製造業(食料品)

コロナ禍で売上激減もBtoBからBtoC強化で復活、素早い復活は社員の力とネット&デジタル 山田製玉部(兵庫県)

From: 中小企業応援サイト

2023年04月13日 06:00

この記事に書いてあること

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1952年に山田正男氏が創業した株式会社山田製玉部は、創業時から寿司店などへのBtoB玉子焼きメーカーとして阪神・淡路大震災も乗り越えてきた。だが、コロナ禍の売上減少は震災とはまた違った大変さがあったが、山田勝宏代表取締役社長は「何ができるか」「やろうと思ったことは何でもやる」と決意。全社一丸でBtoCに乗り出したところ、新商品だけでなく、コラボ商品も次々に誕生し始めた。コロナ禍直前に取り入れていた販売管理システムによる効率化もあり、会社は活気に満ちている。(TOP画像:厚焼き玉子サンドイッチを前に話す山田勝宏代表取締役社長と大谷徳則品質管理課長)

70年前から続く寿司屋の厚焼き玉子

株式会社山田製玉部は、京都の玉子焼きメーカーで働いて玉子焼きの知見を得た山田正男氏が神戸市中央区の湊川神社隣接地で1952年に創業。戦後の混乱期を乗り越えつつあった日本では徐々に外食文化が持ち直し、寿司店を中心に山田製玉部の厚焼きやだし巻きなどが人気となった。1956年には横浜に支店を開設し、この支店は兄弟会社の「玉栄」として関東で玉子焼きの製造販売をしている。

創業当時の様子

創業当時の様子

事業が大きくなる一方で、微妙な焼き加減や火加減など、職人の手で丁寧に焼き上げる姿勢は変わらず、有名ホテルからも高く評価された。添加物を極力使わず、温度管理やパッキング方法などで保存期間を長くする姿勢も評価された。

阪神淡路大震災で本社全壊

だが、1995年1月に起きた阪神・淡路大震災が本社工場を直撃、ほぼ全壊となった。当然、製造もできなくなったが、当時は兵庫県内の尼崎市と明石市にも製造工場があり、そちらは製造できる状態だった。寿司店など神戸の卸先は壊滅状態だったが、大阪や尼崎、明石の取引先の店やホテルは大きな被害を免れて営業を続けていた。「この取引先の人たちに助けてもらった」(山田社長)。急場をしのぐことができ、尼崎と明石の工場で作り切れない場合は、横浜の「玉栄」から仕入れて対応。そうこうするうちに復興が進み、「県外から来る人が増えて元に戻っていった」(山田社長)という。

工場を集約して、本社再建

1997年5月、念願の本社再建となった。場所は湊川神社横の以前と同じ場所。建物は7階建てにし、地上 2階から地下1階を山田製玉部本社にして、それ以外のフロアはテナント貸しにした。

湊川神社横に再建された本社ビル

湊川神社横に再建された本社ビル

製造の自動化も進めたが、すべてを機械任せにはせず、自動化工程でも職人が手を入れる。特にスケソウダラのすり身と卵を混ぜ合わせる、魚肉練り製品の製造工程の一部は今も石臼を使う。

今も石臼を使い、きめ細やかに混ぜ合わせている

今も石臼を使い、きめ細やかに混ぜ合わせている

自動化させながらも、大切な工程は昔ながらの形を生かし、職人の手による丁寧な玉子焼きづくりを心掛ける。その姿勢から、山田製玉部の商品は多くの料理人に評価され続けた。

自動化された製造工程中も、職人の手を入れてよりきれいに焼き上げていく

自動化された製造工程中も、職人の手を入れてよりきれいに焼き上げていく

コロナ禍で売上半減、先が見えず「何ができるか」

震災から25年。今度はコロナ禍が襲った。震災の時は神戸以外の取引先が助けてくれたが、コロナ禍では神戸や大阪など主要な取引先が軒並み営業できなくなった。「2020年4月の売上は半減。緊急事態宣言よりも長く続いたまん延防止措置の方がきつくなった。それでも先が見えない中でも何ができるかと考えた」。その時、山田社長は震災の時を思い出していた。震災当時、高校生だった山田社長は工場でバイトをしたことがあっただけに、当時の生々しい記憶が残っている。
「あの時、先代はなぜあきらめなかったのか」。その時の先代の言葉が、山田社長を目覚めさせた。

先代会長の金言で目覚める。自分一人で考えず社員一丸で「何でもやってみる」

「やめて何すんねん」
先代の山田正勝代表取締役会長の言葉だった。「玉子焼きを作って多くのお客様に喜んでもらうこと。社員を雇用し続け社員の生活を守って、自分たちの生活も守る。そのために続けた」
この言葉を聴き、山田社長は気づいた。「やっぱりそうなんや」「自分一人で乗り越えることじゃない」。第一波による緊急事態宣言が出される直前の2020年3月頃の話だ。「会社の経営状況も含めて社員には全て打ち明けよう」と決め、パート従業員も含めた全社員のグループLINEを作り、売上などの数字を含めて知らせていった。

その一方で、全員にやりたいことを書き出してもらった。「仕事が半減して時間もある、売上もたっていない。それなら何でもやってみよ。やっているうちに何か見えてくるだろう」。そんな気持ちだったが、「何でもやってみる」気構えでいろいろなことに取り組んでいると、ちゃんと「見えてきた」。

レトロな雰囲気のある山田製玉部の車両

レトロな雰囲気のある山田製玉部の車両

2021年、神戸市ふるさと納税から始まった消費者直接販売(BtoC)

「飲食店への販売ができないのなら、今こそ、小売りにチャレンジしよう!」
初めてのBtoCの取り組みは神戸市のふるさと納税だった。「老舗のこだわり、ほんまもんの味」と銘打った「神戸 四季彩セット」は、鰹と昆布、そして具材のうま味を閉じ込めた「だし巻き玉子」、上白糖の程よい甘さがサンドイッチなどにもピッタリの「本玉」、卵と白身魚を混ぜ合わせてふっくらと焼いたこだわり逸品「の巻」など6点。寄付金14,000円以上で贈られるとあって人気となった。

ふるさと納税で人気の「神戸 四季彩セット」

ふるさと納税で人気の「神戸 四季彩セット」

コロナ禍前導入の販売管理システムが効果発揮

その頃に効果を発揮したのが、システム支援会社に相談し、コロナ禍直前に導入していた販売管理システム。導入前は、営業担当が出先で紙ベースの納品書を書いて販売先に渡した後、本社に戻って営業管理ノートに転記していた。販売管理担当の事務員数名はそのノートを見て商品名や点数、金額などを入力。終業前にすべてのデータをプリントアウトしてノートとチェックする作業をしていた。

システム導入後は、営業担当がタブレットを携帯し、営業先でデータを入力。納品書はタブレットと連携した携帯機からプリントできる。帰社後はタブレット内の販売データをWi-Fiでパソコンに送れば営業担当の事務作業は終わる。事務員の仕事は販売処理としての業務は簡素化され、電話などで聞いた注文を書き込んだ納品予定ファイルと伝票を照合するだけになった。

このフローができるよう、システム支援会社とは1年間の打ち合わせ期間をもった。システム支援会社の人が営業担当に同行してその動きを確認してもらって最適のシステムを導入したといい、山田社長は「仕事の合理化もスピードアップもでき、ミスも減らせた」と高く評価している。

同時期に包装時に窒素を充填(じゅうてん)する機械を導入した。導入後は賞味期限が伸び、より焼きたてに近い味や触感のよさが保たれるようになり、BtoC向けの販売にも効果を発揮している。

窒素充填によって賞味期限が伸びる包装機械(副工場長 石原さん)

窒素充填によって賞味期限が伸びる包装機械(副工場長 石原さん)

2021年にインスタグラム開始、目標を立て1年間でフォロワー3,000人達成!

BtoCの事業に力を入れ始めた2020年9月、インスタグラムを始めた。担当したのは、大谷徳則(よしのり)品質管理課長と藤本朋子販売促進リーダー。開始当初のフォロワー数は3ヶ月で100人にとどまった。翌年、大谷さんは「年内フォロワー3,000人」の目標を立てた。フォローと「いいね」を求めるプレゼントキャンペーンが功を奏し年内で3,000人を突破、現在は4,000人を超えている。

プレゼントキャンペーンの実施を伝えるインスタグラムの投稿(現在は実施されていません)

プレゼントキャンペーンの実施を伝えるインスタグラムの投稿(現在は実施されていません)

消費者への認知度向上で様々な企業とのコラボに発展

インスタグラムによる消費者への認知度が高まる中で、業者からの注目度も高まり、コラボ商品が次々に生まれるようになった。そのうちの一つが神戸の老舗パン屋、イスズベーカリーとのコラボ商品「厚焼き玉子サンド」。厚焼き玉子にパン粉をつけて揚げた「厚焼きカツタマゴサンド」も生まれたほか、山田製玉部という社名のレトロ感が注目されて、アパレルブランドやアウトドア用品店など、異業種のコラボレーション商品まで生まれている。

アパレルブランドとのコラボ企画を伝えるインスタグラムの投稿

アパレルブランドとのコラボ企画を伝えるインスタグラムの投稿

レトロ感ある社名が注目される一方で、女性社員から意見があったのが、商品の打ち出し方。男性目線の堅苦しさをやめ、かわいらしさを全面に打ち出した。朝食バイキングで山田製玉部の社名を出さなかったホテルも、今ではおしゃれなポップを出している。

ホテルの朝食バイキングに使われているポップ

ホテルの朝食バイキングに使われているポップ

黒豆の入った伊達巻スイーツを社員が提案、インスタグラムで評判、ネットの主力商品に成長

商品そのものでも社員の声が生かされている。藤本さんの提案で始まった黒豆を入れた伊達巻スイーツ「丹波黒入り伊達巻」はインスタグラムでの評価も高く、ネットショップでも主力商品の一つになっている。

「丹波黒入り伊達巻」(手前)を発案した藤本さん(右)。本業は販売管理だが、インスタグラムや商品開発でも活躍している

「丹波黒入り伊達巻」(手前)を発案した藤本さん(右)。本業は販売管理だが、インスタグラムや商品開発でも活躍している

2022年3月経営理念を「玉子焼きを通じて世界中を笑顔に」

BtoCに乗り出す一方で、山田社長が2022年3月に打ち出した企業理念が「玉子焼きを通じて世界中を笑顔に」。これまでは会社の理念を文字にしたものがなかったことから、社員から募って決めた。「先代は『笑顔ほど強いものはない。しんどい時ほど笑顔を大切に』と言っていた。これほどいいものはなかった」。

高病原性鳥インフルエンザが猛威をふるい、卵の価格が高騰している中(2023年3月現在)、山田製玉部でもコスト高に苦しめられているが、山田社長には笑顔が絶えなかった。山田製玉部はこれからも、コロナ禍や鳥インフルなどの困難を乗り越え、世界中の笑顔を増やしていく。

事業概要

会社名

株式会社山田製玉部

本社

兵庫県神戸市中央区多聞通4丁目4番13号

電話

078-341-8476

HP

https://yamadaseigyokubu.com/

通販サイト

https://yamadaseigyokubu.net/

創業

1952年3月28日

従業員数

35人

事業内容

厚焼き・玉子焼きの製造販売

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