4年前の本社移転を機にペーパーレスを強化 現場のiPad活用もさらに深化へ 瀧上建設興業(愛知県)
2023年03月06日 06:00
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橋梁(きょうりょう)専門の親会社、瀧上工業株式会社の施工部門分離によって設立されてから60年近く。瀧上建設興業株式会社は、時代に翻弄されながらも橋梁の維持・補修という必須の事業に尽力。4年前の本社移転によって保管スペースが物理的に減るなか、ペーパーレスを強化するとともに、現場でのiPad活用にも踏み切った。iPadの活用はさらなる働き方改革に向けてより深化させる方針だ。(TOP写真・山本正貴管理部長(左から)と繁村好則工事部長、鬼頭克己代表取締役社長、堀籠雄基工事主任)
親会社の施工部門が分離・独立
親会社の瀧上工業株式会社は1895年、名古屋市西区で鍛冶(かじ)屋として創業され、橋梁(きょうりょう)の設計・製作・施工を手掛けてきた。1965年には施工部門を分離・独立。その時に設立されたのが、瀧上建設興業株式会社だ。橋げたの設計や製作は親会社の瀧上工業が、現場の施工は瀧上建設興業が行う役割分担が数十年にわたって続いた。
手延引き戻し工法(送り出し架設の逆手順でトラス橋を撤去)
丸投げ禁止機運の高まりで危機に直面
きれいな役割分担はしかし、ゼネコンによる下請け会社への丸投げ批判などを経て徐々に難しくなる。2000年には「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」が制定され、瀧上工業自身が施工を担う必要が生じ、瀧上建設興業は関連会社でありながら瀧上工業の仕事を請け負うことがほとんどできなくなってしまったのだ。しかも、瀧上工業の施工要員を確保するため、瀧上建設興業の従業員の多くが転籍。ピーク時に120人ほどいた従業員の多くが転籍した結果、2023年1月現在、3分の1強の47人にまで縮小している。
危機をきっかけに開発した塗膜防水材、花開き始める
瀧上工業の仕事をほとんど請け負えなくなる中、瀧上建設興業は元請け会社として始動。戦後に架けられた橋梁の老朽化が進む中、維持・補修のニーズは高まり、新幹線の大規模補修工事などを請け負うことができた。その一方で、新商品の開発にも乗り出した。今、花開き始めているのが、株式会社近代化成(愛知県東郷町)と三好塗装工業株式会社(愛知県名古屋市)の3社で共同開発した塗膜防水材「ハイパーSP」。水に弱い鋼やコンクリート床版の防水材として主に歩道橋などで使われ始め、全国に販売している。
歩道橋の橋面をハイパーSPの防水機能によって劣化を抑える
4年前の本社移転がきっかけで迫られたペーパーレス
瀧上建設興業では「従来からICTに積極的に取り組んできた」(鬼頭克己代表取締役社長)。電子黒板も導入して会議などに活用している。
電子黒板で工事現場を示す鬼頭社長
だが、ペーパーレス機運が盛り上がったのは、4年前の本社移転がきっかけだった。以前の社屋は広くはあったが、昭和時代の色濃い古い建物。見栄えが悪く、ただでさえ人手不足が言われる建設業界にあって、求人に不利になる。そんなことから決断して購入した新社屋ビルは、少し手狭だった。結果、書類の保管スペースをほとんど取れなかったのだが、それがペーパーレスを進めるきっかけになった。
4年前に移った瀧上建設興業の本社
これまでは、工事が竣工するたびに、すべての関係書類をそのまま保管していた。その量は1つの工事で衣装ケース2、3個分と膨大。今はほぼすべての書類をスキャンするなどして電子データで保管しているため、省スペース化に役立ち、「検索すれば探したい書類が見つかるため、紙の書類よりも探す手間が減るメリットも生まれた」(繁村好則工事部長)。
ただ、ほぼすべての工事データをサーバーで保管できるようになったのは、「サーバーの容量が大きくなった」(繁村工事部長)おかげでもある。電子データでの保管に際しては工事部が中心になってフォルダの設定方法などを熟慮して決めたという。
工事関係のペーパーレス化が進む一方で、経理書類の半分は紙で保管している。「請求書などが紙ベースで来るため」(山本管理部長)だが、今後、請求書が電子データ化されれば、経理書類の保管もペーパーレス化が進みそうだ。
現場へのiPad導入で手間が激減
社内でのICT化が進むなか、現場のICT化を進めたのは、現場からの声。同業者が測量時にiPadを活用しているのを見て、堀籠雄基工事主任らが声を上げ、2年前から導入された。それまでは、橋脚に据え付けられた部材などを紙にスケッチし、現場での測量結果を書き込んでいた。測量を続けるうち、新たに書き加える部材が出てくることもあり、測量結果を盛り込んだスケッチは「本人でないとわからないこともあった」(繁村工事部長)という。雨天時には、紙が濡れて読みづらくなることもあった。
iPad導入前は、左の紙のような手書きスケッチに測量数字を書き入れていたが、今はiPadで撮影した現場写真に数字を書き込み、正確さが増した
今はiPadで撮影した現場写真に、測量した数字を直接書き込むことができる。スケッチよりはるかに正確で、誰が見ても一目瞭然なため、図面への落とし込みも圧倒的にスムーズになった。
ただ、今はクラウドを使っていないため、このデータは本社に戻らないと社内の人と共有できない。繁村工事部長は「クラウドを使えれば、本社に戻らなくても現場と本社がリアルタイムでつながり、課題を伝えたり、アイデアをもらえたりできて圧倒的に効率がよくなる」と話す。
ただ、今はセキュリティとコストの兼ね合いについての検討段階。鬼頭社長には、測量結果を書き込んだ写真データや図面などほぼすべてのデータを現場のiPadと本社でリアルタイムに共有できるアプリの活用も念頭にあり、ベストチョイスを検討中だ。
ますます重要な「維持・補修」、インターンシップでアピール
瀧上建設興業の売上の3分の2は新幹線の橋梁の補修工事など。その仕事は2年後には大幅に減って3分の1以下になる見込みだが、「その後には高速道路の橋げた補修が待っている」(鬼頭社長)という。
高度成長期に造られた橋などはすでに完成から50年以上経過しているものもあり、補修・補強が必要になっている。人口が増えない中、新規架橋が減っても、補修・補強の必要性はなくならない。将来的にも事業のニーズが見込める中、瀧上建設興業では若手の採用にも力を入れ、インターンシップを全国から受け入れている。
鋼製ブラケットの図面と模型
その際に「鋼製ブラケット」と呼ばれる橋げたの耐震補強部材の図面を見せて、学生に模型を作ってもらっている。図面を読み込むのは難しく、「うまくできる学生は少ない」(鬼頭社長)というが、この課題の難しさこそが工事の難しさであり、工事の意義の証。事業の永続性があり、働き方改革も進む中、創業100年に向けた伸びしろはまだまだありそうだ。
事業概要
会社名
瀧上建設興業株式会社
本社
愛知県名古屋市昭和区鶴舞2丁目19番22号
電話
052-882-7100
設立
1965年4月1日
従業員数
47人
事業内容
橋梁の点検調査・維持補修、鋼橋上部工の設計・製作・架設・床版、一般土木建築工事の設計施工、土木建築関連材料の販売
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