作業手順の動画マニュアル作成で製品の高品質均質化実現へ 埼玉縣信用金庫によるDXサポートでスピード導入 ヒタチ(埼玉県)
2023年03月10日 06:00
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社内に新しいシステムを取り入れたい。業務改善に役立つシステムを構築したい。そう考えた時、一般的に企業が取る行動は、システム開発会社に連絡を取ることだろう。もっとも、企業の設備投資であっても個人の買い物であっても、付き合いのない“店”の扉を開くのには不安がつきまとう。(TOP写真:こめかみにつけたカメラで作業を録画)
信用金庫が窓口になりDXをサポート
「DXを謳っている会社にいきなり訪ねて行っても、すぐに担当者に会わせてもらって話を聞いてもらえるのか、望んでいるサービスを受けられるのかが心配になってしまいます」。そう話すのは、埼玉県富士見市でねじの製造を手掛けている株式会社ヒタチの中野一宏代表取締役社長だ。「自分たちのような中小企業ならなおのこと、相手にしてもらえるのかが不安です」(中野社長)。そういった時に、普段から融資を受けたり、お金を預けたりして付き合っている金融機関が間に入ってくれるとしたら、どれほど心強いだろう。
株式会社ヒタチ 中野一宏代表取締役社長
株式会社ヒタチの工場内
ヒタチの場合は、埼玉縣信用金庫が支援会社との縁をつないでくれた。「ビジネス環境の激しい変化に対応するために企業のDXが求められる中で、当金庫では外部の支援会社と連携しております。コロナ禍を踏まえて、お取引先様からシステム構築などのデジタル課題や希望を伺い、ソリューションを紹介する『本業支援』を強化するようになりました。」と、同金庫の地域創生部事業ソリューショングループで部次長を務める藤井裕之氏は説明する。
埼玉縣信用金庫 地域創生部事業ソリューショングループ藤井裕之部次長
同金庫では、埼玉県内に展開している営業店が主体となり、地域で「DX体感イベント」と銘打って、各種のシステムを並べて顧客に触れてもらい、どれくらい便利かを知ってもらう試みも行ってきた。独自の「DX診断シート」も作成し、販路拡大や顧客・取引先管理、生産性の向上、インフラの構築といった顧客ニーズから、どのようなソリューションが紹介できるかを検討し、提案してきた。
埼玉縣信用金庫「DX診断シート」の主なヒアリング事項
地元密着の信用金庫だからわかる経営の悩み
同社の取引店である埼玉縣信用金庫鶴瀬支店長の長田大介氏も、「当金庫は地域密着型金融を信用金庫の本業と位置付け、取引先様の経営相談にも乗ってきました。DXについてもヒタチ様からご相談があり、システムの導入や補助金の活用などをご提案させていただきました」と振り返る。
中野社長(右)と導入時を語る埼玉縣信用金庫鶴瀬支店 長田大介支店長(左)と成野友太支店長代理(中)
ここで時間がかかってしまっては、かえって信用を失ってしまうところを、「埼玉縣信用金庫さんは、支援会社と組んで3日くらいでメドをつけてくれました。最初は自分のスピード感についてこられるのかなと訝(いぶか)っていたところもありましたが、本当によくやっていただけました」(中野社長)。
同社がどのような目的で、どのようなシステムを求めているかがはっきりしていたことも大きかった。企業、金融機関、提携システム支援会社のそれぞれが、自分たちの役割をしっかりと果たすことによって、DXがうまくいった好例と言えそうだ。
作業の操作マニュアルを動画で作成
同社が導入したシステムは、作業をしている様子を録画して動作を分析し、最も効率的な作業状況を見つけ出すためのシステムだ。「最初の狙いは、従業員たちが作業を行うにあたっての標準時間を調べたいというものでした」(中野社長)。こつこつとペースを変えずに作業を続ける従業員もいれば、最初のうちはあまり手を動かさず、最後の方になって一気に作業をして仕上げる従業員もいる。同じ作業にかかる本当の時間はどれくらいなのか、外から見ているだけではわからなかった。
株式会社ヒタチの工場内
「標準時間がわかれば、一人ひとりの生産性が把握できて、工場全体でどれくらいの生産が可能か、どれくらいの受注に対応できるのかが推計できるようになります」(中野社長)。最短時間に合わせてぎっちりと詰め込むというよりは、ある程度の余裕も含めてどれくらいの時間があれば作業が完了するかわかれば、誰もミスを起こさず均質な製品を安定して作れるようになる。結果として企業全体の価値も向上する。そう考えた。
そのような目的から導入を目指していた作業分析ソフトが、単に作業時間を計測するだけでなく、作業のステップを記録して操作マニュアルとして利用できるものだと知って、同社ではさっそくマニュアル映像作りをスタートさせた。「狙いはやはり、作業手順を新しく始める人に伝えることにあります」(中野社長)。職人の世界は「見て覚えろ」といった空気が昔から根強いが、それでは熟練までに時間がかかってしまう。きちんと教えれば完璧にこなす最近の若い人にはマニュアルがあった方が効果的。「それも、文字で読むより映像で見た方が習熟が早いんです」(中野社長)。
映像マニュアルの制作を現場の作業員ではなく、入社して間もない社員やパートらに任せた
もちろん、映像マニュアルとして残すためには記録するところから始める必要がある。同社では、作業員のこめかみ部分に動画カメラを装着して作業し、その様子を録画した。こうすることで手順の最初から最後までが映像によって記録される。これを作業分析ソフトに取り込み、シナリオに沿ってステップごとに切り分け、説明をつければ映像による操作マニュアルの完成だ。
作業分析ソフトを操作するのは現場作業未経験者だ
ここで同社がユニークなのは、映像マニュアルの制作を現場の作業員ではなく、入社して間もない社員やパートらに任せたことだ。「作業員では感情が入ってしまうから」(中野社長)というのがその理由。普段から作業をしている人では、あまり重要な作業ではないと省略してしまったり、逆に自分にとっては大切だからと加えてしまったりすることが起こってしまう。これでは、初めて作業に臨む人がフラットに手順を覚えられない。「その点、現場で作業を経験したことがない人なら、余さず手順を記録してくれます」(中野社長)。
高品質の製品を作り出しているメーカーにとって、働いている人の経験や技術が大切であることに変わりはないが、そうなるための入り口が整備されていなければ誰もたどり着けない。高齢化も進む中で継承がうまくいかないことも起こりえる。そうなる前に、フラットな視点から作業手順をマニュアル化し、標準作業時間も把握しておくことで「いつでも誰でも均質な製品を作れるようになるのです」(中野社長)。
株式会社ヒタチの中野一宏代表取締役社長
こうした、一歩引いた視点に立って全体を見渡すことができるのも、中野社長がコンピュータ関連企業で働いた経験があるからだ。「コンピュータの販売などをやっていて、大手企業に出向する形でホストコンピュータのシステム構築に携わっていました」。数年を経て家業を継ぐために同社に戻って見渡すと、コンピュータらしきものは何ひとつなかった。「自分でパソコンを入れて帳簿などを打つようになりました」(中野社長)。パッケージソフトを導入したわけでも、表計算ソフトを使ったわけでもなかったが、それでも手で書いて計算するより時間の節約になったという。
図面などをデジタル化して工場内のどこのパソコンからでも閲覧可能に
今は図面などをPDFで電子化し、サーバーに蓄積して工場のあちこちから閲覧できるようにした。工場を歩くと各所にパソコンが置かれて、モニターで様々なデータを閲覧できるようになっている。若い人が現場に入っても、パソコンを見れば過去のデータを参考にして作業できる。同社が目標に挙げている均質化を実現するために必要不可欠なツールとなっている。
工場内に置かれたパソコン
社長自身もノートパソコンを持ち歩き、スケジュール管理からメールの確認、経営に関する操作などを行っている。デジタルを使いこなすトップがいることが、ICTの導入にとってやはり大きいと言えそうだ。
数センチから数ミリといった小さいねじを手掛けている同社。1965年に東京の板橋区で創業し、志木市や朝霞市を経て富士見市へと移ってきた。「国内生産にこだわる品質至上」を基本理念に製造に取り組んで、取引先から歓迎されるねじを送り出してきた。製品に組み込まれることが多いため、普通の暮らしで同社が手掛けたネジを目にすることはあまりないが、数年前から腕時計メーカーの発注で、微細なねじを製造して提供している。「店頭でも目にすることがある製品に関わっているということは、従業員にとっても励みになりますね」(中野社長)。
「いつかポルシェの部品や高級腕時計の部品を」
だからといってBtoC事業をいたずらに拡大することはせず、今は取引先からの注文にしっかり応えることを基本に事業に取り組んでいる。それでも、「いつかポルシェのねじを作ってみたいですし、高級腕時計の部品も手掛けてスイスのバーゼルで開かれるフェアに行ってみたいですね」(中野社長)と夢を語る。52歳だから引退はまだずっと先。ICTによって高品質の均一化を実現した先に、最高の品質への挑戦があるようだ。品質に対する真摯な取り組みを見ていると実現できると確信した。
株式会社ヒタチの社屋
事業概要
会社名
株式会社ヒタチ
本社
埼玉県富士見市東大久保14-5
電話
049-253-3518
設立
1965年
従業員数
23人
事業内容
ねじ、特殊冷間圧造・精密切削部品の製造
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