20年以上前から介護システム活用 LIFEの豊富なエビデンスでより質の高い介護サービスへ 祐正福祉会ヌーベルさんがわ(香川県)

From: 中小企業応援サイト

2023年05月02日 06:00

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四半世紀近くにわたってデジタル技術を積極的に活用している香川県さぬき市の介護老人保健施設「ヌーベルさんがわ」が、働く職員や利用者への還元を目的に、厚生労働省の科学的介護情報システム(LIFE:Long-term care Information system For Evidence)に積極的に対応するなど介護のDXを推進している。(TOP写真:利用者がレクリエーションを楽しむヌーベルさんがわの様子)

多様な職種の職員がワンチームで高齢者をサポート

1993年に設立された社会福祉法人祐正福祉会は、香川県東部で高齢者や障害者のための社会福祉事業を幅広く展開している。現在、6つの施設を運営し、2000年に介護老人保健施設「ヌーベルさんがわ」を開設した。祐正福祉会の理事を務めるヌーベルさんがわの尾崎民子施設長は、福祉に半世紀以上携わってきた経験を生かして開設当初からヌーベルさんがわの運営を担い、施設を拠点とした世代間の交流促進など地域貢献にも積極的に関わっている。

ヌーベルさんがわでは、医師、看護師、理学療法士、作業療法士、介護福祉士、ケアマネージャー、管理栄養士、調理師、歯科衛生士、事務職など様々な職種の約80人の職員が、専門性を生かしながら入所と通所を合わせて約120人の高齢者をサポートしている。

自然と生まれる家族的な雰囲気を大事にしている

「職種の違いを越えて協力し合うことで、介護サービスはより利用者に寄り添ったものになります。互いに助け合う関係を築くことができればストレスもたまりません。職員たちが楽しく満足して仕事に取り組むことで自然と生まれてくる家庭的な雰囲気を大事にしています」と尾崎施設長は話す。介護職員全員が介護福祉士の資格を取得しており、資格を取得できるように研修や奨励金の支給など様々なバックアップ体制を整えている。

ヌーベルさんがわの尾崎民子施設長

ヌーベルさんがわの尾崎民子施設長

尾崎施設長は、職員の誕生日には一人ひとり手書きのバースデーカードとともにプレゼントを渡していたという。働きやすい環境は人材の定着につながり、この3年間、退職者は一人もいない。「利用者の皆さんにしっかりとしたサービスを提供して満足してもらう上で、何より大事なのは職員の高いモチベーションです。職員が仕事をしやすい環境を整えるためにICTやデジタル機器を積極的に活用しています」と尾崎施設長は穏やかな口調で話した。

2000年から介護支援システムを活用

ヌーベルさんがわは、2000年に施設内にLAN(ローカルエリアネットワーク)を敷設し、職員の介護の記録業務を軽減するために介護支援システムを導入した。以降、四半世紀近くにわたってICTを活用し、システムに記録した施設の利用者の情報を共有化することで仕事が特定の個人に集中することを防いできた。システムは定期的にバージョンアップを行い、常に業務を効率化することを心掛けている。2000年からのICTの取り組みを知った他の施設の人から驚かれることも多いという。

介護支援システムと連動したタブレット端末を使用する様子

介護支援システムと連動したタブレット端末を使用する様子

2020年には無線環境を整え、職員が施設内のどこからでも介護支援システムにアクセスできるようにした。無線環境のおかげでコロナ禍の間、タブレット端末を使ってWeb会議システムを活用した施設の入居者と家族のオンライン面会も柔軟に行うことができた。

タブレット端末は介護支援システムと連動している。利用者の体温、脈拍、食事の内容、サービスを受けた時の様子などタブレット端末に入力したデータはそのままシステムに取り込めるのでわざわざ転記する必要がなくなり、記録にかける時間を大幅に減らすことができたという。

「記録や事務に要する時間を削減することで、職員はより多くの時間を利用者のみなさんとのふれあいに振り向けることが可能になります。多くの方に温もりを届ける上でICTやデジタル機器は大きな役割を果たしてくれています」と蓮井仁美事務長は話した。

厚生労働省の科学的介護情報システム「LIFE」に積極的に対応

ヌーベルさんがわは、厚生労働省が、科学的裏付け(エビデンス)に基づいた介護を実践するために開発した科学的介護情報システム、LIFEに積極的に対応している。

LIFEに参加する介護施設や事業所は、行っているケアの計画・内容や介護サービスの利用者の状態を一定の様式で入力し、インターネットを通じて厚生労働省に送信する。入力内容は分析された上でフィードバックされることになっている。

ヌーベルさんがわの事務所の様子

ヌーベルさんがわの事務所の様子

介護を数値化することで根拠を持ってサービスが提供できる

LIFEに収集、蓄積されたデータは、サービスの効果や課題の把握、見直しのための分析に活用できる。介護現場は、豊富なエビデンスによって根拠を持ってサービスの評価を行うことが可能になり、議論を深め、より質の高い介護サービスの提供につなげることができる。介護サービスの利用者も、ケアの効果や自分に適切なケアについて詳しく知ることができる。

「LIFEは介護のDXを推進する上で鍵となるシステムです。介護の取り組みを数値化することで、勘や思い込みだけではなく根拠をもって一つひとつのサービスを提供できるようになるのは大きなメリットと思います。データを活用することで介護の質をさらに向上できるので、利用者のためになると思って取り組んでいます。取り組んでもらっている分はしっかりと給与などの面で職員に還元していきたいと考えています」と尾崎施設長はLIFEを推進する意義を説明した。

LIFEに対応するため介護支援システムをバージョンアップ

LIFEに対応するためヌーベルさんがわは、2022年8月に専門委員会を設置。職員全員に説明を行い、納得してもらった上でLIFEに参加するようにした。2022年12月にはLIFEへの情報提供に対応した機能を追加するため、介護支援システムをバージョンアップした。

LIFEに対応するためにバージョンアップした介護支援システム

LIFEに対応するためにバージョンアップした介護支援システム

バージョンアップによってあらかじめ登録されているフォーマットに従って、日々の記録を活用しながら利用者のADL(日常生活動作)値や栄養状態、口腔機能、嚥下(えんげ)の状態、認知症の状態などのデータを簡単に入力し、LIFEに出力できるようになった。LIFEの活用が要件となっている介護報酬加算の申請も手間をかけずに行うことができるという。

「データの共有はもちろん、介護の記録から情報管理、LIFEのデータ作成、介護報酬の請求が一気通貫でできるので非常に助かっています」と尾崎施設長。2022年12月にネットワークセキュリティも強化し、24時間365日サイバー攻撃をリアルタイムに監視できるシステムに更新した。

福祉QC活動(小集団改善活動)で職員のチーム力を高める

ヌーベルさんがわは人材育成とケアの質の向上に役立てるため、2003年から福祉QC活動(小集団改善活動)に力を入れている。毎年、異なる職種の人たちで構成する複数のチームを作り、ミーティングを重ねて施設の課題の解決や改善に取り組んでもらっている。各チームは定期的に取り組みの過程や成果をグラフや写真、映像を使って施設内で発表。評価の高いチームは地域、全国の福祉QCサークルのプレゼンテーション大会に出場し、毎回、最優秀賞をはじめとする高い評価を受けている。2007年には一般財団法人日本科学技術連盟が、全国の優秀なQCサークル活動を評価する「サークルギネス」の認定を受けた。

多職種で構成してのサークル活動を行ったことを評価する「サークルギネス」の認定書

多職種で構成してのサークル活動を行ったことを評価する「サークルギネス」の認定書

最近の事例では、コロナ禍で生活が一変し、施設の利用者の笑顔が少なくなっていたことから、楽しく日々を過ごしてもらうための取り組みを13人の職員で構成するチームが考案した。コロナ禍前から取り組んでいる利用者の笑顔を数値評価したデータを活用し、日々の会話などを通じて利用者の幸福度を数値化した上で、笑顔の回数が増えるように解決策を考えた。

QCサークルのミーティングに取り組む職員たち

QCサークルのミーティングに取り組む職員たち

現状を分析した上で利用者から聞き取りを行ったところ、野外活動に対する要望が高いことがわかった。そこで、香川県内の感染状況を見ながら、蔓延防止重点措置が解除されたタイミングで、施設から車で利用者に里帰りしてもらう「ふるさと訪問」を企画した。外出して家族と自宅でひとときを過ごせたことで、利用者の気持ちも前向きになり、多くの人に明るさと笑顔が戻ったという。この取り組みは、福祉QCの2021年全国発表大会で最優秀賞を受賞した。

福祉QCの2021年全国発表大会で最優秀賞を受賞した。

福祉QCの2021年全国発表大会で最優秀賞を受賞した。

今後も介護DXへの挑戦を続ける

「年齢も立場も違う職員たちがミーティングを重ねて、より質の高い介護の実現という共通の目標に向かって一丸となって取り組む。それにより人間関係が良好になってチームケアが向上し、仕事に対するやりがいや達成感につながり、結果として定着率がアップする好循環を生んでいます」と神前政季副施設長はQCサークルの効果を話す。QCサークルに取り組むことで培ってきた科学的な分析手法や課題解決力は、LIFEに対応する上でも大いに役立っているという。

ヌーベルさんがわの外観

ヌーベルさんがわの外観

ヌーベルさんがわがICTやデジタル機器を活用することで生み出した成果は、祐正福祉会が運営するほかの施設にもフィードバックされている。「施設で働いている職員、施設を利用する皆さんが、心から満足する施設であり続けるためにこれからもDXへの挑戦を続けていきたい」と話す尾崎施設長。ヌーベルさんがわの取り組みを通じて、温かい気持ちを広げる上でデジタル技術が大きな役割を果たしていることを実感した。

事業概要

施設名

社会福祉法人祐正福祉会 介護老人保健施設ヌーベルさんがわ

本社

香川県さぬき市寒川町石田東甲170番地

HP

https://yu-sho.or.jp

電話

0879-43-1102

設立

2000年1月

従業員数

83人

事業内容

入所(ショートステイ含む)、通所リハビリテーション、訪問看護ステーション、居宅介護支援センター

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