職員間で介護情報を共有化 適切な介護の実現を推進 結いの街(長野県)
2023年02月13日 06:00
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長野県松本市郊外の住宅地に本拠を構える特定非営利法人結いの街は、高齢者や障害者が住み慣れた地域で安心して暮らせるよう助け合う「結い」の精神でサービスを提供しているNPO法人だ。職員の発案で利用者の介護情報を共有化し、業務効率を上げている。(Top写真:今野宏美理事長)
高齢者や障害者が住み慣れた場所で暮らせる施設を運営
同法人は2004年4月設立で、要介護認定を受けた人が通所する「デイサービス」のほか、訪問介護員が利用者の自宅を訪問して介護や生活支援を行う「訪問介護」、自宅での生活が不安な人が低料金で入居できる「住宅型有料老人ホーム」、養護学校児童を対象とした「放課後等デイサービス」などを運営している。
6事業での利用者数は1日のべ100名ほど、職員は法人全体で55人、最年少は24歳、最年長は78歳、女性が9割を占めている。
転身の経緯を笑顔で語る今野理事長
敏腕営業から180度の転身、充実感求めて介護の道へ
2022年6月から3代目理事長を務めているのは今野宏美さん(62歳)。青森生まれで、高校卒業後、夜間の大学に通いながら東京都内の広告代理店で10数年間営業職として働き、都内を駆け回っていたが、知人を介して介護職を知り、「充実感のある仕事がしたい」と専門学校で学び直し、33歳で介護福祉士の資格を取った。
旧国鉄マンだった夫の転職を機に松本に移住。子育てをしながら、在宅復帰を目指してリハビリを行う介護老人保険施設(老健)や、寝たきりなど長期利用を前提とした特別養護老人施設(特養)で勤務した。46歳の時、誘われて「結いの街」へ入職し、デイサービスの相談員になった。介護は高齢者の人生の終末に向き合える尊い仕事であり、障がい者の方の生活に楽しみを持ってもらえる仕事と考える。
山から採ってきた薬草を利用者に切ってもらって薬草風呂を仕立てたり、よしずを巻きすに見立て利用者みんなで長い伊達巻きを作ったりと、ユニークなアクティビティを考え、「利用者さんと向き合う仕事ができて楽しかった」と振り返る。
職員間で情報共有できるスマートフォン画面
職員が自発的に提案したスマートフォンアプリ導入で介護情報を共有
今野理事長は「うちの強みは職員が自発的に業務改善提案をするところ」と話す。同施設のICT化は現場職員の提案で始まった。2022年1月、スマートフォンアプリを使って職員が外出先から介護記録、勤務スケジュール、業務連絡などのファイルの確認ができるようにしたのだ。
訪問介護は現場への直行直帰が多い。事務所に保管してある利用者の過去の介護記録を確認するには仕事の途中で事務所に立ち寄る必要があったが、これでいつでもどこでも書類を確認できるようになった。事務所勤務の職員も、数ヶ月前の記録や、職員への指示内容の確認をするために以前は別室に保管している書類を取りに行く必要があったが、手元のスマートフォンで内容を確認できるため、作業効率が上がった。
介護記録はタブレット端末などでも確認できるので、会議の際に書類を持ち運ぶ量が減った。業務を統括する佐藤陽介専務理事は「すべての情報を頭に入れておくことは難しい。関係先からの質問や情報開示要求に会議の場ですぐに回答できるのは何より」と話す。今野理事長も「法人運営の最終的な判断をする立場なので、正しい経営判断をするために情報がきちんと入ってこないといけない。自宅でも気になる事柄を確認することができる」と歓迎している。
インターネットセキュリティも整備した
個人情報漏洩に備えてセキュリティも強化
2022年夏までに事務所内のインターネット環境も整えた。法人設立以来、折に触れ様々な機器を導入したため混在していた回線を整理して、ウイルス対策ソフト導入など保守体制を整え、トラブル回避や非常時対策を講じた。「利用者の個人情報も多い。効率ばかり求めてセキュリティがゆるくなってしまっては意味がない」と今野理事長。佐藤専務理事も「個人情報を社外で閲覧できるということは、漏洩リスクがあるということ。今後は職員研修の課題にネット情報を正しく使うためのポイントを加えるなど意識を高めていきたい」としている。
年配の職員でも使いやすいICT機器が求められている
福祉介護施設特有の問題もある。職員の人材不足だ。「身体より精神的にきついからヘルパーを辞めてしまう人も多い。やってもらう、やってあげるではなく、利用者さんと職員が同等の関係ができることが理想です」と語る。
利用者と職員の関係で緩衝材になってくれそうなのが介護ロボットだ。可愛らしい表情で、話しかければ応えてくれる介護ロボットは、認知症などの精神的ケアに役立つし、利用者も職員も余計な気を遣わなくて済む。
さらに今野理事長は「いま日本の介護施設を支えているのは60代以上の職員です。物心ついた時から携帯端末がある世代と違って、デジタルのしくみがよくわからない人が多い。私自身もスマートフォンは通話とLINE、カメラ、電卓は使えるのですが、その他の機能を使いこなせていない。そういった機器に馴染みの無い人でも使いやすいよう工夫されたICT機器がもっともっと出てきてほしい」と話す。そうなれば職員不足解消に役立つし、他業界に比べて遅れがちな福祉介護業界のICT化は飛躍的に進展するかもしれない。今後の機器の進歩が期待される。
事業概要
法人名
特定非営利活動法人結いの街
住所
長野県松本市笹部2-6-60-5
電話
0263-25-0588
設立
2002年4月
職員数
55人
事業内容
訪問介護、地域密着型通所介護、地域活動支援センター、放課後等デイサービス、障害者相談支援、住宅型有料老人ホーム、居宅介護支援
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