従業員と利用者を笑顔にしたい ICTが生み出す在宅介護・医療の新しい事業モデル 日建ヘルスメディカル(岐阜県)
2023年05月17日 06:00
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日建ヘルスメディカル株式会社は、地域密着の福祉事業会社として在宅サービスにフォーカスし、岐阜県内で訪問介護を中心に7事業11拠点を展開している。デジタル化が加速する将来を見据え、現場の従業員全員にスマートフォンを配布してクラウドによる介護記録のデジタル化を図るなど、事務負担の軽減とサービス向上を目的としたICT導入に積極的に取り組んでいる。(TOP写真:「にっけん小規模多機能ホーム今町」で介護用業務支援システムを活用する様子)
住み慣れた自宅での生活を続けられるようにICTを活用した訪問介護を中心に事業を展開
「行き届いた介護は家族をはじめ、地域、多くの専門家が協力しなければ実現できません。ICTを使うことでそうしたつながりの一翼を担うことが我が社の使命と思っています。従業員一人ひとりの仕事の付加価値を高め、成長し続けることができる環境づくりのためにICT投資を行ってきました。これからも従業員と利用者の双方が笑顔になれるようICTを活用していくつもりです」。岐阜県岐阜市の日建ヘルスメディカル株式会社の本社で取材に応じた林芳弘代表取締役社長は、ICTの導入に取り組む背景についてこのように話した。
林芳弘代表取締役社長
設立当初、訪問介護、居宅介護、福祉用具レンタルを手がけていた日建ヘルスメディカルは、利用者の生活に合わせてきめ細かなサービスを提供する必要があると考え、近年、小規模多機能型居宅介護施設の運営、訪問看護、障害者支援に乗り出すなど事業を拡大している。現在、1200人が日建ヘルスメディカルのサービスを利用している。
「高齢化が進む中で、介護、医療の在宅サービスはこれから先ますます求められるようになります。自宅は人にとって人生そのものといっていい場所です。高齢者をはじめとする地域の方々が住み慣れた自宅での生活を続けられるようにしっかりとしたサービスを幅広く提供していきたいと考えています」と林社長。
アナログ式の仕事の進め方が時間と労力を奪っていた
林社長は、2015年、日建ヘルスメディカルの親会社からの転籍以降、ICT導入を急ピッチで進めてきた。ICT導入以前の日建ヘルスメディカルの仕事の進め方はアナログ中心だった。オフィスは紙文書であふれかえり、本社と各拠点のサービス提供責任者、現場のヘルパーの間の連絡は電話とFAXで行っていたという。
「一人ひとりは大変素晴らしいマインドとサービスの技術を持っていながら連絡手段が電話やFAX中心だったので、情報の共有に多くの時間と労力が割かれていたんです。せっかく素晴らしいサービスを提供しているのに非常にもったいないと思いました。従業員の技術、知識、経験はしっかりしていたので、情報連携力を強化すればサービス価値の大きな向上につながると確信し、そのための手段としてICTを導入することにしたんです」と林社長は振り返った。
クラウド型の介護用業務支援システムで業務を効率化
スマートフォンなどの端末をICタグにかざすだけで簡単にシステムにアクセス
現場の介護力の強化に役立っているのが、2017年に導入したクラウド型の介護用業務支援システムだ。アプリを起動したスマートフォンなどの端末をICタグにかざすだけで簡単にシステムにアクセスできるので、デジタル機器の操作に慣れていない人でも非常に使いやすいという。サービスの開始・終了時刻の記録もICタグに端末をかざせば自動的に入力されるようになっている。サービス提供終了後の報告書も定型文や音声入力を使うことで時間をかけずに作成できる。スケジュールの確認や申し送り事項の確認、サービス内容や体温などのバイタルデータの記録も、できる限りワンタッチでできるように設計されている。
それだけではない。現場のヘルパーと本社がリアルタイムで情報共有できるので、記録や報告に要していた時間が削減され、その分、利用者へのサービスに時間とマインドを向けることが可能になったという。さらに業務支援システムは、勤怠管理システムや給与計算システムとも連動しているので、月末の給与計算など様々な業務に要する時間を削減することにもつながった。
端末から簡単にアクセスできるクラウド型の介護用業務支援システム
情報共有や伝達の確実性が向上したことでクレームも減少
本社、各拠点のサービス提供責任者、ヘルパーの間の情報共有や伝達の確実性が向上したことで、伝え間違いや聞き違いがなくなり、スケジュールの管理ミスから生じる「訪問忘れ」の問題が解消され、利用者からのクレームも減った。クレーム対応に使っていた時間と労力をさらなるサービスの充実にあてる好循環が生まれているという。
ネットワークを通じた情報の漏洩(ろうえい)を防ぐためにシステム面でのセキュリティも同時に強化した。従業員向けの社内情報の回覧や告知、届出や申請については2021年9月にグループウェアのシステムを導入し、ペーパーレス化を進めている。
「ICTの活用で現場のスタッフが介護に集中できる環境を作ることができたと感じています。点と点でしかつながらなかった情報が網の目のようにつながったことで、利用者の生活状態や病状についてオンタイムで判断することもできるようになりました。コロナウイルス感染防止の面でも従業員同士の接触を最低限に抑えることができました」と林社長は満足そうに話した。
システムのおかげで本社からオンタイムで現場の状況を把握することができる
システムの導入前に現場目線で入念な準備を行った
介護用業務支援システムの導入にあたり、最前線で取り組んだ日建ヘルスメディカル業務部は事前に入念な準備を行った。
システムの活用方法マニュアルを作成して拠点ごとにシステムに習熟したスタッフを配置し、2017年1月に導入して本格稼働するまで半年の猶予期間を設けた。活用は、約130人いる従業員のうち、本社に近い拠点に所属する約30人に使用してもらうところからスタートしたという。「一気に導入すると新しいシステムに対応できない混乱が生じた時の修正が大変になります。実際に使った上での詳しい情報や感想を現場から提供してもらい、課題を浮き彫りにした上でしっかりと対策を講じ、問題なく使い続けることができると判断してから全社に拡大する方法をとりました」と業務部の大野朋子さんは話した。
また、訪問介護のヘルパー全員にスマートフォンを配布する際、高齢者を中心に操作に慣れていない人のための講習を実施し、ICTを導入する意義について各拠点のリーダーにしっかりと認識してもらうよう細かい所に気を配ったという。
「ICTは使えば便利なので必ず従業員の間に浸透できると信じて導入を進めました。最初は新しいシステムに拒否反応を示していた人も、仕事を楽にするものだということがわかってからは積極的に使うようになっていきました。システムの導入を機に現場ごとに任せていた仕事の進め方も全社で統一することができました」と業務部の大西浩一部長。ベテランと若手が一緒になってシステムの扱い方を学ぶうちにチームとしての一体感が醸成されるという当初想定していなかった効果も生まれた。また、システムによって勤務時間が可視化しやすくなったことで労働時間が長くなりすぎないように配慮しやすくなったという。
1ヶ月8,000枚の紙文書が大幅に減ったことでオフィスの環境もすっきり
1ヶ月あたり約8,000枚に及ぶ紙文書であふれかえっていた会社のスペースも有効活用できるようになった。「以前は年度末になると倉庫に移す紙資料を詰めた段ボール箱が5箱ぐらい積みあがり、紙資料の山の間に挟まれて仕事をしているような状況でしたが、今はパソコンで全ての作業がこなせるようになったのでオフィスもスッキリして非常に仕事がしやすくなりました」と大野さんはうれしそうに話した。
日建ヘルスメディカルのオフィスの様子
小規模多機能型居宅介護施設の入居者をセンサーで見守り
日建ヘルスメディカルは本社の近くで2019年7月から運営している小規模多機能型居宅介護施設「にっけん小規模多機能ホーム今町」でもクラウド型の介護用業務支援システムを活用している。「にっけん小規模多機能ホーム今町」では29人の利用者にデイサービス、訪問介護、入居といったサービスを提供。地域に開放したコミュニティルームも設けている。9つあるすべての居室に非接触型センサーを設置し、入居者の在室時の心拍や動態、室内の温度、湿度、照度、在室といった情報をリアルタイムで把握できる体制を整えている。情報を基にスタッフは利用者の視点に立ってきめ細かな対応ができる。
にっけん小規模多機能ホーム今町の外観
「センサーがなんらかの異常を検知すると即座にスタッフのスマートフォンやタブレット端末にアラート情報が届くので、万が一の時も迅速に対処することができます。夜間の見守りも部屋に入ることなく内部の様子を知ることができるので本当に助かっています。利用者のみなさんとスタッフ双方にとって優しい環境を作る上でICTは大きな役割を果たしてくれています」と「にっけん小規模多機能ホーム今町」の長野典子施設長はICTの効果について話した。
様々な研修で人材育成。研修動画をWeb会議システムを活用。その他ICTも活用
日建ヘルスメディカルは、初任者研修や実務者研修、外国人向けの実務研修、社内での研修を通じて介護福祉士の国家資格を全員が取得できる体制を整えている。研修用動画をWeb会議システムを活用して配信することで個人のスケジュールに合わせて学んでもらえるようにするなど、人材育成面でもICTを活用している。現場での負担軽減とさらなるサービスの充実につなげるためヘルパーの移動時間の分析にも今後、力を入れていきたいという。
ICTを活用した働きやすい環境が整うことで従業員の定着率も向上した
ICTを活用して働く環境を整えることで従業員の定着率も向上している。「面談でも従業員から働きにくいという意見を聞くことはなくなりました。ICTに力を入れている企業であると従業員に認識してもらうことで、新しいシステムの導入がスムーズに進むという効果も生まれています」と林社長は手ごたえを示す。
日建ヘルスメディカルの本社の外観
「ICTやデジタル機器を導入しても介護自体が変わるわけではありません。一番大事なのは、従業員一人ひとりのマインドです。利用者に安心・安全な環境を提供し、働きやすい環境を整えるためにあらゆるリソースを導入していきます。これからも地域密着企業として住まい、医療、介護、生活支援を一体で提供する地域包括ケアシステムの一翼を担い続けていきたい」と林社長は意欲を示した。先を見据えながらICTを積極導入する日建ヘルスメディカル。その一連の取り組みは福祉業界に大きな一石を投じている。
事業概要
会社名
日建ヘルスメディカル株式会社
本社
岐阜県岐阜市今町4-22
電話
058-215-8662
設立
2001年12月
従業員数
129人
事業内容
訪問介護、訪問看護、居宅介護支援、小規模多機能型居宅介護、生活介護、福祉用具レンタル・販売・住宅改修、保険代理業
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