流通業(卸)

特許技術を武器に火薬現場設備レンタル事業に参入。ホームページの刷新で認知度を高め、シェア倍増を狙う 新宇商店(群馬県)

From: 中小企業応援サイト

2023年05月29日 06:00

この記事に書いてあること

制作協力

産経ニュース エディトリアルチーム

産経新聞公式サイト「産経ニュース」のエディトリアルチームが制作協力。経営者やビジネスパーソンの皆様に、ビジネスの成長に役立つ情報やヒントをお伝えしてまいります。

創業100年を超える火薬類販売会社が火薬類取扱現場での作業環境改善に役立つ設備ユニットを考案し、経済産業省に掛け合って関連法の改正を実現した上で、2018年に同設備ユニットのレンタル事業に参入した。それまで1社独占状態にあった市場に風穴を開け、この4年間でシェア15%を獲得するまでに成長。その原動力となっている特許取得済みの独自技術を全国に広くアピールするため、ホームページを刷新し、今後10年でシェア倍増を狙う。(TOP写真:スマートフォンにも対応した新しいホームページのトップページ画面)

新ホームページで独自開発の移動式エアコンパッケージについて詳述、レンタル事業にかける意気込み伝える

2023年5月、株式会社新宇(あらう)商店の新しいホームページがオープンした。新井規夫代表取締役が始めた火薬現場設備レンタル事業を前面に押し出し、同事業にかける意気込みが伝わる内容となった。とくに、同社が独自開発し、特許も取得した移動式エアコンパッケージについて詳述している。新たに、スマートフォンでの表示にも対応できるようにした。

ホームページでは移動式エアコンパッケージについて詳しく紹介している

ホームページでは移動式エアコンパッケージについて詳しく紹介している

新井社長がホームページのリニューアルを決めたのは、2023年に入ってコロナ禍が下火になりつつあることから、同社の火薬現場設備を見学したいと打診してくる顧客が出てきたからだ。「(訪客があれば)座学と実際の設備を見てもらって説明するわけですが、事前の準備として、ホームページでも最低限のアナウンスをできるようにしておきたい」(新井社長)と考えたのだ。

ホームページのリニューアルにあたっては、企業ホームページ作成に特化したソフトを提供するCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)サービスを契約した。専門知識がない人でも豊富なテンプレートとヘルプデスクの的確なアドバイスで簡単に作成できるサービスだ。このサービスは企業の認知度を高めるSEO(検索エンジン最適化)対策に有効な方法をアドバイスしてくれることでも定評がある。

足尾銅山へ発破用火薬類を供給して成長

「戦前は足尾銅山への火薬類と生活雑器の販売で財を成した」と話す新井社長

「戦前は足尾銅山への火薬類と生活雑器の販売で財を成した」と話す新井社長

群馬県みどり市大間々町の高台に社屋が建つ新宇商店は、江戸時代から続く地元の老舗だ。文献で確かめられるのは1829(文政12)年、幕府によって大間々の地が町号を名乗るのを認められたことを祝い、有志5人が白檀の木でできた雌雄一対の獅子頭を町に寄贈したとされる記録だ。5人のうちの中心人物として、最初に「新宇」という屋号を名乗った「新井宇兵衛」の名が登場する。

大間々町の高台に建つ社屋は1993年に完成、移転した

大間々町の高台に建つ社屋は1993年に完成、移転した

宇兵衛氏の時代は半農半商といった業態で、商売の方は主に肥料や飼料などを取り扱う店を構えていたそうだ。宇兵衛氏から数えて3代目の当主にあたる新井宇八氏は金物商をしていたが、1917(大正6)年に火薬類の販売免許を取得して、火薬商を兼業するようになる。その後を継いだ4代目、新井宇四郎氏の時代には金物商と火薬商の両方を大きく発展させたという。

大間々町は足尾銅山(現在の栃木県日光市)から発掘された銅を運ぶ銅山(あかがね)街道の宿場町だ。新宇商店は、当時国内一の産銅量を誇った足尾銅山に発破用として火薬類を供給した。「足尾は最盛期には3万人の労働者を抱える一大産業都市になりました。新宇商店はそこの人たちに茶碗や花瓶などの瀬戸物も売り、火薬類と生活雑器の両方で財を成したのです」。6代目当主にあたる新井社長はこう語る。

ちなみに新井社長の生家には5つの土蔵があり、生活雑器が大量に保管されている。その土蔵の一部を改修して2021年4月に陶磁器販売店と喫茶店をオープン。続いて、別の土蔵も改修して1棟貸しの宿泊施設にするとともに、イベントに使える六角形のコンクリート造りの建物も2023年4月に完成。地域に開かれた「六角堂ホール」として営業を開始した。

誰もが談話できる六角堂ホール

誰もが談話できる六角堂ホール

火工所、火薬類取扱所、移動式エアコンパッケージの火薬現場設備レンタル事業に参入

新井社長は大学卒業後、日本初の民間ダイナマイト製造会社として知られる日本化薬に就職。主に九州で火薬類の営業を経験したあと29歳で新宇商店に入社した。社長に就任したのはバブル崩壊後の金融破たん・再編が相次いだ2000年、44歳の時だ。大型公共工事が激減して火薬類の需要が低迷する中、それまでに築いてきた建設会社との人脈を生かし、掘削機械や土木資機材の販売に手を広げてきた。

「八ッ場ダム(2020年竣工)を最後に、群馬県内ではトンネル工事もダム工事もありません」と、新井社長は話す。現在、火薬類販売の事業は4ヶ所の砕石場に定期的に供給する程度で、土木資機材の販売の方が売上に占める比率が大きくなっているという。

そんな中、今後の成長を期待しているのが「火薬現場設備レンタル事業」だ。火薬現場設備というのは、ダイナマイトやスラリー爆薬などのいわゆる火薬類を保管する「火薬類取扱所」、火薬類に雷管を取り付ける作業(「親ダイ作り」という)を行う「火工所」、火工所にパイプで冷温風を送る「移動式エアコンパッケージ」、それに火薬類取扱所や火工所を囲う「鋼製パネル式外柵」で構成するユニットだ。新井社長が1社独占状態だった市場に着目し、新規参入した。

もっとも、すでに独占企業が存在する市場に簡単に入り込めるわけはない。参入にあたって新井社長が考案したのが移動式エアコンパッケージをユニットに加えることだった。火工所は鉄板製の物置のような構造であるにもかかわらず、従来は暖房しかなく、猛暑の夏場には火工所内での作業を過酷なものにしていた。現場から聞こえてくる「冷房がほしい」という切実な声に応えたいと考えた。

火薬類取扱所

火薬類取扱所

火工所、火工所を囲っているのが鋼製パネル式外柵

火工所、火工所を囲っているのが鋼製パネル式外柵

移動式エアコンパッケージ

移動式エアコンパッケージ

エアコンを独自開発。2年がかりで経産省と交渉して法改正、実用化

火工所の外に設置したエアコン設備が万一爆発しても、火工所の中に爆風が流れ込まないように工夫するなど防爆対策を徹底。2018年に特許を申請する一方、火薬類取締法を所管する経済産業省に、新井社長自ら足しげく通い、冷房設備の実用化を認めてもらおうと交渉した。静電気対策など安全性を示す各種のデータを一つひとつ揃えて交渉しても、経産省の担当者は「火薬類取締法には暖房を使う場合の規定はあるが、冷房の規定はないので使えません」と取り付く島もない状態が続いた。

そんな事情を大手ゼネコンの現場責任者に打ち明けると、「冬場に22度で暖気をとるところが、夏場も22度にすれば冷房に値するのだから、火薬類取締法の『暖房』という言葉を、空気を一定温度にする『エアコンディショナ』という言葉に置き換えてもらうだけでいいはず」とヒントをくれた。新井社長がその線で主張すると、ようやく許可が下りた。2021年3月の火薬類取締法施行規則の一部改正の中で、火工所に「エアコンディショナを設置できる」という例示基準が新設されたのだ。経産省に通い始めて2年の歳月が流れていた。

火薬類取締法施行規制の改正に伴い、全国の建設会社の現場マニュアルとなる日本建設業連合会の「火薬類管理自主基準」もエアコンを使えるように改訂。ヒントをくれた大手ゼネコンは、新宇商店の火薬現場設備レンタル事業の最初の顧客となり、京都府宇治市のトンネル工事現場で同設備を使っている。

佐賀錠に代替するシリンダー錠の採用も実現。エアコンの特許も取得

新宇商店が提供する設備にはもう一つの特徴がある。火薬類取扱所と火工所の扉の鍵に最新式のシリンダー錠を採用しているのだ。こちらはエアコンより一足早く、2017年7月に実用化の許可をもらっている。それまで火薬類取締法では「佐賀錠」と呼ばれる時代劇に出てきそうな鍵しか使えなかった。新井社長は経産省に扉の模型を持ち込んで、鍵の開け閉めを実演しながら交渉し、シリンダー錠の有用性を理解してもらった。

経産省でのデモに用いたシリンダー錠を使う扉の模型

経産省でのデモに用いたシリンダー錠を使う扉の模型

かつては使用を義務づけられていた佐賀錠。今は生産されていない

かつては使用を義務づけられていた佐賀錠。今は生産されていない

2022年3月には申請していたエアコンの特許も取得。日本で初めての火薬類取締法に準拠した防爆仕様のエアコンパッケージと、扱いやすく防犯機能も優れるシリンダー錠という独自技術をセールスポイントに順調に顧客を獲得し、2023年3月時点で15ヶ所のトンネル工事現場に貸し出している。同時点で全国には100ヶ所のトンネル工事現場があるので、15%のシェアを獲得したことになる。

「今後10年ぐらい、このレンタルの仕事を一生懸命やって、シェアを30%から40%ぐらいにはしたいですね」と新井社長は胸を膨らませる。

企業概要

会社名

株式会社新宇商店

本社

群馬県みどり市大間々町桐原472

HP

https://arau-shouten.jp/

電話

0277-73-3366

創業

1917年

設立

1949年4月1日

従業員数

6人

事業内容

産業用火薬類の販売、土木資機材の販売、火薬現場施設のレンタル、発破コンサルティングなど

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