福祉業(介護)

複合機によるペーパーレス化や証憑の電子保存、Zoom研修などさまざまなICT導入 アルト(岐阜市)

From: 中小企業応援サイト

2023年05月22日 06:00

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リハビリ用トレーニングマシンで人気の株式会社アルトは、デイサービスセンターの広い風呂場と施設内調理の昼食も利用者の評判を呼んでいる。その一方で、「女性の働きやすさ」などを目指す考えから雇用環境の改善やICTによる業務効率化にも積極的で、小森薫代表取締役社長の下で今も新たな取り組みを始めている。(TOP写真:子育てしながらの看護師経験を生かし、さまざまな取り組みを行う小森薫代表取締役社長)

「風呂とごはんを大事に」

株式会社アルトの最初の施設は、1997年にオープンした七郷(ななさと)デイケアセンター。岐阜市で経営母体のクリニックを経営する院長は、開設に際してリハビリによる機能改善を重視するとともに「利用者にリラックスしてもらうために風呂とごはんを大事にする」という理念を確立。車いすに乗ったまま入れる広い浴槽を作り、施設内厨房で専門の調理スタッフがつくる昼食を提供してきた。

車いすのまま入れる広い浴槽

車いすのまま入れる広い浴槽

2000年の介護保険制度が始まったことを機に、デイケアセンターをデイサービスセンターに変更。2001年には介護部門を株式会社として独立させてアルトを設立した。

2006年にリハビリマシンを一気に導入

株式会社になった後も「リハビリと風呂とごはん」重視の理念は継続。 理学療法士や作業療法士といったセラピストも入社し、2003年・2005年には岐阜市内に新たなデイサービスセンターを開設。2006年にはパワーリハビリテーション用のトレーニングマシン16台を一気に導入した。

パワーリハビリテーションでは、弱った筋肉を負荷の小さいトレーニングマシンで鍛えることができる。アルトでは3ヶ月に一度はスタッフが利用者の自宅を訪ね、段差や手すりの有無などを確認。利用者の希望などに応じ、トイレに1人で行くために必要な筋肉などを鍛えるトレーニングメニューを考えている。トレーニングの効果はてきめんで、「自宅でできることが増える利用者は多い」(小森社長)という。

「子育て看護師の経験」生かし、インカム導入しスタッフ同士の連携が密になった

小森社長がアルトに入社したのは、2003年。子育てをしながら看護師としてパートで病院勤めをしていたが、腰痛のため看護師の継続が難しくなってケアマネージャーに転向した。
デイサービスセンターの所長として現場を切り盛りする中で小森社長が行ったのが、業務の効率化や女性が働く環境の改善。離れた場所のスタッフ同士が会話できるインカムは、10年以上前に導入。当初は扱いに戸惑いもあったが、その利便性が浸透した結果、今は「数が足りない、との声が上がるほど」という。

託児所を設けて「ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」に

子育て中のスタッフのための託児所も設けた。まだ企業内託児所が広がっていない時期に、自らの経験もあって「子育てママさんに働いてもらうには託児所が必要」と判断して開設してもらった。
福利厚生の一環のため、1人1回500円と格安。パート勤務のスタッフらにも人気で、この取り組みなどが評価されて岐阜県の「ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」に認定された。
また、有給休暇の半分を勤務シフト上に入れ込むことによって有給休暇の取得率90%以上を継続。育児休暇の取得率も高く、岐阜労働局の「ユースエール認定企業」にも認定されている。

メイホーグループ入りで社長就任

2016年、アルトに画期的なことが起きた。経営母体のクリニックの院長がアルトの将来を考えて、「地域のサポーターとなる企業」の育成を目指すメイホーグループに株式を譲渡したのだ。

メイホーグループの本社ビル。アルトの本社も入っている

メイホーグループの本社ビル。アルトの本社も入っている

アルトはすでに岐阜市内に4つのデイサービスセンターを持っていた。小森社長は入職後2事業所の立ち上げなどに関わった後、本社で部長職をしており、次期社長の白羽の矢が立った。

経営経験はもちろんなかった。無理とも思ったというが、「今まで続けてきたリハビリや風呂、ごはん重視の理念を継続しながら、経営の数字だけで評価されるのはやりきれない」との思いから。チャンスとチャレンジ、チェンジの3つのCを大事にするよう社員にも我が子にも言っていたこともあり、2017年に社長を引き受けた。

デイサービスセンター買収やICT導入も

社長就任後まもなく、メイホーグループから愛知県常滑市で開設直後に廃業したデイサービスセンターの紹介を受けた 。ケアマネージャーとともに視察に行ったところ、スタッフが「やってみたい」と言ったため、開所を決定。併設された調剤薬局部分を厨房に造り替えて、自社調理の昼食を出すことも決めた。

その後も常滑市内でデイサービスセンターを事業譲受し、愛知県内で2か所に増えた。小森社長が進めてきたもう一つのこと。それが標準化と職員の負担軽減のためのICTだ。

領収書は現物提出から写真撮影してグループウェアに取り込むだけで決済可能になった

アルトの経費手続きは厳密で、買い忘れのもやし1袋を買うのにさえ、事前に申請する必要がある。当然、領収書チェックも行われる。
その領収書は各デイサービスセンターから現物を集めてメイホーグループ本社に渡していたが、領収書をグループウェアに取り込むだけで、グループ本社の担当者が経費計上できるようにした。電子帳簿保存法に則った証憑電子化にも対応し、領収書の保存義務もなくなった。

複合機でペーパーレス化、スキャン機能も大活躍

複合機は、買い替え時期が来た2021年夏から秋にかけて、本社や各デイサービスセンターで更新。複合機選定の決め手になったのは、FAXの受信データをPDF化してメール送信できることやコストの安い2色刷り機能だった。

ペーパーレス化ですっきりしているアルト本社オフィス

ペーパーレス化ですっきりしているアルト本社オフィス

不必要なプリントをなくしてペーパーレス化を進める一方、カラー印刷をさせないよう、スタッフにモノクロと2色刷り、カラー印刷のコストを示し、コスト意識を徹底させたという。

複合機の機能で小森社長が気に入っているのが、パソコンから各デイサービスセンターの複合機に遠隔で印刷指示を出せること。以前はデイサービスセンターの職員に見てもらいたい書類がある場合、「書類を添付して職員にメールし、開封してもらう必要があった」。今は特定の複合機からプリントアウトさせて、そのまま見てもらえる。

複合機のスキャン機能を高く評価している小森社長

複合機のスキャン機能を高く評価している小森社長

小森社長が評価するもう一つの機能がスキャン機能だ。複合機がなかった頃は、領収書を撮影してグループウェアに取り込んでいたが、データが重く、処理に時間がかかった。今は複合機でスキャンした容量の軽いPDFを使えるため作業効率が高まったという。

トイレ移乗介助の研修などでは、動画やZoomを活用

リハビリに力を入れてきたアルトでは、認知症ケアも重視している。昔の出来事を思い出してもらうことなどで気持ちの安定や脳の活性化を図る回想法や音楽療法、寄り添いケアなども実施している。

これらさまざまな取り組みに欠かせないのが、スタッフの研修だ。スタッフの各職種の担当者 が仕切って行う研修や各事業所のミーティングでは、コロナ禍の中でZoomを活用。各事業所にいながらにして研修やミーティングを受けられるようにした。また、トイレの移乗介助の研修では、理学療法士らが行う手本を動画撮影して、画面を通じて理解してもらえるようにしている。

ルートマップ、利用者記録もICT

新たに導入してスタッフの浸透を図っている最中のICTもある。その一つが、利用者を送迎する運転手用のスマートフォン。ルートマップは紙で渡しているが、スマートフォンの地図アプリに各デイサービスセンターのアカウントとパスワードを設定し、利用者の自宅住所を入力しておくことによりその日に行く複数の利用者の名前を入力すると自宅までのルートが表示され、カーナビ機能として活用できるようにしているという。マップには「杖を使う」などの利用者情報も盛り込むことができる。まだ使いこなせない運転手もいるが、小森社長は「駐停車時に確認できる利用者情報があることで、スムーズな対応につながっている」と話す。
また、小森社長は知人に依頼し、岐阜市独自の介護記録ノート用にアプリを開発してもらった。介護記録ノートは手書きのものだが、タブレットのアプリにバイタル値や食事の量・入浴の有無、注意事項などの必要な情報を打ち込めば、ノートに合った大きさでプリントアウトできる。写真も取り込むことができるため、最近では食事の写真も一緒にプリントアウトしてノートに貼っているという。

4年前からの出退勤ICカードは残業などに課題

小森社長が今検討しているのが、人事システムの改善。4年前まで勤怠管理に使っていた打刻タイプのタイムカードは、ICカードに切り替え済み。スタッフの勤務時間は自動的に勤怠管理システムに取り込めるようになっているが、時間外勤務などの反映は手で行う必要がある。この手続きの煩雑さを解消しようとしているのだ。

上場企業グループとなった後も理念と利用者サービス、雇用環境改善を継続

アルトが株式譲渡によって2016年にグループ入りしたメイホーグループの株式会社メイホーホールディングスは、2021年に上場を果たした。アルトにはこれまでにも増してコスト意識が求められているが、小森社長はその要請にも十分応えているといえそうだ。

複合機の導入を始めとしたICTは確実にコスト低減や業務効率化につながる一方で、研修制度の充実やルートマップなどで利用者サービスの充実にもつながっている。「リハビリと風呂とごはん」を重視する理念を引き継ぎつつ、「ライフステージが変わる女性を応援する会社でありたい」と話す小森社長は、スタッフの同居家族が同社デイサービスセンターを利用する場合に福利厚生の一環として利用料を1割補助するなど、雇用環境も充実させている。

コスト意識と開業当初からの理念、利用者サービスの充実、そして雇用環境の改善。小森社長はICTを活用しながら4つのバランスをとっている。

事業概要

名称

株式会社アルト

創立

2001年7月

本社

岐阜県岐阜市吹上町6丁目21番

HP

https://www.alt-kaigo.co.jp/

電話

058-255-2220

社員数

202人(2022年12月31日現在)

事業内容

通所介護(デイサービス)、認知症対応型通所介護(認知症専用デイサービス)、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)

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