製造業(食料品)

「愛」を社是に半生菓子の大手に成長した百年企業が検品工程の自動化と需要予測システムの構築に挑む 天恵製菓(長野県)

From: 中小企業応援サイト

2023年05月15日 06:00

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2023年に創業100年を迎えた天恵製菓株式会社は、どら焼き、最中(もなか)など半生菓子の大手メーカーだ。全国のスーパー、コンビニエンスストアなどに出荷するとともに、海外にも販路を広げている。いち早く自動生産設備を導入し、消費者ニーズに応えるための量産体制を整える一方、25年ほど前から会計ソフトを導入するなど管理部門のICT化にも積極的に取り組んできた。現在は、さらなる生産性の向上と食品ロスの低減を目指して、製造部門における検品工程の自動化と、生産計画に連携する商品需要予測システムの構築に挑んでいる。(TOP写真はパイまんじゅうの製造ライン)

長野県下でも有数の「お菓子処」が発祥の地

天恵製菓の前身である「田島屋菓子舗」は1923年2月に長野県豊丘村で創業した。同村を含めた飯田市周辺地域は昔から「小京都」と呼ばれるほど京都文化を伝承してきており、菓子作りも京都の技術を受け継いで発展。明治時代には300軒もの菓子屋が存在したという長野県下でも有数の「お菓子処」である。

戦後、菓子生産を再開した当時は生菓子を製造していたが、1952年にいち早く半生菓子に転向するとともに「田島屋製菓有限会社」に法人化した。県外にも販路を拡大するとともに、1959年には株式会社に改組し、新工場も建設と、順調に成長するかに見えた。ところが好事魔多し。当時、世界中で活発化していた労働争議に巻き込まれ1961年に倒産。

しかし、その半年後には創業家の個人名義で菓子作りを再開している。最中充填(じゅうてん)機を購入して最中の量産に着手するとともに、個別包装用のピロー包装機を県内で初めて導入するなど持ち前の進取の気鋭を発揮。1966年7月、創業家直系で現在は取締役会長の片桐裕氏が代表取締役に就任して、天恵製菓株式会社がスタートした。

天恵製菓の本社・工場

天恵製菓の本社・工場

「愛」を社是に社員を守る。そのためにお客さまに喜んでいただける菓子を作る

片桐会長は敬虔(けいけん)なクリスチャンで、「天恵製菓」という社名は1961年の元旦礼拝で受けた牧師の説教での御言葉「わが天の窓を開きて、容るべきところなきまでに、恵を汝らにそそぐや否やを見るべし」(マラキ書第三章十節)からとっている。社是は「愛」(Agape=神の愛)。会長の長男で、現在、代表取締役を務める片桐義宣氏は「一度倒産していることもあって、社員の方を、雇用を含めて守っていかなければいけないということが経営の一番の根底にあります。そのためには、お客さまに『美味しい』と喜んでいただける菓子を作らないと成り立たないという意味のことを十の経営信条のうちの筆頭に掲げています」と説く。

「社員を守ることが経営の根底」と話す片桐義宣社長

「社員を守ることが経営の根底」と話す片桐義宣社長

400種類の菓子を1日130万個生産。ロングセラー商品とミックス商品がけん引

天恵製菓設立と同時に発売した「天恵どら焼き」は、ひとくちサイズのどら焼きで、片桐裕会長(当時は社長)が自ら開発し、東京の製菓機械メーカーに掛け合って専用のマシンを作ってもらい量産化。同社発展の礎ともいえるロングセラー商品になった。その後、1977年に粒あんとぎゅうひ餅を詰めた最中「力士餅最中」、1986年にマシュマロでチョコレートを包んだ「ふんわかチョコタン」をそれぞれ発売。いずれも「天恵どら焼き」と並ぶロングセラー商品に育った。

現在は、和菓子、洋菓子、和洋折衷菓子を大きく分けて15種類、商品(アイテム)数にして約400種類を生産。3万3264平方メートルの敷地内に建つ第二工場から第五工場までの4工場で1日当たり合計約130万個を製造している。ちなみに、会社再スタート後の成長を担った第一工場は2021年に解体されたが、同工場で懸命に働いた元社員たちも含めて同工場に感謝の意を表し、「永久欠番」(片桐社長)となった。

4工場で1日130万個の菓子を生産。

4工場で1日130万個の菓子を生産。

「自社でいろんな商品を作っているので、いわゆるミックス商品ができるというのが一番の強みですね」。片桐社長が強調するように、ひとくちサイズのどら焼き、最中、ようかん、まんじゅうなど11種類の菓子を詰め合わせた「ともだちのわ」をはじめとするミックス商品が今、飛ぶように売れている。このため最近も、4種類ずつ計量できるコンピュータースケール(組み合わせ計量機)を2台導入・連結し、8種類の菓子を自動で高速計量できるラインを構築した。

ロングセラー商品と今人気のミックス商品

ロングセラー商品と今人気のミックス商品

飯田・下伊那地方で全国の半生菓子の40%を生産。天恵製菓がその中心

天恵製菓の発展に伴い、飯田・下伊那地方は全国の半生菓子の約40%を生産する一大生産地になった。ちなみに「半生菓子」というのは水分が10~30%の菓子のことを言う。水分がそれより多いのは「生菓子」で、少ないのは「干菓子」だ。菓子の日持ちは水分量に反比例するため、日持ちも「生菓子」と「干菓子」の中間になる。

「当社は糖度調整による水分活性値をみて、日持ちを良くしています。賞味期限で言うとだいたい3ヶ月くらいです」。片桐社長は簡単に言うが、微生物が繁殖できる水の割合を示す「水分活性」を正確に知るための研究努力を重ねた結果だ。半生菓子に欠かせないあんについても、風味・食感に影響を与えることなく長期保存が可能で、冷凍・冷蔵してもやわらかく食べられる製造方法を開発、2004年に製造特許を取得している。この製造方法で作られたあんは「力士餅最中」をはじめとする最中類に使われている。

1999年に竣工した第三工場は食品衛生管理の国際基準「危険度分析による衛生管理(HACCP:ハサップ)」に対応。2007年には食品安全の国際規格「ISO22000-2005」の認証取得と品質管理も万全。韓国や東南アジアを中心に輸出にも乗り出している。

公認会計士の片桐社長の入社を機に、会計ソフトを導入

天恵製菓が管理部門のICT化に本格的に着手したのは今から25年ほど前になる。東京で公認会計士として働いていた片桐社長が、30歳を過ぎた頃に家業を継ぐべく呼び戻されたのがきっかけだという。入社して経理や総務、製造、営業などを担当し5〜6年経った頃、「会計士なのだから会計をやれと言われたのですが、手書きでやるわけにはいかないので、会計ソフトを入れました」と片桐社長は話す。

それまでは一枚一枚手で書いた各種伝票を会計事務所に持ち込んで財務諸表を作成してもらっていたそうだ。売上管理や給与計算は特定の事務処理に特化したオフィスコンピューター(オフコン)で処理していた。会計ソフトを導入したことにより、「今となっては当たり前のことなのですが、当時は会計が自前でできるようになったのが一番大きかったですね」(片桐社長)と振り返る。

検品工程の自動化装置を検証、高精度のため、検討中の装置の可否を半年後に決断

現在の課題は、製造部門の検品作業の自動化と、生産計画と連携した需要予測システムの構築だという。

工場の中に入ると、確かに製造ラインの最終端にだけ人がいる。検品作業をするためだ。現在、どら焼きの製造ラインに自動で検品する装置を設置して、テストを繰り返している。「1袋ごとの不良の発生率をppm(100万分の1)の単位で抑えなければいけないので、菓子1個1個となると1000万分の1以下にする必要があります。さらに不良品が1億個に1個あるかないかというレベルの検品精度を求めるとなると、どうしても(自動化装置の)検証をするのに時間がかかります」と片桐社長。「あと半年くらいで(実用するか否かを)判断したい」と話す。

現在の検品工程は人手に頼っている

現在の検品工程は人手に頼っている

需要予測システムは社内で開発中

一方の需要予測システムは社内で開発中だ。商品ごとに正確な需要予測ができれば作り過ぎたり、不足したりするムダを少なくできる。食品のサプライチェーンには「3分の1ルール」という商習慣がある。賞味期限の3分の1を過ぎたら卸売業者は小売店に納品しない、小売店は3分の2を過ぎたら販売しないというルールだ。例えば、賞味期限が3ヶ月の商品の場合、製造日から1ヶ月経過する前に小売店に卸すことができなければ、卸売業者は食品メーカーに商品を返却する。このため、賞味期限の残りが2ヶ月近くもあるのに廃棄せざるを得なくなるという食品ロスの一因になっている。「メーカーとしては受注後1週間から2週間のうちに出荷しないといけない」(片桐社長)わけで、従業員の働き方改革の面からも、正確な需要予測に基づいた計画的な生産を可能にするシステムが必要になるのだという。

「お菓子って食べて幸せになれるものですから、私としては非常に良い仕事をさせてもらっていると思うし、ずっと続けていきたいなと思っています」と語る片桐社長。さらなる発展への布石を着実に打っているようだ。

第三工場の入口に立つ片桐社長

第三工場の入口に立つ片桐社長

第三工場の入口前にあるメッセージ

第三工場の入口前にあるメッセージ

事業概要

会社名

天恵製菓株式会社

住所

長野県下伊那郡豊丘村大字神稲6855

電話

0265-35-2160

HP

https://tenkeiseika.co.jp

設立

1966年7月

従業員数

200人

事業内容

流通菓子企画製造販売

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