小さな土木会社がICT施工の先頭を走る 河口建設 (愛知県)
2023年03月29日 06:00
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「新規事業はこれだ」として、2006年に特許のライセンス料を支払った土壌改良工法。保水機能がありながら水はけもよい魔法のような土壌を作る工法は10年強で花開き、数年前からグラウンドなどで本格的に活用され始めている。ICTへの先行投資は10年ほど前から。2018年から「i-Construction(アイ・コンストラクション)」に本格的に取り組み、今夏からは排土板を自動制御できるブルドーザーを導入させる。社長以下従業員7人の河口建設株式会社は、工法もICTも最先端を行っている。(TOP写真:ICTを積極的に取り入れる河口建設株式会社の鶴留修治代表取締役(左)と鶴留大輔専務取締役)
道路舗装からの脱却目指した仕込み
河口建設株式会社は1955年、鶴留修治代表取締役の義父、河口和雄氏が愛知県春日井市で創業。鶴留社長は1983年、河口氏の娘・恵利子さんとの結婚を機に、2年勤めた機械器具商社を退社して入社した。
当時の事業は道路舗装が中心。春日井市は名古屋市と隣接していることから、ニュータウンとしての宅地開発が進んでおり事業は順調だった。ただ、社長に就任した鶴留社長は道路舗装ばかりでは事業が先細りすることを懸念していた。
そんな時に出会ったのが、ATTACトース・クレイ工法。真砂土(まさど)にセメント系固化材と添加剤を配合することで団粒構造をつくり、団粒同士の間に隙間をつくることで雨水を表面上にためない浸透性を持たせる一方で、土壌の間に水をためる保水性も持たせるのが特徴だった。
ATTACトース・クレイ工法を施さない単粒構造だと微粒子が流れ出すが、団粒構造だと保水もできる上に微粒子が流れ出さない
ある勉強会への出席を機に知り合った人に紹介され、「これだ」とひらめいた。九州の設計会社が開発し特許を持つ工法で、愛知県内で契約した会社はなかった。すぐに契約をした。2006年のことだった。
データ確保に奔走、中部大学が分析へ
浸透性が高いことから、1時間20ミリ程度の雨なら、やんだ後にすぐにグラウンドを使える。また保水性が高いので河川への流出量を減らすことができ、洪水防止にも役立つ。さらに晴天時には土壌にたまった水分が蒸発することで気化熱が発生、ヒートアイランド現象を抑制することもできる。
団粒構造の中に雨水をためるため、気化熱が発生するATTACトース・クレイ工法
いいこと尽くしだったが、特許を持っている設計会社が保有するデータは乏しかった。データがなければ施主を説得できない。
そこで中部大学の杉井俊夫教授に分析を依頼。工法自体に大きな魅力があったうえ、分析に必要な経費を大学に寄附したことで、快く分析に乗り出してもらえた。
厚さ10センチで1平米30リットルを保水、ヒートアイランドにも決定的な効果
透水係数の調査は、ATTACトース・クレイ工法を施したグラウンドとそうでないグラウンドで実施。透水性の高さは明らかだった。
中部大学杉井研究室の透水係数調査の結果を示した資料
厚さ10センチの団粒構造があれば、1平方メートル当たり30リットルの保水効果があることも判明。サーモカメラを搭載したドローンでグラウンドの表面温度を計測した結果、ATTACトース・クレイ工法の場所とそうでない場所では3~6℃もの差があり、ヒートアイランド現象の抑制効果は明らかだった。
ATTACトース・クレイ工法の有無によって地表面の温度が3~6℃も違うことを示した中部大学杉井研究室の分析結果
国土交通省の認可で飛躍、すでに1万平米以上の工事が2件
有意な分析結果は出たが、それだけでは第三者への説得力、アピール力が足りない。そんな中、杉井教授を座長とした「高透水性・高保水性化技術の適用に関する研究会」が2010年、公益財団法人科学技術交流財団(愛知県豊田市)の新設研究会に採択され、国土交通省の建設技術フェアで工法をPRする機会を得た。
2017年には全国トース技術研究組合が国土交通大臣に認可された。これらの効果は大きく、ATTACトース・クレイ工法の透水性などのデータが広まった。
河口建設がATTACトース・クレイ工法を行ったグラウンドなど
河口建設はもともと道路舗装事業がメイン。グラウンド整備にはグラウンド整備が得意な業者がいるため、鶴留社長は売り込みに力を入れず、2010年頃までは数十平方メートル単位の工事しか請け負えていなかった。しかしその規模は徐々に拡大し、2013年に2,700平方メートルのグラウンドで実施して以降、数千平方メートルの受注が相次ぎ、令和に入ってからはすでに1万平方メートルを超える工事を2件行っている。
20年前から社内ICT化を進め、現在は積算業務をクラウドで全自動化、在宅で積算も行えるようになった
ATTACトース・クレイ工法と同様に、鶴留社長がずっと先行投資を行っているのがICT導入。サーバーをいち早く導入するなど、システム支援会社が驚くほど、積極投資を続けてきた。
最近取り入れたのは、積算業務の全自動化。クラウド上で計算できるシステムを取り入れたことで、設計書を読み込むだけで、部品や材料の値段を自動的に判断して積算をしてくれる。作業量は3分の1程度に軽減できた。クラウドになったことで在宅でも積算業務が行えるようになり、出社する必要がなくなるメリットもあった。
三次元設計の図面データをチェックする鶴留専務
ICT施工が「i-Construction」に結実
また、「i-Construction(アイ・コンストラクション)」にも積極的に取り組んでおり、3次元設計を可能にするソフトを昨年冬に導入した。またドローン測量による3D点群処理システムも今年の夏には導入予定である。ドローン測量により作成された点群データを活用する事で、土量計算や3次元の施工計画立案、品質管理の向上等が期待できる。
また、工事で発生した土砂を粒径ごとにふるい分けする機械の導入を昨年行った。それまではATTACトース・クレイ工法において一定の品質を確保する為、委託先に、現地で発生した土砂をふるい分けしてもらっていた。しかし、委託先の機械が老朽化したため自社で導入することを決め、同時に3D施工機械の導入を決定。計画に沿って自動で排土板を制御できるブルドーザーを導入する予定である。
三次元設計図面をもとに建機を自動制御する装置を手にする鶴留専務
担当しているのは、鶴留大輔専務取締役。建設コンサルタント会社に勤めた後、河口建設に入社し、ドローンの操縦から3D点群処理システムの操作、ブルドーザーなどの建機を自動操縦させるためのデータ処理も一手に担っている。
ブルドーザーは今夏納入される予定。そうなれば、「3、4人がかりで1週間かかっていた工事を、1人だけで3日で済ませることができる」という。その運転手1人も万が一の誤作動などに備えて乗っているだけ。免許さえあれば若手にも任せることができるという。
鶴留社長は「業界の人手不足が深刻になる中、建機の自動運転は必須」と話すが、その効果は人手不足への対応にとどまらない。ATTACトース・クレイ工法による受注が増える中にあって、建機自動化による工期短縮は河口建設の強い武器になりそうだ。
証憑電子保存サービス対応の複合機も導入
河口建設では昨年、電子帳簿保存法へ対応するため、証憑電子保存ができる複合機を導入。働き方改革に対応するためで、鶴留専務が担当する事務作業の軽減につながっている。
証憑電子保存サービスに対応した複合機も導入済のオフィス
「若手が入ってくれば、ぜひドローンを」
「ICT導入はすべて働き方改革のため」。こう話す鶴留社長以下7人の従業員は、鶴留専務を除いて全員が老眼に悩まされている50歳以上。ドローンや「i-Construction」はもっぱら鶴留専務の役割だが、「若手が入ってくれればぜひともドローンなど先進的な『i-Construction』を身につけてほしい」と願っている。最先端の工法とICT、「i-Construction」という河口建設の強みは、業界を目指す若者にとっても大きな魅力に映るはず。鶴留社長らの願いが叶う日は、そう遠くないと言えそうだ。
事業概要
会社名
河口建設株式会社
住所
愛知県春日井市篠木町1-40 カワグチビル2F
電話
0568-81-8911
創業
1955年5月
従業員数
7人
事業内容
土木工事一式/ATTACトース・クレイ工法(浸透性透水型土系舗装工)/駐車場工事
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