建設業(土木)

新事業挑戦!「カッター屋」から脱却した切断・穿孔工事専門会社KOA(群馬県)

From: 中小企業応援サイト

2023年03月20日 06:00

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群馬埼玉両県でアスファルト舗装やコンクリートなどを切ったり穴を開けたりする切断(カッター)・穿孔(コア)工事を手掛ける、群馬県みどり市に本拠を置く有限会社KOA(コア)。同社は単なるカッター・コア工事にとどまらず特殊工法により事業領域を広げ、次なる飛躍につなげている。経営環境や労働環境の改善に向けたICT(情報通信技術)化も進め、「カッター屋」の呼称からの脱却に取り組んできた。(TOP写真:群馬県みどり市に2020年初めに完成した新社屋)

突然の出会いが生んだ門外漢の観光業からの転身、そして会社設立

有限会社KOAは1995年に前原直之代表取締役がカッター・コア工事に特化した専門工事会社として立ち上げた。この工事は建築、土木の両分野で活用され、同社の場合は土木系の建設会社からの依頼が多く、公共工事が6割から7割を占める。もっとも、公共工事とはいえ自治体から直接受注するわけでなく、受注した建設会社の下請けだった。

創業のきっかけは偶然の出会いにあった。前原社長は高校を卒業すると同時に、父が経営する観光バス会社に入るために、7年間旅行関係の会社で修行。その後入社するもまもなくバブル崩壊で観光業界が大きく傾いたことから、父から「今いる運転手はクビにできない。一度、外で飯を食ってくれ」と促された。当時、運転手として京都に向かう際、たまたま客として地元のカッター工事会社の社長が同乗しており、「新たな仕事をやりたいのだが人手が足りないのでうちに来てくれないか」と誘われた。この偶然が、門外漢だったカッター・コア工事の世界に入るきっかけになった。

ところが、この会社はカッター・コア工事以外にも手広く事業を手掛けており、一時、倒産の危機に瀕して会社をたたむ方向にもあった。そんな事情もあり、前原社長は「せっかく覚えた仕事なので働いていた仲間と一緒に独立しよう」とKOAを設立した。

設立当初はコア工事だけを扱った。コンクリートに穴を開けるコア抜きは機械も高額でなく元手が少なくて済んだからだ。社名の「KOA」はここに由来する。コア抜き作業は英語で「CORE」と表記する。しかし、そのままではわかりにくく、「会社を興す際に最初にお世話になった方の頭文字『K』を取りKOAとした」(前原社長)。その後は、機械が高額なので迷っていたカッター工事にも、中古の機械とトラックを購入し手を広げた。前の会社での仕事上のつながりも生かし、事業にも勢いがつき安定して事業が軌道に乗ってきたのはそれから6、7年経ってからだ。

KOAの前原直之代表取締役

KOAの前原直之代表取締役

ウォーター・リサイクル工法への投資を武器に大きく変わった事業環境

同社の事業環境が大きな転機を迎えたのは新たな特殊工法を取り入れてからだ。国土交通省の新技術情報提供システムNETISに登録されている「ウォーター・リサイクル工法」がそれで、前原社長は「これが今のKOAの武器となり、頑張れている」と振り返る。この工法は、コンクリートやアスファルト舗装に切り込みを入れる際に発生する汚泥水を、清水と汚泥に分離するもの。汚泥は固めて産業廃棄物として処理し、清水は再び作業用冷却水に再利用できる。分離した汚泥は焼却施設で中間処理し、再生砕石としてセメントの原料にリサイクルできる。同社の場合「移動式切削汚泥処理システム」として装置をトラックに乗せ、作業スペースが確保できない現場でも作業をしながら対応できる。

実はこの工法の導入にKOAの背中を押したのは同業者の存在だった。みどり市内の国道50号の道路改良工事を請け負った仙台市の舗装工事会社から「仙台のカッター工事会社を呼ぶのは手間がかかるので代わりにやってみないか」との呼びかけがあった。ただ、この工法の機械がなければ作業はできないため、「思い切って、1台500万円位する機械を2台購入して請け負った。それが新事業に踏み切るきっかけだった」(前原社長)。

ただ、この工法には産業廃棄物の汚泥処理工程がある。自治体から産業廃棄物処分業の許可を取得する必要があり、それが大きな壁となった。群馬県には何度も足を運んだものの許可は下りずじまい。半面、埼玉県が処理水を産廃として予算をつけることになり、申請したところ許可を得た。その後、群馬県も方針を一転し許可を取得できた。この結果、KOAは2006年にこの工法での施工取り扱いを始め、群馬、埼玉両県でこの工法の先駆者となった。

この工法での施工は今では売上の半分以上、6、7割を占める。前原社長はこれによる事業環境の変化を「それまでのカッターで切るだけで1万円という世界が、産廃を脱水して中間処理し、焼却施設で焼却し二次製品の材料にリサイクルすることで5万円の仕事に化けた」と例える。

 「ウォーター・リサイクル工法」で使う機械を搭載したトラック。業界では稀なAT搭載車だ

「ウォーター・リサイクル工法」で使う機械を搭載したトラック。業界では稀なAT搭載車だ

顧客支援と働き方改革のためにICT化を進める

KOAは、次のステップとして、経営環境や労働環境の改善に向けてICT化に取り組んでいる。その一つは2021年12月に導入した産廃管理専用のドットプリンターだ。その狙いは、この工法の施工に必要な産廃処理に向け自治体に提出しなければならないマニフェストと呼ばれる産業廃棄物管理票の作成作業の軽減化にあった。この書類は産廃が適正に処理されているか確認するために国の制度として義務化されており、公共工事を受注した建設会社などの排出事業者が自治体に提出しなければならない。その意味で下請けのKOAが書類を直接作成する立場にはない。しかし、前原社長は元請け支援のため、ドットプリンターを使って書類を作成することにした。

産廃マニフェスト専用のドットプリンターを備えた新社屋2階の事務所スペース

産廃マニフェスト専用のドットプリンターを備えた新社屋2階の事務所スペース

作業者の負担軽減など労働環境改善のためICTに前向きに取り組む

手書きでのマニフェストの記入は手間がかかる。7枚綴りの厚い複写式の書類に記入する工事現場の名称は相当長く、舗装の厚みや長さ、どんな種類でどれだけの量の産廃を処理しなければならないなど細かい記述が求められる。これを作業から帰社した従業員が記入するわけで、コンピューター入力により記入の時間が大幅に減り楽になったと従業員は好感している。さらに、本来は元請けが記入するマニフェストを元請けに代わって申請を手助けするのだから、元請けにも大いに喜ばれているという。

現状でマニフェスト作成は紙の対応となっている。建設業界の書類の電子化は必須になってきている。現在1社しかない電子マニフェストへの移行も積極的に取り組んでいく意向だ。また、まだ手書きに頼っている作業伝票なども、近いうちに作業員にタブレット端末を持たせ、現場から直接通信できるようにするなど業務のICT化に取り組んでいる。

実際、建設の現場は技能者の適正な評価や事業者の業務負担軽減に向けてICT化が進展している。国土交通省が推進し、一般財団法人建設業振興基金が運営する建設業に関わる技能者の資格・社会保険加入状況・現場の就業履歴などを登録・蓄積する「建設キャリアアップシステム(CCUS)」があり、KOAはこれに登録している。現場に新規で入る場合、作業員は健康診断の受診時期や就業実績、資格、緊急連絡先などを記入しなければならない。作業員の情報を登録したカードをカードリーダーに差し込むだけでスムーズに現場に入れ、作業員の負担やストレスも軽減できることから、KOAはいち早くシステム導入を決めた。

KOAの従業員は現在、作業員7人、事務系2人の構成だ。ウォーター・リサイクル工法による施工に先立って2005年に始めた既設側溝のリニューアル工法「W2R(ダブルツーアール)工法」の施工とも相まって、新規事業をテコに業績は着実に上向いてきた。ただ、その分、カッター工事だけを手掛けていたころと比べ、作業員がこなす作業量や工程は格段に増えている。

新規事業による好転は「社員への還元」で報いる

前原社長はこの点を「売上が伸びていることは社員たちも感じている。そこは社員になるべく還元したい」と考えている。実際、機械は最新のものを導入し、トラックにしてもオートマチック(AT)の新車を採用するなど従業員の負担軽減に取り組んでいる。前原社長によれば「この業界でATのトラックはまず使わない」のが普通で、導入は「作業面というより移動時の作業員の負担をいくらかでも軽減できればと考えた」という。

労働環境の改善はもちろん、待遇面でも従業員への還元に取り組んでおり、給与額は毎年引き上げているほか、残業手当などの各種手当もきちんと付け、これまでできなかった有給休暇もしっかり取得できるようにした。ICT化への取り組みを加速しているのも、労働環境の改善を通じたこうした従業員の働き方への配慮があるからだ。そこには「同業他社ができないことをいろいろと考えていかないといけない」という前原社長の強い気概が感じられる。

従業員の作業環境改善のためもあって新社屋建設

その思いを具現化した良い例が2020年初めに完成した新社屋だ。踏み切った理由は言うまでもなく、ウォーター・リサイクル工法での仕事が増えてきたことにある。旧社屋は平屋建ての工場の居抜きで、トラックと機械を洗浄できるスペースはトラック1台分しかなかった。増え続ける施工案件に対応するには最低でも2台分、洗った水をため込む施設も備えるスペースを確保しなければならなかった。同時に、「寒い冬場に作業から疲れて帰社してきた作業員がシャッターを閉めた暖かいところで洗浄できる環境を作ってあげられれば」という自らも現場で実感してきた前原社長の思いも込めた。当然、新社屋建設は資金的にも思い切った決断だったに違いない。この点、前原社長は「ウォーター・リサイクル工法の導入で事業の先が見込めるようになったので踏み切れた」と振り返る。

新社屋1階のスペースは2台のトラックが収まるスペースを確保し、洗った水をため込む施設も備えた

新社屋1階のスペースは2台のトラックが収まるスペースを確保し、洗った水をため込む施設も備えた

人材確保は引き続きの課題だが、働き方改革と後継者問題解決により環境は確実に改善されている

一方、事業継承の問題も昨年3月に大学を卒業した息子に跡を継がせる方向にあり、今は取引先の建設会社に勤務させてもらっている。前原社長は「少し遠回りになるかもしれないが、土木と建築の両方を手掛けている会社なので、元請けの立場から業界特有の専門用語をはじめいろいろなことを勉強してほしい」と期待を寄せる。さらに「借金も含めて後を継いでくれると言っているので、新社屋建設にも踏み切れた」と話す。まさに、カッター・コア事業から新たな工法などに事業領域を広げた結果が好循環につながった格好だ。

しかし、人材確保が目下「一番の悩み」だ。営業職の採用募集には問い合わせは結構あるものの「まずは現場を覚えてくれ」となると尻込みして、なかなか採用につながらないのが現状だ。ただ、コンピューターやタブレットの導入により労働環境はどんどん良くなっていく。従業員の働き方改革に取り組む前原社長であれば、その成果は必ず出るだろう。さらに今後入社してくる従業員も「後継者問題がない」とすると企業の継続にも不安を感じなくてすむ。「カッター屋とはもう呼ばせない」という挑戦への気概は、これからも衰えることはない。

事業概要

会社名

有限会社KOA(コア)

本社

群馬県みどり市笠懸町久宮382番地10

HP

https://koa-cutter.com/

電話

0277-77-2225

設立

1995年8月

従業員数

9人

事業内容

アスファルト舗装・コンクリートのカッター・コア工事

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