継ぎ足しの通信システムトラブルで生産がストップ!本社と工場間のネットワークを再構築、可視化と保守体制構築 石川可鍛製鉄(石川県)
2023年05月23日 06:00
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本社と複数の工場を結ぶ社内ネットワークを再構築しシステムトラブルを解決した製造業がある。石川県かほく市の石川可鍛製鉄株式会社だ。(TOP写真:主力事業「鋳造」の様子、溶かした鉄は自動で型に注湯される)
設立70周年の鋳造メーカーは複雑で難易度の高いモノづくりが得意
石川可鍛製鉄は設立から今年で70周年を迎える鋳造・機械加工メーカーだ。1946年10月、かほく市出身の塩谷由栄氏が塩谷鋳造所を創業。1953年5月、粘りがあって衝撃に強い「可鍛鋳鉄」専業の石川可鍛製鉄株式会社を金沢市内に設立した。現在は由栄氏の直系、塩谷栄治氏が3代目の代表取締役を務め、敷地内に本社と3工場を有するほか、中国でも4工場が稼働している。
3代目の塩谷栄治代表取締役社長
2022年5月決算の売上高は約39億円。このうち、熱した鉄を溶かして砂型に流し込み、冷やし固める「鋳造」部門の売上が7割以上を占める。顧客数は国内約60社を数え、メインは自動車や建設など12社。長年培ってきた技術による複雑で難易度の高いモノづくりが得意で生産量は月に約1,000トン、製品は自動車や電車のブレーキ部品、ビル内の配管接続部品など約1,000アイテムにのぼる。
売上の残り3割弱は機械加工部門で、切削加工から表面塗装・熱処理など、協力工場を含む一貫体制を整えている。従業員は19歳から64歳まで約160人。平均年齢43歳で、男性従業員が製造現場を、約1割の女性従業員が製品の検査・出荷を担当している。
ロボットによる機械加工
ICT導入は早かったが、機器の継ぎ足しで通信システムトラブルが頻発
石川県内の鋳造業者と比べると、同社のICT化はわりと早かった。「日本にパソコンが普及し始めた1998年頃でしょうか。お客さんが請求書などをパソコン経由で送ってくるようになって、そのうち画像を付けたり、図面などのデータもくるようになった。『うちも伝表処理や生産管理をパソコンでやろう』と決めたのが始まりです」。数年をかけて、従業員一人に1台パソコンを貸与し、顧客に対応する仕組みを整えたという。
2013年頃には社内ネットワークを構築し、生産管理システムも生産データを無線で中継器へ飛ばし、子機につないでパソコンで受けるという流れで稼働していた。ところが、システムをつなぐ機器を継ぎ足していったせいか、システムトラブルが頻発、2015年には2ヶ月に1回くらいの頻度でネットワークが止まるようになってしまった。
製品の検査をする従業員
たった一人でシステム復旧作業、回復まで2日かかることも
そこへ入社したのが山本氏だ。生産管理システムから得られるデータの2次加工をするために採用されたが、社内にネットワークを正確に理解している人がおらず、以前、プログラミング関係の仕事をしていた山本氏が、不具合発生の度に復旧作業を担うことになった。
「私は知識も少なかったのですが、とりあえず工場へ行き、止まった箇所を確認することから始めました」と山本氏。電源を抜いて再起動してみたり、インターネットで対処法も調べたりしたが、うまくいかない。止まった箇所の無線がどこから飛んできているのかという情報が社内にまとまっていなかった。3ヶ所ある本社工場はみな、システム構築を担当した業者が異なっていたのも原因のひとつ。業者にあちこち連絡し、得られた情報を組み合わせ復旧作業に取り組んだが、「原因を探り対処するまで半日から1日はすぐに経ってしまって。回復まで丸2日かかることもあった」と言う。その間は生産が止まってしまうのも厄介だった。
「度重なる不具合は、ネットワーク機器の継ぎ足しを無計画に実施し、システムの安定を後回しにしてきたツケなのではないか」と感じるようになった山本氏は2021年春に社長に相談した。「ネットワークの支援会社を1社にまとめてすっきりさせたい。社内ネットワークが安定すれば、情報共有化や業務効率化も図れる」と、直言を受けた社長は「なんとかしよう」と即答した。「復旧まで2日かかり、生産ラインも止まるというのは業務上大きな損失だ」と感じた社長は、山本氏とともに古いシステムの刷新に乗り出した。
現場の稼働情報が「見える」ようになった
ネットワークの可視化を実現、保守体制も整備、不良箇所は一目瞭然に
支援会社を1本化したうえで、社内ネットワーク図を作成し、重要箇所のルーターを入れ替え、ネットワークの可視化を図った。不要になった古い機器を取り外し、以前は従業員それぞれが手元のパソコンで管理しなくてはならなかったセキュリティも整備した。ネットワーク上にUTM(統合脅威管理)という監視装置を付け、障害発生時にはシステム支援会社のエンジニアが遠隔で状況を確認し、必要に応じてすぐ駆けつける体制に変えたのだ。これでシステムに不具合が生じても復旧までの時間は大幅に短縮され、業務の停滞を最小限に抑えることができる。
3~4ヶ月をかけ、本社事務所と工場全体のネットワークの整理と保守が完了したのは2021年8月。システム一新後、ネットワークが使えなくなるような大きなトラブルは1件も発生していない。「生産ラインも止まることがないし、何かあっても問い合わせ先がはっきりしているので安心して仕事に取り組める」と山本氏は明るい表情で話す。
生産設備の稼働情報を安定したネットワークで吸い上げ、Wi-Fiを通して本社事務所のデータベースに落とす。落とした稼働情報はWebアプリを通じて現場の従業員がタブレットで直接確認できる。山本氏は「現場にはダブレットが40~50台入っているのですが、今までは不良が出ていてもどこが原因なのかわからなかった。いまは稼働情報がデータ化されて数字になって出てくるので、あるべき姿と異なる数値が出れば、どこに問題があるか一目瞭然です。いろんなところを〝見える化〟できたのは大きい」と満足そうだ。
大型の電子黒板は大画面で見やすい
電子黒板も購入、打ち合わせや社内成果発表会で活用
社内ネットワークの再整備に先駆け、2020年10月には、ボードに書いた内容を電子データに変換できる電子黒板(IWB:インタラクティブホワイトボード)を本社事務所と技術センターに各1台設置した。
電子黒板を使えば、複数人の打ち合わせやプレゼンテーションで書き込んだ内容がリアルタイムで共有される。社外にいる人たちともコミュニケーションが取れるので、業務効率の向上や意思決定の迅速化が可能になった。業務打ち合わせや年に1回の社内成果発表会で活用しているが、山本氏は「大きい画面は見やすいし、多人数で使う場合も使い勝手がいい」と話す。
次の課題は紙代の節約、ICT化の歩みは続く
今後の課題は紙代の節約だ。企業が扱う書類は多岐にわたり、法律で保管期間が定められているものも少なくない。ISO(国際標準化機構)のルールでは取引に関する帳簿が7年、従業員の身元保証書・誓約書が5年となっているし、製造業では顧客からの製品仕様書なども一定期間保管が必要になる。
「現場から毎日、紙の文書が上がってきます。A4版で1日50枚くらい。紙代や印刷代を1枚10円としても、かけ算すれば年間でとんでもない額になる」と山本氏。電子化してPDFで保管することにしているが「文書を入力し直す手間がかかる」。現場従業員全員がタブレットから直接データを入力できるようになれば、紙代を減らし業務を効率化することができるのだろうが、実現にはもう少し時間がかかりそうだ。
それでも、社内ネットワークの再構築や電子黒板で業務効率化や生産性向上を実感した石川可鍛製鉄株式会社は、ICT化の歩みを続ける方針だ。同社は「ICT活用は顧客とのコミュニケーション円滑化や情報の発信強化など多くのメリットがある」とみている。山本氏は「新しい技術やツールに挑戦する時は不安やリスクがつきものだが、うまく活用できれば、自社のビジネスを新たなレベルに引き上げる可能性がある。人材育成やセキュリティ対策など必要な取り組みを行った上で、ぜひトライすべきだ」と話した。
事業概要
会社名
石川可鍛製鉄株式会社
住所
石川県かほく市宇気い9
電話
076-283-2128
設立
1953年5月
従業員数
159人(2022年9月30日現在)
事業内容
鋳造(ねずみ鋳鉄、ダクタイル鋳鉄、特殊合金鋳鉄)、機械加工
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