「入所したくても入所できない高齢者」の「受け皿」を用意。介護の質向上のためICT活用 ロングライフ(群馬県)
2023年03月31日 06:00
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群馬県みどり市で高齢者介護事業を展開する株式会社ロングライフは、住宅型有料老人ホーム「リストピア」を主軸に「すべての人に〝幸せ〟と〝感動〟を」の経営理念に沿い、金銭面や病症などを理由に施設に入りたくても入れない高齢者も受け入れる「受け皿」の広さを最大の特徴としている。加えて、施設運営にあたっては人材の育成を最重視し、フェイストゥフェイスで高齢者に向き合い、寄り添える介護のエキスパートを育てることに力を入れる。(TOP画像:住宅型有料老人ホーム「リストピア」で入所者と話を交わすロングライフの相羽一雄代表取締役)
「フル介護付きマンション」として群馬県内で5施設を展開
通所介護と訪問介護の施設を併設した住宅型有料老人ホーム「リストピア」
株式会社ロングライフが展開する施設はみどり市の本社所在地にあるリストピアと、これに併設する通所介護の「デイサービスセンター・みどりの丘」と訪問介護の「ホームヘルプ・リスの森」に加え、隣接する桐生市にある地域密着型通所介護施設の「デイサービス彩」とみどり市の「デイサービス花」の5施設。「フル介護付きマンション」との触れ込みで高齢者介護全般に事業を広げてきた。相羽一雄代表取締役は2016年に前身の高齢者施設会社を引き継ぎ、ロングライフに組織変更してから、「リストピアを手始めに、1年ほどで並行して今の施設体制を作り上げた」。
「何か社会貢献したい」と介護と無縁のメーカー勤務から転身
相羽氏が高齢者介護事業に取り組もうとしたのは「これからは社会貢献に携わっていけるような業種に就きたいと考えた」からだ。実は相羽氏の前職は介護とは全く関係ないメーカー勤務だった。東日本地区担当の営業として飛び回った。その後、得意先の店舗開発担当にスカウトされ、機器を売る側から買う側に転身した。そこで13年ほど勤め「これまでは好き勝手な仕事をやってきたので、何か人のためになる仕事を」と考えた。そこで地元の群馬に戻り、高齢社会が進む中でまだまだ数が少なく今後ますます必要になってくる高齢者介護施設の運営に手を付けた。
入所初期費用は無料 入所者を選別しない介護を貫く
「入りたくても入れない人」も引き受ける「受け皿」の広さを語る相羽一雄代表取締役
リストピアへの入所初期費用は無料、月額料金は食費、管理費、家賃相当額を含め税込み9万円という格安な水準で、「施設に入りたくても入れない高齢者を受け入れる」運営方針を立てた。
実際、人工透析や食事ができず経鼻経管栄養(鼻の穴から胃や腸までチューブを通して栄養剤を注入する)が必要な高齢者らを受け入れない施設が多々あるのも、介護の現場の実情だ。この点を、相羽氏は「リストピアは対応できる施設に仕上げた。透析が必要な入所者に対しても専門の医療機関との提携により、施設に迎えに来てくれて、帰りは施設に送ってくれる」と受け皿の広さを語る。
現在、ロングライフの職員は39人で、主軸のリストピアには38室に50人が入所している。2人用と4人用の同部屋と個室の3タイプがあり、同部屋にするメリットについて、相羽氏は「お年寄りは寂しがりやで広い部屋に独りになるとホームシックになったり、認知症に進みやすくなる恐れがある。そこで、そんな傾向がみられる入所者で仲の良い人を見定めて、なるべく同部屋にしてもらっている。そうした方がお互いに刺激しあって良い関係が築ける」という。一方で「人と接してこなかった職人気質のような入所者は個室の方が向いている」とも話す。
施設運営で最重視する人材の育成 資格取得に金銭面でサポート
入所者と接する介護職員
同社は経営理念に沿って職員が入所者と向き合う際の姿勢について、「入所された高齢者の皆様が〝幸〟齢者となれるよう、やさしさと思いやりの心をもって接していきたい」をモットーに掲げる。その意味で、施設運営で最も重視しているのが人材の育成だ。
相羽氏は介護に従事するにあたって「入所者さん、お客さんあっての仕事だという心構えが大事」とし、人材の育成には「介助してあげているんじゃなくて、介助させてもらっているという意識付けをまず最初にしないといけない」と説く。この考えを反映するように、同社は介護の経験者よりは未経験者を育てることを採用方針に掲げている。介護の原点である大事なところを最初に学んでもらい、介護の実務に生かしてほしいからだ。
そのため、未経験者には同社が100%費用負担して介護職員初心者研修(旧ホームヘルパー2級)を受けてもらい、資格を得れば次のステップの実務者研修、最終的に介護福祉士を目指せるような支援体制を敷いている。介護業界は一般的に介護福祉士の資格を取得している人の離職率が高いといわれる。「資格を持っているからつぶしがきくといった変な安心感があって、若い人は短期間で簡単に離職してしまう傾向がある」と相羽氏はこうした風潮に苦言を呈する。同時に、「資格を持って中途で採用した人の中には結構『働いてやっているんだよ』という人も少なくない」とも付け加える。同社が未経験者の採用にこだわるゆえんもそこにある。
一方で、職員が自主的に参加して「現場力」を高める仕掛けも作っている。四半期に一度、相羽氏から始まって看護部長、介護課長、さらには入社したての職員までが持ち回りでそれぞれの持ち場に立ったテーマで講師を務め、就業時間後に30分程度の自由参加による研修会を開催している。題材は職員が自由に決め、資料を揃えて説明するなど職員一人ひとりが自らの伸びしろを考えるようにするのが狙いで、「現場のことは現場に任せるスタンス」の醸成につなげている。
相羽氏が人材育成を通じて介護レベルの向上にこだわるのは「老人ホームは終の棲家ということで、家に帰れない人や、病院から退院できても在宅での生活が厳しい人が入ってくるので、入所者には最期はここで良かったと言ってもらえるような介護をしっかりできないとダメだ」という強い意思が働いているからだ。
介護給付費の請求作業で介護ソフトウエアを活用
介護給付費の請求作業や通所や訪問のスケジュール管理作業にあたるロングライフの事務室
一方で、施設の運営上の業務についてはICT(情報通信技術)活用を進めている。2015年に介護給付費の請求業務や介護記録などを効率化できる介護ソフトウエアを導入し、バージョンアップを繰り返して活用している。
このソフトは導入する施設側の使い方や、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や通所型、老人ホームなどの施設形態によって、その施設に合った項目を取捨選択してシステム化できる。ロングライフの場合は介護給付費の請求作業に加え、通所や訪問のスケジュール管理ができるように構築してある。その結果、手作業だったスケジュール管理がシステム化され、効率的な人員配置に役立っている。基本的に介護事務責任者の介護長が「一番使いやすく慣れている」ことで継続して活用しており、相羽氏は「介護給付費の請求作業につながるすべてで活用している」という。
施設運営に対するICT活用について、相羽氏は「例えば、職員全員がタブレット端末を持って対応できるのが一番の理想だけれども、なかなか難しい」と二の足を踏む。というのも、職員の3割は端末の操作が不得手な60〜70代で、かつ身体介護に取り組みながら常に端末を携帯するというのはなかなか現実的でない」と厳しい現場環境を目の当たりにしているからだ。しかし、「ICT活用はやっていかなければならない。まずは病院の電子カルテのように詳細な記録を入力し、介護の質を上げていきたい」と語る。
介護記録システムは、利用の仕方によって非常に大きな効果を生む。介護記録システムの基本機能だけでなく、入所者のケアのために詳細な記述が必要になってくる。その中で職員の負担が増えることなく入力するためには、介護記録システムの選択とシステム会社のより一層の努力が必要となる。介護システムの質は年々上がっている。いずれロングライフに合ったシステムが見つかるだろう。
安価で入所できる施設を増やし、高齢者介護の現状を変える
今後の事業展開について、相羽氏は「まだまだ受け皿が少ないのでもう1、2ヶ所は施設を増やせれば」と語る。その理由は「施設は多いものの、入りたくても入れない事業所が多過ぎる。もう少し安価で入所できる施設を増やしたい。ただ、安かろう悪かろうではなく、質は維持し誰でも入所できる施設を増やしたい」とし、微力ながらも矛盾を抱えたままの高齢者介護の環境を何とか変えたい相羽氏の思いが伝わってくる。
事業概要
企業名
株式会社ロングライフ
住所
群馬県みどり市大間々町大間々427-1
電話
0277-46-7500
設立
2016年
従業員数
39人
事業内容
高齢者介護施設運営
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