製造業(機械)

トヨタとの縁で創業100年近く 紙の給与明細から一機にクラウド化推進 トクシュ技研(兵庫県)

From: 中小企業応援サイト

2023年04月06日 06:00

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トヨタグループ創始者、豊田佐吉氏との縁から始まり1927年、大阪市西淀川区(現福島区)に創業した会社は事業内容などを変化させながらも、創業当時からの得意分野、クロムめっき加工事業をメインに関連製品も製造・販売してきた。2023年2月現在、社員数は19人。4年後に創業100年を迎えるトクシュ技研株式会社は昨夏、紙の給与明細といった旧来の事務手続きを一変させ、効率化を一気に進めて新たな飛躍の基盤を整えた。(TOP写真:50年史を手にする古市光代表取締役社長)

豊田佐吉、豊田喜一郎両氏との縁で創業

トクシュ技研株式会社の母体・日本初のクロムめっき加工会社、東洋クローム株式会社は1927年、大阪市西淀川区(現福島区)海老江下で産声を上げた。取締役には、豊田佐吉氏の長男で、当時豊田自動織機製作所常務の喜一郎氏が就任。古市光トクシュ技研株式会社代表取締役社長の祖父、古市修次氏が工場長兼技師長として就任した。

創業当時の周囲の街並み

創業当時の周囲の街並み

修次氏と豊田父子との縁は、中国・上海の豊田紡織工場立ち上げ時に修次氏の兄、勉氏が三井物産社員として多大な支援を行ったことから生まれた。一方、修次氏は東京高等工業学校(現・東京工業大学)卒業後、さまざまな経験を経て会社勤務をしながら、海外で工業化に成功したばかりのクロムめっきに注目していた。

日本初のクロムめっき工場

クロムめっきはクロムの溶液中に鉄材の部品を入れて通電させることで鉄材の表面にクロムを付着させる。鉄材のままの状態と比べると、耐摩耗性が4、5倍に高まることなどから、紡織機械の部品にクロムめっきすることが求められていた。

めっき槽に浸かった部品(左)。部品を取り囲んでいる茶色の棒は、通電させるためのトクシュ技研製高性能陽極

めっき槽に浸かった部品(左)。部品を取り囲んでいる茶色の棒は、通電させるためのトクシュ技研製高性能陽極

だが、すぐには軌道に乗らなかった。2代目社長で、修次氏の長男、實氏が創業80周年に寄せた文章によると、工場長として働き始めた修次氏は「朝7時に工場に出て、毎晩12時頃まで創業準備に取り掛かっていた」という。「当初の3年間くらいは赤字続きで苦労したようですが、昭和5年ごろから徐々に製品が安定したようです」とも記している。

展示品として保管されている、分厚くクロムめっきされた鉄材。茶色の部分が鉄材で、その周りをクロムが覆い、表面にはコブができている。実際にはめっき厚5~数百μmが施され、研磨作業で鏡面にする。

展示品として保管されている、分厚くクロムめっきされた鉄材。茶色の部分が鉄材で、その周りをクロムが覆い、表面にはコブができている。実際にはめっき厚5~数百μmが施され、研磨作業で鏡面にする。

研磨帯で業績向上、撹拌機部門は独立

業績が向上するなか、新規事業として綿花を糸にする機械を研磨する帯「エメリーフィレット」を開発して製造・販売。独占商品として業績に寄与し、戦時下の1944年に同部門が独立してできた、東洋エメリーフィレット株式会社(現トクシュ技研株式会社)の社長に修次氏が就任した。
だが、1945年5月、工場は大阪大空襲で損壊。終戦後も再開は困難で、500人いた従業員はすべて退社した。その大変な時期に会社再興に尽力したのが、特攻部隊の教官として活躍した實氏だった。

東洋エメリーフィレットは資金不足、資材不足を乗り越えて1947年ごろから事業が好転。染料用に求められていた高速撹拌機を開発し、新会社(現プライミクス株式会社)を設立した。高速撹拌機は染料用だけでなく、化粧品や食品、化学、医薬品業界用にも使われ、新会社が資本関係で東洋エメリーフィレットの上に立つほどになった。

3代目以降もクロムめっき関連製品を開発、堅実経営

1980年、トクシュ技研に社名変更し、1985年には實氏の15歳違いの弟、仁氏が社長に就任。2007年には、オーストラリアで働いていた仁氏の長男、光氏が入社して営業などを10年担当、2017年に社長に就任した。

クロムめっきした部品を研磨する従業員

クロムめっきした部品を研磨する従業員

創業当時からの社是。今も事務所や会社のHPに掲げられている

創業当時からの社是。今も事務所や会社のHPに掲げられている

この間も、そして今も「表面処理分野の蓄積技術を基に新技術の開発に努め、業界の技術革新に寄与し社会に貢献」との、創業当時からの企業使命を掲げ続け、「製品の独自性」「協調前進」「誠実明朗」という社是は事務所とHPに掲げ続けている。
その姿勢は従業員にも反映され、名だたるタイヤメーカーが使う機械の部品にクロムめっきを施し続けてきた。研磨帯だけでなく、めっきする部品の傷を補修する金属熔融充填機も開発して製造・販売。約50年前からのヒット商品は今も売れ続け、これまでに販売した1500台近くの充填機のうち1割以上が海外向けになっている。

小さな傷を金属熔融充填機で埋める従業員。研磨すると表面はつるつるで傷がわからなくなる

小さな傷を金属熔融充填機で埋める従業員。研磨すると表面はつるつるで傷がわからなくなる

また、クロムめっき用の高性能陽極や簡易濾過機、鉄粉除去器具なども開発、製造・販売して堅実な経営を続けてきた。

クロムめっき用高性能陽極を製造する従業員

クロムめっき用高性能陽極を製造する従業員

古市仁会長(左)と、会長の入社当時の写真が載っている50年史を示す古市光社長。仁会長は「若いころに高速撹拌機の営業をしていたころが一番楽しかった」と話した

古市仁会長(左)と、会長の入社当時の写真が載っている50年史を示す古市光社長。仁会長は「若いころに高速撹拌機の営業をしていたころが一番楽しかった」と話した

ただ、クロムめっき加工事業を大きくすることは困難。クロムめっきに使うめっき槽の新設は環境面の問題から「街中の工業地帯ではまず不可能に近い」(古市光社長)だからだ。
一方、事業を拡大させてきた撹拌機の会社は後継者問題もあり、2020年に大手機械メーカーへ譲渡売却した。これを機に、資本関係を解消して独り立ちした。

環境面に配慮し、脱「3K」

社是に「協調前進」「誠実明朗」を掲げるトクシュ技研は、環境面には当初から配慮してきた。昭和40年代にはめっき槽から立ち上るクロム溶液の湯気を吸いこみ、工場内の空気をきれいにする換気装置を導入した。

クロムめっき槽を示す古市社長。ミストが工場内にこもらないよう換気されている

クロムめっき槽を示す古市社長。ミストが工場内にこもらないよう換気されている

使えなくなったクロムの溶液をすべて回収し、専用の器具でクロムを取り除いて専門業者に回収してもらっている。この装置は昭和60年ごろに導入されたといい、以来、工場からの廃液は「出されていない」(古市社長)。もちろん、工場内はエアコンで温度調節されており、古市光社長は胸を張って、「かつては3Kと言われた作業現場だが、今は違う」と話した。

溶液からクロムを回収する器具

溶液からクロムを回収する器具

10年ほど前にはソロバンで計算する人も

古市社長が入社した2007年当時、事務所にあったパソコンは経理用と販売管理用の計2台。オーストラリアの会社で当たり前にパソコンを使っていた古市社長は「何やこの会社」と思ったという。
伝票処理は手書き、社員の残業時間は手入力で、高齢の事務員は5つ玉のソロバンを使って計算していた。パソコンに経理システムなどは導入されていたが、経理担当者は1人。入力からチェックまで1人で担当していたため、領収書からパソコンに直接入力すると「チェック作業がおろそかになる」として、伝票に手書きして10件ごとに金額を集計し、パソコンに入力した数字と照合していた。
給与システムはタイムカードと連携されていなかったため、勤務時間は手入力。販売管理データも担当者のパソコンにしかなく、営業担当者は自分の売上状況などを確認するのに販売管理担当者を頼るしかなかった。
そんなときにシステム支援会社の社員が飛び込みで営業に来て、システム関係をこの会社に一任することを決定。複合機やパソコン、システムなどを発注し始めた。

社員の声をきっかけに一気にICT化

改善のきっかけは、コロナ禍におけるBCPへの不安に対して経理・総務担当者が上げた声だった。
「もし私が出社できなくなると、業務が止まってしまう」
社員は「いい提案については社長が積極的に採用してくれる」ことを知っていただけに、自ら導入のメリットやコストについて調査し、経理や給与、販売管理などのクラウドシステムの必要性を訴え、昨夏から導入された。

社是を掲げるトクシュ技研のオフィス。紙の書類が以前と比べ少なくなっている

社是を掲げるトクシュ技研のオフィス。紙の書類が以前と比べ少なくなっている

販売管理のデータはクラウド化され、営業担当者が自らのパソコンから自由にデータにアクセスできるようになった。
タイムカードのデータはBluetooth(ブルートゥース)を通してパソコンに取り込まれるようになった。取り込まれたデータは給与システムに連動しており、勤務時間などの手入力は不要に。また、昨夏まで続いた「給与明細書を印刷して封筒に入れて手渡す」作業もなくなった。
経理担当者は「給与明細の手渡しだけでも大変な作業だったし、入力した数字のチェックもすごく神経を使う作業だった。これらがなくなり、事務手続きが圧倒的に楽になったし、正確性もアップした。しんどさが全然違います」と話す。今まで手作業にかけていた時間で、より強固な情報セキュリティー対策導入の準備を進めているという。

ICT化推進、飛躍の基盤は整った

トクシュ技研では、日報や出張報告、スケジュールを共有できるクラウド型簡易業務作成システムも導入。今は必要性の有無から使う社員は少ないが、社員数が増えても対応できるICTが整えられた。

クロムめっき加工の事業を現在地で拡大させるのは困難だが、古市社長は2007年までの12年間をオーストラリアで働いた国際経験があり、2014年には充填機の販売のため、中国・上海に会社を設立。今もインドなどの海外に目が向いている。

社員の平均年齢は40代半ばと比較的若く、人材採用にも前向きなため、新商品の開発や新たなマーケットの開拓ができれば、飛躍の可能性は高い。何よりも、誠実さを第一とする創業者の精神はずっと受け継がれている。国内であっても海外であってもその基本は変わらない。そこに後継者の古市光社長のICTへの知見とグローバルな視野がオンされた。伝統企業の良さを生かしながら、これからどんな展開をするのか楽しみだ。

事業概要

会社名

トクシュ技研株式会社

本社

兵庫県尼崎市元浜町5-86

電話

06-6417-4001

HP

https://www.giken.tk

創業

1927年4月17日

従業員数

19名(2023年2月現在)

事業内容

工業用クロムめっき加工や機械加工、研磨加工、金属熔融充填機やクロムめっき用高性能陽極、濾過機などの製造販売

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