手作業で給与計算や請求業務をしていたが、新事務長加入で大幅改善 給与計算の時間は4分の1に 榛陽(群馬県)
2023年04月24日 06:00
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介護福祉業界はICT導入が後回しになりがちだ。業務に忙殺されることに加え、介護スタッフが高齢でデジタルになじみが薄いこともある。だが、そんな施設で介護報酬請求ソフトや給与計算ソフトを導入して効率化に取り組んでいる会社がある。(TOP画像:ICTの導入メリットを説明する堀内清史事務長)
ベテラン職員1人で利用者2人を看る、手厚い介護が特徴
群馬県前橋市の郊外。石灯籠(とうろう)や庭木が配された広い敷地内に2棟の和風建築が隣り合っている。地域密着型通所介護施設「ひいらぎ」と、認知症対応型通所介護施設「ひいらぎの里」で、どちらも株式会社榛陽(しんよう)が運営するデイサービス提供施設だ。
同社の代表は地元で長く介護業務に携わってきた眞下(ましも)京子氏。ライフワークの集大成として2008年5月に創業。既存の建物を居抜きで買い取り、2013年には隣接する建物も増築した。
利用者は1日平均15人ほどで平均年齢は85歳。100歳を超えた女性も通っている。「ひいらぎ」では午前中に利用者一人ひとりの状態に合わせ看護師が考えた個別機能訓練を、昼食をはさんで午後は利用者が複数でレクリエーションや体操などを行っている。一方、認知症対応の「ひいらぎの里」ではパズルや塗り絵など症状に応じたケアを提供している。
対する職員の1日の出勤数は8人ほど。ほとんどが介護福祉士の資格を持っている。職員1人で利用者2人を看ている計算で、手厚い介護ができる。スタッフが多いため、利用者の都合に合わせて個別に迎えに行くこともできるし、午前中だけで早めに帰宅したい利用者にも対応している。
一方、施設運営に必要な事務作業は近年までICTと無縁だった。介護報酬請求業務も職員の給与計算も手作業だったし、利用者の介護記録や職員の出勤・退勤記録なども紙ベース。職員はみな「それがあたりまえ」と思っていた。
新事務長はパソコン作業に抵抗のない45歳(当時)
そんな同社に5年前、事務長として入職したのが堀内清史氏(50歳)だ。大学を卒業後、東京でクラシック音楽のライセンスやパッケージ管理、配信等を行う会社の営業として全国を飛び回っていたが、ケアマネージャーとして榛陽に関わっていた実母からリタイアした前事務長の後任として声がかかった。家族とともに故郷へUターンし、同社の事務仕事すべてを担っている。
介護サービス提供施設にとって、国民健康保険団体連合会(国保連)へ介護報酬を請求する業務は施設運営の根幹だ。毎月10日までの間に、国保連へ請求する。
この作業を前事務長も1人で担当し、エクセルで計算式を作成して請求業務にあたっていた。だが、利用者一人ひとりの金額を計算して申請するにはどうしても時間がかかる。記載ミスがないよう申請内容のつきあわせをするが、時には人為的ミスが発生することもある。間違うと修正業務が必要になるため、さらに時間がかかってしまう。
そこで業務効率化のため2016年5月に、項目ごとに数値を入力していくと請求データが完成する介護報酬請求ソフトを導入した。「私が入職したときは操作を覚えるだけでした」と堀内事務長。前職でネット通販にも携わっていたのでパソコン作業に支障はなかったという。介護保険を所管する厚生労働省は福祉サービス施設のICT利用に前向きで、今後はICT活用を前提とした加算項目が増えていくことが予想される。堀内事務長は「受け取る側も紙よりデータでもらった方が楽でしょうし、後戻りは絶対にない」とみている。
ソフト導入で事務作業も楽々進む
給与計算ソフトの導入で作業時間が4分の1に
2020年のはじめには給与計算ソフトを導入した。導入前はエクセルで計算式を作っていたが、職員によって働いた時間が違うし、給与ベースも違う。税金など面倒な計算もあった。ソフト導入によって2日かかっていた作業が半日でできるようになり、作業時間が4分の1になった。「頻繁に変わる雇用保険や社会保険の利率もクラウドでどんどん対応できる。ソフトの力は大きい。ヒューマンエラーを防げるし、効率を考えれば安い」と堀内事務長。
ワイヤレスでインターネットに接続できるWi-Fiを施設内に設置することは喫緊の課題だ。堀内事務長は「Wi-Fiを活用して職員にタブレットで介護情報を入力してもらい、私が情報を集約する。そうすれば職員がもっと効率的に働けるようになる」と話す。「スマホでも慣れるまでは時間がかかるが、慣れてしまえば、今までが何だったの?というくらい使いこなしている。習うより慣れろ!で、その時間が必要なんだと思う」と堀内事務長。
勤怠管理ソフトの導入も必要になる。今は職員が紙で申請した出勤・退勤時間を出勤簿として入力し直しているが、堀内事務長は「国の働き方改革もあるし、これから絶対に導入しなくてはならない」とみる。福祉サービス施設は利用者がいないと運営できない。新型コロナウィルスの影響もあり落ち込んだ同社の稼働率を上げるために施設の情報発信も強化していきたい。「職員にブログなどを順番に書いてもらって現場の生の声を届けるのもいい」と思っている。
ICT化の流れは止められない、早めの導入で職場を働きやすく
利用者と会話が弾む堀内事務長
堀内事務長は、午前中現場に出て、午後は事務作業にいそしむ。月の上旬は介護保険サービスの請求作業と10日支給の職員の給与計算に追われ、中旬は一息つけるが、下旬になるとまとめの計算が入ってくる。前職とは畑違いの職場だが「働きがいがあります。利用者さんは人生の先輩なので学ぶことは多い。100歳を超えている方にとって、私は孫の世代ですからね。五右衛門風呂の入り方、食べられる虫の種類とか、興味を持って接すれば何でも教えてくださいます」と、利用者との触れ合いを楽しんでいる。
その上で「昔はパソコンなんてどこも使ってなかったが、今はパソコンを使っていない施設はありません。介護福祉業界でもICT化の流れは止められない。国や県の補助金や助成金もあるわけですから、早めに導入して使えるものはどんどん使って、いかに業務を効率化して職員の働きやすい職場をつくるかでしょう」と説く。介護保険関連法はおよそ3年ごとに見直されるため、眞下代表と話し合いながら3年スパンで計画的に同社事務作業の電子化に取り組んでいく考えだ。ICT導入に積極的な50歳の新事務長は、これから同社を大きく変えていきそうだ。
事業概要
会社名
株式会社榛陽
住所
群馬県前橋市五代町120-1
電話
027-264-1300
設立
2008年5月
従業員数
16人
事業内容
地域密着型通所介護施設、認知症対応型通所介護施設の運営
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