逆風下でも貫くチャレンジ路線 自動化と新規事業開拓で次のステップに エバラ製作所(群馬県)
2023年04月14日 06:00
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群馬県伊勢崎市で発泡ウレタンやシールなどさまざまな素材の抜き打ち裁断加工を専門に手掛ける有限会社エバラ製作所は、業界の常識を覆す産業用ロボットによる裁断加工の無人化に踏み切ったほか、組み立て加工など新規事業の開拓にも力を入れる。業務面でも分散する製造拠点の情報共有を進め、常にチャレンジを続ける。(TOP写真:本社、第一工場に設置された抜き打ち裁断加工用の産業用ロボット)
7割が自動車部品向け ドアミラー用接着テープでSUBARU (スバル)車の全量をカバー
有限会社エバラ製作所は1989年7月に設立した。従業員数はパートを含め25人で、売上高はここ数年、年間約2億5000万~3億円で推移している。同社の抜き打ち裁断はカミソリの型に素材を載せて押しつぶすトムソン型(ビク型)と呼ばれる方法で、同じ形の製品を早く、量産するのに適している。製品の7割ほどは自動車部品向けで、取引商社、部品メーカーを通じてほとんどを群馬県がお膝元の自動車メーカー、SUBARUに採用されている。隙間を埋めるパッキン材や防音や振動を抑える緩衝材に使われ、特にドアミラー用でミラー部分とその裏側の基板を接着する厚めの両面テープは、SUBARUが国内外で生産する全車種に採用されてきた。製品は自動車部品向け以外にも家電や発電機や事務機器の部品向けなどにも納入している。
抜き打ち裁断加工で事業領域を拡大 3工場体制に
事業は榎原隆浩代表取締役社長の父親が立ち上げた。榎原社長は大学で樹脂の研究に取り組み、栃木県にある大手設計会社に就職した後、父親が他界したのを機に母親が引き継いだエバラ製作所に入り、12年前に社長に就いた。榎原社長はそれまでウレタンのみだった加工を、両面テープやシールなど他の素材領域まで広げた。当初は本社の第一工場だけだったものの、同じ伊勢崎市内に2009年に第二工場、さらに2021年10月には第三工場を立ち上げた。
業界の常識を覆すロボットを導入し、加工作業の無人化に成功
3工場の性格付けはそれぞれ異なる。従来は第一工場が製造を担当し、第二工場は一部加工を含め主に顧客製品の預かり倉庫として機能してきた。ただ、第一工場は3年ほど前にロボットを導入するなど設備増強し手狭になったことで、第三工場の新設に踏み切った。製造面を担う第一工場と第三工場の役割分担を、榎原社長は「第一工場はロボットの導入をはじめ先端的な取り組みにチャレンジすることに重きを置き、第三工場ではこれまで第一工場で続けてきた昔ながらの人手による作業が主体」という。
抜き打ち裁断加工へのロボット導入には、「同業者から『ロボットが無人で加工するなんてできるわけがない。パートを雇って加工した方が間違いない』と笑われた」と榎原氏は振り返る。しかし、裁断加工の作業は単純でロボットでも可能と判断し、国の「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」を活用して導入に踏み切った。
現在、第一工場には2台のロボットを配置している。2台目の導入は1台目の導入から2年後で、今度は国がコロナ禍における経済復興策として中小企業に向けて設けた「事業再構築補助金」に申請したものの認められなかった。ただ、1台目で導入効果がはっきり表れていたため、2台目は自前で導入した。そこには、利便性や⽣産性が高まり、品質の安定と低コスト化が実現できるとの確信があったからで、導入当時に無人化を疑問視してきた同業者の評価も「よくやったね」に変わった。
矢継ぎ早に襲った苦境にも「常にチャレンジを続ける」 心は折れず 組み立て加工に活路を
一方、榎原社長は新規事業の開拓を課題に挙げる。「自動車一本だけに大きく依存するリスクもあり、現在は自動車以外の領域をどんどん育てようとしている」。実際、コロナ禍、世界的な半導体不足の影響でSUBARUが操業を停止した際は大きなダメージを受けた。さらに、これに追い討ちをかけたのが、SUBARUに納入してきた部品メーカーがドアミラー事業から撤退したことだった。エバラ製作所には稼ぎ頭だったSUBARU向けのドアミラー用両面テープの供給がストップする一大事であり、危機感が募った。
ただ、榎原社長のチャレンジ精神は折れない。抜き打ち裁断でも同業が手を出していない薄手のプラスチック加工を手掛けた。また、抜き打ち裁断とは別に、NC切削機を導入して樹脂など硬い素材の加工に加えて治具も自前で作れるようにした。
さらに現在、最も力を入れているのがアッセンブリー(組み立て加工)の分野だ。榎原社長は「今年はアッセンブリーを積極的に増やそうと、一部自動化を目指し、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金にチャレンジする」と意欲を見せる。具体的には、金属のベアリングを組み立てているほか、マンションのビルトイン食洗器の取り付けに使われるネジや金具をキットにした製品化にも取り組んでいる。
次の成長の糧としてより付加価値を生み出せるアッセンブリー分野に事業を広げることは不可欠との判断がある。このため、「異業種とのマッチングビジネスによって新しい仕事を増やす」ことも視野に入れる。
榎原社長はこの点について「当社の規模感は大きくないし、まだ自分の判断で新しいことにどんどんチャレンジできる。それは当社のメリットである。もちろんリスクはあるが他社と違って有利に働いていると思う」と語る。その考えは、コロナ禍で受注がほぼ止まった際に初の自社商品であるフェイスシールドの開発に取り組み、2020年4月に製造・販売したことにも表れている。
品質向上のため、製品検査に画像認識カメラ導入に取り組む
実際、製品検査についても近々、機械化に取り組む。今は目視で製品に傷がないかなどを確認している。ただ、人が神経を使って検査しても気づかない場合もあり、画像認識カメラを使って製品の状態を自動的にチェックするシステムを導入することを検討している。未然にミスを発見できれば、取引先から製品を回収し再検査するようなケースはなくなる。AI(人工知能)を搭載したさらに高度な画像認識カメラを活用した検査システムの導入についても併せて検討しており、製品検査の電子化を直近の課題に据える。
電子化、自動化、無人化の取り組みは品質の向上と付加価値の向上を実現
榎原社長は「傷などのミスを絶対見過ごさない検査体制が確立できれば、初期投資はかかったとしても、長い目でみればお客様からの信頼も得られ、当社の強みにもなる」と今後を見据える。
同社は産業用ロボットを手始めにここ数年の間に加工や検査などの無人化、自動化に矢継ぎ早に取り組んできた。この点を榎原社長は「機械、AI、ロボットでできるところはどんどん任せ、その結果、少ない人数でも付加価値を生み出し、それを社員みんなに還元できるような形にしたい」と語る。
NASサーバー導入による必要書類のデジタル化と共有化で成果
こうした考え方は業務面でのICT活用にも共通している。同社はSUBARU以外にホンダ、日産自動車からの取引もあり自動車関係の加工作業が多い。その仕事柄、関係書類を7~10年間は保管しておかなければならず、膨大な数の書類をいかに効率よく保管・整理していくかが業務上の大きな課題となっていた。特に3工場体制になってからは分散した各工場間で情報を共有しなければならない必要性にも迫られ、電子化に踏み切ることにした。そこで1年半ほど前に、ネットワーク上でパソコンなど複数の端末をハードディスクに接続できるNASを活用したシステムを導入した。
第一工場にあるサーバー内のデータを第二工場、第三工場がそれぞれネット経由で共有でき、これによって「第一工場と第三工場で意思疎通しなければならない情報を逐一交信できるようになったほか、ISO(国際標準化機構)規格の書類や数値入力を各工場の責任者と一緒にできるようになった」と榎原社長は語る。特に図面も共有でき各工場の責任者は「大変便利になった」と歓迎している。ただ、導入したNASのシステムの「ポテンシャルを考えるとまだ生かし切れていない」と榎原社長は見ており、さらなる活用方法を考えているようだ。
一方、改正電子帳簿保存法(電帳法)やインボイス(適格請求書等保存方式)制度の導入に合わせて電子帳簿保存システムも導入した。導入してまだ1ヶ月しかたっておらず、自ら経理に当たる榎原社長は「まだ手探りの状態で、これから慣れていかなければならない」という。ただ、これに限らず、業務面で「電子化できるものはどんどん電子化していく流れに持っていかなければ」と業務効率化に意欲的だ。
「新しい価値の創造に向けて常にチャレンジを続ける」
産業ロボットの導入に始まってここ数年で加速している自動化、電子化への取り組みは「新しい価値の創造に向けて常にチャレンジを続ける」という榎原社長の方向性に沿っており、成果を出すには「ここ5年が勝負」という。その結果として「信頼される会社づくりができ、企業価値が上がっていく」と将来を見据える。
事業概要
企業名
有限会社エバラ製作所
住所
群馬県伊勢崎市馬見塚町1550-2
電話
0270-32-1783
設立
1989年7月
従業員数
25人
事業内容
ウレタン、PETフィルム等の加⼯
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