「やさしさと思いやりの心」で課題解決のソリューションを提供。業界や地域の枠を超え、DXで未来を開くインキュベーター企業を目指す 小野組(新潟県)
2023年02月24日 06:00
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新潟県北部に位置する胎内市。飯豊山地を源に、日本海に向かって西へと流れる胎内川が大地を潤し、中流から下流域の扇状地では、その伏流水が各所で湧き出でるという。「胎内」というその特異な名称の由来は諸説あるが、伏流水となることを「胎内」になぞらえたという説、また、アイヌ語で「清い水の流れ」を意味するという説もあるという。いずれにせよ、水の湧き出るように何かが生まれ出る予感をさせる土地だ。
この新潟県胎内市で1888年に創業、2023年で創業135年目を迎える株式会社小野組で陣頭指揮を執るのが小野貴史代表取締役社長である。
「この『胎内』という地名には『新しい何かが生まれる場』という物語性があります。まるで母親の胎内のように安心して着想ができる、そんな温かい場所にしたいと思っているんです」とこの土地への思いを語る小野社長は、インキュベーター企業を目指し、若い人材の活躍の場を生み出そうと意欲的だ。その背景には、地域振興と土木・建設業界に対するイメージ刷新への強い思いがある。(写真は小野貴史代表取締役社長)
災害時には地域保全対応を担うためBCPは必須対策。従業員の初動対応には社内SNSを利用した安否確認を運用した
震度5弱以上で全従業員に安否確認が配信されるサービスを運用。震度4以上で地域インフラ設備の点検を行うため、管理職や担当部署には召集がかかる
創業時より地域の土木・建設事業に携わってきた同社は、自然災害発生時には道路や河川、橋梁など社会インフラの点検・復旧を担う「地域保全対応」の役割も担っており、その行動指針は同社の「異常時対応計画書」にも規定されている。そのため、BCPは同社の命綱である。
「こうした緊急時の初動では、まず社内連絡による安否確認が必要です。しかし、以前は携帯電話で連絡を取り合っていたため、災害時は電話回線による通話のつながりにくさや、夜間における連絡体制が課題となっていました」と話すのは同社執行役員でマネジメントシステムグループの大沼雅文マネージャー。
そこで、同社では電話回線に依存せず24時間即時対応できる連絡方法を構築するべく、従業員全員にスマートフォンを順次支給し、これを用いた安否確認サービスの運用を2021年4月からスタートさせた。このシステムでは豪雨や地震などの災害が発生すると、各自のスマートフォンに安否確認メールが自動で一斉送信され、各自が自身の安否を返信する仕組みだ。地震であれば震度5弱以上で配信される。このサービスでは国内の災害時に備えてサーバーを国外にも分散しており、毎分100万通以上もの大量のメール配信にも耐えられる配信システムを利用しているため、連絡が滞る心配がないことが強みだ。
「当初こそ会社スマホを自宅に持ち帰らない人もいたものの、最近では常時携帯することが定着したので、最近多発する大雨の際には配信を通じて導入の効果が現れています」と大沼マネージャー。全国に散らばる従業員の安否確認も併せて可能となり、災害時のBCP対応がスムーズに実施できる体制ができた。
会議の日時連絡はSNS、出退勤もスマートフォンの打刻システムを運用、電子決済も移行予定で社内挙げてICTを活用
LINEのような操作感で社内連絡を取り合えるSNSアプリを2022年から活用。ウォーキングの成果が「見える化」され、健康増進にも寄与する仕組みが従業員間のコミュニケーションにもつながっている
次に、2022年4月から導入したのが社内SNSだった。デバイスはスマートフォンを使用。アプリケーションの仕様はLINEと同様のためすぐに従業員に浸透し、会議日時などの社内連絡をはじめ、新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者情報や災害時の連絡にも使われるようになった。また、LINEと同様にスタンプもあり、普段は見られない個人の一面を垣間見ることもあり、話題作りにもつながっているという。
「この社内SNS『チーム手帳』の導入は従業員同士のコミュニケーションにも大きな変化をもたらしました。例えば、この『チーム手帳』のグループトーク機能を利用し、新潟市の『ウォーキングチャレンジ』に参加した際に、参加チームごとに目標を立てて、目標の『見える化』を図りました。健康増進だけでなくチームの活性化にも一役買っています」と大沼マネージャーは効果を実感する。
さらに社内でのデータのやり取りにはクラウドを用い、出退勤管理もスマートフォンの打刻システムを利用。業務フォームも電子化され、今後は電子決済に移行する予定でデジタル化が進む。これらのデバイスやアプリがスムーズに運用できた前段には、ICTを活用した発信に同社が早くから着目していたことがある。その目的は人材育成と地域雇用だった。
自社だけでなく、建設業界のイメージアップを目指すために自社運営メディア「Ono Note」を介して発信
社内のICT活用を実務レベルで積極的に推進した大沼雅文執行役員・マネジメントシステムGマネージャー
地域雇用と人材育成を重視した同社は情報発信のテコ入れを図り、2019年にホームページをリニューアルし、地域ポータルサイト『まいぷれ』にも自社情報を掲載。するとアクセス数トップを獲得した。さらに、日頃現場にいる従業員と内勤従業員との理解を深めるべく、写真も原稿制作も従業員の手による社内広報誌の制作も始めた。社内SNSの活用はそれらの延長線上にあったのだ。さらに、ホームページ上では『Ono Note』という自社運営メディアを通じて企業情報を深掘りし発信している。
しかし、これらは小野組が目指すことの過程である。小野組がその先に目指すのは、業界や地域を超えた「つながり」が生む集合知を生かした、課題解決のソリューションビジネスだった。
『作らない建設会社』でいい。建設業は課題解決のソリューションビジネスだ
従業員自らが写真撮影、記事執筆を手がける社内広報誌「和合通信」
「我々建設業はメーカーではなくアセンブリー業です。地域や相手の課題解決のための手段を考え、それを組み立てて提供する。これはソリューションビジネスといってもいいですよね」と断言する小野社長は「やさしさと思いやりの心で未来をひらく」という企業理念のもと、地域のさまざまな課題に向き合ってきた。それは、地域の社会インフラを担ってきた同社の、創業当時から変わらぬ姿勢なのだろう。
しかし、そんな土木・建設業には今逆風が吹いている。人材難の中でもとりわけ3Kの職場として敬遠されている建設業界では、若手人材の確保に苦心している。しかし、小野社長はその課題を、全国にいる同志たちとともに乗り越えようと積極的に取り組んでいた。その鍵となるのはICTの活用だった。
SNSで日本中の仲間とつながり、災害時には業界団体や行政より迅速に支援を実施
新潟県胎内市に本社を置く株式会社小野組本社
ここ数年、日本各地で大きな自然災害が頻発しているが、小野社長はその度に全国の仲間たちとSNSで連携し、支援を行ってきた。
「我々はワンチームの仲間なのでとにかく行動が早い。ですが、行政は部署間の調整に手間取り、迅速な行動が取れないのが実情です。業界団体にしても調整が必要で、初動がどうしても遅くなりがちです」と語る小野社長は「建築業新未来研究会」の仲間たちとともに新潟県中越地震、東日本大震災、熊本地震、西日本豪雨など各地で発生した災害の支援に奔走した。「SNSでは上下や主従の関係もなく、地方同士の『個』のつながりができます。しかもスピード感を持って行動を起こせる、それが強みなのです」。
「今、地域の課題解決に取り組む建設業が全国的に増えている」と指摘する小野社長。こうした各地域の課題はSNSによって全国で共有され、「地域の輪」ができているという。それは、共通した課題を抱える地方都市同士にとって恩恵ともいえるだろう。このようにオンラインとリアルの関わりの中で生まれた「気持ちのふれあい」を実感した小野社長だからこそ、ICTの活用が若い人の成長を促すきっかけになると感じている。
そこで小野社長は自らが旗振り役となり、2017年にオンラインで学べる人材育成の場「和合館工学舎」を設立した。設立の背景には「ここ5年以内に手を打たなければ、自社の仕事をやる人材がいなくなる」という小野社長の強い危機感もあった。
「和合館」を創設し、志を同じくする仲間たちと若手を育成。地域の各機関とも連携し社会人教育を担う場とする
小野組の現場作業に従事する従業員の働く姿を収めた写真集「土木の肖像」。プロフェッショナルたちの魅力あふれる表情が満ちている。
2017年にスタートした一般社団法人和合館工学舎(通称・和合館)は建設文化を担う地域に密着した企業および行政の「建設総合技術力向上」を目指す教育機関で、学舎長には東北工業大学・今西名誉教授を迎え、行政や企業、教育・研究機関、そして地域・市民組織とも連携を行いながら実践的に学ぶことができる。オンラインで受講できることから、自社以外の人も全国各地から受講することが可能で、発注者も協力会社も区別なく共に学び、資格取得を目指している。さらに2019年には一般社団法人「北陸建設アカデミー」を設立。近年増加する建築・土木以外の学部卒の新入社員や、コロナ禍で転職してきた従業員の研修を担っている。また、ハローワークとも提携して安全管理教習の場としても運用され、県内企業との雇用マッチングにも貢献しているという。
「野心的であれ」。志を持つ人間が活躍する場を作りたい。 DXは地方都市活性化の鍵となり、彼らの武器となる
人材育成と地域雇用に力を注ぐ小野社長による著書
人材育成にかける小野社長の思いは並々ならぬものがある。
「私が入社した頃はまだ『建設業は安泰ですね』と言われた時代でした。それから構造改革で時代は一気に変わりましたが、業界はその流れに乗れず、旧態依然でした。人材難の時代が来ると言われていたにもかかわらず、です」。やがて東日本大震災以降、地方都市は選択と集中によって合併が進行。地方都市の衰退は加速し、人口流出は止まらない。しかし、そこで諦めるわけにはいかないのだ。
「朝廷・貴族が権力を握っていた時代、武士の地位は低かったが、やがて台頭し政治の中心を担うようになった。実務者に光が当たる時代…つまり、『人づくり』によって社会は流動化するということなのです」と断言する小野社長。気候変動や景気停滞、経済のグローバル化、少子高齢化を背景に、地方都市では今、DXが地域活性化の鍵を握っている。志をともにする仲間たちがICTを駆使して手を結び合い、新たなビジネスも誕生しつつある。そんな現状に対して小野社長はこう続ける。
「最近他県からも若い人材が入ってきます。今の若い子は真面目で、お金のためというより社会の役に立ちたいという気持ちが強いし、自分の力を試したいという野心的な子も多い。そんな志を持った若者たちを育て、活躍する場を作ってあげたいのです。次の時代を作っていくのは我々です」。
ふと見渡すと、ICTという武器を手に戦う武士たちが、群雄割拠する光景が目に浮かんでくる。戦乱の世ともいえる激動の現代に生きる不屈の人材が、この胎内市という土地から続々と生まれ育っていくに違いない。
事業概要
法人名
株式会社小野組
所在地
新潟県胎内市西栄町2-23
電話
0254-43-2123
設立
1962年4月1日
従業員数
185名(2021年10月現在)
事業内容
土木、建築各工事の設計・施工
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