福祉業(介護)

在宅でも認知症看護を、クラウドストレージで業務を効率化する ぐるり(長野県)

From: 中小企業応援サイト

2023年03月07日 06:00

この記事に書いてあること

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産経ニュース エディトリアルチーム

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日本アルプスの谷間に位置する長野県伊那市。眺望の良い高台にログハウス風の建物がある。高齢者向け福祉施設を展開するぐるり株式会社の社屋だ。出張の多い同社の中村祐希代表取締役社長は、クラウドストレージを使って効率的に仕事をこなしている。(TOP写真:自社ロゴマーク付きシャツを着る中村祐希代表取締役社長)

病院に勤務しながら認知症看護認定看護師の資格を取得

同社の代表取締役社長は中村祐希氏、52歳。高校卒業後、山梨県内の看護学校に進み22歳で看護師の資格を取った。長野県内の総合病院に入職し、脳外科病棟、救急救命センター、手術室を経験し、その後精神科病棟などで勤務経験を積み、結婚して一人娘も授かった。

精神科勤務時代には、長野県看護大学看護実践国際研究センターに通い、認知症看護認定看護師の資格を取得した。病棟で認知症の患者が薬を大量に投与されたり、動けないよう拘束されたりしている姿を目の当たりにし、「80年も90年も一生懸命働いてきた方たちが気の毒だ」と感じたからだ。

資格を取ってみたら、看護方針で医師との見解の違いが気になってきた。「勉強してきた知識と技術が発揮できる、認知症の方が入院しなくても在宅で1日でも長く過ごせるような看護ができないだろうか」という思いが次第に募っていった。

作品が飾られた室内で職員とレクリエーションを楽しむデイサービスの利用者

作品が飾られた室内で職員とレクリエーションを楽しむデイサービスの利用者

夫の協力で開業、デイサービスからスタート

そこで、デイサービス(地域密着型通所介護施設)の開業を決意。自己資金ゼロで運転資金もなかったので、地元の長野銀行から融資を受けた。会社員の夫が収支計画書など申請書類の作成や手続きを手伝ってくれた。

2016年3月17日、ぐるり株式会社を設立。社名には「輪のようにぐるりと、なんでもうまく回るように」と願いを込めた。デイサービス「花うた」は「利用者が鼻歌を口ずさむように楽しく、心地よく過ごせますように」と名付けた。伊那市内の高齢者のほか、若年性認知症の人も受け入れるため定員は15人に決めた。

ホームページでは「花うた」など各施設を紹介している

ホームページでは「花うた」など各施設を紹介している

認知度低く、開業当初は苦戦、ホームページ作成など懸命にテコ入れ

ところが、看護師3人、生活相談員1人で開業したものの、利用者が全く集まらない。伊那市のデイサービス施設は同社で13番目と施設数が多い上、新参の同社に対する認知度も低かった。初日は利用者ゼロ、2日目が1人。1年を過ぎても利用者数一桁の日が続き、運転資金の追加融資を受けなくてはならない事態に追い込まれた。

付き合いのある会計事務所が「これはよろしくない状況だ。自社のホームページを作ったほうがいい」とアドバイスしてくれたので、費用を捻出してホームページを作成。加えて、遠方に住む利用者でも送迎し、他施設で受け入れが困難な利用者も引き受けることにした。高齢化の進展で注目を集めつつある認知症看護認定看護師の資格を持つ中村社長に講演や研修の依頼が入り始めたので、講演先でも「どこまでも行きます」「困ったらお受けします」と自社のアピールに努めた。

平屋でバリアフリー、見晴らしの良いグループホーム「ま花」

平屋でバリアフリー、見晴らしの良いグループホーム「ま花」

2年後に経営安定、グループホーム、訪問看護ステーションを相次ぎ開設

我慢の時期が2年ほど続いたが、少しずつ利用者が増え経営が軌道に乗り始めた2018年、グループホーム(地域密着型認知症対応型共同生活介護)「ま花」を、デイサービスと道路を隔てた向かいに新設した。自宅で生活を続けるのが困難な利用者が共同生活をする施設で、「マハナ」はハワイ語で「居心地がいい」という意味である。「年齢を重ねると通所型のデイサービスでは立ちゆかなくなるときが来る。でも、私たちが看てあげていた人はそのまま最期まで看てあげたい」と中村社長。24時間交代で泊まり込み、9人の入居者を看ている。

2019年には「今度は私たちが外に出て行き、在宅で暮らす利用者の支援をしたい」(中村社長)と、看護師が利用者の自宅を訪問し、主治医の指示に従って点滴や注射などの医療行為や服薬管理などを行う訪問介護ステーション「ここ花」も開設した。

「今はどの施設も定員いっぱいで、新規の利用者さんの受け入れをお断りしている状況。お借りした資金も順調に返済している」と中村社長。職員は31人で、男性4人に残りが女性、20代が2人、最高齢は62歳だが、「かつて総合病院などで私と一緒に働いていた人が多い。気心の知れた人ばかりなので助かっている」と笑顔をみせる。

クラウドストレージ導入し、共有データの閲覧・編集を可能に

同社は各施設を拡充する度に、インターネット環境を整備して介護保険請求ソフトや複合機、パソコンなど、事業に必要な設備やソフトを導入してきた。クループホーム「ま花」開設時にも電話と複合機、パソコンを導入したが、道路を1本挟んだだけなのにネットワークがつながらなかった。 インターネットがつながれば、どこからでも共有データの閲覧編集ができるクラウドストレージを導入した。

中村社長は認知症に関する県の講習会やケアマネージャーの研修会など、週に1回の頻度で出張がある。「パソコンを持参して出かけるので、メール確認のほかクラウドストレージから各施設の進捗状況が確認できるのはとても効率がいい」と話す。「認知症の方が在宅でも長く過ごせる看護を、という思いからデイサービス開始、更にグループホーム、訪問看護を開始、それぞれをつなぐためにクラウドストレージを活用。職員にとっても、どこにいても見たい情報を確認できるので便利。」と満足そうだ。

介護請求ソフトで入力中の職員

介護請求ソフトで入力中の職員

業務を効率化するには、職員のICTスキル平準化が課題

今後の課題は少なくない。「職員にはスマートフォンを持たせていない。20代の職員は使いこなせるが、スマートフォンの入力作業が嫌で他の施設を辞めてきた高齢の職員もいるので」と中村社長。介護保険の請求ソフトは導入済だが、介護記録や勤怠管理は手書きだし、社内の会議は紙の資料を使って顔を突き合わせてやっている。職員間のネットワークも電子化はこれからだ。年代別で温度差のある職員のICTスキルをどう平準化していくか。中村社長は「ゆくゆくはデジタル化をもっとやっていかなくてはならないだろうし、ICT機器を操作できる人が増えた方が仕事の効率が上がるだろうから考えていきたい」と思案中だ。

ICTを味方に認知症看護の啓蒙に努める

伊那市内で高齢者福祉施設を3ヶ所運営する中村社長は「開業の目的は利用者さんの立場に立ったサービスを展開することだった。遠方の利用者さんにもフットワークよく、質の高い看護や介護を提供できていると自負している」と語る。

その上で「認知症看護や介護も我が社の強み」と話し、「認知症の利用者さんは忘れちゃうだけで、それ以外は普通の利用者さんと変わりない。忘れっぽいという“個性”なのです」と強調する。「認知症だからこうしなきゃ、ああしなきゃではなく、援助者はその方が今困っていることを見つけて、その困りごとを助けてあげればいい」と明快だ。

認知症看護の資格を有する看護師は今、長野県内で50数人。だが中村社長は「介護施設で働く認定看護師は県内で数人というレベル。病院内ではなく、外の施設に認知症認定看護師がもっといたらいいのに」と話す。厚生労働省は、認知症を患う高齢者は2012年で全国に約462万人、2025年には700万人を超え、65歳以上の5人に1人と推計しているが、「質の高い介護ができている施設が少ない。利用者さんが最後まで在宅で生活できるようなケアを、どの施設でもできるようになってほしい」と考えている。認知症看護の啓蒙活動のために飛び回る出張先でも、ICTが心強い味方になってくれているようだ。

事業概要

会社名

ぐるり株式会社

本社

長野県伊那市西春近3308-3

HP

https://gururi-hanauta.com/

電話

0265-96-7678

設立

2016年3月17日

従業員数

31人

事業内容

地域密着型通所介護施設、地域密着型認知症対応型共同生活介護施設、訪問看護ステーションの運営

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