Point=危険要因分析重要管理点)に強い関心を寄せており、2020年1月に「奈良県HACCP自主衛生管理認証制度(ならHACCP)」に基づく認証を同県から受けた。地方自治体によるHACCP認証は「地域HACCP」と呼ばれ、業界団体や民間組織が認証するHACCPと比較すると対象製品や適用範囲が絞られているが、地域社会からの信頼を得る上で大きな効果が期待できる。
生産データのデジタル保存でトレーサビリティを強化
𠮷井社長は2019年春、ならHACCPの申請を行うために、自社製品の説明書、工場の図面、製造工程図、危害要因分析表などの作成をスタートした。作成にあたり、商品の生産から消費までの過程を追跡可能にするトレーサビリティを確立するには、そうめんの製造に関するあらゆるデータを保存しなければならないと強く感じたという。
よし井のこれからを熱く語る𠮷井雅之社長
HACCPの申請と同時に品質管理部を新設した
そこでHACCPの申請と同時に品質管理部を新設し、商品名、製造日、小麦粉や塩といった原材料の種類、製造した時の気温、湿度、賞味期限などのあらゆるデータを集めた上で、Excelで作成したチャート表に記入してデジタルで保管するようにした。生産や梱包の作業の様子も6台のカメラを通じて一定期間、映像で保存するようにしている。
「安心、安全な食品として信頼していただく上で記録はなによりも重要な要素と考えています。データがそろっているからこそ、お客様から商品に関する問い合わせがあった時も迅速に対応し、自信を持って回答することができます。すべてのデータを残す作業は、最初は大変でしたが、毎日の作業の一環とすることでそれほど手間をかけなくともこなせるようになっていきました。従業員のモチベーションのアップにもつながりましたし、HACCP認証の取得とトレーサビリティの強化は会社にとって本当に大きな財産になりました」と𠮷井社長は振り返った。
そうめんの生産データをパソコンでチェックする様子
「HACCP認証を取得することで従業員の衛生管理に対する意識は以前より格段に高くなりました。細かいところに目が届くようになりましたし、報告もしっかり上げてくれるようになりました。いざという時、紙文書のままだと必要な記録を探すのに手間を取りますが、デジタルデータとして保存しているので検索機能を使ってすぐに見つけることができます」と製麺技能士の資格を持つ品質管理部の瀬尾基寿さんは話した。
品質管理部の瀬尾基寿さん
今後、𠮷井社長は生産工程だけでなく、在庫管理から材料、資材の発注まで一元管理できるシステムを構築したいと考えている。自動対応できる業務を増やして仕事を効率化していきたいという。地域HACCPの認証だけでなく、民間組織のHACCP認証の取得にも取り組む予定だ。
そうめん以外にうどん、そば、菓子類など商品を多角化
よし井は、そうめんだけでなく、うどん、そばといった他の麺類やバームクーヘン、フィナンシェ、ラスク、冷やしクリームパン、焼き菓子といったスイーツも販売している。そうめんの需要は春から夏がピークで冬場に落ち込むことから、年間を通じてコンスタントに販売できる商品をそろえようと約20年前から多角化に取り組んでいる。そうめんと異なり、うどん、そば、スイーツについては企画・開発に専念し、生産は外部に委託している。
ギフト商品として人気の菓子類
ECの強化にも関心
幅広い商品群は環境の変化に柔軟に対応する上でも大きな効果を発揮している。「スイーツは内祝いなどの贈答用だけでなく自宅用としても人気が高く、コロナ禍前はスイーツが売上高の5割を占めた時期もありました。コロナ禍以降、内祝い用スイーツの需要は落ち込みましたが、巣ごもり生活用の保存食として麺類の需要が高まり、全体としては業績を維持することができています」と𠮷井社長は多角化の効果を説明した。豊富な商品群の販売ルートを拡大するため今後、インターネットでモノやサービスを売買するEC(Electronic Commerce=電子商取引)にも力を入れていきたいという。
ギフト商品の出荷作業に取り組む様子
SDGsに早くから着目
国連が掲げる持続可能な開発目標、SDGsにも早くから着目してきた。廊下に行動目標を掲示して従業員に常に意識してもらうようにしているほか、照明を全て環境に優しいLEDに切り替えるなど、身近なところでの継続的な取り組みを進めている。
廊下に掲示しているSDGsの行動目標
スピードを重視した経営姿勢はICTと親和性が高い
よし井本社の外観
安心・安全の食品づくりとともによし井が大事にしているのが、顧客への迅速な対応だ。よし井は顧客が発注した翌日に、ギフト商品の発送が可能な出荷体制を整えている。「急な要望であればあるほどお客様のニーズは高いわけですから、そのニーズにしっかりと応えたいと思っています。今後もよし井だからこそできるスピード対応を強化していきたい」と𠮷井社長は力強く語った。スピードを重視した経営姿勢とICTには高い相乗効果が期待できる。伝統産業を進化させるよし井の次の一手に注目したい。
事業概要
会社名
株式会社よし井
本社
奈良県磯城郡田原本町味間61-1
電話
0744-33-6713
設立
1995年4月
従業員数
30人
事業内容
そうめん、うどん、そば、菓子類の製造、販売
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