製造業(その他)

図面の電子化、工作機械のネットワーク化、掲示のスピード化で生産性向上 岡田研磨(石川県)

From: 中小企業応援サイト

2023年02月16日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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石川県河北郡津幡町にメインの拠点を置く岡田研磨株式会社は、建設現場で土を掘り返しているショベルカーに使われる金属部品を削り出し、磨き上げて建機メーカーへと送り出している金属部品メーカーだ。作っているのは、ショベルカーの上下するアームの関節部分に取り付けてスムーズに動くようにする「ブッシュ」と呼ばれる円筒形の部品などで、工場にはそれらを加工する機械がずらりと並んでいる。(トップ写真:岡田研磨株式会社の工場)

複合機で出力したマグネットペーパーを活用して従業員の意識を高める

そうした機械をよく見ると、様々なプレートが貼り付けられていることに気がつく。担当者名が書かれたものもあれば、切粉の取り扱いを注意するもの、そして機械がクリーンであるかを表すイラストが描かれたものもあって、機械がどのような状態なのか、どこに注意したらよいのかがわかるようになっている。「すべて自社内でマグネットペーパーに複合機でプリントして作ったものです」と、専務取締役の岡田雄太氏は説明する。

機械の担当者名やクリーン認定の表示などをマグネットペーパーで作成

機械の担当者名やクリーン認定の表示などをマグネットペーパーで作成

「プレートがあることで、これは自分が担当している機械だからしっかりと面倒を見よう、恥ずかしくないように常にきれいにしておこうといった意識を持ってもらえるようになりました」。担当する機械が変われば、ネームプレートは剥がして次の機械に貼ることができる。紙にプリントした注意書きにはない便利さもあって、「従業員がほかにも色々なプレートを発案して工場内に張ってくれるようになりました」(岡田専務)。

会社案内のパンフレットも複合機でプリントした。「ホームページを見てもらう機会が多くなっている今、パンフレットはあまりお金をかけるものではなくなっています」(岡田専務)。そうはいっても粗末なものは出せない時、高品質でプリントできる複合機が威力を発揮するというわけだ。

岡田研磨株式会社の製品群

岡田研磨株式会社の製品群

一方で、ホームページは充実したものになっている。建設機械に使われている「ブッシュ」と言われても、普通の人にはわかりづらい。ホームページにはどこにブッシュやクッションベアリングといった製品が使われているかが図解付きで紹介されていて、どのような製品を手掛けているかが、外部の人でもわかるようになっている。ここから新たな商談が生まれたこともあったという。従業員にとっても、自分たちが日々削り出している部品が、建設現場で動くショベルカーのどこに使われているかがわかれば、仕事に向かう気持ちも高まるだろう。

ホームページ上では、図解付きで紹介されている

ホームページ上では、図解付きで紹介されている

他企業での経験を注入。他社の当たり前を採用

岡田専務が手掛けた改革のうちの、これらはほんの一端だ。本社機能を置く津幡工場を増築した際にはロッカールームを新設した。6年前に作った食堂と合わせ、従業員が少しでも息抜きのできる環境を整えたかった。「他社では当たり前になっていることを行っただけ」(岡田専務)だと言うが、1973年の創業から半世紀近くが経っている同社の中では、そうした設備がないことが“当たり前”だった。

他企業での経験を注入。他社の当たり前を採用
他企業での経験を注入。他社の当たり前を採用
岡田研磨株式会社の岡田雄太専務取締役

岡田研磨株式会社の岡田雄太専務取締役

そのギャップを埋められた背景には、岡田専務が外部から入ってきた人材だったということがある。「もともとは富士通にいて営業をやっていました」(岡田専務)。そこで岡田健一社長の息女と知り合い結婚したことをきっかけに、義父の会社に入ることを選択した。「2年ほど大手の工作機械メーカーで、1年ほど鋼材の商社で働いてから、3年前に岡田研磨に入りました」(岡田専務)。それから約3年。外の常識を持ち込み、新しい発想も乗せて矢継ぎ早の改革を推し進めた。

図面や様々な帳票類をデジタル化してバージョンを管理しiPadで閲覧可能に

IT企業出身だけあって、改革はDXにも及んでいる。むしろそちらが主となって、半世紀の歴史を持つ企業が築き上げてきた伝統をバージョンアップしている。一例が、ドキュメント管理システムの導入と、タブレット端末(iPad)の従業員への配布だ。「図面をデジタルで管理して、現場で簡単に取り出せるようにしたかったんです」(岡田専務)。

部品を加工・製造する際に必要となるのが図面。以前は紙に書かれた図面を現場に置かれた図面棚からその都度取り出して見ていた。「この図面が大量にあって、紛失してしまうことや、探し出すのに1時間2時間かかってしまうことがあったんです」(岡田専務)。見た目は同じ部品でも、納入先によって微妙に違っているため流用はできない。細かくバージョンアップされることもあって、古いバージョンの図面が残ったまま、出回っていることも起こっていた。

工場のDX推進もバックオフィスの充実があってのもの

工場のDX推進もバックオフィスの充実があってのもの

これを、ドキュメント管理システムで一括管理できるようにした。事務系の従業員が総出でデジタル化を行ってシステムに入力し、現場にはiPadを配ってデジタル図面を見られるように改めた。これによって誰でも簡単に、最新バージョンの図面を検索・閲覧できるようになった。「図面を探して回るという不毛な時間をなくすことができましたし、様々な帳票類をデジタル化したことで1日で300枚は発生していた紙によるプリントも減らすことができました」(岡田専務)。

iPadを携帯して工場内で作業する岡田研磨株式会社の従業員

iPadを携帯して工場内で作業する岡田研磨株式会社の従業員

デジタル化の必要性を説いてDXを積極推進

従業員の中にはiPadを使うことを面倒だと感じる向きも最初はあった。「世の中でこれだけデジタル化が騒がれている時に、自分たちでも進めておかないといずれ時代に取り残されるのだということを訴えました」(岡田専務)。デジタル化されていないからと取引を切られる可能性もある以上、進めざるを得ない改革だと言って理解を求めた。「長く現場で指揮を執ってこられた社長のような経験や感覚が、自分にはありません」(岡田専務)。それなら経験や感覚ではなく数字によって把握できるようにしておこうと、DXに取り組んだ。

工作機械のネットワーク化も、そうした“見える化”の一環だ。すべての機械の稼働状況を把握して管理し、工場内のモニターに表示したり、iPadで見られるようにした。もともと同社では、工作機械の自動化に早くから取り組んでいて、ロボットの数は73台と工場で働く55人より多い。設備の稼働状況の見える化をしたことで、従業員の意識が大きく変わり、生産性も10%程度向上した。

岡田研磨株式会社の工場では工作機械の稼働状況を把握している

岡田研磨株式会社の工場では工作機械の稼働状況を把握している

こうしたDX推進の延長として実現できればと考えているのが、原材料在庫の適正化だ。生産ラインの動きを把握できれば、余裕を見て1ヶ月分を持っていた原材料の在庫を2週間分まで減らすことができる。「顧客の要望に即応できるよう製品の在庫は減らせません。それなら原材料の在庫を減らすことで、業務やスペースにゆとりが生まれて、次の展開に結びつけられます。孫子の『彼を知り己を知れば百戦殆からず』ではありませんが、まずは自社のことを徹底的に知るということがこれからの時代は必要だと思っています」(岡田専務)。

マニュアルの映像化や顔認証による勤怠管理にも取り組む

工作機械の取扱マニュアルを映像にしてQRコードで読み出せるようにした

工作機械の取扱マニュアルを映像にしてQRコードで読み出せるようにした

改革はまだまだ続く。工作機械のマニュアルを動画で収録し、機械に取り付けたQRコードから端末に映し出せるようにした。紙のマニュアルを見るよりもわかりやすいと好評だ。これは従業員が自ら考え運用が始まった。「勤怠管理にも顔認証を使うようにしました」(岡田専務)。コロナ禍でカメラ付きのセンサーに顔を向けて体温の測定を行うようになった。これに顔認証の仕組みを取り入れ、体温測定と同時に出退勤を記録できるようにした。タブレットからも、有休の申請を行えるようにした。「出退勤のチェックにICカードを使う方式もありますが、カードが読み取れなくなるようなことも起こります。生体認証は本人がいればいいためそうしたトラブルは起こりませんから」(岡田専務)。

体温計測時に顔認証で出退勤も記録する

体温計測時に顔認証で出退勤も記録する

ブラウザベースの給与計算ソフト導入にも取り掛かった。「給与明細の配付を紙でなくタブレット上で行えるようにしたかったんです」(岡田専務)。そうした一連の改革の先で、2023年度は基幹システムの置き換えを実施している。目指しているのは「どのような時代においても取引先に選んでもらえる企業になることです」(岡田専務)。以前に比べて金属加工を行う企業は減っており、急に取引を切られるような時代ではなくなっているというが、そこに安住するだけでなく「お客様にいい意味で依存してもらえるような会社となって、お客様と共に成長していきたい」(岡田専務)。

従業員の声を聞いて利点を理解してもらう

外から来た人材が、立場を使って大改革を進めると不満が起こるのが世の常だが、岡田専務に対してそうした動きが起こっていないように見えるのは、必要とされていることをしっかりと説明しながら、DXを推進しているからだろう。作業着が自費だったものを会社支給に改めたり、雪の日の除雪作業で従業員の手を煩わせないようにしたりといった改善も進めて、従業員の声にしっかりと応えている。誰にとってどれだけの利点があるのかも“見える化”することが、改革には必要だと言えそうだ。

岡田研磨株式会社津幡工場

岡田研磨株式会社津幡工場

事業概要

会社名

岡田研磨株式会社

本社

石川県金沢市京町31-15

津幡工場

石川県河北郡津幡町太田ア7

HP

https://www.okadakenma.com/

電話

076-288-5866

設立

1973年4月1日

従業員数

70人

事業内容

建設機械・シリンダー・一般産業機械等の部品及び完品の加工・組立

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